FITセミナー 「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス――ブランディングと 顧客エンゲイジ を成功させる ソーシャル・メディア活用法」 の基調講演の講師は、FIT のテッド・チャクター 教授でした。 チャクター氏は、米国で広告・マーケティング業界のエグゼクティブとして活躍されたのち、FIT の教授に就任。 引続きマーケティングとソーシャル・メディアの先端動向を抑えて 企業のコンサルタントも勤めている方です。
< 「オムニチャネル」 は E コマースのインフラが土台> が今回のテーマです。 米国でオムニチャネルが重要な戦略になってきた背景には、モバイルの急速な普及があると先に述べました。 しかしもう一つ重要なことは、企業における E コマースの確実な拡大です。 そのもとになる企業のインフラ整備やネットビジネスのノウハウです。 3月5日付 のこのブログで触れたように、Eコマースは、2012 年で 2020 億ドルに達し、全小売売上の 7 % を占めるようになっています。 この分野の調査機関として権威ある、米国フォレスター・リサ―チ社の予測によれば、E コマースさらに、今後とも2ケタ成長を続け、2016 年には 3,270 億ドル(全小売額の 9 % ) になるとされています。
図は、米国の主要企業の E コマースへのアクセスが、どれくらいの規模になっているかを見たものです。(単位100万人)
このグラフを見て驚くのは、まずアマゾンのサイトへの来訪者(ユニーク・ビジター)の数です。 アマゾンは、この強力な顧客の支持をベースに、無料配達や同日配達を行うことで、市場シェアを一挙に拡大する戦略をとって居り、他の小売業 (ネット専業、店舗小売、を問わず) に巨大な影響を与えています。 業界では、「アマゾン 対 ウォルマートの対決――どちらに軍杯が上がるか」 に関心を持っている人も多いようです。
もう1つ、日本には見られない傾向は、ウォルマート(第 3 位) やターゲット(第 4 位) などの量販店や、百貨店の メイシーやコールズのように、総合小売業が大きな集客力を持っていることです。 メイシー百貨店では 1840 万人 (第 6 位)、コールズでは 1480 万人 (第 11 位)ですが、これを日割りにすると、メイシー百貨店では、毎日 60 万人のユニーク・ビジターが 同社のサイトを訪問する計算になります。 それぞれのネット販売額のデータとの比較はここでは出来ませんが、当然のことながら、販売額も同様に大きいものと考えられます。 メイシーでは、ネット売上を将来的には 20 % に近づけたいと考えて居ますが、これらの企業は、規模的にも、体制的にも、オムニチャネルを実践するのに必要な条件を、かなり揃えており、それに拍車をかけようとしています。 セミナーでは参加者から、「日本の大手総合小売業がネット販売比率が低い事」 に関する質問がありましたが、 自社が扱っている商品の在庫を リアルタイムで完全に把握できない現在の状態では、難易度はかなり高いものと考えられます。 委託販売等の商慣習が 障害になっているのでは、との講師のコメントもありました。 日本ではオムニチャネルの展開は、専門的小売業が先行するチャンスがあると、私は考えています。
ネット販売比率の大きい米国の専門店には、アーバン・アウトフィッターや J. クルーなどがありますが、米国では消費者が、ネット販売(最近ではモバイルによるネット購買)にすっかりなじんできています。 E コマースのカテゴリー別総売上額を見ても、トップは 「音楽・ビデオ」の 879 億ドルですが、当初は 「現物を触らないでは買えない商品」 と考えられたアパレルや家庭用家具インテリア関連商品が、それぞれ第 4 位、第 5 位を占め、金額も 「アパレル・アクセサリー」 で 785 億ドル、「家庭用家具インテリア関連商品」で 783 億ドルになっています。 ちなみに、第 2 位は「本・雑誌」の 827 億ドル、第 3 位が「電化・電気製品」の 821 億ドルで、「アパレル・アクセサリー」 も、かなり接近してきました。
E コマースは、もはや米国では、日常生活に欠かせないものになってきているのです。
(次回は、オムニチャネルとソーシャル、コミュニティについて書きます。)