NRF2021 リポート⑤ <コロナが起こした巨大シフト: 尾原蓉子の繊研リポート>


NRF2021の総括リポートが繊研新聞に掲載されました。(2021年2月24日付け) 

1986年から、一度も休むことなく参加した世界最大の米国小売業大会ですが、今年は初めてのバーチャル開催でした。突然襲ったコロナ・パンデミックの中、戦略転換やDX(デジタル・トランスフォーメーション)に柔軟かつスピーディに取り組んだ米国企業のバイタリティがご参考になれば、と願っています。「テクノロジーは、大動脈から 毛細血管の活性化へ」 も重要なメッセージです。

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NRF2021リポート④<女性CEOは 生活者感覚としなやかでスピーディな動員力で>


 NRF2021では女性の講師が40%を占めたとリポートで書きました。

大企業の最高経営責任者(CEO)が多数、また政府高官の女性も登壇しました。代表的講師をあげれば、今回取り上げる、ウォルマー・インターナショナル社、WWインターナショナル社、ビタミン・ショップの3社のCEOほか、ウォルマートCCO (チーフ・カスタマー・オフィサー)やルルレモンCEO、元国務長官で国際的難局をリードしたコンドレッサ・ライス氏や、前ペプシコ CEO で現在も多方面で活躍するインドラ・ヌーイ氏など、多士済々です。ヌーイ氏は、2015年のフォーチュン誌の 「最もパワフルな女性リスト」で2位。ペプシCEO在任12年で売上8割アップを達成、健康・環境問題でも大きな成果をあげた人で、氏の講演テーマは 持続的成長とビジネス目標のバランスーー破壊的変革のかじ取り:社会経済コスト」でした。女性の大企業トップをが、このようなテーマで講演する時代の到来を、嬉しく、また誇らしく感じました。 

『変動の時代を、動員力で成功する』 “Mobilizing and succeeding in volatile times

 今回ご紹介する基調セッションのテーマです。直訳で「変動の時代を、動員力で成功する」 としましたが、内容的には 巨大変動の時代――非常時に機動力で成功する女性CEOのしなやかでスピーディな指導力 ですモビライジングという、戦時下での動員を意味する言葉を使っているのは、コロナ感染との闘いがまさしく戦争であり、制約あるリソース(資源・その企業が保持する強み)をフルに動員、つまり生かしながら、果敢にまた強力にリーダーシップを発揮したことを示すのにふさわしい言葉なのでしょう。

 

 リーダーシップとは人々のために希望を創造する こと: Walmart International CEO

 ウォルマート・インターナショナルのジュディス・マッケンナCEOは 2020を振り返り、 「厳しい対応が求められた。まず、コンタクトレスが米国で始まり、オンライン支払いやブレンデッド・ショッピング(ネットとリアルのミックス)、宅配は2週間かかっていたものを米国では 2 時間に、、、などなど国によって状況も異なった。行動は、ウォルマートのシンプルな5原則に従った。5原則とは、①何よりもアソシエイツ(従業員)をケアする、②店舗の安全確保と顧客に親切・人間的に振る舞うこと(小さな例だが、英国では配達の運転手が  “Happy to Chat.喜んでチャットしますよ” のバッジをつけ、顧客が質問しやすいよう対応した)。③サプライヤーを含むコミュニティへのケア、④毎日起こるあれこれの事柄への注力、そして同時に、⑤長期的事項へのフォーカスだった」と話しました。社員のウェルネスやメンタルヘルスを重視し、“It’s OK=大丈夫よ” プログラムも推進。リモート会議を子供が邪魔してもOK、気にしないで、だと。“We care” (気にかけている)ことを頻繁に伝えるなど、コミュニケーションに努力した。互いへの “信頼” が重要だった、といいます。

 未来について問われると、「2つの考え方がある。仕事は減る、と、もっと増える、の見方だ。楽観主義者の自分は、後者だ。そして働く人を未来へ向けて準備させる、つまり組織が個人に成長のチャンスを与えることが重要と考えている。ウォルマートの経営幹部のほとんどは時給雇いからキャリアを積み重ねてきた人たちで、これは世界的にも当てはまる」。「ウォルマートのような企業は、小売り以外のスキル開発を助けることが出来る。そうすれば将来、求人環境が変わっても、新たに登場する職業で自分のやりたい仕事に取り組む強固な基盤が出来る」、と。

 「全ての国(のウォルマート)が、今回初めてタウンホール(集会所)のようにつながり、より大きなコミュニティを創り、インスピレーションと希望を創造すること、を強調した。私はこれまで、〝人々のために希望を創造するといった仕事をやることになるとは、思ってもみなかったが、これこそがリーダーシップの本質だと、いま、考えている」、とのマッケンナCEOの言葉に、危機の中こそリーダーシップが輝くことを痛感します

                     ウォルマート・グローバル 社のマッケンナ氏(右)と 司会のAmex社マクニール氏(左)

大胆なアクション=CBD 市場に参入: The Vitamin Shoppe のシャロン・レイトCEO

 サプリメントやビタミン剤、健康食品の販売で全国に780店を展開する ザ・ビタミンショップは1977年創立の企業。 “あなたが目指すベストのあなたになるのをヘルプします” のスローガンで、店舗やサブスクリプションを通じて、人々のウェルネスに貢献する会社です。

 レイト氏は 2020は自宅フィットネス産業が急拡大した。コロナで顧客は信頼できるブランド志向を強めた。わが社は、製品の品質、ビタミン剤のエキスパート、業界をリードする革新的企業、などのブランド・イメージをもっており、これがコロナ下でも継続的支持につながった。 2020は、主要カテゴリーである、免疫力強化関連の、ビタミンC、D、亜鉛が伸び、2021へも継続しているが、加えて人々は、肉体的、精神的、感情的健康を求めていた。ストレス、睡眠、基礎的健康、スポーツ栄養、体重管理、解毒、そしてCBDだ」と述べ、大胆にCBDの提供を決めた経緯を話しました。 (CBDとは、カンナビジオールの略称で、カンナビス(大麻)から抽出される主要成分の一つ。他の主成分の通称 THC のように「ハイ」になることはなく、不安障害やうつ病や不眠などに効果があるとされる。アメリカでは2018年に医薬品に承認)。

 ウェルネス分野で最初の企業としてCBS市場参入の決断をした同社ですが、11月に自社ブランドでローンチするに先立ち、消費者調査をしました。その結果は、56%の人がコロナのストレス下で、リラックスし体調のバランスをとる方法を探しており、50 がCBD を取りたいと答えた、と述べています。顧客の要望に応えたアクションでした。マーサ・ステュアートとのパートナーも組みました。

 もう一つ氏が強調したのは、「顧客のいるところへ出向くこと。Meet Where customers are=店に来てもらえない中、顧客に近づく)ためのあらゆる手段を講じた。消費者直販を出来るだけ簡便でイージーにすることにも注力。 2020年の最も大きな収穫は、チームの、顧客が求めるものにあらゆる方法で対応する “レジリエンス(しなやかさ)” だった。これには感銘した」。 「人々は孤独になっている。 話をし、エンゲイジする機会を欲しがっている。そこで ザ・ビタミンショップがコミュニティ、言いかえれば Safe Heaven (安全な楽園)になった」 も、コロナ禍が人々に与えた精神的・心理的な変容を物語るものと、感じました。

ビタミンショップCEOのリート氏(右)と WWインターナショナルCEOのグロスマン氏(左)

コロナでの方向転換を、デジタル投資が助けてくれた: WW International ミンディ・グロスマンCEO

 「2020 が教えてくれたこと。それは何よりも、健康がこれまで以上に重要であることだった」が 開口一番のグロスマン氏の言葉でした。よりよい、より健康的な生活を送ることが、本当に重要な時代になったと。 

 業界でミンディ、と親しく呼ばれる氏は、ラルフローレン、ナイキなどで多彩なキャリアを積み、テレビショッピング大手 HSN の CEOとして同社の上場を果たしたあと、ウェルネスの世界を拡大したいと、2017年に、Weight Watchers社のトップに就任した、小売り業界のスター的なエグゼクティブです。ウェイト・ウォッチャーズ社は1963 年ニューヨークで主婦が創業した、その名の通りの「減量」を狙いとする商品やサービスを提供するフィットネスの会社でしたが、グロスマン氏はこれを、フィットネス、マインドセット、栄養、睡眠 の4つを柱とする “ウェルネス企業”へと発展させ、2018年には社名もWW International に変更しました。

 「2020年は、人気者のオープラ・ウインフリーと全米9都市ツアーを計画、強力なモメンタムでスタートしたのだが、予期せぬコロナで、計画中止。ピボット(方向転換)を余儀なくされた。これまでデジタル・トランスフォーメーションに投資をしてきたことが役立ち、ダイナミックな方向転換が出来た。チームはパーパスとパッションに導かれた形で素晴らしく動いてくれた。個人対応のウェルネス・ワークショップを、すべてバーチャルにし、全国 12か所で実施できるよう15000人のコーチを養成する体制を、6日間で作った。テクノロジーを駆使し、ウェルネスを達成する新しいエコシステムの構築が出来た。パンデミックがビジネス変容を加速してくれた、といえる。WWの4つの柱は、コミュニティの力で構築したものだ。」

 「1116日には “My WW+” を、食品がらみでないイノベーションの一つとして、AI と機械学習を利用し、完全にカスタマイズした、パーソナルでホリスティックな体験を、全メンバーに提供することにした。さらに2021は、新垂直型メンバーシップ、“Digital 360”をローンチ。 コーチング、コンテンツ、コネクティビティ、コミュニティ、のパワーを加えてより大きなパワーアップを図っている。新パーパスとして加えた “ヘルシー習慣= healthy habits for life”、 最近立ち上げた “WWファミリー” も、ジェイムス・コーデン(英国の俳優)をスポークスマンに起用して、顧客基盤の拡大に貢献。ウェルネスの民主化を願っており、経済的に困窮する人々10万人に無料会員の提供も行っている。」 そして最後に、「これらすべてを通じて、信頼できるブランドとして、人々の期待に応える」 と締めくくりました。

  これらの女性CEO登壇の司会をつとめた アメリカン・エキスプレスのグレンダ・マクニール氏は、同社が202010月に実施した全世界消費者調査で、回答者の70 がフィトネスを、 68 が肉体的健康だけでなくメンタル面での健康を重視すると答えている事実を紹介し、「よりよい、より健康的な生活を送ることが、本当に重要な時代になった」 ことを強調しました。 

 Life(命)と Livelihood(生活)が脅かされたコロナ・パンデミックの中で発揮された、人と生活に心を寄せる女性エグゼクティブのリーダーシップに拍手を送るとともに、日本の女性活躍の実態を悲しく思いました。元首相の 「文部省が女性を40%に、とうるさく言うから、、、。女性が入った会議は長くなる、、。(組織委の女性は)みんなわきまえておられる、、」 などの発言で、ジェンダーの問題が、日本社会にいかに根深くはびこっているかを、改めて痛感しました。日本の女性も奮起しなければなりません。                                                                                                                                           End

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NRF2021リポート ③  < 2021年 小売の10トレンド >


 2021年の小売業トレンド予測を、NRF(米国小売業協会)が大会前の12月11日に公表しています。NRFリポート③ではそれをご紹介しましょう。コロナ襲来からほぼ1年。ネット販売の急成長 (2021年1月の米国ネット販売は前年対比29%アップ)、DX =デジタル・トランスフォーメーションの急進展 (NRFは10年分を9か月で達成と)、働き方の変革と起業意識の拡大、などをかみしめながら、この10トレンドを次なる飛躍の鍵として、考えてみたいと思います。

 NRFはまず、昨年同社が予測した2020年小売りトレンドをレビューし、「“小売サプライチェーンの大変革”、“再販/リコマース”、“顧客ジャーニー向上の革新的手法開発”、の予測は的中した。しかし2020の最大の学び(=変革)は、Eコマースへの急激なシフトであった。「消費者は意欲的にネットショッピングに取り組み、小売業はテクノロジーを駆使して新アプリなど顧客ニーズに対応する新手法で顧客ニーズに対応。コンタクトレスやフリクションレスの言葉が拡散、従来の壁を破る企業が勝利しつつある」、と解説しています。

小売2021予測10トレンド:継続するもの・変わるものは?

以下に、NRFによる予測トレンドと解説を紹介します。加えて尾原のコメントも<加筆>しました。(画像はフルサイズ・ファッション DTCのHENNING)

①    DTCが新カテゴリーになった ニンブル(素早く軽快)な彼らは、それぞれの「パーパス(存在目的)」をテコに、顧客のこだわりに照準を当て、完成形へと注力中。完成型といえる、Stitch Fix, Glossierを目指して、Allbirds Casper が躍進中、と。  尾原コメント<コロナ拡大で消費者の意識や働き方が変容、新たなニーズが生まれている。命と生活への価値観が変わる中、失業などの影響もあり、起業する人が急拡大している。すべての成功は難しいだろうが、失敗が次の飛躍になることも、、>

②     未来はマルチチャネルへ ブランドは異業種、異業界とのパートナーシップ拡大。Everlane Birdiesがノードストロムと連携したり、Headspace Spotifyとパートナーを組んだり。コロナのおかげでトップが目覚め、スピード、復元力、対応力向上のため5Gなどへの投資が拡大、今後も継続。  <社で進めるオムニチャネルとは別な次元で、マルチチャネル化が進んでいる。テクノロジーの多様な活用もあり、5Gの帯域幅とスピードアップが必要となる>

③   リバース・ロジスティック技術への投資突出 より持続可能なサプライチェーンへ。多くの実験が進む=ダークストア(店を商品販売でなく在庫フルフィルメントセンターに)、ゴーストキッチン、マイクロ・フルフィルセンター、SCが物流センターになる、など。返品コストを軽減する方策も。サステイナビリティは2020年やや失速気味だったが、CO2削減もふくめ、長期的には主要目標。  <サステイナビリティでは欧州に後れを取っている米国だが、パンデミックの落ち着きと共に、戦略的課題としての取り組みが、社会意識の強い企業の主導で進むと思われる>

④   ライブストリームが舞台中央へ デジタル11エコシステムの急成長分野。2021年には倍増=$1200億になる、と。デジタル・サヴィーな顧客は、商品だけでなくブランドとの繋がりを求めている。  <リアルでなくても、あたかもリアルのよう流れる動画で、双方向のコミュニケーションをしながら、気に入れば即購入ボタンも押せる。ブランドと個客のつながりが深くなれば、非常に大きな販売/エンゲイジメント手段になる>

⑤    ロボット活用 食品配達・自動配達車はもはや新規ではなくなったが、トップの座を占めるのはまだ。実験加速、コスト低減が期待される。店内ロボットはビジネス課題解決ため、データ収集とプロセス構築へ。ドローンは省エネ、サステイナブル手段として可能性大。  <ここでも多くのスタートアップが創意工夫の開発を進めている>

⑥    SCは顧客心理に合わせ進化を コロナ後に顧客を取り戻すには、エキサイトメント不足で旧態的な百貨店アンカーの重層構造モールではダメ。顧客心理に合致する小型環境が重要。SCをシニアハウスや医療施設、コミュニティカレッジなどへの転換するのも一案だが、地元の反発がないように。  <消費者の意識はローカル(地元)に向いている。地域密着で住民のハブとなるSCを> 

⑦    タッチフリー技術が主流に バーチャル試着室、デジタル鏡とSNSをつなぐインタラクティブでパーソナルな体験など。ARによるバーチャル試着は返品率の減少に貢献。資生堂のお肌チェック、日本企業の足で踏む自動販売機、アマゾンのpalm(=手のひら)支払いAmazon Oneは、認知、入力、支払いが1アクションで完了、など。  <コロナ収束後も、便利さとともに衛生観念を身につけた消費者は、コンタクトフリーを好むと思われる>

⑧    ソーシャル・コマース(SNS)の成長が他業態を超える 面談困難の中、SNSが特権感覚、買物と支払をフリクションレスで行える手段として拡大する。2020~2024間に年平均上昇率31%、売上額2兆ドルになるとの予測も。シームレスの新たな意味に。フェイスブック、インスタグラム、Twitch、TikTok、ピンタレスト、ショッピファイ、などがリーダー。  <拡大するSNSの世界的支配力には、恐怖心すら感じるが、良い面を活用しながら必要な改善や規制を進めねばならない

⑨    オンデマンド生産で顧客対応 これまでも言われてきたがあまり実行されなかったオンデマンド生産は、顧客のニーズに合わせ受注生産するので在庫のミニマル化が可能。サステイナビリティの潮流にも合致し、地元生産拡大の可能性も秘めている。優れたデータとそれを最適に活用するテクノロジーが課題。ZARAが見本だが、DTCも素早く学習中。  <日本は島精機のホールガーメント編み機などのテクノロジーや産地の製造技術を持っている。これを何とか活用する体制を、小規模メーカーが消滅しないうちに確立し、世界をリードしたい。それには発想の転換とDXが不可欠>

⑩    デジタル・トランスフォーメーションは出発点 2020は、必要に迫られて、ネット購買、カーブサイドピックアップ、フリクションレス支払い、その他の多様なアプリの開発が進み、9か月で10年分のDXを達成した。これは出発点。2021はこれを、いかにオムニチャネル・エコシステムに組み込み収益性に繋げるかだ。EC・店舗・SNS の全てで顧客とスムーズに繋がることができる企業が、消費者にとってのオムニ存在となる。鍵は5G。リモートワークで学んだとおり、安定した途切れない通信と帯域幅が不可欠だからだ。  <米国で急進したDXは戻ることのない新たなエコシステムづくりへと進化を続けている。そのスピードの速さ。またそれが、血流でいえば、大動脈レベルではなく、毛細管レベルの活性化、つまり消費者と商品/サービス提供者間の細かなインタラクションで起こるようになっている。5Gの重要性もあらためて痛感する>

 デジタル・トランスフォーメーションでは大幅な遅れを取っている日本が、一日も早く新たな発想とテクノロジーの活用で、時代の先を見据えたエコシステム構築に取り組むことを切に願っています。                      End

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