新型コロナウィルスと小売りビジネス② ― 「コロナ・パンデミックは何を変えるか?」 


 新型コロナに関する緊急事態宣言が全国的に解除され、約 1 か月半の巣ごもりから解放されました。まだ 感染第 2 波の心配もあり、東京は今日 “アラート”信号も出ましたが、外出禁止がとけたことで、精神的にはホッとしています。心配されていた感染爆発を免れ、死者数も世界各国と比較しても極めて低い数字に抑えこんだ日本。その主たる要因を検証することは、今後のために不可欠ですが、とりあえずは、日本人の衛生観念、自粛要請への協力・努力、そして医療環境の整備と医療関係者の献身的な努力、などの成果と、改めて感謝と誇りを感じます。 と同時に、感染されたり身内が亡くなられた方、経済的困窮に陥られた方には、心からのシンパシーと励ましの気持ちをお送りしたいと思います。

 COVID-19パンデミックは、前例のない “健康危機”と世界的な “経済ショック”の同時発生です。感染拡大は、現在も世界各地で続いています。これまでも、リーマンショックや東日本大震災などの危機はありましたが、今回は、世界的な、そして感染がもたらす「命への脅威」であり、人々の日常的生き方、家族、コミュニティ、社会などの在り方を大きく変えつつあります。

 今回は、都市封鎖が徐々に解除されつつある欧米の動きを見ながら、“ポストコロナ” あるいは “ウィズコロナ” の世界がどのように変わるか、について考えました。人々の価値観、生活の仕方、働き方がどう変容しつつあるか? そしてそれに対応して、ビジネスがどう変わらねばならないか? です。 

 

◆   人々は、幸せに生きることの価値を、考え直している

 マッキンゼー社が興味深い調査をしています。このパンデミックが世界の人々に、どのような価値観や生き方の変容をもたらしているか? (Reflection in Crisis2010527日公開 『ロックダウンが我々に、何が重要なのかの再発見を助けてくれた』)     この調査結果で判明したことは:

①    人との個人的関係の深化―― 「家族や最愛の人が最優先、と常に考えてはいたが、実行していなかった。その実行は“楽しく心地よかった”」

②   幸福のために何が不可欠かの再評価―― 「幸せであるために必要な、収入と職業上の成果を再評価中。働く時間を減らしても、その収入でやれるなら、家族との時間を重視したい。キャリア目標は以前より重要でなくなった」

③   「健康第一」マインド―― 健康は、国、年齢、社会経済レベルを問わず最重要に。「私に起こった長期的でポジティブな変化は、健康、健康、そして健康。どんなに多忙でも、仕事が山積していても、肉体的そして精神的な健康のために時間を取ることが、いかに重要かが分かった」 

ビジネス・リーダーが注目すべきこととしては:

④    新しいトレードオフ―― 働く人の個人的キャリア目標が変化すれば、給与と、働き方の柔軟性、短距離通勤、ゆったりした仕事のペース、 等のトレード(取引)が進む。営利企業より非営利組織で働く人が増える可能性も。ワークライフ・バランスを、企業のお題目から、企業のリアリティにすべし。

⑤    新しいボスは=消費者―― ウォルマート創業者サム・ウォルトンが言ったとおり、 「ボスは一人しかいない。それは消費者。買う店を他店に変えるだけで、企業の会長から担当者まで解雇できる」。企業はいま、多くの“新しいボス”を迎え入れようとしている。これまで消費者行動として理解されていたものは、永遠に捨て去られた。代わりとなる“新しいもの”=評価・判断の基準=が、スピード感をもって登場する。

 

 こういった変化をとらえた素晴らしいメッセージ・ムービーを見つけました。

ビームスの 『会いたい。』 です。「会えない今だからこそ、大切なものに気が付く」。 (画像参照)

        「Dear friends. 〜 わたしの世界篇」

STAY HOME 週間に生まれた企画だとのことですが、「私には友達がいる。、、」 の語りで始まるベランダの友人たちの写真。この「Dear friends. ~ わたしの世界篇」 のビデオは、まさしく外出自粛がなければ気づかなかった、人のぬくもり、友人の大切さです。 

→ Dear friends. 〜 わたしの世界篇

 

◆ 経済へのダメージ

 今回のパンデミックでは、過去に類を見ない大きさのダメージが、非常に広範囲に及んでいます。V字回復は望むべくもありません。わがアパレル/流通業界では、「回復には少なくとも 年は必要」、などと言う人がいますが、「回復」とは、どのようなことを指しているのか、あらためて真剣に考える必要があります。現在抱える過剰在庫や当面の資金の手当てがつき、「3密」回避を実現する安心・安全な小売り営業の手法が開発されたとしても、コロナ以前の旺盛な消費マインドとビジネス成果が「復活」することは、ありえないと思われます。

  企業倒産も増加。財務的な問題を抱えていた企業がコロナの引き金で破産、民事再生法申請に至った事例は、5月に入って老舗アパレルのレナウン、米国では大手高級百貨店のニーマン・マーカス、大手GMS J C ペニー、また著名 SPAチェーンの J. クルーなど、目立っています。ユニークさで人気があったPier 1 Importは、廃業に追い込まれました。倒産・破産は今後も続くと思われ、店舗数の大幅縮小は、時の流れとなっています。ノードストロムでさえ、フルライン店 116のうち 16店を永久閉鎖、傘下の著名セレクトショップ、ジェフリーズ4店も閉鎖し、ジェフリー・カリンスキーも同社を去りました。M&Aも進むと思われ、J C ペニー(242店の永久閉店はすでに発表済)の一部あるいは全店舗をアマゾンが買収する、という噂も現実味があります。
  米国の、4月の小売全体の売上は、16.4%の減少。とりわけファッション関係は、78.8%減と、史上最大の落ち込みです。ネット販売も4月には世界で 209%増などと報道されていますが、売り上げは上昇しても、コロナ対応関連コストや宅配競争、人手確保等の経費上昇で、黒字になっている大手企業はウォルマート等を除けば、わずかです。

 ロックダウンが段階を踏んで解除されてゆく中、企業はいろいろな工夫で、社員と顧客の安全を確保しながら、ビジネスの回復に懸命です。例えば、BOPIS(ネット購入・店舗ピックアップ)は 2.5倍に伸び、一般化したカーブサイドピックアップや宅配、置き配、などに加え、マスク着用や消毒液準備、ソーシャル・ディスタンシング、入店制限、コンタクトレス決済、などが進んでいます。それでも、消費者は来店に躊躇。ファッション関係では若者の一部が安売り店などに出向く以外は、おしゃれ目的のショッピング(ブラウジング)をする動きは少ない。顧客が試着した商品は、日間売り場から取り除く(ノードストロム)、あるいは試着後クリーニングや熱アイロンで殺菌処理をした服が、“新品には見えなくなってしまう”(ミラノのブティック)、などの苦労も報道されています。店が再開しても、試着室には入りたくないという人は、女性で 65%、男性で 54%に達します。 

 大胆な戦略も注目されます。ウォルマートは中古衣料の大手 ThredUpとパートナーを組み、リーバイスやチャンピオン製品などを含むリユース製品販売に参入。“隣同士が助け合い(Neighbors Helping Neighbors)”プログラムを SNS  Nextdoor の起用で開始、など、同社のアグレッシブな戦略には、1 か月で 15万人の新規雇用や従業員へのコロナ手当 10億ドルも含め、目覚ましいものがあります。そのほか、REIWest Elmの 35アイテムの提携なども話題になっています。

  ファッション・デザイナーの世界でも変革が始まりました。コロナ以前から、疑問視され改革が求められていた様々な業界慣習が、今回一気に表出しました。巨大な経費をかけ年に5~6回開催されるコレクション・ショーのバーチャル化や回数削減、7月にウールコートを売るなどの、生活から乖離した業界慣習の“シーズン”(いわゆるファッション・カレンダー)などの改革です。コレクションを年5回から2回にすると発表したグッチのアーティスティック・ディレクター、アレキサンドロ・ミケーレが、「シーズンごとに繰り広げられる派手な回転木馬に “Basta! もういい” と叫んだ」 とBoF は報道しています(5月26日)。ミケーレに 「来るところまで来てしまった」 と言わしめたファッション・ビジネスの華麗・華美志向のエスカレート。これもパンデミックで、エッセンシャル(本質)を取り戻すことになるでしょう。 

◆   デジタル化の急速な進行 ―今こそ トランスフォーメーション(変容)のチャンス

 こういった中、見えてくるのは、本質(真に意味のあるもの)を効果的に=スピーディで安価で簡便に、中間業者抜きで=獲得するための、デジタル化への動きです。

 ファッション関連では、ネットやSNSショッピングは勿論のこと、ビデオ・ストリーミングやバーチャル・フィッティング、チャットや リモート・パーティ(ヴォーグ社はアメリカ高校生の大イベントProm=ダンスパーティをZoomで開催)、そのためのスタイリング・サービス、あるいは、コンタクト・フリー(無接触)の対話や支払い、などが急ピッチで進んでいます。 「デジタル化は周回遅れ」と言われる日本でも、今回のコロナ禍で人々は、テレワークや リモート授業、Zoom等での会議や飲み会、オンライン診療やウェブ面接、ハンコ無しの承認、バーチャル音楽会などを、部分的とはいえ経験し、その価値を認識しました。ネットショッピングも違和感なく行えるようになった人も増えました。当局もやっと日本のデジタル化の遅れに危機感を持ったようです。

 働き方も大きく変わるでしょう。在宅勤務を経験した女性の7割以上が、今後も続けたいと言い、主要企業100社のトップの9割超が、テレワークを今後も継続すると答えています(いずれも日経新聞)。

 経団連会長企業の日立は、在宅勤務に後押しされて、世界標準の「ジョブ型」雇用に移行すると発表。日本的経営を支えてきた 「メンバー型」雇用 (ゼネラリスト養成に適した、職務を特定しない人事・採用)からの脱皮、という大変革に取り組むと言います。伝統的な終身雇用を基盤とする日本型の仕組み、それ故に、専門職や女性の活躍を阻んできた仕組みからの、転換の拡大が期待されます。

◆   ファッション・ビジネスの未来:ポストコロナは?

ファッション産業の未来は、従来の延長性で考えれば、かなり悲観的なものになるでしょう。ファッションが自由裁量支出(不要不急)であること、ディスカウント志向・価値志向、ソーシャル・ディスタンティングなどの新たな生活スタイル、などの潮流が定着すると考えるからです。しかし人々が、自分や家族を大事にし、ユニークで快適でサステイナブルな衣服や小物を着用したいという気持ち、すなわち“心が喜ぶ消費”は、逆に拡大すると思われます。アップサイクリング、中古販売、DIY(生活者が自ら創る)、3D活用のモノづくりなどを含め、サービスと合体したファッションの新ビジネスを、革新的企業、あるいは、SNSなどの新たなツールが実現することを、私は期待しています。

 ここで重要なことは、ポストコロナへ向けての変革、あるいはトランスフォーメーションは、これまでのしがらみから離れて、ゼロベースで考える必要があることです。「今、New Normal (新たな常態)を前提に、“新たに” “このビジネス”を、“利用可能なテクノロジーを活用して” ゼロから立ち上げるとしたら?」、「誰をターゲットにどんな独自性をもって始めるのか?」、と改めて自問し、根本からスタートしなければ、従来のビジネスのパッチワークになってしまうでしょう。

  ファッションに限らず、あらゆる産業の企業が実践すべき、ポストコロナの行動について、マッキンゼー社が、 「Next Normalの考察から実現へ:何をやめ、何を始め、何を加速するか」 と題した論説を発表しています。(“From thinking about the next normal to making it work: What to stop, start, and accelerate. 2020. 5.15)。 そのための 7つのアクション」 が非常に示唆に富むものなのでご紹介しましょう。 注:同社は、New Normal(新たな常態)ではなくNext Normal (次なる常態) の表現を使っています。>  

<ネキスト・ノーマルへの つのアクション:何をやめ →何を始め、何を加速するか

1.オフィスでゆったり仕事 → 効果的リモートワーク

2.ライン/サイロ(縦割り組織) →ネットワーク/チームワーク

3.ジャストインタイム→ジャストインタイム&ジャストインケースJIC=万一のために)

4.短期のマネジメント → 長期視点のキャピタリズム

5.トレードオフ(二律背反=両立は成り立たない) → サステイナビリティも包含

6.オンライン・コマース → コンタクトフリー(接触なし)経済

 7.単純な復帰 → 復帰 & 再考/再構想

 

 これらのアクションについては、次回に詳しく述べたいと思っています。 

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<新型コロナウィルスと小売りビジネス ①――次なる新常態(ニューノーマル)とは?>


 新型コロナウィルス (Covid-19) の感染拡大により緊急事態宣言が 4月 7日に発令されて4 週間。待望のゴールデンウイークも“Stay Home” 自粛が要請され、さわやかな若葉を恨めしく眺めながらも、自宅生活を少しでも楽しく快適にする工夫を重ねておられる方も多いでしょう。

 日本国民の心がけと行動変容により、何とかオーバーシュートは抑えられたようですが、緊急事態はさらに 5月 31日まで継続、と本日発表されました。個人の生活、経済、教育などへのダメージは、戦後最大のものと言われます。店舗などの閉鎖に苦しむ事業者や職を失った方々、育児支援のない貧困母子家庭、などのニュースに胸が痛みます。その中で、感染リスクに身をさらしながら昼夜努力されている医療従事者の方々には、心からの感謝と敬意の気持ちを捧げたいと思います。

毎年咲いてくれる ベランダの蘭

  パンデミックの深刻化で、NRF 2020報告シリーズを書く筆が止まってしまっていました。止まった、というよりも、NRFが提示した消費流通ビジネスにかかわる先端的動きを、新しい視座でとらえなおす必要がある。言いかえれば、先端的と注目された革新的考え方や技術が、ポストコロナの世界にどのような意義をもつか、を改めて考えなければならなくなったと痛感するからです。ポストコロナの世界、といっても1年そこらで終息は不可能と言われる状況では、With Corona、つまり人とウィルスあるいは細菌との新たな“共生”の生活/経済/社会システムをどのように構築するか。その一環としての、“革新的考え方や技術”とは何か、という視座です。
  金儲けと過剰な豊かさ追及の生活、天然資源の乱用、自己中心的に展開する資本主義、などに代わって、人、生きること、そして地球、社会、コミュニティ、家族、への愛情が、新たな価値、そして人々の活動の“パーパス(目的)”になる時代に入っています。そこでは、消費者の意識と行動が変わり、SDGsに象徴される“持続可能な開発目標”の実現、人間性や健康重視、働き方/仕事への意識/仕組みの変革、そしてこれらを実現する手段としてのネット/デジタルの立体的拡張、などが重要になるでしょう。
  折しも、コロナ対策としての非常事態宣言で、世界の主要都市がロックダウン(都市封鎖)したことで、CO2 の排出が50%ダウンしている、という記事に衝撃を受けました。(大気汚染や温室効果ガスが激減」 BBC 3月20日)。 また、新型コロナウイルスの影響で人びとが外出しなくなった途端に、インドのビーチに約28万匹のヒメウミガメが集まり、6000万を超える卵を産んだ、とのこと。(「人類が外出をやめた中で… 絶滅危惧種の産卵が大復活」 エキサイト 4月6日)。われわれが現在、当り前と考えている日常生活を支える仕組みが、いかに自然を痛めているか、思い知らされる事象です。コロナの蔓延は、自然を破壊している人類に対する天誅ではないかと思うのです。実際に世界的に有名な霊長類学者のジェーン・グドール博士は、コロナパンデミックの原因は「動物の軽視」(FAP通信4月12日)で、「われわれが自然を無視し、地球を共有すべき動物たちを軽視した結果、パンデミックが発生した。これは何年も前から予想されてきたこと。例えば、われわれが森を破壊すると、森にいる様々な種の動物が近接して生きていかざるを得なくなり、その結果、病気が動物から動物へと伝染する。そして、病気をうつされた動物が人間と密接に接触するようになり、人間に伝染する可能性が高まる」と述べています。

  パンデミックが収束した段階(とりあえず、でも)での人々の生活の仕方、そしてそれを扱うビジネスは、これまでのものから大きく変容するでしょう。新たなNew Normal(新しい常態)、あるいはNext Normalとはどんな様相を呈するのか? Essentials(必要不可欠なもの、本質的なもの)以外、すなわち「不要不急」のものは後まわしとする環境や体制では、「不要不急」の象徴のようなファッション・ビジネスは、どうなるのか? この悩ましい問題に、ファッション産業はどう取り組むのでしょうか?
  次回から、海外で少しづつ進んでいる活動規制の緩和で、消費者と小売業にどのような新たな動きが起こっているかを、NRFが示す潮流に照らしながら考えてゆきたいと思います。
  またこの機会に、日本の生活文化を振り返り、自然との共生や「モッタイナイ」の思想など、世界に誇るべき価値観や慣習を、改めて見直し、Next Normal の日本版を探りたいとも考えます。江戸時代の日本には、あらためて見直す価値のある仕組みや生き方が多々ありました。当時の江戸を訪問した西洋人は、世界の3大都市(人口が100万を超える)の、パリ、ロンドン、江戸のなかで、江戸ほど街が清潔な都市はなかった、と書いています。人々は貧しくても穏やかでにこにこしており、着ている衣類はボロでもきれいに洗濯してある、と。

 パンデミックは、傲慢、強欲がはびこる現在の人間社会への「警告」と受け止めましょう。                                  End

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<NRF2020 大会リポート ⑤ 小売業のサービス化(2)RaaS サービスとしての小売業>


 いよいよ4月、新年度が始まりました。新型コロナウィルスのパンデミック(世界的流行)が、世界を恐怖と不安に陥れているなかでの、新年度。入社式も入学式も、史上経験したことのない形になり、休校中の学校も再開がさらに延期されるところも多く、緊急事態宣言がいつ出されるのか、など、感染拡大収束時期の見通しも立たない中、不安で落ち着かない毎日を過ごしておられる方が多いと思います。

 3日前(3月31日)、このブログを書き始めた時には、世界の感染者は85万人、死者も4.2万人を超えたと騒いでいたのが、3日でそれぞれ 100万人超え、5万人超えになりました。今やエピセンター(震源地=感染の拡大中心地)となったニューヨークでは、感染者が9万人を超え、死者数も 2001年の同時多発テロの犠牲者数(2977人)を上回り、医療崩壊目前の状況だと報道されています。

 NRF報告第5弾は「小売業のサービス化――その2」 を書こうとしていますが、国家非常事態宣言が出されたアメリカの主要都市、特にニューヨークでは、小売業や食品スーパーやドラッグストア、家電製品などを含む生活必需品を扱う店以外は休業し、レストランもテイクアウト以外は店を閉め、街は閑散。病院などのベッドや人工呼吸器の不足も深刻になってきました。セントラルパークには緊急テントによる野営病院が立ち上がり、米国海軍は病院船の「コンフォート」をニューヨークに派遣。

   マンハッタンの港に向かう米国海軍の病院船 (US Navyのホームページより)

NRFが毎年開催されるハドゾン川沿いのジャービッツ・センターは、急遽1000床のベッドをもつ緊急病院に転換されました。わずか2か月前の、NRF大会会場で見た混雑と熱気、あるいは活気に満ちたニューヨークの街はどこに行ったのか! まるでゴーストタウンのようです。

 マスクやハンドサニタイザー、ばかりでなく、保存食の類もスーパーの棚から消え、必需品の確保と店内感染対策などに懸命な小売り企業は、ソーシャル・ディスタンティングや新規の宅配手法、ネット注文品のドライブスルーやカーブサイドでのピックアップ等での対応。また購買が拡大しているウォルマートやアマゾンは人手確保に注力、アマゾンは時給を2ドル上げて19ドルにするなど、対応に懸命です。

  “顧客の変化・ニーズへの対応”がビジネスの基本と考える米国では、いろいろな新しい試みやサービスも生まれています。例えばキャリア女性向けの“在宅ワーク用カジュアル”の販売を促進するブランドが増えたり、アンテイラーでは、This is Annのハッシュタグで、在宅勤務中の服装をインスタグラムに投稿するよう呼びかけるなどしています。他の例では、アマゾンのAlexa(音声アシスタント)が、コロナウィルスについての会話に対応、いくつかの質問と対話で、CDC(連邦防疫センター=連邦厚生省DHHSの一機関) の指示に基づく、感染リスクレベルをアドバイス。あるいは、手洗い20秒の間、歌を歌ってくれるリクエストへの対応もしてくれます。アップルも症状スクリーニング・アプリをCDCほかの連邦機関などと連携して提供しています。

 企業による寄付行為も多大・多様で、お金の寄付はもちろん、ファッション関連企業によるマスクや防護服などの大量提供や、企業幹部の報酬をカットし休業中の社員の給与を全額保証する企業、あるいはリーバイスのように、バーチャル音楽会を配信し、“Stay Home, Stay Connected”を促進するものもあります。

 店舗休業に伴う社員の自宅待機や一時帰休が拡大し、メイシー百貨店は社員12.5万人の大半、Gap8万人(カナダ含む)、コールズで約8.5万人、ニーマン・マーカスは1.4万人の大半、と報道されています。休業が続く場合の百貨店などの流動性、すなわち、いつまで持ちこたえられるかについて早くも予測するアナリスト(Cowen & Co.社)もでています。曰く、ノードストロムと J Cペニーは8か月、MacyKohl’sなどは5か月だと。

<コロナ・パンデミックの収束はいつになるのか?> 

 答えられる人はいないでしょうが、その経済への影響は恐るべきものになるでしょう。米国ではすでに2兆ドルのコロナ対応施策、(さらに2兆ドルの景気対策?)が動き始めています。日本国の対応の遅れと、政府のアクションが補償なども含む具体策とスピード感に欠けていることに焦りを感じます。今回のコロナ危機で、日本のいろいろな体制、例えば企業のリモートワークや学校のオンライン教育体制(世界の先進諸国では当たり前)の未熟さも、改めて露呈しました。パンデミック収束後のV字回復のためにも、個人も企業も、目先の切迫した感染拡大防止や都市封鎖の可能性に加え、このコロナ危機が私たちの生活やビジネスに、どのようなファンダメンタル(基本的)な変化をもたらすか、について、真剣に考え行動を始めることが不可欠だと思います。

 

 <NRF 2020で注目された 「小売業のサービス化: RaaS>

 コロナ危機が収束した後の小売りビジネスは、どのようなものになるでしょうか?パンデミックの恐ろしさを実感し、生きることの有難さと同時に難しさを体験した消費者。生活必需品の価値と、健康で安全な生活の重要性に改めて思い至った消費者の意識と行動は、これまでとは大きく異なるものになると思われます。自然が生みだす異変や人間による地球環境破壊、サステイナビリティやエシカルへの想いも強まり、ビジネスの仕組みも大きく変わらねばならないでしょう。

 NRF 2020大会の重要なメッセージの一つとして強調したい 「小売業のサービス化」、すなわちRaaS=Retail as a Service(サービスとしての小売業)は、コロナ終息後のビジネスにとって非常に重要なものになると私は考えています。小売り業は、そもそもサービス業といわれますが、これまでは、“メーカー(ものを製造する業)”と対比する意味で使われてきました。商品が、素材から始まり製品化・仕入れ・物流・在庫・販売と続く長いサプライチェーンの最終ポイントとして消費者に接するのが小売業でした。これに対して、顧客(消費者)中心の柔軟な発想で、メーカー(製品を生み出す人/企業)を直接あるいはフラットに顧客や関係ビジネスにつなぎ、優れた顧客体験や利便性といった新たな価値を創造する、しなやかで効率の良い仕組みをつくるのが“サービス化”です。

 言い換えれば、従来のチャネルベースの固定的な縦の流れの生産・流通・販売から、顧客を中心とする360度を視野に入れたフラットでフレキシブル(アジャイル)でフリクション(摩擦やイライラ)の無いコマースを実現しようとするものです。そのために、デジタル技術とクラウドを活用し、リテーリングのバックエンド(商品調達に始まる各種のトランスアクション)と、顧客の体験やエンゲイジにかかわるフロントエンドを切り離し、DTC(メーカー直販)ブランドなどがフロントエンドの実店舗ビジネスを簡単にスタートできるようにする仕組みです。ちょうどトヨタが掲げる MaaSMobility as a Serviceが、 “自動車の製造販売会社”から “移動性という機能を多様な形で提供するサービスに変身しようとするのに似ています。

<NRF 2020で登壇した RaaS事例>

 今回、大会で注目されたのは、Neighborhood GoodsとShowfieldsでした。しかしRaaSモデルの先陣を切ったのは、2015年に、いわゆるガジェット、新しいデジタル機器を好むユーザーに新製品を体験してもらう場をスタートさせたカリフォルニアの b8ta(ベータ)です。製品のβ(ベータ)テストを行いながら、カメラで顧客の行動を把握し、そのデータをリアルタイムでメーカーと共有。「売る」のではなく「消費者に新しい価値を提供する」ことで、企業側からも収益化を試みるビジネスモデル。販売もしますが、収益は月額固定の出展料で、すでに米国内24店舗、ドバイに1店舗を展開しています。(写真は、ハドソン・ヤードSC内の通路から見たb8ta 店)  

出品者はDTCがほとんどで、販売はb8taの訓練されたスタッフが行いますが、“売りこまれる”ことがないので、顧客は専門的説明を受けながら楽しんで製品を体験できます。今年夏には日本に2店舗を開店する予定と聞きます。

 

<ネイバーフッド・グッズ(Neighborhood Goods)>

  今回NRF大会のセミナーで紹介されたNeighborhood Goods「新しいデパートメント・ストア(百貨店)」をうたって2018年11月にテキサス州で創業したスタートアップ。創業1年の2019年12月には早くもニューヨークのチェルシーに2店舗目を開店。さらに先月3月6日には3店舗目をテキサス州オースティンに1000㎡の店舗で開店した、今話題のビジネスです。アパレルから雑貨、趣味の道具類、文房具、ヘルス/ウェルネスやグルーミング関連商品、フランス大手企業のフレグランス・テスト・ショップなどが魅力的な構成やデザイン設計でならび、それらがホットなブランドとして定期的に入れ替わる店になっています。

Neighborhood Goods 売り場風景 (NRFプレゼンより)

  NRFでは、共同創業者のマット・アレキサンダーCEOが登壇しましたが、テーマは、RaaS plug-and-play のインフラを使った、リアル店舗でのテストと学習」

でした。“plug-and-play”とは、“電源を入れるだけですぐに始められる”という意味です。ユニークな製品を作ることは出来ても、小売りビジネスを始める法的手続きの知識や店舗運営ノウハウもないDTCに、販売だけでなくマーケティングやブランディングまで支援するビジネスパートナーになって、新商品をテストし、顧客の嗜好や行動を共に学習する場を提供する、というビジネスです。

Neighborhood Goods 店内風景 手前はデニムとBoy Smells

販売はネイバーフッド・グッズの接客スタッフが受け持ちますが、売り込むのではなく “ブランドアンバサダー”として、ブランドのストーリーや魅力を和やかな会話で伝え、共感を得るといった雰囲気。接客スタッフが得た顧客の反応などの情報は、店内のカメラなどがとらえた顧客の行動データとともに集められ、出展ブランドにもフィードバックされて、それに基づくコンサルティングも行われます。基本的な契約は月額固定の展示費用と販売委託手数料(販売マージン)をブランドが支払う形です。

Neighborhood Goods売り場風景

壁にかかっている同社の自己紹介的メッセージ(画像参照)が、この店のコンセプトをよく表しています。メッセージは言います。

 Neighborhood Goodsは、新しいタイプのデパートです。変化し続ける景色をフィーチャーする、つまり思慮深くエキサイティングでコンテンポラリー(現代的)なブランド、物語、そしてイベント、の風景に注目するお店です。

さらに私たちは、全国で拡大する店舗を通じて、コミュニティ、つまり人々が集まって、買い物をしたり、食べたり、新たな発見をしたり、学んだりするコミュニティの 場所 であるよう努力しています。

 このメッセージを読めば、「いつも新鮮で魅力的な商品がある店」、そして「地域コミュニティのハブ」になりたい、という同社の思いがよく伝わってきます。歩合給でなくサラリー制で働く感じの良いスタッフ(ブランド・アンバサダー)が、チャットも含め親切に対応し、店内で行われる料理教室やエクササイズ教室などの様々なイベントを楽しみに、多様な人が集まる。そんなお店なのです。 

Showfields(ショーフィールズ)>

 今回、スタートからわずか 1 年でNRFセミナーの講師に招かれたShowfields(ショーフィールズ)は、「世界一面白い店」 をうたって、2019年1月に ニューヨークのNOHOに開店しました。その名も“Show(見せる)Fields(場所)” というこのRaaS は、主としてDTCブランドやアートを集めた新しいタイプのセレクトショップといえます。

マンハッタンNOHO、Bond Streetの Showfields

店舗は3フロアにまたがる小さなブース約40コマに、それぞれのブランドが出展。出展期間や契約は様々なようですが、コンセプトや商品説明は、ショーフィールズの訓練されたスタッフが、全員実験室用白衣のような装いで楽しそうに行います。

接客スタッフはブランドや商品について詳しい知識を持ち、ここでも“売り込み”ではなく、製品や関連するストーリーや自分の思い入れを語るなど、なごやかな雰囲気です。(写真は、ブースの例:右  VERTIGGA。下 CBDカンナビジオール店で製品を説明するスタッフ。CBDは麻の主成分の1つで鎮痛剤や睡眠薬として市販され愛用者も増えてている

RaaS拡大への大きな期待>

 RaaSによる新たなビジネスモデルは、今回のコロナ危機で、高度に組み立てられていた分だけダメージも大きかったグローバル・サプライチェーンに、革新をもたらすものと私は考えています。国内生産、ロスを発生させないエコシステムやカスタム生産、ユーズド商品やシェアリング、などなど、これまでの伝統的リテーリングになじみにくい新ビジネスが、ローカル・コミュニティを基盤に、顧客セントリックで展開できると考えるからです。

 RaaSの日本での広がりを、楽しみにしています。                      NRFリポート⑤ End

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