<NRF(米国小売業)大会2014 報告③―テクノロジーと小売の交差に巨大な可能性>

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  「テクノロジーが小売業を全く変える。いまはその入口にある」、というのが今回のテーマです。先回は、リアル店舗と、その楽しい集積が重要だと書きましたが、2014年のNRF大会では、テクノロジーにも力が入っていました。ちなみに8つの「キーノート(基調)セッション」のうち3つがテクノロジーに関するもの。「実店舗」の重要性が強調されると同時に、新しいテクノロジーを使いこなすことが、競争優位のために不可欠だとのメッセージです。   (カットは NRF 2014 大会のプログラム案内書)


  IBM の女性CEO、ジジ・ロメッティ氏の講演と、それに続くメイシー百貨店のCEO、テリー・ラングレン氏との対談は、巨大な新テクノロジーのうねりが、現実のものになってきたことを聴衆に分かりやすく伝えた、素晴らしいセッションでした。
  巨大な3つのテクノロジーとは、① ビッグデータ、② クラウド・コンピューティング、③ 認知(Cognitive)コンピューティング・システム(みずから“学習する”システム)、だとロメッティ氏は説明します。

  ① ビッグデータ――21世紀の天然資源(誰でもが活用出来る資源 )は「インフォーメーション」。「情報」が全ての競争のベースとなる。 世界人口の4分の1がソーシャル・ネットワークで繋がり、毎日 2.5 億ギガバイトの情報がつくられている。現存するデータの 80% は、過去2年間に作られたもの。データには、「構造化データ(Structured Data)」(コンピュータのデータベースに格納することができるタイプのデータ)と、「非構造化データ(Unstructured Data)」がある。非構造化データとは、例えば電子メールや画像、動画、ツイートやブログといったデータで、現状は企業が抱えるデータの約 80%を占める。 これを活用する事で、たとえば顧客とのエンゲイジの仕方から、スタッフの雇い方、あるいはサプライチェーンをどう管理するか、までが変わるだろう。ロメッティ氏は例として、「店でクーポンを提示されれば、買いたくなるに違いない。たとえばコールズの様な小売業は、あなたが靴売り場でショッピング中に、以前に見ていた靴のクーポンを送る」等を行っている。「私たちは今や、店舗が優れた情報源である時代にはいった。オンラインのインテリジェンス(知識・情報)と、店舗内での触感的なフィーリングを合体させた賢さを、実践する事が出来るようになった」といいます。

  ② クラウド・コンピューティング―― これは、自社のシステム外にある様々なサービスをネットワーク経由で利用するもの。(必要なときに必要な分だけ対価を支払って利用出来る。導入が容易、運用も楽)。クラウドにより、ビジネスのアジリティ(スピードと柔軟性)を高められることから、新たなビジネスモデルの選択が可能かつ容易になる。

  ③ 認知(Cognitive)コンピューティング・システム―― この「みずから“学習する”システム」は、小売業界を劇的に変革する。コンピュータは当初は「計算」、そして「プログラミング」に進化し、いま「学習する」ものになってきた。プログラムされているのでもなく、サーチエンジンでもない。 人とインタラクト(双方向のコミュニケーション)をしながら学習するのだ。そして、どんどん賢くなる。現在IBM が FLUID 社と開発中の North Face の“Expert Persona Shopper”の事例では、たとえばあなたが14日のバックパック旅行に出かけるとしよう。するとコンピュータはあなたにたずねる。「どんなお手伝いが必要ですか?」 そして、あなたの旅行に必要なモノのリストをくれる。さらに普通の言葉で、あるいはキーボードへの入力で質問を重ねて行くと、それに対応する答えが画像も伴って返ってくる、といった具合だ。

  これらのテクノロジーの進展は、非常にエキサイティングです。しかし、「セキュリティ」と「自由」、「プライバシー」と「利便性」のバランスはしっかり取らなければなりません。そのために不可欠なものとして、3つの原則をロメッティ氏は上げました。
① 透明性=誠実であること。企業としてどんな情報を集めているのかを明快にすること。
② コントロール=個人が自分のデータを管理出来ること。 
③ 信頼=いわゆるコンプライアンス以上のもの。企業と顧客の間の深い信頼関係を育むこと。信頼は、行動から生まれる。
最近の、個人情報流出などの事件で、人々は特に安全性に神経をとがらせています。

  メイシー百貨店のラングレンCEOのリードと、会場から質問を受けながら、対話が弾みました。
  Q:「まず、はじめにやるべき事は?」→ 「One to One マーケティングだ。一方的に語りかけるだけでなく、双方向で。名前で呼びあうような近しい関係を。メイシー百貨店がやっている顧客とパーソナルな関係を築く努力は、高く評価出来る」
  Q:「ビッグデータは大企業のものか?」→ 「No.『天然資源』と表現した通り、誰もが活用出来るものだ。これをリファインする(洗練させる)人すべてに適応する。小規模の方がやりやすい。」
  Q:「過去のパラダイムで行動している上層部にこれらの変化を理解させるにはどうしたらよいか?」 「Just go and do it! ともかくやってみること。プロトタイプを作ってやると、結果が出る。見れば誰でも分かる。」

 質疑はさらに続きましたが、私がこのセッションで受けた最大のメッセージは、「ミレニアル世代」と呼ばれる、インターネットとモバイル/ソーシャルの世界で育った世代、これまでとは全く違う価値観や考え方で行動し、これからの時代をリードする若者たちを捉えるにも、これらの3つのテクノロジーのフル活用が不可欠だという事でした。