女性とキャリア

NRF2021リポート④<女性CEOは 生活者感覚としなやかでスピーディな動員力で>

 NRF2021では女性の講師が40%を占めたとリポートで書きました。

大企業の最高経営責任者(CEO)が多数、また政府高官の女性も登壇しました。代表的講師をあげれば、今回取り上げる、ウォルマー・インターナショナル社、WWインターナショナル社、ビタミン・ショップの3社のCEOほか、ウォルマートCCO (チーフ・カスタマー・オフィサー)やルルレモンCEO、元国務長官で国際的難局をリードしたコンドレッサ・ライス氏や、前ペプシコ CEO で現在も多方面で活躍するインドラ・ヌーイ氏など、多士済々です。ヌーイ氏は、2015年のフォーチュン誌の 「最もパワフルな女性リスト」で2位。ペプシCEO在任12年で売上8割アップを達成、健康・環境問題でも大きな成果をあげた人で、氏の講演テーマは 持続的成長とビジネス目標のバランスーー破壊的変革のかじ取り:社会経済コスト」でした。女性の大企業トップをが、このようなテーマで講演する時代の到来を、嬉しく、また誇らしく感じました。 

『変動の時代を、動員力で成功する』 “Mobilizing and succeeding in volatile times

 今回ご紹介する基調セッションのテーマです。直訳で「変動の時代を、動員力で成功する」 としましたが、内容的には 巨大変動の時代――非常時に機動力で成功する女性CEOのしなやかでスピーディな指導力 ですモビライジングという、戦時下での動員を意味する言葉を使っているのは、コロナ感染との闘いがまさしく戦争であり、制約あるリソース(資源・その企業が保持する強み)をフルに動員、つまり生かしながら、果敢にまた強力にリーダーシップを発揮したことを示すのにふさわしい言葉なのでしょう。

 

 リーダーシップとは人々のために希望を創造する こと: Walmart International CEO

 ウォルマート・インターナショナルのジュディス・マッケンナCEOは 2020を振り返り、 「厳しい対応が求められた。まず、コンタクトレスが米国で始まり、オンライン支払いやブレンデッド・ショッピング(ネットとリアルのミックス)、宅配は2週間かかっていたものを米国では 2 時間に、、、などなど国によって状況も異なった。行動は、ウォルマートのシンプルな5原則に従った。5原則とは、①何よりもアソシエイツ(従業員)をケアする、②店舗の安全確保と顧客に親切・人間的に振る舞うこと(小さな例だが、英国では配達の運転手が  “Happy to Chat.喜んでチャットしますよ” のバッジをつけ、顧客が質問しやすいよう対応した)。③サプライヤーを含むコミュニティへのケア、④毎日起こるあれこれの事柄への注力、そして同時に、⑤長期的事項へのフォーカスだった」と話しました。社員のウェルネスやメンタルヘルスを重視し、“It’s OK=大丈夫よ” プログラムも推進。リモート会議を子供が邪魔してもOK、気にしないで、だと。“We care” (気にかけている)ことを頻繁に伝えるなど、コミュニケーションに努力した。互いへの “信頼” が重要だった、といいます。

 未来について問われると、「2つの考え方がある。仕事は減る、と、もっと増える、の見方だ。楽観主義者の自分は、後者だ。そして働く人を未来へ向けて準備させる、つまり組織が個人に成長のチャンスを与えることが重要と考えている。ウォルマートの経営幹部のほとんどは時給雇いからキャリアを積み重ねてきた人たちで、これは世界的にも当てはまる」。「ウォルマートのような企業は、小売り以外のスキル開発を助けることが出来る。そうすれば将来、求人環境が変わっても、新たに登場する職業で自分のやりたい仕事に取り組む強固な基盤が出来る」、と。

 「全ての国(のウォルマート)が、今回初めてタウンホール(集会所)のようにつながり、より大きなコミュニティを創り、インスピレーションと希望を創造すること、を強調した。私はこれまで、〝人々のために希望を創造するといった仕事をやることになるとは、思ってもみなかったが、これこそがリーダーシップの本質だと、いま、考えている」、とのマッケンナCEOの言葉に、危機の中こそリーダーシップが輝くことを痛感します

                     ウォルマート・グローバル 社のマッケンナ氏(右)と 司会のAmex社マクニール氏(左)

大胆なアクション=CBD 市場に参入: The Vitamin Shoppe のシャロン・レイトCEO

 サプリメントやビタミン剤、健康食品の販売で全国に780店を展開する ザ・ビタミンショップは1977年創立の企業。 “あなたが目指すベストのあなたになるのをヘルプします” のスローガンで、店舗やサブスクリプションを通じて、人々のウェルネスに貢献する会社です。

 レイト氏は 2020は自宅フィットネス産業が急拡大した。コロナで顧客は信頼できるブランド志向を強めた。わが社は、製品の品質、ビタミン剤のエキスパート、業界をリードする革新的企業、などのブランド・イメージをもっており、これがコロナ下でも継続的支持につながった。 2020は、主要カテゴリーである、免疫力強化関連の、ビタミンC、D、亜鉛が伸び、2021へも継続しているが、加えて人々は、肉体的、精神的、感情的健康を求めていた。ストレス、睡眠、基礎的健康、スポーツ栄養、体重管理、解毒、そしてCBDだ」と述べ、大胆にCBDの提供を決めた経緯を話しました。 (CBDとは、カンナビジオールの略称で、カンナビス(大麻)から抽出される主要成分の一つ。他の主成分の通称 THC のように「ハイ」になることはなく、不安障害やうつ病や不眠などに効果があるとされる。アメリカでは2018年に医薬品に承認)。

 ウェルネス分野で最初の企業としてCBS市場参入の決断をした同社ですが、11月に自社ブランドでローンチするに先立ち、消費者調査をしました。その結果は、56%の人がコロナのストレス下で、リラックスし体調のバランスをとる方法を探しており、50 がCBD を取りたいと答えた、と述べています。顧客の要望に応えたアクションでした。マーサ・ステュアートとのパートナーも組みました。

 もう一つ氏が強調したのは、「顧客のいるところへ出向くこと。Meet Where customers are=店に来てもらえない中、顧客に近づく)ためのあらゆる手段を講じた。消費者直販を出来るだけ簡便でイージーにすることにも注力。 2020年の最も大きな収穫は、チームの、顧客が求めるものにあらゆる方法で対応する “レジリエンス(しなやかさ)” だった。これには感銘した」。 「人々は孤独になっている。 話をし、エンゲイジする機会を欲しがっている。そこで ザ・ビタミンショップがコミュニティ、言いかえれば Safe Heaven (安全な楽園)になった」 も、コロナ禍が人々に与えた精神的・心理的な変容を物語るものと、感じました。

ビタミンショップCEOのリート氏(右)と WWインターナショナルCEOのグロスマン氏(左)

コロナでの方向転換を、デジタル投資が助けてくれた: WW International ミンディ・グロスマンCEO

 「2020 が教えてくれたこと。それは何よりも、健康がこれまで以上に重要であることだった」が 開口一番のグロスマン氏の言葉でした。よりよい、より健康的な生活を送ることが、本当に重要な時代になったと。 

 業界でミンディ、と親しく呼ばれる氏は、ラルフローレン、ナイキなどで多彩なキャリアを積み、テレビショッピング大手 HSN の CEOとして同社の上場を果たしたあと、ウェルネスの世界を拡大したいと、2017年に、Weight Watchers社のトップに就任した、小売り業界のスター的なエグゼクティブです。ウェイト・ウォッチャーズ社は1963 年ニューヨークで主婦が創業した、その名の通りの「減量」を狙いとする商品やサービスを提供するフィットネスの会社でしたが、グロスマン氏はこれを、フィットネス、マインドセット、栄養、睡眠 の4つを柱とする “ウェルネス企業”へと発展させ、2018年には社名もWW International に変更しました。

 「2020年は、人気者のオープラ・ウインフリーと全米9都市ツアーを計画、強力なモメンタムでスタートしたのだが、予期せぬコロナで、計画中止。ピボット(方向転換)を余儀なくされた。これまでデジタル・トランスフォーメーションに投資をしてきたことが役立ち、ダイナミックな方向転換が出来た。チームはパーパスとパッションに導かれた形で素晴らしく動いてくれた。個人対応のウェルネス・ワークショップを、すべてバーチャルにし、全国 12か所で実施できるよう15000人のコーチを養成する体制を、6日間で作った。テクノロジーを駆使し、ウェルネスを達成する新しいエコシステムの構築が出来た。パンデミックがビジネス変容を加速してくれた、といえる。WWの4つの柱は、コミュニティの力で構築したものだ。」

 「1116日には “My WW+” を、食品がらみでないイノベーションの一つとして、AI と機械学習を利用し、完全にカスタマイズした、パーソナルでホリスティックな体験を、全メンバーに提供することにした。さらに2021は、新垂直型メンバーシップ、“Digital 360”をローンチ。 コーチング、コンテンツ、コネクティビティ、コミュニティ、のパワーを加えてより大きなパワーアップを図っている。新パーパスとして加えた “ヘルシー習慣= healthy habits for life”、 最近立ち上げた “WWファミリー” も、ジェイムス・コーデン(英国の俳優)をスポークスマンに起用して、顧客基盤の拡大に貢献。ウェルネスの民主化を願っており、経済的に困窮する人々10万人に無料会員の提供も行っている。」 そして最後に、「これらすべてを通じて、信頼できるブランドとして、人々の期待に応える」 と締めくくりました。

  これらの女性CEO登壇の司会をつとめた アメリカン・エキスプレスのグレンダ・マクニール氏は、同社が202010月に実施した全世界消費者調査で、回答者の70 がフィトネスを、 68 が肉体的健康だけでなくメンタル面での健康を重視すると答えている事実を紹介し、「よりよい、より健康的な生活を送ることが、本当に重要な時代になった」 ことを強調しました。 

 Life(命)と Livelihood(生活)が脅かされたコロナ・パンデミックの中で発揮された、人と生活に心を寄せる女性エグゼクティブのリーダーシップに拍手を送るとともに、日本の女性活躍の実態を悲しく思いました。元首相の 「文部省が女性を40%に、とうるさく言うから、、、。女性が入った会議は長くなる、、。(組織委の女性は)みんなわきまえておられる、、」 などの発言で、ジェンダーの問題が、日本社会にいかに根深くはびこっているかを、改めて痛感しました。日本の女性も奮起しなければなりません。                                                                                                                                           End

「Purpose に導かれて」――日経ARIAに インタビューが掲載されました

 『日経ARIA』をご存知でしょうか? これは、40-50代の働く女性向けのWEBメディアです。 「女性の活躍」 の議論になると、20代、30代の女性が中心になりがちですが、今までありそうでなかった 40-50 代で向けのウェブメディアが生まれたことを嬉しく思います。

その『ARIA』を含む働く女性のためのウェブメディアを総括しておられる 日経xwomanの羽生祥子総編集長のインタビューで、尾原の想いを語らせていただきました。3回シリーズの掲載で、各回のテーマは

(1)困難の乗り越え方を考えることは楽しかった (掲載済み)
(2)ライフシフトには働く目的と「資産」が必要   (掲載済み)
(3)リーダーは「地図よりコンパス」で道を示して (来週掲載予定)

リンクは https://aria.nikkei.com/atcl/column/19/012800152/ です。

「ARIA(アリア)」とは、オペラ用語の「独唱」。舞台の中央でスポットライトを浴び高らかに歌い上げる、そんなイメージでの命名だとのこと。米国の高級百貨店ノードストロムにも、かつてEncore(アンコール)という売り場があり、サイズもちょっと太目で華やかなカクテルドレスなどが並んでいました。

2014 年に私が設立した WEF(一般社団法人 ウィメンズ・エンパワメント・イン・ファッション)での女性の活躍の実態調査でも、女性は年齢と共に、いくつかの異なるステージを進みます。20代は、キャリアの出発点。新しい仕事に意欲を燃やし、懸命に仕事に取り組みます。30歳前後には、結婚・出産・子育てといった問題など、キャリアと両立させるには覚悟と創意工夫、周りの理解と協力が不可欠なステージに入ります。

そして 40代、50代。女性活躍推進の視点からは、上級管理職あるいは役員、経営者への道を進むことを期待される半面、現実的には立ちはだかる壁にも直面する。また人生のちょうど中央、折り返し地点に立つことから、これまでの生活を振り返り、やりたかったこと、悔やまれること、など振り返る機会も増えます。同時に、新たにやりたいことが湧き出てきた人も、子育てから解放される人も、世のしがらみに縛られないで自由に飛び立ちたい想いが強まった方もあるでしょう。

 人生をどう生きるか? これは、人それぞれが自分の選択をする、という意味で、自己責任の世界です。

 願わくば、“Purpose(目的)”をもって生き、この世から旅立つときに、「ああ、私の人生、よかったな」 と思えるものにしたいと、私は考えています。

(次回からは、米国小売業大会、NRF2020 Big Show のハイライトをシリーズでリポートします。)

 

 

 <故 吉田春乃さんの功績を偲び、あらためて日本女性の活躍を願う>

 元 BTジャパン社 CEOで、女性活躍推進組織 「ウィメン20」(W20)の共同代表でもあった、故吉田春乃さんのお別れ会が、9月6日 盛大に行われました。

実は私は、鎖骨を骨折し、このブログも含めて数ヶ月休ませていただいていたのですが、仕事復帰の第一弾が、奇しくも吉田さんの偉業を再確認し、吉田さんのご冥福を祈ると共に、日本女性のこれからの活躍をあらためて祈念する機会になりました。 

 吉田春乃さんは、慶応大学を卒業。入社直前に大病にかかり内定先の大手企業への就職を断念。病の克服後、やっと仕事を得た外資系企業に入ってカナダに渡り、米国や英国も含めたテレコム(通信)関連企業でキャリアを築かれました。その間お嬢さんを出産、離婚も経験され、シングルマザーとして、実力社会のグローバル企業で強靱な仕事への信念と姿勢、そして多大な実績を積み重ねられて、2012年、BT (British Telecom) ジャパン日本法人の社長・CEOに就かれました。

 2015年には、日本経団連初の女性役員に就任。米フォーチュン誌が選出する「世界の偉大なリーダー50 (2017年)」で、唯一の日本人として選ばれたこともあります。

 この間のご苦労はいかばかりだったか。   にもかかわらず吉田さんは、いつもおしゃれで魅力的。お気に入りのアルマーニで威厳と気品を漂わせ、9センチのピンヒールを履いて女性らしく、しかし  パワフルに堂々と行動する女性でした。

 WEFでも、2015年シンポジウムで基調講演者として登壇いただきましたが、そのメッセージには強いインパクトがありました。 「シングルマザーでも、アメリカやイギリスで活躍できたのは、営業をやったから。営業は実績が数字でしっかり出る。これを目指して仕事を取りに行った。営業をやりたい女性がもっと増えることが重要」 と。

 亡くなられたのは6月30日、心不全だったとのこと。3月には W20 共同代表として女性に関する政策提言をまとめ、6月29日に G20サミット(20カ国・地域首脳会議)の政府主催イベントで、「女性が経済的にエンパワーされると、持続可能な開発目標(SDGs)の他の項目も改善される」と熱弁をふるった閉幕の日の翌日でした。「大阪から世界をよりよい社会に変えよう」と訴えておられたのです。

 「多くの女性が経済力を持ち、自分が良いと思うところにお金を投じることができれば、市場は活性化し、よりよい社会につながる」 というのが持論でした。そのために、女性たちを常に啓発し、沢山のメッセージを残してくださっています。

◆    どんな時にも、Graceful な自分でいよう

◆    自分に自信を持とう、そうすればチャンスが現れる

◆    斜め上を見て、口角を上げて笑ってごらん。前向きのことしか考えられないでしょう

◆    Belief を変えよう。そうすれば Behavior が変わる

◆    怖いのは挑戦している証拠。あなた自身の価値に気が付いて!

◆    KEEP YOUR HEELS, HEAD AND STANDARDS HIGH

              ―― ヒールと、ヘッド(頭)と、そしてスタンダードを高く

◆    世界を変えようと思うなら、自分自身を変えよう

  直近では、お嬢さんの結婚を機に昨年8月、BT社と経団連を退任し、英オックスフォード大大学院に行かれて、働く女性の増加によって生まれた新しい市場規模の数値化などを研究しておられたと聞きます。まだまだご活躍頂き、ロールモデルとしても、指導者としても、学ばせて頂きたかったのに、と本当に残念です。

 死因は心不全、ということでしたが、お父様のご挨拶では、不整脈があり、医者にも注意するように言われていた、とのことでした。自分の身体よりも、社会のこと、女性のこと、そしてプロフェッショナルとしてのキャリアを全うしようとする気持ちが、強かった吉田さんでいらしたのだと、あらためて敬服し、またお身体をいたわって下さっていたら、との詮無い思いもつのります。

 心からのご冥福をお祈りいたします。