オムニチャネル

WEFシンポジウム――「米国のファッション・ビジネス最新事情」を尾原が講演します

 

 WEFシンポジウムを、「テクノロジーで変容するファッション・ビジネス――あなたはこの機会をどう活用しますか?」 のテーマで727日(水)夜、1830から開催します。

 

 尾原が基調講演を担当しますが、そのテーマが、「米国のファッション・ビジネス最新事情」です。インターネットやデジタル・テクノロジーが、ファッション・ビジネスに巨大な変革を起こしている。その実態を、NRF大会や米国業界の先端的事例をもとに、多数の画像をスライドで紹介します。ファッション・ビジネスが、単に「服やファッション雑貨を売る」ビジネスから、どのように変化してゆくのか、を見て頂きたいと考えています。 詳細は、下記をご覧ください。

WEF第7回シンポジウム 「テクノロジーで変容するファッション・ビジネス」 ご案内_160727 

 企画の動機は、日本のファッション・ビジネスが今、ぶつかっている壁です。

市場には沢山のファッションが溢れているのに、またオシャレをしたい顧客は居るのに、それらがマッチングされていない。他方、デジタル・テクノロジーの急進展は、オムニチャネルや人工知能(AI)活用により、個人にパーソナルな訴求をする手法など、新しいビジネス展開を可能にする大きなチャンスをもたらしている。 これを活用し新しいビジネスの方向に取り組むことで、企業も成長し、個人もキャリアの発展が出来る。そう願っているのです。

 シンポジウムの第二部は、WWD誌の 向千鶴 編集長、アーバン・リサーチ社執行役員の 乾展彰氏、さらに今、人工知能で注目されているカラフルボード社の 渡辺祐樹社長のパネルです。テーマは、「ファッションとビジネスの新しい世界をテクノロジーが拓く」。それぞれの専門分野からの最新情報や提言で、エキサイティングなものになると期待しています。

 興味を持たれる方は、ぜひご参加くださると嬉しいです。     以上

 

 

 

<NRF2016 リポート ⑤ 「Xmasギフト商戦、オムニチャネル能力テストの結果は?」>

 米国のオムニチャネル進捗シリーズの前回から、ずいぶん間が空いてしまい、恥ずかしく思っています。

 今回は、小売り企業はオムニチャネルの約束を果せているか、について 興味深いリポートを紹介しましょう。 オムニチャネル実践を標榜する企業は、「即日あるいは 1 時間配達サービスの拡大、検索のスピード化(3回クリックで目的達成)、パーソナル化した提案の増加」、などに努力を続けています。しかしその実現は、なかなか容易ではないことが分かります。

 「Xmasギフト:オムニチャネルは実働したか?」のタイトルでレポートをアップしたのは Internet retailer 2016.2.1)です。

 同社のエディター、アリソン・エンライト記者は、小売り企業が宣伝している、“Xmas 3日前までなら、いつでも、どこでも、好きな時にギフトを買える” は本当か? を3つの案件でテストしました。 言って見れば「オムニチャネル能力テスト」 です。

 記者は、課題として、① 婦人用ハンカチの購入(友人向け)、② SmartWool ブランドのソックスの購入(父用)、③ 母用には、アイディアさがしからスタート、を設定しました。記者自身の買い物は2週間前にほとんどアマゾンで完了していたのですが、業務として、オムニチャネルのテスト課題に挑戦したわけです。

 課題の内容は、下記を3日間で完成させることです。          

           1.欲しいものを見つける(ウェブまたはアプリで)

           2.オンライン発注・店舗ピックアップの指定

           3.走り回ってピックアップ

 対象小売企業は、Nordstrom, Macy’s. Wal-Mart Storesのネットサイト。

 結果は、次のようになりました。

① ハンカチ――スマホ・アンドロイドでまず Macy を検索、結果はゼロ。ノードストロムでは大昔からのブランドが1つのみ。ウォルマートでは、無地モノ 2点 が見つかったが、Xmasに間に合わずダメ。 そこで、予定にはなかったアマゾンで検索。結果の 5,000点のうち、Prime 配送に絞ると 850  の選択肢が得られた。そこで、6枚 $10.99 の柄物を選択。

 SmartWool ブランドのソックス――以前に買った経験がある Nordstrom REI をオフィスの PC で検索。ノードストロムで 6点上がってきたが、希望するシカゴ店でのピックアップが出来ないのでダメ。REIも同じ。Macyとウォルマートではそのブランドの扱いなし。またまたアマゾンをチェック。望むサイズの Prime  配達で 118点 の選択肢が上がった。しかし、課題はそもそもアマゾン・チェックではないので、この課題については放棄。

 母用、アイディアさがし――これは、商品指定をしないので簡単、と思ったが、非常に苦労した。とりあえず Macys.com に入って、まずジュエリーへ。手間がかかりそうだったので化粧品に移動。母が好きなエステ・ローダーの Beautiful を探すと、12 点が上がった。さらに“pick up in store”を“ シカゴ店”、で9点に絞り込み、その中の30周年記念企画商品に決めた。ところが商品説明の詳細を見ると、これは、「ウェブからの配達」と。改めて郵便番号を入力したが、これにはイラついた。

 というレポートです。

 この3社は、米国でもオムニチャネルを強力に推進している 3大小売業です。皆さんの評価では、何点を上げますか?

 ここから学べることは、「オムニチャネル企業の約束は、商品数、配達条件が多様化し、顧客のスピード検索、スピード購入への要求が加速するなか、並大抵のことではない」 ことです。                                                                                                            

(次回は、「顧客」 と 「企業」 の関係の革新、について考えたいと思っています。)

<NRF(全米小売業大会) リポート④ 「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」 >

オムニチャネル元年といわれる今年。いよいよ日本でも、オムニチャネルへの取り組みが始まったとみえて、「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」 のテーマで講演してほしいとの依頼が来ました。ファッション・ビジネス学会の公開シンポジウム特別講演です。 (5月14日(土) 14:00~16:00 詳細は→  http://www.fbsociety.com/event/new.html ご関心の向きはご参加下さい。入場無料)

 ファッション・ビジネスでオムニチャネルが最重要の課題になってきた要因は、主として次の5点です。

  ① ファッション商品のネット販売(Eコマース)が、店舗ビジネス苦戦の中、大きな売上げ増をもたらすことが明解になった

  ② ネット販売(EC)に深く取り組むほど、リアルな商品や売り場との接点が重要になる。店舗とネットを別事業にせず融合することで、在庫や物流の共有(一元化)、売り場スペースの削減、という効率化が期待できる

  ③ 他方、生活者は、スマホとSNSの普及により、主体的をもって行動するようになり、みずから検索したり、商品の情報や評価を他者とシェアしている

  ④ また生活者は、「おしゃれな服があったら買いたい」と思っている。しかし、市場に商品があふれていても、「自分に合うものを探す方法がない」と感じている

  ⑤ ICTの急激な発展・革新(クラウドやモバイル)が、多様なアプリの開発を加速し、顧客にとって便利で、かつパーソナルなニーズを満たす情報提供や商品提案を可能にした

  ファッション・ビジネスにおいては、上記のうち特に、④ と ⑤ が重要です。

 

 

 

(ノードストロムの TextStyle:個客にテキスト・メッセージで商品を案内 ――Stores 誌より)

 

  オムニチャネルの発展を米国にみると、次のような段階をたどっています。

第1段階: ネット販売(EC)成長期(2000年~ ) ――背後にインターネット普及とデジタル化の進行

第2段階: SNS の登場と一般への浸透(2006年~ ) ――背後にスマホの普及

第3段階: オムニチャネル台頭(2009~ )――背後に多様なビジネスモデルの登場

第4段階: リアルとECの融合(2013~ )――背後にクラウドと多様なアプリの普及

 これと比較してみると、日本はいま、第2ステージにあり、第3ステージに入りつつある段階と考えられます。

 ファッション商品のオムニチャネルについては、アメリカでもまだ完成形と思われるものは登場していません。というよりは、「オムニチャネルは動く標的」 です。企業が、それぞれの戦略に基づき、また市場の競合状況を見極めながら、創意工夫を凝らして、常時進化していくものだからです。米国のブランドが現在力を入れているのは、アマゾンに対抗する 「即日配達・短時間配達」。そして、個客の細かいニーズや感性に合わせた提示商品や提案、すなわち「パーソナル化」です。

 「パーソナル化」、は、先にあげた、④ と ⑤ にかかわるものです。具体的には、例えば顧客が欲しいものを自分で検索して見つけやすくする。特にサイズやフィットが、店頭に出向かなくてもある程度絞り込めるようにしたり、それに販売スタッフのサポートを付けることなどが有効です。ノードストロムでは、ネットのほか電話でパーソナル・スタイリストが対応してくれますし、最近ではTextStyle というービスを開始しました。これは、なじみの販売スタッフやスタイリストが、携帯のテキスト・メッセージで、お勧めの商品を個客に送信するしくみです。

 個客のデータを、買上商品の金額や日時や価格だけでなく、どんなテイストの服で、サイズは○○、色は△△、フィットは□□といった情報を蓄積し分析して、提案の精度を高めることが非常に重要になっています。そのために、会員制などの形をとって、その個客に好まれそうな商品グループをキューレーションして、定期的にお届けし、不要なものは返品し、気に入った物だけキープして支払いをしてもらう、といったプロセスを通じて、より精度の高い提案が出来るようにする、等のモデルも増えています。

  これらを実行するためには、商品情報のデジタル化、が欠かせません。

 日本がこれから、米国に2周遅れの感じでオムニチャネルにとりくむために、重要な基本的課題をあげましょう。

           1) ECへの取り組みを強化する

           2) 業務のデジタル化(商品企画から調達・物流、売り場陳列から顧客とのコミュニケーション)       の推進と在庫の一元管理

           3) 「個客」のニーズへの対応。個客との深い絆づくり

 

 (次回は米国での、Xmasギフト商戦で、オムニチャネルは実働したか?の体験リポートを紹介します。)