NRFでのテクノロジーの存在感は、ここ10年、年々増大しています。新規技術の紹介はもちろんですが、テクノロジー活用の考え方や手法に関する展示や基調講演、大型セッションやケーススタディが増えました。今年も “鐘と太鼓”的に騒がれた新規大型技術こそ無かったものの、膨大なソフト/ハードの実践的な技術やソリューションが続々と登場しました。今年の最大の特徴は、AI、IoT、AR/VR、ロボット、などのテクノロジーが、それぞれ単独の技術としてではなく、目的に合わせて統合的・融合的に連動し、ビジネスを支援するようになって来たことです。
その傾向は、Innovation Lab ( iLab ) の展示の仕方にもよく表れていました。イノベーション・ラボとは、毎回 新しい起業家による革新技術やデモを紹介するコーナーですが、今年は、昨年と異なり、消費者の目線で、大きく 「顧客の体験」 と 「顧客の便宜」 に分けて展示されていました。画像の、iLab入口の案内図 2 枚を比較して見て頂くと分かるように、昨年はテクノロジーを、「買い物プロセス」 で区分けしており、顧客が進んでゆく、 「認知」 「検討」 「購入」 「エンゲイジ」 「購入後」などの段階に分けて、個々のソリューションを紹介していたのです。(画像 上)
<2018のiLab 案内図:「認知」 「検討」 「購入」 「エンゲイジ」 「購入後」に分けて陳列>
<2019のiLab 案内図:「顧客体験」 と 「顧客の利便性」 に集約して陳列>
今年の考え方は、新規テクノロジー/ソリューションの役割が、一つの機能に特定しにくくなっていること。そのため、「顧客体験」 と 「顧客の利便性」 という、顧客価値の創造の観点からグループ化したものと考えられます。(画像 下)
展示場の他の事例でも、たとえば画像認識やサイネージの技術がMDと連動して、売り場を動く遠くの顧客の年齢や性別や着ている服の色をとらえて、適切な情報をモニターに映したり、その顧客が近づいて特定の商品に視線を集中させれば、それに対応して購買につながる具体的情報を提示する、といったことが可能になってきたのです。
インテリジェント・オートメーション(IA =AIによる自動化、AI により動く新たなテクノロジーの組合わせ)の進展も 特筆すべきことです。 店舗とネットの融合の中で、 マーチャンダイジングも、AIが導くアルゴリズムで動くようになりつつあります。
IBMの調査によれば、現在、小売りおよび消費財を扱う企業の40%が IA を活用しており、2021には80%になる。オペレーションのスピード/柔軟性と顧客体験の向上で競争力を高めるためです。IBMの講師は、「 IA により、膨大なデータの中から特定商品あるいは各顧客への提案を創造し、体験をパーソナル化できる。あるいは、データを使って適切な商品を適切なサイズで適切な店舗に送る。データ分析で新たなトレンドの浮上をとらえる、等も、人間が行うのは困難なことだからだ。」 と強調します。
ロボット活用も拡大し、セルフ決済やレジレス店舗システム、AI 無人キオスクの提案も目立ちました。ボイスコマース、ヴィジュアルサーチ、パーソナルマーケティングなど、AI は小売業に不可欠の標準機能になってきた、ということでしょう。
スタートアップの起業家がどんなことを考え、展示しているかを、 イノベーション・ラボ(iLab展示)から 2件 紹介しましょう。
一つは、 Caper社(iLab展示)のスマート・カート(画像)。セルフレジ機能付きのショッピング・カートです。
商品アイテムは、カートに入れる際にモニター裏のコンピュータ・カメラで認識します。重量センサー(量り売りのアイテムでも瞬時に金額計算)、位置情報センサー(店内の位置)なども搭載し買い物リストの売り場を順序よく誘導します。カート内の商品で作れるレシピ紹介もでき、そのために追加購入が必要な商品や売り場の案内も可能。買い物終了後は、モニター右手のカードリーダー(画像下)で精算、レジを通らず会計終了になります。
(Kaper モニターの裏側にあるコンピュータ・カメラが商品を認識)
Amazon Go に刺激されて、多くのテクノロジー企業や小売業が、レジなし店舗に取り組んでいますが、このカートなら、アマゾン・ゴーのように膨大な経費をかけて天井にカメラを張りめぐらせることもしないで済みます。レジ無し店舗にはこのほか、アプリ搭載のスマホによる読み込みなど、色々な手法が提示されていました。(画像上はKaper 社提供、下は尾原撮影)
事例の二つめは、VR、ARを駆使したスマート・マネキンのAllure Systems(アルア・システムズ)。高度なコンピュータ・ビジョンとバーチャル化技術で、Eコマース小売業向けにネット販売用のファッション商品カタログを、低コスト、省力、省時間で作成するソリューションです。創業は、2015年。米国サンフランシスコ、フランスと中国にも拠点を持ち従業員50人が働いています。
(アルア社のバーチャル手法での商品カタログ作成、筆者撮影)