AI が拓く新小売り時代―ビジネスは新たなステージへ

生成 AI (ジェネレイティブ AI )が注目を集めています。一昨年11月に公開されてから、わずか2カ月でアクティブ・ユーザーが1億人を突破し、その後も大小の企業を巻き込みながら、猛スピードで多様・多彩な展開を見せています。

AI (人工知能)は、人間の知性が必要とされる高度な作業を行うことが出来るコンピュータ・システムとしてかねてから研究開発が進められてきました。そして近年の機械学習や深層学習での進展をもとに登場した「生成 AI」は、自然言語での使いやすさにより、文章作成、検索やチャット、要約や翻訳、画像生成、等、日本でも活用が始まっています。

ファッションや小売ビジネスは、AI、とくに生成 AIの活用メリットが大きい産業だと思われます。さらに「今後5年間で、AIは、生活の在り方をどうう変える?」の予測でビルゲイツが言っているように、「一人一人が、自分専用の人工知能アシスタント=エージェントを持つ」といった時代が来ることも予想されます。

AIが拓く 新時代。AI の可能性と世界の動きを知り、自社に有効な形でそれに取り組むことが重要になって来ました。デジタルでは世界に周回遅れと言われる日本の、ファッション/小売業界のリーダーの皆さんに私の想いをお伝えしたく、繊研新聞に寄稿しました。(本日、2月15日付け7面掲載)

以下に記事をご紹介します。

 明けまして おめでとうございます。

                         2024 年元旦

本年の 皆さまの、ご多幸とご健康、そしてご活躍をお祈りいたします。 

「天地(あめつち)は神の懐(ふところ)、人は皆 神の愛し子」という 私の好きな歌があります。にもかかわらず、あちこちで人の諍いが起きています。平和な世界を心から希求します。そして今年こそ、ウクライナ、ガザ、ミャンマーなどでの平和への進展がありますように。 

2024年は、世界各地で重要な選挙やイベントが山積です。AIの多方面での発展、特に生成AI の急速な拡大は、期待と不安を募らせます。

ファッション産業も、サステイナビリティとの両立をどのように組み上げるか、大きな変革の年になると思われます。いまこそ日本古来の「モッタイナイ」精神を生かした、自然と共存する循環型経済に取り組む時。「モッタイナイ」には 「ありがたい」という意味もあります。 私自身も引き続きその方向で、努力しようと考えています。

今年の干支は「甲辰(きのえ たつ)」。” 甲 ” は十干の始めであり、 ” 辰” は、竜巻や雷など大自然の躍動を象徴する ” 竜” です。ファッション・ビジネスも、果敢に飛躍をとげる年にしたいと 祈念します。

今年もどうぞよろしくお願いします。

                                                                    尾原 蓉子

女性活躍支援は 一般論から 個々人の啓発とサポートへ

女性の活躍推進が、いよいよ総論から、各論、つまり個々人の問題になって来ました。

先日、女性の活躍とキャリア構築について、若い意欲的な女性たちに話をする機会があり、私も啓発されてワクワクした体験をご紹介します。会は、アマテラスアカデミア主催の研修会でしたが、ワクワクの理由は、参加者が自分の成長努力のなかで湧き起こる、率直で生々しい質問・課題を提示してくれたことで、質問者に合わせて具体的に考えることが出来たからです。

(画像はアマテラスアカデミアでの研修風景)

用意した内容は、「革新的リーダーを目指そう」。「管理型」ではなく「リーダー型」のリーダーシップ発揮を! でしたが、事務局からの追加の要望が、

「家庭か仕事か選ぶ時代は終わった」(拙著『Break Down the Wall―環境・組織・年齢の壁を破る』第2章)

の深堀りでした。わが意を得たり! 私が今、非常に歯がゆく思っているのはその事。すなわち、「今の女性には、こんなにチャンスがあるのに、何故もっと 自由で 人間的で 積極的な行動が 出来ないのか!」 だったからです。

これからの時代、AIを含む技術革新や働き方そして価値観の多様化が進む中、「家庭か仕事か」、といった二者択一の対立概念を、両立・融合そしてシナジーに発展させてゆくことが可能だからです。

そこでテーマを、

今こそ、女性リーダー活躍の時 ――環境・組織・年齢の壁を破る!
――人間らしく、幸せな人生を!
――プロと言える能力をつけよう!

とし、女性が “仕事と家庭の二者択一の思い込みから解放され、のびやかに、自分も家族も、周りの人たちも、幸せにする” 考え方と行動について、私の経験を中心に話しました。

アマテラスアカデミアとは、美容研究家でメイクアップ・アーティストでもある小林照子さんが、自費で立ち上げた女性のための学校です。自分を愛し、人に優しく生きていける。そんな生き方を 「美容的生き方」だと定義する小林さんは、業界も働く環境も様々な女性を毎年15人選考して、一定のカリキュラムで講座を開催。私が特別講師を頼まれたのはその第5期生で、皆、事前に、『Breaking Down the Wall』の本を読んでくれていました。(『Break Down the Wall 環境・組織・年齢の壁を破る』 尾原蓉子著 2018 日経出版社)

<触発された多くの質問>

一言も聞き漏らさない、といった姿勢の熱心な受講生たちでしたが、とくに、自分問題としての飾らない質問が多かったことに感心しました。たとえば、、

  • プロフェッショナルになるために努力しているが、「プロとしての自信」は、どうやれば培えるのか?

  • 「管理型」ではなく 「リーダー型」マネジメントを、と言われても、自分は「リーダー型」には向いていないと思うが、どうすればよいか?

  • 子育ては “緩い手綱さばきで”と言われたが、具体的には?

<「リーダー型」のマネジャーになる>

「リーダー型」マネジメントとは、“まずビジョンと戦略をもち、メンバーの心を一つにまとめながら啓発・動機付けし、目的を達成する”マネジメントのスタイルです。これは既定路線に従う従来型スタイルの、“まず計画を立案し、組織・予算を策定し、管理・コントロールしながら目標を達成する”「管理型」とは、考え方も、進め方も異なります。今、とくに「リーダー型」マネジメントが求められるのは、現代が、変化が激しく先が予想しにくい、いわゆるVUCAの時代であるからです(注)。ここでは、“従来のやり方”の踏襲では成功できない、つまり、“あらたな革新(イノベーション)を起こす”ことが不可欠なのです。 注) VUCA とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)が高い時代、の略語)

私のアドバイスは、、。 「個人には、確かに、保守的な人、革新的な人、といった性格の違いがあります。しかしビジネスあるいは組織が発展するには、変化が不可欠です。革新には、大きな変革もあれば、日常レベルの業務でも、時代に合わなくなっているものを変える、ことも含まれます。小さなことでも、自分がこうあった方がよいと考えることを、勇気をもって実践する。そして成果を確認できれば、自分にも革新ができる、と自信がつくでしょう。そのためには、上司の視点、出来ればさらにその上、つまり2段上の立場から、より大きな視野で物事を見る努力を。また常に、好奇心を持って周りを見る努力をすると、色々な問題が必ず見えてきます。それに取り組んでみてはどうですか?」

<子育てについて、尾原が話したこと――子育ての基本は、子供の考えを尊重しながら、ゆるい手綱で導き、伴走すること>

子育てはキャリアを追求する女性にとって、最大のチャレンジでしょう。

最近の日本で、「“子供を持ちたくない”風潮が高まっている」 との報道に私は衝撃を受けました。 (8月9日付け日経新聞掲載された同社調査結果)。18歳女性の42%が 「生涯 子供を持たない/持ちたくない」 と考えているというのです。「男性では5割に上る」、とも。

経済の明るい未来が見通せない昨今、また、子育ての負担が圧倒的に女性にかかっている現状の中、理解出来なくはない風潮です。でも、何と消極的で後ろ向きの考え方かと悲しくなりました。ましてや、急激な人口減少で日本の将来が危ういと言われるなか、子供を産むことが出来るのは女性だけなのに、その女性たちが「子供を持たない?!」。 大変なことです。

子供を産み育てる事は、確かに苦労は多いけれども、その成長を伴走することで得られる人間的な喜び、幸せ、は、何物にも代えがたいものです。育児は、問題解決の連続ですが、それが自分を育ててくれることにもなります。子育ては最もクリエイティブな仕事だ、とも思っています。

子育ての基本は――二人の男の子を育てた私の経験からいうとーー子供を信頼し、子供が自分で考えて行動出来るよう、緩い手綱で導きながら、その成長を見守ることだと考えます。子供とは大事な約束をします。まず、①嘘はつかない。②挨拶(おはよう、こんにちわ、など)をきちんとする。③どんなことでも話してくれる(嬉しい、悲しい、困った、失敗した、などなど。話しにくいことを話してくれた時には、ほめたり感謝することが大切)。④正すべきことがあれば、理由を説明して厳しく向き合う。そして、常に、⑤感謝(ありがとう、いただきます)、を忘れない。感謝は「祈り」にもつながるものです。子供には、一人の人間(人格)として対応すること、子供の考えやアイディアを尊重すること、が大切です。

そして、親として一番大事なことは、「子供を信頼する」ことだと思います。たとえば、お手伝いさんの言うことと子供が言うことが食い違う場合、どうしますか? 大人であるお手伝いさんの言い分の方が筋が通っていることが多くても、「大事なことだから、よく思い出してちょうだい、、」などと、本当のところを子供に思い出させ聞き出すことが重要です。子供は、親が信頼してくれていると感じることで、親に対して絶大な信頼をもつようになり、また自分の責任も意識するようになります。

5000円紙幣を持たせてスーパーにお使いに出した時、「お金を失くして払えなかった」と、手ぶらで帰ってきたことがあります。お金は、「ポケットに入れていた」というので、「どこかで落としたに違いない。絶対に見つかるから歩いた道を丁寧に探してきなさい」と300メートル先のスーパーまで再度行かせました。私自身は、今後のための「躾(しつけ)」のつもりでした。ところが有難いことに、スーパーのレジで訊ねたら、拾って届けてくれた人が居たというのです。(日本ならではですね!) 子供は、「お金を拾っても届ける人がいる」 ことを知り、私は「失くしたものでも、真剣になって探せば出てくる」ことを教えることが出来たと、幸運に感謝したことでした。

<女性たちとの対話で嬉しかったこと>

日本の女性が、もっと人間らしく、のびやかに生きることの価値を強調した私の話で、嬉しかったコメントとして: 「“子供を信頼することが大事”、が胸に刺さった。今日から子供への接し方を、変えようと思う」、あるいは 「子供は作らないと決めていたが、考えを変えた」、などがありました。

女性一人一人が、それぞれがおかれた環境、個人的な想いや家族・社会との関わり合いの中で、抱えている問題の突破口や光明をさぐる。それをお手伝いすることが出来るとすれば、本当に嬉しいことです。

皆さんの健闘と活躍を、心から願った研修会でした。

<追伸> このアマテラスアカデミアでの私の講演を、メンバーがまとめたレポートが、アマテラスアカデミアのホームページに掲載されています。ご興味のある方は是非ご覧くださると嬉しいです。

→ 尾原蓉子 講義レポート

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