「変化の波に乗る」 2025年 NRF    (米国小売業大会)リポート

2025年の幕が開き、米国トランプ大統領が次々に打ち出す施策に驚き、あるいは翻弄され、予想される世界情勢の劇的変化と大きな不安が拡大したこの2か月、あっという間に時が過ぎました。小売業も更なる変容が続くことでしょう。

2月28日に日本専門店協会の「新春講演会」で2025年NR大会と米国小売業の現況/注目点について講演しました。そのNRF関連部分をご紹介します。

恒例のNRF Big Showは、1月12日~14日にニューヨークで開催されました。世界最大の小売業コンベンションとして115回目となる今年も、世界105国以上から約4万人(参加企業/ブランド6200社超)が集まり、最新テクノロジーの展示や170を超えるセミナー(登壇講師450人以上)で学びや体験を深めました。私は今年もリアル参加はできませんでしたが、この大会が年々発展していることを頼もしく思います。NRF大会会場 NRF提供

今年のNRF大会から学べることを、現地友人の専門家やリサーチャー、NRFなど各種の報道を通じて得た知識や情報から私の知見としてまとめました。

(画像はNRF大会風景 NRF提供)

大会のテーマは、「Riding the Wave of Change=変化の波に乗る!」

激動する世界情勢、トランプ新政権で予想される関税問題など色々な不安要素、生活に不満を抱く消費者の意識と行動、そして何よりも、猛烈なスピードで進展するAIテクノロジーが、今年を“いつもとは全く違う年”にすると思われます。変化はチャンス! その変化の波に乗れ! Game Changerになれ!がメッセージです。

 「AIはバズワードからリアル実装へ」、「反動としてヒューマン・コンタクトが重要に」

AI が中心に躍り出た大会、と言われる今年のNRFは、「AI」 の言葉の頻出で前例のない年でした。またその反動として、AI(人工知能)ではなく「人間」(ヒューマン)、つまり人の心や感覚が重要になり、あらためてリアル店舗の重要性が、各所で強調されました。例年以上に有名企業/ブランド、それもCEO登壇のセミナーが多かった今回でしたが、際立ったメッセージが少なかったのは、各社が各様に、自社の存続・発展を狙ったロイヤル顧客づくり、強固なブランド構築に、それぞれの戦略を地道に展開しているからだと考えます。またトランプ新政権が、DE&I(多様性・公平性・包摂性)や女性活躍などの社会問題に否定的であることに配慮し、時代を画する象徴的なトピックを打ち出さなくなっていることも無視できません。

 「NRF 2025小売りトレンド」はなんと25項目

NRFは、「“予測”はますます困難になった」と、今年は例年の7~8項目に絞り込むことをやめ、多様な専門家の考えをまとめた形で、25トレンドを挙げています。ビジネスの多様化で、課題も解決策も様々な中、苦肉の策の感じです。

そのなかで私が注目したものは下記です。

◆ライブショッピングは2025年に火がつく、◆実店舗は生まれ変わる、◆デジタル・ネイティブ世代はブランドとマーケターに挑戦し続ける、◆広告への不信感拡大、◆マーケティング業務は今後数ヶ月で厳しくなる、◆ソーシャルコマース繁栄の年、◆キャッシュレス決済は変曲点、◆循環型社会が小売業の未来、◆サイバーセキュリティ(透明性、安全性、プライバシー第一)戦略は消費者の信頼維持の鍵。

 NRF 2025から学ぶべきものとして、私が重視したい6点

1.AI の躍進: バズワードから実装へ

2.AI 拡大の反動として、ヒューマン(人間)が重要に

3.コミュニティ作りの重要性

4.パーソナル化でロイヤル顧客づくりとブランド構築

5.サステイナビリティは サーキュラー(循環型)志向に

6.リアル店舗で顧客とつながるスロー・リテールを

今回は、これらのトレンドを代表する2つの基調講演、「リアル世界のAI」 と 「レント・ザ・ランウェイ」について書くことにします。

 1.冒頭の基調講演: 「小売りのゲーム・チェンジャー」 ――エヌビディア社とウォルマート社

2024年に、生成AI/チャットGPTが自然言語による文章や画像作成で急拡大したAIは、2025年 さらに大きく発展を続け、各種テクノロジーの統合的活用による成果が拡大します。

テーマ、「リアル世界のAI: あなたをより賢く、より生産的にしたいと待機しています」 のもとに、トップバッターとして登壇したのは、ウォルマートUS社のジョン・ファーナーCEO(現NRF会長)と、エヌビディア社 小売り部門担当バイス・プレジデント、アジタ・マーティン氏でした。エヌビディア社は言うまでもなく、米国の大手半導体メーカーで人工知能コンピューティングの世界をリードしている会社です。

基調講演:ウォルマート社ファーナーCEOとエヌビディア社マーティンVP (画像はNRF)

マーティン氏は、最近発表したエヌビディア社の新技術、“MEGA” や “AIエージェント”、“フィジカル(物理)AI ”等について熱っぽく語りました。 「AIは本物です。どこから手をつけるべきか迷うかもしれませんが、ともかく始めましょう。それにはトップのバックアップが不可欠。トップはAIを信じる必要があります。」と自信を見せました。

“MEGA”とは、デジタルツイン(現実世界から収集したデータを基に、仮想空間上に現実世界を再現する技術)を構築できる新しいBlue Printの一つで、倉庫や産業用工場でのロボット群団の大規模なテストを、実世界の施設への導入前に、可能にするものです。“AIエージェント”とは、人工知能(AI )を活用して人間の介入無しに自律的にタスクを実行するプログラムやシステムのこと。“物理AI ”とは、現実世界の物理的な法則や環境(重量や奥行き)を理解し、それに基づいて自律的に判断・行動できるAIシステムを言います。コンピュータ・ビジョンと物理AIモデルの統合が小売りの現場で果たす役割にも期待が集まります。

 ロウズ社(大手ホームセンター・チェーン)の活用事例

ロウズ社は、1,700店舗のデジタルツインを作成し、1日に数回、運用データと在庫データを更新しているとマーティン氏は言います。「その結果、さまざまなレイアウトをシミュレートし、顧客の店舗での買い物方法を、レイアウトの変更や最終的売上と収益の向上を目指して実際に最適化します」。同社は現在、マーチャンダイジング最適化のため、プラノグラム(棚割図)を使用した3Dデジタルツインを試みているとのこと。

ロウズ社では、店舗のコンピュータ・ビジョンとAI の連携により、品べりを削減したり、支援が必要な顧客に店舗スタッフをリアルタイムで配置することもできます。「コンピュータ・ビジョンが助けを要する顧客を見つけ出し、従業員に(個人の)Zebraデバイスで警告する」。このデバイスには、顧客の質問に答えるために使用できる生成AI (GenAI) チャットボットも組み込まれているとのこと。「私たちはアソシエイトに超能力を与えています。誰もが専門家になるのです」。

 Walmartが進めるAI活用  

ウォルマートのファーナー氏は、NVIDIA のデータサイエンス・アクセラレーション・ライブラリとも連携して、予測に注力していると述べました。AI導入により予測精度が向上し在庫管理を最適化。「1%の予測精度アップが巨大な利益もたらす」と。在庫管理・在庫配分では、過去の販売データや天候、イベント、トレンドなどの外部要因を分析し、適切な在庫レベルを算出。在庫過多や欠品を防ぎ、コスト削減と売上最大化の両方を実現。在庫切れが30%削減できたと報告しています。

AI支援のパーソナル化による顧客体験の向上でも成果が上がっており、顧客データ分析がAIで進化したことにより、購買履歴や行動データに基づき最適商品をレコメンド、コンバージョン率向上につながっているとのこと。

ファーナー氏は、サプライチェーンにおける人工知能の有効性を強調しましたが、マーティン氏もこれに共鳴、「サプライチェーンは、AI活用で最も成果が得られる分野」 と二人が興奮していた、とあるメディアは伝えています。店舗や配送センターの物理的に正確なデジタルツインを作成する機能により、多様なレイアウトのシミュレーションが可能なり、設備投資の前に人や物がどのように相互作用するかを観察することができるからです。

 AIが、顧客体験、従業員のパワーアップ、効率向上を向上させることを立証

昨年のホリディ・シーズンが、AIの有効性を立証した、とアドビ・アナレティックスは分析しています。アドビによれば、生成AIチャットボットから小売サイトへのトラフィックが、2024年ホリディは前年と比較して1,300% 増加、サイバーマンデーでは1,950% 増加したといいます。同社の調査では、生成AIをショッピングに使用したことがある回答者の70% が、生成AIによって買い物体験が向上すると考えています。

NRF 2025 の注目テクノロジーは AI 中心でしたが、ローテクエンドにあるRFIDも重要だという認識が高まっています。「現在RFIDを活用する小売業者は15% だが、これは急速に変化し、5年以内にRFIDを使わない企業のほうが15% になる」 との予測があります。(SMLのRFIDソリューション担当プレジデントDean Frew氏)。 RFIDが、単なる在庫の可視化にとどまらず、返品処理、クリック&コレクトの推進、品べり削減などで、小売業者を支援するようになっています。

2.基調講演 「ファッションの未来:Rent the Runwayのイノベーションとインパクト」

ファッションのレンタルビジネス 「レント・ザ・ランウェイ」を創業したジェニファー・ハイマンCEOが登壇したこのセッションは、今年のNRF大会のハイライトの一つといえると思います。(右下画像はハイマンCEO NRF提供)レント・ザ・ランウェイ創業者ハイマンCEO

「レント・ザ・ランウェイ」は、リーマンショックの翌年2009年に登場した多くのディスラプター(市場原理を覆す破壊的イノベーター)の中でも、脚光を浴びた新興企業でした。しかし、“レンタル”の新しい概念の浸透や最適なビジネスモデルの模索、またコロナ禍でのイベント激減や衛生面の懸念などで苦戦し、20年8月にはニューヨーク旗艦店を含めた全店を閉店した経緯があります。待望のIPO(ナスダック上場)を実現(2021年)した後、しばらくして業績は回復しはじめ、昨年の最終赤字は「前年の3200万ドルから1900万ドルに減った」 とのこと。そんな状況にありながらもハイマン氏が注目されるのは、ハーバード・ビジネススクール在学中の女性の起業、ユニークなコンセプトで巨額資金を獲得、ITシステムの効果的活用、米国最大のクリーニング工場設置、SNS活用のマーケティングなど、ダイナミックなアントレプレナー経営者としての行動が注目されるからでしょう。

「レント・ザ・ランウェイ」は、実は筆者が2016年に上梓した 『Fashion Business想像する未来』(繊研新聞社)、“ファッション・ビジネスに破壊的革新を起こさねば未来はない” を訴えた著書でも注目し、冒頭の第1章を「革新的モデル レント・ザ・ランウェイ」 にあてています。 

ユニークなビジネスモデル=ファッション・ビジネスをディスラプトする

「Rent the Runway」 起業のきっかけは、ハイマン氏の妹が、「友人の結婚式に着る服がない」とタンスは服で満杯なのに2000ドルのドレスを購入してクレジットカード支払いに苦労していたことでした。“図書館のように必要に応じて借り出して使用する 公共財”のようにすれば、個人の支出だけでなく環境保護にも大いに貢献する、がコンセプトになりました。そこで相棒(共同創業者)と リサ―チを重ね、ラグジュアリー・ファッション(オケージョン用ドレスやアクセサリー類)のレンタルをサブスクリプション方式(定額課金)でスタートさせました。

当初のモデルは、「4日間(移動日を含む)」を1単位とするレンタル・パターンでしたが、現在では、レンタル、キープ、購入、再販、など多様な展開となり、会費も「クローゼット限定アクセス」では月々$94で5点(月1回出荷、1度に5点)、「フルアクセス」では、月 $119(初回月 $95)で5点(月1回出荷、1度に5点)、あるいは月 $144(初回月 $99)で10点(月2回出荷、1度に5点) 等となっています。送料・クリーニングともに無料、個人スタイリストもつきます。

レント・ザ・ランウェイの商品:カジュアルからオフィスからオケージョンまで(画像は筆者あての同社メルマガより)

コミュニティの重視も同社のユニークなアプローチです。レンタルした服でパーティなどを楽しむ自分の写真をSNSでアップする、は当初から人気があり、「同じ服でもこんなに違うイメージに」と私も驚きましたが、これは現在でも続いており、「着たことのないブランド」を試した客の90%がSNSに参加していると聞きます。

レント・ザ・ランウェイのコミュニティ。同社ホームページより

 ファッションは変化し、ラグジュアリーに対する消費者の見方も変わった

ファッション、ラグジュアリー、の意味合いは、特にリーマンショック以降 大きく変化しており、これをしっかりとらえた同社の戦略やマーケティングから多くを学ぶことが出来ます。

◆消費者は多様性とユニークなスタイルを求めている。◆ファストファッションの品質が上がり、ラグジュアリー商品の品質は逆に下がっている。にもかかわらずラグジュアリーが高騰している。◆顧客はブランドよりコスト効率を重視、◆ラグジュアリーライフは質的に変化し、アパレルなどから旅行/バケーション、ビューティ、ウェルビーイング重視へ移行。◆スノッブだった富裕顧客は賢くなり、ラグジュアリー・グッズ一辺倒の生活を卒業した、など。この中でブランドとして生き残るためには 「ターゲット顧客を明確にし、一貫したブランド・イメージを打ち出すこと」、「自分の意志を強く持った顧客、あるいは美意識を強くもつ顧客をつかむことが不可欠」、「それにはSNS(主要チャネルはTikTok)やインフルエンサーも重要」とハイマン氏。

「私たちは1兆ドルのファッション産業を破壊し、無限のデザイナースタイル満載の夢のクローゼット(クラウド(雲)・クローゼット)からレンタル、着用、返却 (またはキープ)することで、女性の服装を永遠に変えました。」と言い切る氏は、ミッション・ステイトメントで 「私たちの使命は、女性をパワーアップし、毎日を最高の気分で過ごせるようにすること」と述べています。

さらに「服以上のものを共有するコミュニティ」を重視し、「服からインスピレーション、アイデアまで、あらゆるものを交換するコミュニティです。自分が最高の気分になれるものを身に着けることができれば、最高の自分になれるのです」。

未来について、「私たちは循環型経済の出発点となるためにビジョンを広げており、その道は まだ始まったばかりで。ぜひ参加してください。」というハイマンCEOの心意気は、社会変革を実践する “ゲーム・チェンジャー”のものと、大いに感銘を受けました。

                                                                                                     END

  謹 賀 新 春  2025年元旦

新しい年、力強い初日の出に 新年への思いを新たにされた方も多いことと思います。

今年はどんな年になるのか? 米国の新大統領の就任、世界各地で激化する戦争、地球環境問題の展開、そして何よりも、「人とA Iの共存」がどんな方向に向かうのか? まさに 「不確実」 「不透明」 という言葉がぴったりの年のスタートです。

ことしの干支は乙巳(きのと・み)。一体どんな年なのか。私が尊敬する東洋思想研究家 田口佳史氏の見通しは、次のようなものです。

前年(2024年)は「甲辰(きのえ・たつ)」。この「甲」は、革新の実現の為に決断し、歩み出したところを表わした文字です。「辰」は歩み出した当初の悪戦苦闘を表わしています。 以上が昨年です。(なるほど、思い当たることが色々あります。)

では2025年の 乙巳(きのと・み) はどうか?

「乙  きのと」では 前年の歩みが、いよいよ地表に出ます。地表の厳しさ、激しい風雨、寒暖など 予想以上でしょう。したがって真っ直ぐに伸びることができずクニャクニャと 折れ曲っているところを表わしています。しかしこの厳しさが大切です。 地表が揺れればゆれるほど、しっかりと締まってくるのが地下の根っ子です。 しっかり立つ為には必須のことです。

「巳   み」は 冬に地下で過した蛇が外に出てきたことを表わします。相変わらず革新に対する抵抗は強いが、堂々と正論を貫けば思い通り進むことができます。

「乙巳」 革新の薄い年月は心地良いが弊害も溜まる。そこで革新が要求されるが旧勢力の抵抗は強い。めげずに堂々と正論を貫けば宜しい。したがって正論の 用意と覚悟次第の年である、と。

 今年の干支については 「草木の生命力と、神様の使いで不老不死のシンボルともされる蛇とが合わさって、再生や変化を繰り返しながら柔軟に発展してゆく縁起のいい年」とする人もあります。脱皮を繰り返しながら成長する蛇は、「成長」「再生」「変革」の 象徴です。また、ヘビには鋭い直感力や深い洞察力があるとも言われ、特に思慮深く、慎重に物事を進める年とされています。

 

難しい課題は山積の2025年ですが、「変革」による「成長」を信じて、物事の本質を見極めながら、しなやかに脱皮を繰り返してゆく年になることを願っています。

そして私自身の今年のモットーは、仕事は楽しく、生き方はスローライフに、に決めました。          End

“人と違う”は ほめ言葉ーーDifferentをポジティブにとらえて“自信”にする

女性リーダー育成塾 「アマテラスアカデミア」の6期生に特別講義をさせて頂きました。テーマは、

「あなたのキャリア人生―My Storyはどんな物語?」

“自信とパーパスをもって、プロフェッショナルとしての人生を”

(アマテラスアカデミア 6期生の記念写真)

 講演の内容は「プロフェッショナリズム」と「リーダーシップ」をどう育み実践して行くか、でしたが、私が最も伝えたかったことは、「人生は、人、それぞれ違う」、それをどう生きるか? つまり 「どんなMy Storyを創ってゆくのか?」 でした。 自分のキャリア人生を、自信と勇気をもって自ら創り上げて欲しい。そのために必要なことは、「人と違う自分」 を大事にし、それに磨きをかけること。周りを気にして羨んだり、不安になったり、あるいは周りに翻弄されたりしないで、「違い」を自分の独自性だと考え、自信と勇気をもって自分の道を切り拓こう、というメッセージです。

 私が 「Different(=人と違う)は誉め言葉だ!」を実感したのは、16歳の時。AFS高校交換留学で訪れた米国ミネソタ州のマンケイト高校でした。新しい服などを着てゆく度に、Yoko, that’s so different! と言われる。当時の日本では、「人と違う意見や行動は絶対ダメ」でした。(現在でも、「目立つことは避けたい」と考え、周りの状況や空気を読んで自分を抑えてしまう日本人が多いのは、残念です。)
毎日のように 「あなたはDifferent=人と違う」と言われて落ち込んでいた私に、「それは誉め言葉よ!」と教えてくれたのは、ホスト・ファミリーの同年の妹でした。そういわれて気をつけてみると、確かに「ディファレント」と言ってくれる人の言葉には、好奇心や称賛のニュアンスがありました。さらに授業でも、例えば“歴史上の人物を1人選んでリポートを書け”といった宿題が出ると、みな「あなたは誰にする?」などと情報集めをするのですが、選んだのが同一人物だったりすると、「あー、私と同じだ! どうしよう。、、あなたは別の人物に変える可能性は絶対ないの? それなら私が変えよう」と、人と違う人物に変えるのです。要するに、人の後追いはしないで、独自の分析を展開できる方策を取る。まさに目から鱗、でした。(同じ人物を選んだら、リポートの優劣比較も明確になってしまう、という知恵も働いているかもしれません。)

 この「Different」が、キャリアづくりの骨格として重要であることを、受講生の松下真梨子さんが自分の言葉でリポートしてくれたことに、感激しました。“Differentを、ポジティブ(肯定的)にとらえるか、ネガティブ(否定的)に捉えるかで、行動が変わるのでは、、” という指摘です。その感受性の鋭さと、自分事として深堀する姿勢が嬉しく、講師冥利に尽きる思いがしました。そのリポートをご紹介します。  → 第6期9月 第5回尾原蓉子先生による特別講義 (アマテラスアカデミアのホームページより)

 松下さん曰く、
<尾原さんは今回の講義の中で 「【違い】とは誉め言葉である」と何度も話してくださいました。なぜこの言葉がキーワードなのか今回の講義を私なりに解釈したところ、【違い】という言葉をポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるかで、行動が変わるのでは?と気づきました。
人と違う決断には勇気が必要であったり、人との違いを見て羨ましがるであったり、みんなと一緒でないと不安、というのは【違い】をネガティブに捉えているからそう感じるのではと思います。
【違い】は誉め言葉、つまりポジティブに捉えると ものの感じ方や自分のやりたいことに対して前向きに行動できるのではないでしょうか。

 松下さんはまた、<感想>として、私が推奨した 「無理はしない。仕事は On your terms=あなたの条件に合わせて、人生の一部に取り込んでゆく」、という生き方に驚いた(意外だった)、と書いておられます。On your termsというのは、“あなたの条件”、つまり“その時の環境や個人的状況、その時点では対応せざるを得ない特殊要件”のことです。女性が男性同様に活躍しようとするとき立ちはだかる諸々の壁。しかし私は米国で 「自分の条件で仕事をする」 事例を多く見聞きしました。例えば幼児をかかえた女医さんが、ベビーシッターが確保できる午前10時~午後4時だけ診療所を開ける、といったことです。

 女性が、環境的に仕事の継続が難しくなる時期があっても、「無理はしない、しかし自分に合う条件でやれること、やりたいことをやる」。仕事も家庭も自分の人生の一部と考えて、しなやかにキャリアを続けたい。そのためにも、「人と違う」 ことについての、自信と決断する勇気が不可欠なのです。これは拙著『Break Down the Wall- 環境、組織、年齢の壁を破る』でも何度も書いていることです。

 アマテラスアカデミアとは、美容研究家でメイクアップ・アーティストでもある小林照子さんが、自費で立ち上げたキャリア女性向けの講座です。業界を問わず30代を中心とする15人を毎年選考して、一定のカリキュラムで講座を開催。昨年に引き続き特別講師を務めた私でしたが、成長意欲あふれる受講生との対話から学ぶことが大きいと、改めて感激と感謝を深めています。                           END