<米国同時多発テロで見た ジュリアーニ NY市長のリーダーシップ> シリーズ③ 


 「優れたリーダーの5条件」 と先に紹介した尾原の信念が、「確信」となったのは、「アメリカ同時多発テロ」、いわゆる 11 事件での、ニューヨーク市長ジュリアーニ氏の危機対応におけるリーダーシップでした。当日、たまたま現地、それもWTC世界貿易センタービルを一望できるFIT階でIFIビジネススクール幹部研修を行っていた筆者が、現場で陣頭指揮を執ったジュリアーニ市長のリーダーとしての圧倒的な力と説得力、この人に従うのだという市民の絶大の信頼感、といったものに、非常な感動・感銘をうけたことにあります。

 リーダーシップ・シリーズ③ では、この体験の寄稿が繊研新聞 200112月3日付け「繊研教室」に掲載されたものを、ほぼ原文のままご紹介し、真のリーダーシップとは何かを考えて頂きましょう。    さらに、今こそ、このようなリーダーシップが求められていることも付記したいと思います。

 (注: 「アメリカ同時多発テロ事件」とは民間航空機2機が乗っ取られ、2001911日朝 846分に最初の1機が、次いで機目が WTCビルに突入、超高層ビルが崩壊、3千人以上が死傷した事件)

 

 <911日テロ事件から ジュリアーニ市長に学ぶリーダーシップ>

―「海図なき時代」のリーダーの条件 求められるビジョンと「勇気」

 9月11日、ニューヨークでIFIマネジメント・コースの研修中に、テロによる世界貿易センター爆破の惨事に遭遇した。

現場に近い FIT の教室から、まさしく巨大な飛行機がビルの中に消え、ビルが崩落する、信じられない光景を目撃することになってしまったのである。

事件の圧倒的なマグニチュード、信じられない手段をとったテロ集団への怒り、何千もの犠牲者や殉職者への胸のつぶれる思いと祈り。そして総勢23名の研修グループの引率責任者として、全員の安全確保と速やかな帰国達成への努力。心身ともに揺さぶられた5日間であった。

この体験は、すさまじい、一生忘れ得ないものであるが、貴重な学習にもなった。IFIではこの経験を踏まえ、研修旅行に関する危機管理マニュアルも策定した。

しかし、何よりも感銘を受けたのは、ニューヨーク市長ジュリアーニ氏の強力なリーダーシップであった。真のリーダーとは何か、をまさしく実感させられた。

テロ事件でなくても、急速な環境変化のなか、政治、企業経営など、様々な場面で 「リーダーシップの欠如」が叫ばれている。いま求められる「リーダーの条件」について述べたい。

 

ジュリアーニ市長のテロ対応

 ルドルフ・ジュリアーニ氏は、ブルックリンの労働者階級出身のイタリア移民三世で、1993年ニューヨーク市長に就任後、「犯罪都市ニューヨーク」を「ゼロ・トレランス」(許容ゼロ)の厳しい法の執行で大改革を断行。教育・福祉を含め、ニューヨークの再生を成し遂げた人物だ。

 ジュリアーニのテロ当日の行動は速かった。即刻、現場に急行、消防・警察の精鋭部隊を投入。現地オフィスを設置。救助、治安、交通整備等の陣頭指揮にあたる。

 午後の記者会見では、市民に冷静さと協力をよびかけ、「このテロを誘発したのは 『怒りと憎しみ』 であるが、すべてのニューヨーク市民がこれを超越し、一丸となって、この悲劇的事件の影響を受けた人たちを援助しよう」。また 「明日は 『大雪による非常事態』 と考え、出来るだけ自宅を出ないで欲しい」 と訴え、12日はマンハッタンを取り巻くほとんどの橋とトンネルを、救助部隊以外には閉鎖した。

 翌12日朝の会見では早くも、「バック・トゥ・ノーマルシー」(平常復帰)を呼びかけた。「ニューヨークを早く平常に戻したい。地下鉄などインフラ回復に全力投入中だ。明日は橋やトンネルを閉鎖解除、公立学校は通常の2時間遅れで再開する。関係者は定刻に出勤せよ」 「我々は平常のビジネスや生活にもどるのだ。」

また、「助けが必要な人が沢山いる。肉親や友人を失った人、恐怖におびえている人。この人達を、慰め介助してほしい。」 「この悲劇に対処する最善の方法は、自らの悲しみに対処するだけでなく、ニューヨーク市民はこんなことに屈しないことを見せることだ」。

現場の状況を報告する記者会見は毎日、何度となく行われた。

日本なら耳を疑う発言もある。たとえば 「ノーモア・ボランティア」 宣言。

全国から駆けつけるボランティア消防士などが増える中で、「監督可能範囲を超える人手は、生産性と効率の面で、邪魔にこそなれ助けにならない。我々だけでやる。」 と、その好意には何度も謝意を表しながらも、きっぱり。

また 「デマ情報やいたずら通報は犯罪。逮捕する」。「報道陣の現場取材自粛を望む。時間との戦いに全力投球が必要。手柄話をさせたくもない。」などを、警察や消防のトップに明言させている。

この惨事で、救助活動や連邦政府などの組織や資源の動員に見せた氏の手腕は衆知の通りだが、事件後2ヶ月の現在、ニューヨーク市民の連帯感がこれまでになく高まっているのも、事件当初の氏のリードによるところが大きい。

 

ジュリアーニのリーダーシップ

この危機で発揮された氏のリーダーシップのポイントは、

1.   絶えず、市民の前に登場し、「信頼できる・任せられるリーダー」 像を明確に提示。自身の考えや努力の方向を伝え、どんな質問にも答えて、不安や不信感を抱かせない。答えられない質問にも、その旨ありのままを伝える。

2.   市民が目指すべき方向を明示。(憎しみを越えた助け合い。速やかな平常復帰。テロに負けないニューヨーク)

3.   非常事態の中で、冷静かつ的確な判断、発言、行動。およびその広報。

4.   絶えざる情報共有、情報開示。把握できていること、いないことを明確にする。

 

「新しいリーダー」 の条件

いま、企業や事業に求められるリーダーの難しさは、これまでのように 「こうすれば成功する」という筋道がないことだ。「先が見えない。いつ何が起こるかわからない」 環境で人々をリードせねばならない。まさしく、ジュリアーニの危機管理に共通するリーダーシップなのである。

この 「新しいリーダー」 の条件として私は次の5点を挙げたい。実はこれは、私が4年前米国のビジネススクールで学んだときに、ハーバードに来校した5人のCEO(経営最高責任者)に問うた答えとの共通項でもある。

1.   ビジョンがある。

2.   人の話に耳を傾けることが出来る。

3.   自分の考えをコミュニケートすることが出来る。

4.   人をインスパイア(鼓舞・鼓吹)する力がある。

5.   勇気がある。

 これらの大前提として、的確な情報収集力や判断力があることは、いうまでもない。

 ビジョンを持って、進むべき方向を明確にし、まわりと一体になって自分の考えを実行に移していくリーダーシップ。

 この中でも、最も重要なのが 「勇気がある」 ことだ。

 「海図なき航路」 を人を率いて進まねばならない現在、リーダーは、未知の(実績のない)世界に、信念と勇気をもって踏み出せる人間でなければならない。

 これは経営者のみならず、事業部門の長にも求められるものだ。

 特に 「出る杭は打たれる」 コンセンサス社会の日本風土の中で船出することは、「勇気」 のいることだからである。