< NRF 2019報告③ アマゾン支配と戦う店舗小売業:ハイパワー店舗とECの一体化>

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 米国では、アマゾン急成長とEコマースの拡大が、店舗閉鎖を加速し、業界再編成が進みつつあります。その中で元気づけられるのは、リアル店舗が、顧客にフォーカスしたデジタル支援で、新たなパワーをもちはじめたことです。

 NRF報告第3弾は、 “アマゾン支配に立ち向かう店舗小売業:店舗のパワーアップとECの一体化” について書きます。

 ネット販売の拡大と、アマゾンが次々に打ち出す宅配の革新やPBの強化、プライム会員顧客の囲い込み、エコーなどの音声アシスタントが、店舗小売業を大きく圧迫する中、2018年も多くの店舗が閉店しました。その数は6000店とも 8000店ともいわれており、シアーズやトイザらスの倒産も象徴的です。今年1月早々には、一時期、ニューヨーク五番街でファッションのシンボルであった老舗ロード&テイラーが104年にわたる歴史を閉じ、華やかだったヘンリ・ベンデルも、123年の歴史にピリオドを打ちました。今月(3月)に入っては、Gapが2年間で230店舗を閉鎖する、と発表しています。

  しかし2年ほど前から盛んに言われた、『小売りのアポカリプス黙示録)』 (小売りの最後の日が来る、の意) については、今年のNRFでは否定的な発言が多く出されました。店舗の閉鎖も、今年で底を打つだろうというコメントもありました。その理由は、危機感を持った革新的小売の施策が、実効を出し始めたことにあります。アマゾンに破れるのではないか、と懸念されていたウォルマートやターゲットが取り組んでいる抜本的改革が、明るい光を差し込んだ、と感じるからでしょう。最終的な勝ち負けの決着は予測できませんが、店舗を持つ企業が、「店舗こそが最大の競争優位」の姿勢を鮮明にして動き出し、その成果が見えはじめているからです。

 NRF2019で特に注目されたターゲット CEO ブライアン・コーネル氏(画像)の基調講演から、同社の2017年以降の戦略と実践を紹介しましょう。

基調講演のテーマは 『もっと店舗に:ターゲットはゲストと未来に投資する』 でした。

 

 ターゲットは2018年のホリディ商戦で、既存店売り上げを5.7%伸ばし、2018年を10年来の好業績で終えました。その理由としてコーネルCEOは、ECと店舗の一体化を推進した成果。特に 「店舗が唯一で最高の競争優位」 であることに気づいて、2017年に大きな戦略転換に踏み切り、店舗へ70億ドル、人に10億ドルの投資をしたと話します。人への投資は、昇給、教育を合わせた金額です。顧客体験を向上するには、人がすべてだからだと。

ターゲット社 2018年のリモデル(ホームページより)

 店舗への投資はデザインからテクノロジーまで多岐にわたります。2018年から売場を顧客に魅力的にかつ買いやすくリモデルした(画像はホームページより)ことももちろんですが、同社が昨ホリディ商戦で、デジタル(EC)売上の4分の3を店舗からフルフィルメントした、との驚くべき成果を生んだのは、BOPIS(オンライン購入・店舗ピックアップ)と店舗からの配送によるものです。店舗スタッフが、在庫検索・支払・デリバリー手配などの機能を搭載した端末を持ち、顧客はレジに並ぶことなく店舗のどこからでもチェックアウトできる仕組みを作っていたからだといいます。ホリディの多忙な時期には特に有効であるこの仕組みが、在庫/配送コスト削減、ついで買い、そして顧客満足に貢献したのです。

 店舗とEコマースを一体化するための組織とマネジメントの変革が、非常に重要であったことは言うまでもありません。コーネル氏は講演で、Stores と Target.com の2つに分かれていた組織を、仕入れ、在庫、ディストリビューションのすべてを完全に合体させたと説明しました。(図 左から右下へ)

 同時にPBにも注力。過去2年で顧客の参画を得て開発したPBは20。C9 by Champion, Mossimo, joana and chip gaines collectionなど、差別性あるブランドが、新規顧客獲得にも大いに貢献しているとのこと。

  新規店舗デザインでの、小型店舗の設計、入口を2か所に設置し「御用とお急ぎ」(BOPISやグロッサリー購買、サービスカウンター) と 「ゆったりショッピング」 に分けるなども顧客セントリックの考えからでした。

 ウェブサイトも顧客に親切で、気に入った服があれば、「今すぐピックアップできる店」 をチェックし、買いに走ったり、自分がピックアップしたい店の指定も出来るようになっています。 オムニチャネル展開の難題であるラストマイル(宅配で商品を顧客に届ける最後の部分の時間とコスト)についても、ピックアップ・ロッカーの設置やカーブサイド・ピックアップ(車よせで乗車のまま商品受取り)を可能にしています。 

 氏のメッセージは、「小売りに不可欠な4点は、①常に顧客から考える、②投資、③再投資、④自らのディスラプト、だ。最終的に重要なのは顧客とのエモーションナルなつながり。これに勝るものは未だ登場していない」。「店舗とECは一体」。

 特に印象に残った言葉、「他人のゲームを戦っていては決して勝ち目はない」は、非常な説得力がありました。日本的に言えば、「自分の土俵で戦え」です。

 そもそもは、デイトン・ハドソン百貨店のディスカウント部門としてスタートしたターゲットが、今日の激変する環境の中で、さらなる新たな変革に挑む姿にいたく感銘を受けました。                                                                                                            End