<FBのNew Normal (新しい常態・新しい常識) ①> 「トレンド離れする若者たち」

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 ファッション・ビジネスが大きな変容をせまられています。 今まで当たり前だったことが通用しなくなり、ゲームのルールが変わったように感じることが多くなりました。

 「ファッション・ビジネスの New Normal 」とは、FBの「新しい常態」。つまり「短期的な現象」ではなく、私たちが今後、念頭に置かなければならない「FBの新常識」とも言うべきものです。私が気になっている動きは、まず「トレンド離れする若者たち」です。 

New Normal(新しい常態・普通)という言葉は、米国金融界の大物あるモハメド・エラリアンの発言、「リーマンショックから立ち直った時、世界経済は危機前の姿とは全く別物になっている」との発言で使った言葉で、世界的に知られるようになりました。今まで「普通・当たり前」であったことが覆され、New Normal、すなわち「新しい普通」が一般化する、という指摘です。

 「トレンド離れする若者たち」はその代表的な潮流でしょう。日本では「ファッションのリーダーは若者」、とくに、服飾関連の専門学校や大学に通う学生の数が世界でも突出している日本は、クリエーターの予備軍としても、トレンドの牽引力としても、またファッション市場としても、若者が重要なポジションを占めてきました。

その若者たちが、以前のようにファッション、特にファッション・トレンドに興味を示さない。かつての若者が、デザイナー・ブランドにあこがれ、無理をしてでもトップ・ファッションを身につけようと努力したのと比べると、服飾を学ぶ学生ですら、最先端トレンドやクリエーションへの関心が薄れて、ファスト・ファッションやユニクロを愛用し、街の人気ショップで買ったもの、あるいは古着やリメイクものを身につけている。これは大変な変化です。もちろん、ユニクロもファスト・ファッションも、ファッションの重要な一部ですが、ファッション・トレンドの牽引力であった若者、特にファッションを職業にするために勉強している人達がこのように変化していることは、経済的に余裕がなくなった昨今の環境条件を差し引いても、若者の意識と価値観が明らかに変化していることを示すものでしょう。

 そんなことを考えていた時、杉野学園主催で『21世紀のファッションを考える―トレンド離れをする若者たちー』のフォーラムが開かれたので、参加しました(8月9日)。タイトル通りの内容で、とても啓発的でタイムリーな企画でした。講師陣は、添付のチラシにあるように、アート・ディレクターの浅葉克己氏と代表的なファッション・ジャーナリストの錚々たる方々でしたが、それぞれが「若者のトレンド離れ」についての体験や知見を述べられました。

このフォーラムを企画した杉野学園の織田晃教授は、繊研新聞社で長年ファッション記者として活躍した方で、定点的に服飾関係の学生の動向を調査しておられます。杉野服飾大学と桑沢デザイン研究所の学生 720人のアンケート調査では、トレンドを 『全く、あるいはほとんど意識していない』人が64%もいる。東日本大震災の後はさらに増えて68%になった、との事でした。

また、WWDジャパンの山室一幸編集長によれば、あるデザイン学校の生徒に「TGCは何の略語か?」を尋ねたところ、80%以上が Tokyo Girls Collection と正解したのに対し、「コムデギャルソンのデザイナーは誰か?」の質問には、正解が10%以下だったそうです。かつてはファッション・デザインを学ぶ人の全てが憧れた川久保玲の名前を知らない、とは驚くばかりです。これは一体、進化なのか退化なのか、の問題提起もありました。

有名デザイナーやトレンドがファッション・ビジネスの全てではないことは言うまでもありません。しかし、これまでこの産業の中核であったデザイナー・ブランドやトレンドへの若者の関心が低下していることは、ファッション業界にある者にとっては、まさに驚きであり、将来への不安を掻き立てます。

百貨店をはじめとする従来のファッション・リーダーとされた企業群の業績低迷も含めて、FBのNew Normal は、これまでとは抜本的に異なるビジネスへの取り組みを求めていると思えてなりません。