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尾原蓉子の 『 Fashion Business 創造する未来』 が 出版されました 

 日本のファッション・ビジネスへの提言書、Fashion Business 創造する未来』が発売になりました。4年がかりで書き上げた本です。

「ファッションが売れない」、「百貨店の不振はファッションが売れないから」といったニュースが新聞やテレビに頻繁に登場しています。その理由は、時代が大きく変化し、ファッション・ビジネスのパラダイムが全く変容したのに、ファッション業界がそれに対応していないからです。今週発売の日経ビジネスも、「買いたい服がない――アパレル、“散弾銃商法”の終焉」 と題する大きな特集を組んでいます。

 この本は、大変革期にあるファッション・ビジネスの近未来を展望し、いま私たちは何をなすべきか。このまま「ゆで蛙」になることなく発展するには、どのような「ディスラプション」( 旧来秩序の破壊と創造)、視座の180度転換、が不可欠か、を考えて頂くために書きました。  (詳細は:http://www.senken.co.jp/cart/globalisation-digital-fashion/ )

 表題を「創造する未来」としたのは、「未来は、予測するものではなく、創るものである」。〝創るのは(誰かが、ではなく)、あなた″、そして〝いずれ、そのうち″ではなく、〝今″、であることを読者の方にアピールしたい、との強い思いからです。 

 日本に初めてファッション・ビジネスの言葉と仕組みを紹介した拙書「ファッション・ビジネスの世界」の翻訳出版から、48年(ほぼ半世紀) の月日が経ちました。この間日本のファッション・ビジネスは、猛スピードで成長し、急速に成熟し、そして今巨大な壁にぶつかっているのです。巨大な壁を作っているのは、デジタル化とネット化を中心とするテクノロジーの急進展、グローバル競争、そして消費者の価値観と購買行動の変化です。

 ファッションは、流行を追うよりも〝自分のライフスタイル創り″ になりました。日本の市場にはファッション商品はあふれているのに、個人としての生活者が欲する適切なものを、見つけやすく、買いやすい形で提供できていないことが問題なのです。レンタルや  CtoC ビジネスが台頭する中で、ファッション・ビジネスにはこれまでの「物売り」モデルから「ファッションのサービス化」への脱皮が求められているのです。

 本の内容は、以下のようになっています。事例もふんだんに紹介しました。

 ファッション・ビジネスの未来を創ろうという、若者や女性の皆さんにも、ぜひ読んで頂きたいと願っています。また、ご意見を聞かせて下さい。

 

Fashion Business 創造する未来』:  目次

<はじめに> 革命的変化が起きている

第一部 ファッション・ビジネスのパラダイム・シフト

  1章:変容を象徴するディスラプト(破壊)的ビジネスモデル 

  2章:巨大潮流とファッション・ビジネスへのインパクト

  3章:これからのFB の核となるコンセプトを米国先端事例にみる

第二部 ファッション・ビジネスにおける価値創造

  1章:日本のFBにおける価値創造の変遷とこれから

  2章:あらためて考える「 ファッションとは何か」

  3章:ファッションの価値創造の3つの牽引力――High StyleHigh PerformanceHigh Devotion

第三部 ファッション産業とビジネスはどう変わる 

  1章:テクノロジーが拓く近未来のFBと産業構造のイメージ

  2章:ファッション企業が、いますぐ取り組むべき事―-デジタル化/EC化、オムニチャネル、パーソナル化、サービス化

  3章:マーチャンダイジング/マーケティング/マニュファクチャリングの革新

第四部 グローバル時代の、日本企業と個人の課題

  1章:「グローバル企業」になる 

  2章:ファッションの新しい形を世界へ――日本が持つ独自性と強み、用の美、Cool Japan、など

  3章:世界で活躍するための企業への期待、個人への期待

<最後に>

成功の鍵は、ディスラプションとイノベーション(革新)  

「 未来は既にここにある。ただ、すべての人に平等に分配されていないだけだ」

                                                                                        End

「WEFシンポジウム報告――米国流通革命: 鍵は“デジタル”と“ディスラプション”」

WEFの第7回シンポジウムからの報告です。

 WEFの第7回公開シンポジウムでの 尾原の基調講演の内容が、繊研新聞に掲載されました。

テーマは「テクノロジーで変容するファッション・ビジネス――あなたはこの機会をどう活用しますか?」です。 記事は、ここをクリックしてください。

 ファッション・ビジネスで革命が起きています。“デジタル”と“ディスラプション(秩序などを破壊する)”が、これまでのビジネスモデルを崩壊させ、新たな視座(顧客中心)と発想により様々な新ビジネスを生んでいる米国。この潮流は、まさしく、「ファッションが売れない」と苦悩している日本が 早急に取り組む必要があるものです。講演では、そういった新ビジネスの事例を多く紹介しました。

 日本で 「ファッションが売れない」理由には、経済的な問題や消費支出の優先順位が変化したこと、またトレンドに飛びつく〝ファッショニスタ″ が減っていることなど、多々あります。しかし私は、日本にはおしゃれをしたい人がまだ沢山いる。市場は沢山の商品であふれている。しかしそれらが、うまくマッチングされていないことが最大の問題だ、と感じています。

 これからの時代のファッション・ビジネスは、「物販」から「おしゃれ支援サービスへ」移行する必要があります。人々はファッションを〝自分のライフスタイルをつくる手段″と考えるようになりました。自分の価値観と望む形のライフを創り上げたい生活者に、そのためのファッション商品を提供するビジネスは、「モノを売る」ビジネスではなく、「その人が、なりたい自分になるためのサポート」ビジネスです。個性化が進み、「十人十色」からさらに「一人十色」の多彩な欲求を持ち始めた個客を、企業が十分に理解し満足させることは、非常に難しくなっています。片やテクノロジーの発達は、「スマホ装備」の個客を生み出しました。いつでも、どこでも、好きなやり方で情報収集し、友人の意見を聞き、比較検討し、購入後はその体験をツイートする、といったことが、ごく当たり前になっています。ということは、個客がサーチし、自分のほしいものを見つけやすく、手繰り寄せられるようにすることが、最も効果的・効率的になってきたのです。ウェブでの商品の提供は、魅力的な、かつ細部までわかる画像、特にサイズやフィットが、個客に分かりやすくなっていることが重要です。

「顧客セントリック」と言われてきましたが、いよいよテクノロジー、それもインターネットからさらに進んだデジタル・テクノロジーの急拡大で「個客セントリック」のビジネスが可能になり始めたのです。オムニチャネルもその一環として、非常に重要になってきました。このお店、このブランドは、私を理解してくれている。私が欲しいものを、見つけやすくしてくれている、という存在になりたいものです。

 このシンポジウムは、200名を超える参加者に、この巨大な変革のチャンスをどう活用しますか?との問いかけが目的でした。

あなたは、ご自身のキャリア、あるいはビジネスを、どう革新されますか?

<NRF2016 リポート ⑤ 「Xmasギフト商戦、オムニチャネル能力テストの結果は?」>

 米国のオムニチャネル進捗シリーズの前回から、ずいぶん間が空いてしまい、恥ずかしく思っています。

 今回は、小売り企業はオムニチャネルの約束を果せているか、について 興味深いリポートを紹介しましょう。 オムニチャネル実践を標榜する企業は、「即日あるいは 1 時間配達サービスの拡大、検索のスピード化(3回クリックで目的達成)、パーソナル化した提案の増加」、などに努力を続けています。しかしその実現は、なかなか容易ではないことが分かります。

 「Xmasギフト:オムニチャネルは実働したか?」のタイトルでレポートをアップしたのは Internet retailer 2016.2.1)です。

 同社のエディター、アリソン・エンライト記者は、小売り企業が宣伝している、“Xmas 3日前までなら、いつでも、どこでも、好きな時にギフトを買える” は本当か? を3つの案件でテストしました。 言って見れば「オムニチャネル能力テスト」 です。

 記者は、課題として、① 婦人用ハンカチの購入(友人向け)、② SmartWool ブランドのソックスの購入(父用)、③ 母用には、アイディアさがしからスタート、を設定しました。記者自身の買い物は2週間前にほとんどアマゾンで完了していたのですが、業務として、オムニチャネルのテスト課題に挑戦したわけです。

 課題の内容は、下記を3日間で完成させることです。          

           1.欲しいものを見つける(ウェブまたはアプリで)

           2.オンライン発注・店舗ピックアップの指定

           3.走り回ってピックアップ

 対象小売企業は、Nordstrom, Macy’s. Wal-Mart Storesのネットサイト。

 結果は、次のようになりました。

① ハンカチ――スマホ・アンドロイドでまず Macy を検索、結果はゼロ。ノードストロムでは大昔からのブランドが1つのみ。ウォルマートでは、無地モノ 2点 が見つかったが、Xmasに間に合わずダメ。 そこで、予定にはなかったアマゾンで検索。結果の 5,000点のうち、Prime 配送に絞ると 850  の選択肢が得られた。そこで、6枚 $10.99 の柄物を選択。

 SmartWool ブランドのソックス――以前に買った経験がある Nordstrom REI をオフィスの PC で検索。ノードストロムで 6点上がってきたが、希望するシカゴ店でのピックアップが出来ないのでダメ。REIも同じ。Macyとウォルマートではそのブランドの扱いなし。またまたアマゾンをチェック。望むサイズの Prime  配達で 118点 の選択肢が上がった。しかし、課題はそもそもアマゾン・チェックではないので、この課題については放棄。

 母用、アイディアさがし――これは、商品指定をしないので簡単、と思ったが、非常に苦労した。とりあえず Macys.com に入って、まずジュエリーへ。手間がかかりそうだったので化粧品に移動。母が好きなエステ・ローダーの Beautiful を探すと、12 点が上がった。さらに“pick up in store”を“ シカゴ店”、で9点に絞り込み、その中の30周年記念企画商品に決めた。ところが商品説明の詳細を見ると、これは、「ウェブからの配達」と。改めて郵便番号を入力したが、これにはイラついた。

 というレポートです。

 この3社は、米国でもオムニチャネルを強力に推進している 3大小売業です。皆さんの評価では、何点を上げますか?

 ここから学べることは、「オムニチャネル企業の約束は、商品数、配達条件が多様化し、顧客のスピード検索、スピード購入への要求が加速するなか、並大抵のことではない」 ことです。                                                                                                            

(次回は、「顧客」 と 「企業」 の関係の革新、について考えたいと思っています。)