<ソーシャル・ビジネス時代とファッション ⑤ ――事例: エシカル>

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  エコロジー/サステイナビリティの分野に取り組むソーシャル・ビジネスについて、先回述べました。今回は、「エシカル」分野の事例を紹介したいと思います。 「エシカル」とは、 「倫理・道徳的、人道的」 な視点から、社会的問題解決に挑むものです。 事例として取り上げるのは、㈱ マザーハウスと、㈱ ファーストリテイリングの 「グラミン・ユニクロ 」事業です。

1.株式会社 マザーハウス

 「途上国から世界に通用するブランドをつくる」 をミッションとする同社は、高級バッグの生産販売会社です。デザイナーの創業者(山口絵里子)が大学時代に世界でも最貧国のひとつ、バングラデシュを訪問。途上国の現状を知り、現地の大学院に入学。その国にある人や資源の良さを最大限に生かしたデザインで高品質の製品を作り販売することに取り組みました。そこで出会った素材はジュート(麻)。これを様々な苦労を重ねて、ユニークなバッグの開発に成功したのです。その狙いは、貧しい人たちが 「援助を受ける」 のではなく 「ビジネスで自立する」 ことでした。日本の若い女性が、世界の最貧国と言われるアジアの国で、2006の起業でした。生産はその後ネパールに拡大しています。

  同社のホームページには、<MHアクション>として、次の様なメッセージがあがっています。

Fashion is philosophy: We wear what we believe. ファッションとは哲学そのものである。私たちは価値観を身に着けている。』 その説明として、「ファッションとは個人の価値観、そして哲学を表現する重要なツールです。外見だけではない内面の美しさを表現できるファッションの受け皿として、マザーハウスはあり続けたいと考えています。」

  マザーハウスの創業者、山口絵里子さんは、2012 年 12月に 日本ハーバード・ビジネススクール・クラブから「2012 年度アントレプレナー賞」を受賞しました。その時の受賞コメントが感動的だったので、ご紹介します。「最貧国でのビジネスを軌道に乗せるために大事なことは『信頼関係』です。 政情不安でも、非常事態宣言が出ても現地にとどまり、決して逃げなかった。そのうちに 『この人は発注量も少ないが、ベンガル語を話し、普通のバイヤーが来ない工場へもやって来る、、』 と言ってくれる友人になった」というのです。24 歳での起業と事業の成功に、多大な拍手を送ります。 

2.ファーストリテイリング社

  バングラデシュで同社が展開している 「グラミンユニクロ」 も 「エシカル」 分野のユニークな事業例です。ファーストリテーリング社は、バングラデシュの貧困、教育、衛生、ジェンダー、環境など、社会的課題をビジネスの手法で解決することを目的に、2010 年にソーシャル・ビジネスの会社を立ち上げました。2011 年にはグラミン銀行グループの子会社との間に合弁会社、グラミンユニクロ社を設立し、現地でソーシャル・ビジネスを開始。よい服をバングラデシュで企画・生産し、貧困層の人たちが購入可能な価格で提示。商品の販売は、グラミン銀行から融資を受け、それをもとに自立を目指す “グラミンレディ” たちが行う、という仕組みです。同社のホームページによれば、農村部出身の貧しい彼女たちが、農村の家々を訪ねたり、自分の家を店代わりにして、商品の特徴を説明しながら販売に当たるとのこと。商品は基本的には委託販売方式で、グラミンレディは売上代金に応じてコミッションを受け取るのだそうです。そしてその利益はすべてソーシャル・ビジネスへ再投資する、このビジネス・サイクルを現地の人々の手でまわしていくことで、貧国・衛生・教育などの問題解決を目指そうとするものです。 

  商品構成は、「当初からのインナー類や無地のTシャツなどに加え、その後、ポロシャツやプリント Tシャツ、襟付きシャツなどを追加。民族衣装のサリーや衛生改善に役立つ下着やサニタリーナプキンの販売も開始しました。商品の価格については、当初は 1 ドル以下に設定しましたが、生産コストとの兼ね合いで商品に競争力がなく、思うように販売が伸びませんでした。そこで商品構成と価格帯を見直し、2 ~ 4 ドルの商品も開発。素材もコットンに加え、ポリエステルやアクリルなど機能的な化学繊維も取り入れるなど、その種類も豊富になった」という事です。

  さらに従来からの農村部における販売に加え、首都ダッカのショールームでの販売もスタート。今年の 7 月には、バングラデシュのダッカ市内にグラミンユニクロ初の店舗、2 店をオープンしました。今後も都市部での出店と情報発信、ブランディングを積極的に進めるとの事です。

  服の企画、生産、販売を通じて人々が心からほしいと思う商品を提供し、同時に雇用を創出する。特に貧しい国で虐げられている女性の自立を促進することで、社会の色々な問題解決につなげる、というこのグラミンユニクロのプロジェクトは、素晴らしいものだと考えます。またこのような先駆的な活動を、日本企業が世界をリードする形で進めていることを、誇らしく思うとともに、同社 CEO の柳井正氏のグローバルなビジョンと、リーダーシップに、大いに敬意を表すものです。