「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」をテーマに開催したFITセミナーのまとめとして、あらためて リアル店舗の重要性を強調したいと思います。
この春、第5回 ( 2013年4月28日 ) で紹介した、ワービー・パーカー社は、ニューヨークのソーホーに、旗艦店を開店しました。ウェブとソーシャル・メディアを駆使して、短期間の間に多くのファンを獲得した “ピュア・プレイヤー” であったWarby Parker 社が、その多様な経験に基づき、リアル店舗、それもまさしくオムニチャネル時代にふさわしい旗艦店を作ったことに、感銘を受けました。
そもそも、「95ドルで、顧客指定の度の入った高品質メガネを提供する」 というネット販売だけでスタートした会社でしたが、マーケティングのためにスクールバスを使って各地を巡回販売したり、顧客の要請で期間限定の店を作ったり、さらに本社の事務所にショールーム兼ショップを開設して、顧客が同社のオフィスや社員の働く様子も目の当たりに出来る、開放的なショップと顧客との親しい接触などを経験して来ました。その結果、ネット企業が店舗を持つ意味と価値をしっかり把握したのだと思われます。 「リアル店舗が必要な理由」をハーバード・ビジネスレビュー誌に問われて、創業者の一人であるニール・ブルメンサル氏は、 ① 顧客がそれを望んでいる、 ② 顧客との個人的な関係が構築できる、 ③ 顧客の行動を見ることで顧客に適切で便利な売り方を知ることが出来る、 ④ スタッフの訓練に最高、の4点を上げています。
そのような考え方に基づき、いよいよ開店した旗艦店は、「オムニチャネル」企業のモデルになり得る多くの要素を備えています。まず、売り場のスペースは、メガネ店としてはかなりの広さとゆとりをもち、壁面には各種のメガネと、眼鏡とは切り離せない「書物」を美しくディスプレイしています。本は、ディスプレイ用以外に、近隣の著者やユニークな書物もあり、顧客が手に取って見たりしています。アポイントで検眼も出来、奥に設置された “Eye Exam”(検眼)コーナーには、空港の発着案内の様なスケジュール表が上がっています。その後ろは植木とソファを置いたラウンジ風のコーナーになっています。中央に2列に並んだショーケースには、Warby Parker の創設から今日までの発展の経緯を、ウイットに富んだコピーとイラストなどで紹介していて、企業の理念やコンセプトもしっかり発信しています。情報テクノロジーを駆使した、すぐれた顧客体験を提供する、本当に素敵なお店なのです。
「メガネが iPhone より高いなんて許せない」との義憤に燃えて創業した4人の大学院生が、アイビーリーグの有名校(Wharton )のMBA 専攻とはいえ、3年もたたないうちに、商品開発も、ICTテクノロジーの活用も、効果的なマーケティング手法も、魅力的な店舗づくりも 達成している、ということに、今の時代の大きな可能性と、若者の自由でクリエイティブな発想、そして行動力を痛感した次第です。
(次回は、「オムニチャネル」セミナーの最終まとめをしたいと思います)