恒例の米国小売業大会(NRF・BIG SHOW)の 第111回。 今年は 開催を2回に分け、Chapter I は1月12日にバーチャルで開幕、6日分のセッションをとびとび日程で開催して、22日に閉会しました。 バーチャル開催は、セミナーだけでなく、最新技術やサービスを紹介するエキスポ、AIを駆使したビジネス・マッチングもオンラインで提供するという、これまでに例のない形式です。
毎年開催されてきたコンベンション会場のジャービッツ・センターは、昨年3月のロックダウン以来コロナ対応の緊急病院(病床1000床)になっていました。6月のChapter II は巨大展示スペースを含め同センターでのリアル開催が予定されていたのですが、今度はコロナ・ワクチンの接種会場になるとの理由で、これまたバーチャル開催に急遽変更、と先週になって発表されました。Covid-19、すなわち新型コロナウィルスの爆発的拡大が、こんなところでも大きなダメージをもたらしていることを、あらためて痛感します。
NRF2021 第111回テーマ ”共に前進” 基調講演では Looking Forward Together
テーマ:〝Move Forward Together 共に前へ動こう″
昨年は、〝ビジョン2020”と新たな時代への飛躍を高らかにうたったNRF大会でしたが、前代未聞のコロナ・パンデミックに揺さぶられ、まずは生存をかけた厳しい闘いを進めつつ、いま、トンネルの先に見えはじめた光を目指して、〝共に” そして〝前に“ 進もう、とするテーマです。大会は、米国小売り企業のダイナミックなエネルギーに満ち溢れたもので、改めて米国の起業家スピリットに感銘を深くしています。
開催されたセミナーは約135セッション、講師は大手経営トップからテクノロジー専門家まで約340人、うち40%が女性幹部であったことも、注目すべき前進です。ほとんどのセッションで、まず講演者あるいはその企業が直面した困難にどう対応したのか、企業/個人としての存続・生存、特に社員と顧客の安全と健康確保にどう取り組んだのか。 さらに前例もお手本もないパンデミック危機下での創意工夫、その中から次なるステージへの道筋が見えてきた、といった体験事例や、新たな学びの紹介がありました。その中に、未来へ向けて、今何を考えているのか、も、多く紹介されました。
講演は大きく3つに分類され、「基調講演」、「フィーチャード・セッション」、「平等(Equality)ラウンジ」となっています。以下、私が注目したものを取り上げ、ご紹介しましょう。
① 開会挨拶・基調講演―「小売のレジリアンス(しなやかな反発力)と、共に前に進むこと」
開講挨拶と講演 NRF会長 キューレート・リテイル・グループCEO、マイケル・ジョージ氏
NRFの今期会長を務めるマイク・ジョージ氏(Qurate Retail Group社長・CEO)の開講挨拶は、まず1月6日の首都ワシントンでの議事堂乱入についての想いのこもったメッセージ、「われわれは、米国を建国以来支えてきた民主主義に誇りを持ち、政府への信頼と憲法への忠誠心を回復して、分断ではなく統一への努力をせねばならない」 で始まりました。そして、「私たちはコロナ・パンデミックとの戦いにコミットしている。2020年には、この並外れたチャレンジに対して、社員や顧客の安全、雇用の確保と経済発展の支援に取り組んだ。そして今年は、2021年とその先に向けて、 “共に” 一丸となって、小売業を新たな高みに押し上げる年にする自信をもっている」 と。米国小売り業界は、売上3.9兆ドル、直接雇用3200万人、人口の4分の1 (5200万人)の生活をサポートする米国産業のバックボーンであることも、あらためて強調しました。
20分のプレゼンテーションでしたが、ジョージ氏は、2020年を通じて米国小売り産業の貢献をたたえ、エッセンシャル・ワーカーとして営業を続けた店舗関係者をねぎらい、その間に猛スピードで変革が進んだことも リテール企業の〝レジリエンス″、すなわち、しなやかな反発力として、高く評価しました。氏があげた変革とは、たとえば、ソーシャル・ディスタンティングやコンタクトレス・ショッピングなどの仕組み、限られた人数での店舗運営の工夫、ECの急拡大とそれに伴うカーブサイドピックアップや短時間宅配、 家具などの3Dショール―ミング、混雑回避のオンライン予約システム、物流センターでのロボット活用、などなど、計画を何年も前倒しで実現した偉業とも言えるものです。 それは米国小売業の〝顧客対応重視”姿勢の所以であることも、強調しています。小売り企業の地域コミュニティへの貢献、たとえば、無料配達や医療従事者への割引、生活困難者への食品提供や医療支援のためのファンドレイジング、などにも言及しました。
氏はまた、キューレイト・リテール・グループ社がNRFと組んで、コロナで苦境に立たされた小規模ビジネス 40 社以上を支援したプロジェクト〝スモールビジネス・スポットライト“ も紹介しました。同社の傘下にはテレビショッピング由来のQVCやHSN、そしてスマホ ECで急成長した Zuillyがあり、これらのプラットフォームで小規模の起業家たち――その多くはコミュニティ密着の企業――の存続を助けたのです。人種差別問題、ダイバーシティ/インクルージョン/平等についても、その解決に小売業が取り組まねばならない、と話しました。
講演の最後を氏は、「小売りの未来」 としてNRF財団が取り組む、若手発掘コンテストの受賞者の紹介で締めくくりました。
2020 年の全く予想もしなかったコロナ・パンデミック襲来は、わずか1年の間に、私たち個人の考え方やライフスタイル、社会の在り方を大きく変えました。そのチャレンジに正面から取り組み、複数の講師が “ロードマップを 5 年(あるいはそれ以上)繰り上げ達成した”と表現するほどのスピードで変革を進めた米国小売業の底力に感服します。 と同時に、業界のリーダーが、さらに未来へ向けて、自社の業績ばかりでなく、企業に課せられた社会的責任を意識し全うすることに、ビジョンをもって取り組んでいることに、深い共感を覚えました。
日本のコロナ禍は、米国に比較すればダメージが少ないことで、このまたとない大変革のチャンスを無為に見過ごしてしまうことが心配です。NRF大会のように、経験した苦悩や生存への工夫、未来への期待、などを語り合う場を、業界団体や心ある企業が主導し、日本の小売りビジネスのトランスフォーメーションと未来へ向けての発展を促進することを願わずにはいられません。
次回から、学びが大きかったセミナーを順次 紹介します。 End