「社会性」 を意識した事業を継続的に推進している企業で、私が特に感銘を受けているフェリシモという会社の事例を御紹介します。
㈱フェリシモは、神戸に本社があるダイレクト・マーケティングの会社です。カタログとインターネットによる販売という意味では通信販売会社ですが、非常にユニークな仕組みを持っています。顧客が商品を選択するのではなく、フェリシモが提供する様々なコレクション・シリーズの中から、顧客が自分の興味や関心によって選んだコレクションの商品が、定期的に届くという仕組みです。 消費者の多様化や個性化が言われる昨今、言ってみれば「おまかせ」のこういったシステムが成り立つのは、同社の歴史が育んだ顧客層、フェリシモ・ファンの強い支持があること、またその「支持」こそが、同社の哲学である “「事業性」、「独創性」、「社会性」のバランス”、の成果だと、私は考えています。この考え方は、今から25年も前から同社が掲げて来た企業理念です。企業活動は、「事業として成り立たねばならない」が、同時に「社会にマイナスをまき散らさないだけでなく、プラスに貢献できる」ものである事が重要、というのが矢崎和彦社長の考えです。そういった社会に役に立つ活動を、単発で終わらせないで持続可能にするためには、商品が顧客にとって魅力あるものでなければなりません。そこで「独創性」つまり簡単には真似できないデザインや作り方の創意工夫が必要になります。商品が顧客の期待を裏切らないものであるから、顧客は会社に「おまかせ」で、次に何が送られて来るかを楽しみにしているのです。
フェリシモ社の考え方と多様な事業の詳細をここで紹介する事は出来ませんが、興味のある方は、同社の矢崎和彦社長が書かれた『ともにしあわせになるしあわせ』という題名の著書(英治出版。今年の7月に出版)を読まれる事をお勧めします。
「事業性」、「独創性」、「社会性」の3つが重なる領域こそがフェリシモのめざすべきビジネス、という考え方は、実は25年来のものです。当時、メセナやフィランソロピーに取り組む企業が数多くありました。しかし大手企業が利益の中から多額の寄付をする、あるいは文化事業を行う、というのは、「自分達には関係のない世界だな」と感じていた、と矢崎社長は本の中で述べています。「本業で儲けて別のところで寄付をするというのでは、本業で利益が上がらなくなったら、継続できない。自己の確固たる事業基盤の上で社会に貢献することこそが、サステイナブルな取り組みだ」という考え方です。
社会的事業の一例、「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト」(CCP) を紹介しましょう。(写真)(さをり織りポーチ。スマホを入れたまま操作できる) Challengedとは、欧米で「障害を持つ人」の意味で使われる言葉です。もとは重度の障害を持つ母親が、「チャレンジドを納税者に」のコンセプトで、「障害者が自立できる社会にしたい」の想いで推進しているプロジェクトです。フェリシモはこのプロジェクトに感銘を受け賛同し、障害者がつくる製品が、「バザーなどでしか売られない」のではなく、さらに「障害者のために買ってあげる」といった姿勢ではなく、「欲しいから買う」ものにする方法を考えました。そして障害者が描く色彩豊かなデザインや、細かい手仕事で製品を忍耐強く仕上げるスキルを、同社が持っている商品企画力や生産の仕組み、マーケティング力に結び付けて、魅力ある商品に仕上げているのです。実際に某アパレルメーカーの担当者が、「これはどこのデザイナーのバッグですか?」と尋ねたほどの出来栄えです。
海外での社会的事業も数多いのですが、2年前から取り組んでいる、「グラミン・フェリシモ」も簡単に紹介しましょう。
このプロジェクトは、グラミン銀行の設立者のムハマド・ユヌス教授が貧しい人の雇用のために現地の織機で織らせていた綿のチェック生地に、フェリシモがオシャレなデザインを持ちこみ「グラミン・チェック」を創造することによって、売り上げと雇用を拡大したものです。チェックのデザインは世界コンペを行い52カ国150人のデザイナーの応募作品から最優秀の「インフィニット・ホープ(無限の希望)」のデザインを選びました。また、これによって設置されたインフィニティ基金は、ペダルをこいで水を浄化する浄水器付き自転車(日本製)を購入・提供、という形で現地を支援しています。
これらを支える大きな力は、同社の企画力、独創性です。これにはフェリシモの非常にユニークな採用方法も、大きく貢献しています。定員の何百倍におよぶ応募者に選考過程で出される課題は、「自分カタログ」の作成です。自分のやりたい事、考え方などを自由な形で「カタログ」にさせ、編集力や表現力、特に創造性をみるのでしょう。どれも力作で、その努力の過程にその人物がよくわかるそうです。非常に有効な素晴らしい入社試験だと思います。
障害や貧困に苦しむ人への支援は、多くの企業が色々な形で取り組んでいる社会問題ですが、「魚を与えるよりも、自力で魚が獲れるようにする事」が重要です。フェリシモのユニークな点は、こういった「自立」を支援する事に加え、“ともにしあわせになるしあわせ”という明快な企業哲学をもとに、生活者であるお客さまの賛同・参画を得ながら、つくる人も使う人も、その仕組みを作る人も、すべてが幸せな達成感を得られるビジネスを組み立てている事です。そしてそれが、意欲的で創造力のある社員によって実現されていることに、21世紀企業の進むべき新しい方向性を感じます。