ICT(情報コミュニケーション技術)

<NRF 2017 大会 BIG SHOW レポート 第2回: 9つの基調講演から>

 先回、今年のNRFのメッセージは、「いよいよテクノロジーが実践の場に入る」とのべました。

 「デジタル技術は今、飛躍への〝転換点 Tipping Point」が、繊研新聞に掲載された尾原のNRF レポートの大見出しです。〝ティッピング・ポイント(Tipping Pointとは、それまで小さく変化していた物事が、突然急激に変化する劇的な転換点を意味します。AI (人工知能)やロボットAR(拡張現実)やVR(バーチャル・リアリティ)等が、いよいよ実践に拡大する年、ということです。そこでは顧客へのパーソナル化が非常に重要であり、そのために〝データ″が決定的な役割を果たします。

〝データは新しい石油″、〝データは新しい通貨″といった言葉が飛び交った大会でした。(繊研新聞の尾原レポートは、こちらへ 繊研20170222_9_NRFリポート

 9つの基調講演を中心に、NRF 2017 のハイライトをお伝えしたいと思います。今年は、例年8つの基調講演が9つに増えましたが、テーマはテクノロジーと顧客体験、それに絡む新ビジネスの起業に絞り込まれた感がありました。115日(日曜日)から毎日3つ行われた基調講演( Key Note Session )を、順番に紹介しましょう。

  #1 「小売業はいかに人材(Talent)を惹きつけ、キープすべきか」――Macy’sWalmart 等の CEO によるパネルディスカッション。他産業との人材獲得戦争(War for Talent)のなか、小売業の魅力をどうアピールし、優秀な人材をどう獲得するか。とくにテクノロジーと小売りビジネス両方の能力を持つ人材が今後決定的に重要になる。そのために、CEO達は、ビジネスや技術系大学院にまで企業説明に自ら出かけている、といった緊張感あるセッション。単なる「人手」ではなく、高度なプロフェッショナル人材が不可欠になっているアメリカの実態。しかし日本にとっても喫緊の課題。

  #2 「データからディライトまでーインサイト活用の店内体験」――GameStop社、The Vitamin Shoppe社などネットをフル活用する企業のトップが語る、顧客データをいかに活用して、〝顧客ジャーニー″ すなわち個客体験を優れたものにしているか。〝顧客ジャーニーとは、情報検索からサイト/店舗訪問、ほしい商品ゲットのプロセス全体が「買い物ジャーニー」だとの考え方)

  #3 「21世紀顧客体験のカスタム化Shoes of Frey と Indochino事例――Eコマースでスタートした、カスタムの婦人靴あるいはメンズスーツを提供する2社が語る、マス・カストマイゼーションの先端事例。個客に照準を当てたカストマイゼーションは、サプライチェーンのディスラプションであることも強調された。

  #4 「継続的ディスラプションと革新のブランド・マネジメント」―― Virgin Group社創業者ブランソン卿との対話。400社を率いる〝とどまることない起業家″のブランソン卿の、革新とディスラプションの波乱万丈のキャリアから、変容の中で生き残る革新的経営者のモデルを見る。(詳細は上記、繊研レポートを読んでください)

  #5 「小売のトランスフォーメーションに拍車をかける」――Intel CEOとリーバイス、その他のデジタル・イノベーション事例。今大会のハイライトというべき革新事例のデモを含めた講演。(詳細は次回に紹介します)

  #6 「ホスピタリティが生み出す、カスタマーとの深いつながり」――ダニー・マイヤーとの対話。ユニークなレストラン経営で注目されているUnion Square Hospitality Group のマイヤーCEOの強調点は、〝非コモディティ化が鍵。秘密のレシピは「プロダクト 49% ホスピタリティ 51%

#7 「消費者が国家経済を動かすドライバー: ニューヨーク連銀CEOがみる消費行動の推移」 ——消費者の意識と行動を、住宅ローンの推移から見る興味深いプレゼン。

#8 「高速車線を行く起業家たち: 起業事例」――若手による起業を4例紹介するのが、ここ 45 年の恒例になっている。今年は Banter (ショップが顧客と携帯メッセージでコミュニケーションできる)、Strypes (既存商品をカストマイズするプラットフォーム:メーカー製品に10%のオリジナリティを顧客が付加)、Perseus Mirrors (スマートホームのための鏡)、ShopShops(中国に住む顧客のためのバーチャル・ショッピング・サイト。テレビショッピングのスタジオがニューヨークの実際の小売店になった感じで、顧客は店内に居る感覚で商品をクリックしながら購入する)。いずれも、デジタル技術をフル活用するもの。驚くべきは、中国在住の顧客に向けての越境 Eコマースがこんな形でも始まっていること。

#9 「社会意識の高い顧客をどう獲得するか?」―― IKIEA と The Honest Companyのトップが語る〝信頼される企業″、〝透明性ある企業″とは。顧客は商品の安全性などを自分に代わってスクリーニングしてくれる企業を求めている。キーワードは Trust (信頼)

 次回は、9つの基調講演の中で、最もインパクトが大きかったインテル社のブライアン・クルザニッチ CEO の、実演を多用した講演について、紹介しましょう。

WEFシンポジウム――「米国のファッション・ビジネス最新事情」を尾原が講演します

 

 WEFシンポジウムを、「テクノロジーで変容するファッション・ビジネス――あなたはこの機会をどう活用しますか?」 のテーマで727日(水)夜、1830から開催します。

 

 尾原が基調講演を担当しますが、そのテーマが、「米国のファッション・ビジネス最新事情」です。インターネットやデジタル・テクノロジーが、ファッション・ビジネスに巨大な変革を起こしている。その実態を、NRF大会や米国業界の先端的事例をもとに、多数の画像をスライドで紹介します。ファッション・ビジネスが、単に「服やファッション雑貨を売る」ビジネスから、どのように変化してゆくのか、を見て頂きたいと考えています。 詳細は、下記をご覧ください。

WEF第7回シンポジウム 「テクノロジーで変容するファッション・ビジネス」 ご案内_160727 

 企画の動機は、日本のファッション・ビジネスが今、ぶつかっている壁です。

市場には沢山のファッションが溢れているのに、またオシャレをしたい顧客は居るのに、それらがマッチングされていない。他方、デジタル・テクノロジーの急進展は、オムニチャネルや人工知能(AI)活用により、個人にパーソナルな訴求をする手法など、新しいビジネス展開を可能にする大きなチャンスをもたらしている。 これを活用し新しいビジネスの方向に取り組むことで、企業も成長し、個人もキャリアの発展が出来る。そう願っているのです。

 シンポジウムの第二部は、WWD誌の 向千鶴 編集長、アーバン・リサーチ社執行役員の 乾展彰氏、さらに今、人工知能で注目されているカラフルボード社の 渡辺祐樹社長のパネルです。テーマは、「ファッションとビジネスの新しい世界をテクノロジーが拓く」。それぞれの専門分野からの最新情報や提言で、エキサイティングなものになると期待しています。

 興味を持たれる方は、ぜひご参加くださると嬉しいです。     以上

 

 

 

< WEF 1周年記念シンポジウム②  南場智子氏が語る イノベーション」 >

 シンポジウムの南場智子さん(㈱ディー・エヌ・エーの取締役会長 ファウンダー)による基調講演で、私が特に感銘を受けたことをまとめてみたいと思います。

 講演は、16 年前に自ら設立した DeNAの、コマースからゲーム、さらに直近のヘルスケア分野へと “インターネットと巨大産業の協創”  による多様な事業展開を通じて、御自身の確信となったイノベーションとリーダー論だったといえます。たとえば“マンガボックス”(人気マンガ家の描き下ろし連載も無料で読めるアプリ)や“チラシル”(いつどこのお店で買うのが一番お得か一目で分かる)。さらには、シック・ケア(病気をケアする)からヘルス・ケア(健康をケアする)に移行する手段としてスタートしたばかりの、遺伝子検査サービス“MYCODE” など、時代の先端を行く革新的事業の上梓です。 

 新規事業の進め方について、南場氏は次のように語りました。「従来は、『企画』 『準備・開発』 『スタート』 『スケール』の各段階の間に、トップの判断(進行の許可)を入れていたものを、“Permissionless” (許可なし)にし、4段階目の『スケール』(大規模展開)に移行するか否かの段階で初めてトップの判断を入れる、と変更したというのです。何故なら、その事業の成否は顧客に問うのがベストであり、「まずやってみてフォロワーがどれだけつくか、など反応を見て、大規模展開すべしとなったら、そこで巨額の投資を経営者が判断する方が、今のビジネス環境に合っている。開発の経費は、サーバーなども安価になり、顧客の反応(リピート率やエンゲイジメント時間など)を把握する事が容易になっているのだから」 というのです。

 革新的ビジネス手法としてのデータマイニング(ビッグデータ解析)も強く印象に残りました。スマホやインターネットが浸透し、情報過多、競合サービス多数で、顧客は1秒で競合サービスに移動が可能な今の時代。どうやったら関心を持ってもらえるか? どうやったら利用開始してもらえるか? どうやったら使い続けてもらえるか? が重要になるが、そのためには、従来の人口動態的な顧客セグメント(年齢・性別など)よりもっと細かな、「個々人への最適化」が不可欠で、そのために「150億超の行動解析ログデータ」を取っている。その結果、「利用を始めてもらう力」は、個人への最適化で3.8倍に、「利用を継続してもらう力」は9.7倍になったといいます。

 こういったイノベーションのために、“生きのいいアイディアを出せる”人材と“データ分析の鬼”を、トップレベルで確保することに注力している、とのまとめに、納得した事でした。

 (次回は、鎌田由美子さんの講演についてです。)