先回、ファッション・モデルが、現代女性の願望体型である「細身」「9等身」でなければいけないか? の問題提起をしました。「ファッションは、スリムで背の高い人でないと美しく着こなせない」というのは、長年にわたってファッション業界が消費者に刷り込んだ「願望イメージ」であり、実態はそれとは程遠い体型の人がほとんどなのに、その人たちも何とか理想形に近付くために無理なダイエットなどをする事の問題についてです。
女性の美しさとは何でしょうか? 歴史をさかのぼれば、かの有名なサンドロ・ボッティチェリが 15世紀の終わりごろに描いた「ヴィーナスの誕生」や「春」に登場する3人の女神が、ふくよかな美しさに輝やいているのも見るまでも無く、「女性の美しさ」は時代とともに変化しています。(写真は、ボッティチェリ作「春」の一部で、春の自然の中で戯れる3美神)
しかし、幸いなことに最近は、リアル・クローズが求められ、健康的美が時代の潮流になることにより、長年「大きなサイズはカッコよく見えないため」扱わない、の方針を通してきた有名ファッション店でも、欧米では大きなサイズの売り場を拡大するようになりました。売り場の名前もアメリカなら「プラス・サイズ」とか「フルサイズ」等のオシャレな名前を付けています。(間違っても、「イレギュラーサイズ」などとは言いません。)
例えばニューヨークのブルーミングデールズ百貨店もその好例ですが、商品の範囲は外衣ばかりでなくインティメート(インナーウェア)にまで広がり、写真にあるように、フォーカル・ポイント(売り場の中心となる)ディスプレイに、豊満なマネキンを置いています。このブランド Agent Provocateur (エージェント・プロヴォケイター)は、英国のデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドの息子が立ち上げたランジェリー・ブランドですが、ブランドの名前も映画「007」の美人スパイを想起させる「挑発的スパイ」というユーモラスなもの。デザインも大胆で斬新、繊細なレースや刺繍は、太めの人でも遠慮せず、堂々と美しさを競って欲しい、といったメッセージを発しているように思います。(このブランドは、太めのサイズだけを扱っているのではありませんが。)
デザイナーのダナ・キャレンは、決してスリムな体型の持ち主とは言えませんが、肩の大きく開いたドレスやドレープの美しい服を身につけ、チャーミングかつ堂々と活躍しています。彼女は、米国の、キャリア服の草分けであるアン・クラインのチーフ・デザイナーとして高い評価を得た後、独立して、アン・クラインのラインとは一味違う柔らかな、ジャージーなどを多用したラインで一時代を画しました。1980年代中ごろに大ヒットとなった彼女のストレッチのボディスーツが、仕事もファミリーも両立させようとする活動的で多忙な女性に、圧倒的支持を受けたことを懐かしく思い出します。ダナ・キャレンがオシャレと機能性を併せ持つボディスーツを開発出来たのは、まさしく、やや太めの自分の体にフィットさせたいニーズがあったからかも知れません。
カール・ラガーフェルドは今年の3月、8年ぶりに来日して、「日本人女性は大きく変わった。太っていて美しい」という意味深長な発言をしました。「私は日本人女性たちがより太り、より魅力的になったことに気付いた。それはおそらく以前よりも多くのケーキやお菓子を食べているからだろう。」と記者団に対して語ったといいます。いつも辛辣なコメントを発して話題になるラガーフェルド氏ですから、これも辛辣な皮肉なのかと思いましたが、WWD紙によれば、彼は ”It’s changed a lot but it’s changed for the better I think. ,,,,, There’s a real change in the look of the Japanese people. Normally, before, they were all tiny. It’s the kind of beauty you get from junk food.” と述べたとの事。つまり「大きな変化だが、いい方へ向けてだ。、、、日本人のルックスは本当に変化している。以前は皆とても小さかった。身体によくない食べ物を食べた結果の美しさだ」。 彼特有のひねったユーモアだとしても、小柄で子供っぽかった日本女性が、大きく美しくなった、と解釈したいと思います。
「太めでも美しく」、「高齢でも美しく」。 それをサポートするのがこれからのファッション・ビジネスだと考えます。