<ソーシャル・ビジネス時代とファッション②――日経ソーシャル大賞 受賞者に学ぶ>

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  初めて設置された 「日経ソーシャル・イニシャティブ大賞」 を受賞した 「フローレンス」 と 「ケアプロ」 について感銘をうけた点を書きます。

 <フローレンス> (http://www.florence.or.jp/) 

  「大賞」受賞の 認定NPO法人フローレンス は、日本初の病児保育サービスです。働く女性の増加とともに保育園の不足、あるいは入園できない待機児童が問題となっていますが、入園出来たとしても、子供が病気になると保育は受けられません。たとえば朝、元気で通園した子供が熱を出すと、38度以上で即時に保護者へ引き取りに来るよう連絡が来ます。(父親に連絡が行くようになっているケースは少ないことも、日本特有の実態です。) 働く母親は、いつそんな電話が入るか、戦々恐々としながら働いているのです。フローレンスは、代表理事を務める駒崎弘樹が、多くの母親たちのこういった苦労話をヒントに2004年に立ち上げた事業です。

  日本初の この「共済型・非施設型」の病児保育サービスは、現在、東京23区およびその周辺(千葉県、川崎市、横浜市など)の働く家庭約 2200 世帯をサポートしています。 料金は掛け捨て月会費の共済型で、また2012年1月からは東京23区において、子育て中の女性医師 (ママドクター) による病児保育現場への往診サービスを開始。 これまで 「こどもレスキュー隊員」 (病児保育を担う保育スタッフ) が行うことができなかった 「鼻吸い」 「吸入」 を実施することで、子供の回復をさらに後押しする病児保育を提供できるようにもなったということです。 さらに、今年の71日からは、保育所向けの病児保育の割安な新プランをはじめました。 保育所が子供1人当たり 1050円 の月会費を負担し、保護者は利用した場合のみ1 時間 1680円 の保育料を支払う仕組みで、保育者の負担は、通常の自宅プランより安くなるものです。

  女性の子育て支援の必要性が叫ばれている昨今ですが、すでに 10年近く前から、現場が真に必要としている事業を、それも善意の寄付に頼るのではなく、継続できる形を模索し、「自走」出来る形で実施してこられた駒崎氏に、深い敬意を表します。 授賞スピーチでのことば、「子供が熱を出すのは当たり前。会社を休んだために職を失った事例に憤慨した。女性が、子育てしながら働くのが当たり前の社会を目指したい」、が感動的でした。 

<ケアプロ> (http://carepro.co.jp/)

  「国内部門賞」を受賞したのは、ケアプロ株式会社です。これは米国をモデルにした保険証が必要ない「ワンコイン健診」、つまり 500円 から受けられる低価格の健康診断サービスです。生活習慣病等を早期に発見し、受診者の健康は勿論ですが、財政負担が年々増加している医療費の削減をめざすのが狙いだといいます。

  対象は、個人事業主や専業主婦、あるいはフリーターなど。会社勤めの人には企業内健康診断がかなり一般的になっていますが、その機会のない人たちが、安く、かつ簡便に検診を受けられる手段を、苦労を重ねて編み出したのです。 ケアプロは まず独自の調査をして、「500円であれば、80% の人が受信をする」という感触をつかみ、500円を実現する方策を生み出しました。それは、糖尿病検査等で使われる『自己採血』です。通常の血液検査を病院等で行うのでは、500円ではとても採算に合わないし、また医者が立ち会わない採血は法に触れるということもありました。これは、受診者が自分で指に採血用の注射針を刺して少量の血液を取って、その針は捨てる、という手法です。これにより、「コスト」と「規制」の両方の問題を解決しました。 健診は看護師が担当、受診者は看護師のサポートにより自己採血をする。予約も不要という気軽さで、診断結果は約1分から7分でわかるという早さも特長だということです。 全国の駅ナカ、スーパー、企業などでの出張イベントで 3000回 以上の健診をこなし、利用者は 13万人を超え、売上高も順調に伸びている点が評価された授賞でした。

  ケアプロ社長の川添高志氏は、創業以来「14万人以上の検診を実施、その約 3 割の受診者に異常値が発見された」とし、彼らは「もっと早く受診しなかったことを後悔している」と言っています。

  『フローレンス』 および 『ケアプロ』のケースは、いずれも、大きな社会問題でありながら、行政が対処出来ていない問題の解決に取り組んでいる。 とくに、その社会問題が全体としては非常に大きいものであるために、その中には知恵と工夫で解決できる『部分』が沢山包含されているにもかかわらず、見過ごされている、あるいはギブアップされているもの、と言えると思います。

  (次回は、ファッションに関係する ソーシャル・ビジネスを御紹介したいと思います。)