<FBのNew Normal (新しい常態)②> 「トレンドからマイ・スタイルへ」

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ファッション・ビジネスの新しい常識「New Normal」として先回は、「トレンド離れする若者たち」について書きました。

 それでは、トレンドを さほど重視しない、あるいはトレンドに振り回されたくない、という人達は、ファッションについて、どんな「新しい常識」を持つようになっているのでしょうか?

先回も述べたように、New Normalという言葉は、米国のリーマンショックの後、人々の考え方や価値観の変化が、実際の行動として目立つようになって注目されるようになりました。しかしその兆候は、すでに、それ以前から深く静かに潜行していたのです。

米国のウォールストリート・ジャーナル紙のファッション記者であるテリー・エイギンスが、The End of Fashion  (ファッションの終焉)という本を、20世紀の終わりの年1999年に書きました。(日本語版のタイトルは「ファッション・デザイナー」2000年文芸春秋社) 彼女は、ファッションの世界に巨大な変化が起きていることを立証したいと、1年間の休暇を申請。ラルフローレンやダナ・キャランなどの米国トップデザイナーのビジネスへの突っ込んだ取材と消費者の意識の変化を照らして、ファッション・ビジネスの変化を明らかにした興味深い書物です。

本では、ドレスコードの消滅や、チープシックの台頭、ラグジュアリー・ブランドのマーケティング戦略(バッグを売るためにファッションショーをやる)などの分析をもとに、米国のファッション・ビジネスの変貌を説明しています。つまり、それまで当たり前だった、有名デザイナーが毎シーズン新しいコレクションを発表し、社交界のレディ達がそれらを華やかに身に付け、それがメディアによりマスに流行として広がる(滴り落ちて行く)という米国におけるファッションのヒエラルキーが崩壊した。そしてもう永遠に、元の仕組みには戻らない新しい時代に入ったというのです。

例えば、ドルチェ・ガッバーナの魅力的な新作サンダルが、高級専門店に並ぶと同時に、ディスカウント・チェーンのターゲットに、ほとんど同じデザインのサンダルが1桁違う安値、13.99ドルで並ぶといった事例です。さらに重要なことは、その商品を、かつてはディスカウンターなどには寄り付きもしなかった社交界の名夫人が、いまや当然の様に購入するばかりでなく、友達に「すごいでしょ。私、これ13ドルで買ったのよ」と自慢するまでになった、というのです。つまり、見栄や外観のために、高級店に行きブランドものにこだわる傾向が、ファッションの頂点に位置すると思われていた人たちの間で崩れ始めた、という指摘です。

この傾向は言うまでも無く、人々が、より合理的に物事を考えるようになり、自分自身に目覚めはじめ、自分に自信を持つようになり、世の中一般の常識に従う必要はなく、人と違っていても不安にならない、という、態度になって来たからでしょう。

まさしく 「トレンドに振り回されないで、自分のスタイルを大事にする」時代が始まったのです。 日本ではまず、「トレンドからライフスタイルへ」の動きが顕著ですが、ライフスタイルも、メディアやセレブのお薦めをフォローする段階から、外見だけでなく、自分の信条や大事にする価値観を基に、My Style を作り上げて行くのが、これからのNew Normalだと考えます。

 ファッション・ビジネスに関わる企業に期待されることは、それをどのように具体的に進めるか、という、難しいけれどもやりがいのある挑戦です。