<NRF(米国小売業)大会報告②-―21世紀の店舗小売業はいかに繁栄すべきか>

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  NRF大会の主なセミナーから、今回は、初日に「キーノート(基調)セッション」のトップを飾った、「メインストリートの新イメージ-―21世紀の店舗小売業はいかに繁栄すべきか」の内容を紹介しましょう。 英語のタイトルは「Reimaging Main Street ― How Brick and Mortar Retail Will Thrive in the 21st Century.」。Main Street とは、どの町にもある、商店が集積する中心的通りです。日本で言えば、さしずめ「○○銀座」と言った感じでしょうか? 近年、ショッピング・モールの拡大やEコマースの成長で、その存在感が薄れて来ていたメインストリートですが、最近復活の兆しがあります。大型ショッピングセンターに車を飛ばすよりは近くで便利な買い物がしたい、コミュニティへの愛着、などがその理由です。このセッションの狙いは、ネットやモバイル、ソーシャル・メディアの拡大の中、これらの「店舗小売業」の将来への新たな方向性、「新イメージ」を探る狙いにあります。 
  講師は、4名。ロサンゼルスのThe Grove など収益性の高いライフスタイル型モールを経営するデベロッパー Caruso Affiliated の創業者のリック・カルーソCEO、 デザイナーのレベッカ・ミンコフさん、人気のカップケーキ店 Sprinkles Cupcakes の創業者のカンディス・ネルソンさん、それにノードストロムのブレイク・ノードストロム社長、というユニークな組み合わせ。司会はCNBCテレビの人気アンカー、スー・ヘレラさんです。
(画像は店舗小売業のこれからの方向を議論する講師たち)
  カルーソ氏は 自社が運営するライフスタイル型モール The Grove ( ロサンゼルス) が、業界平均の5倍の売り場効率をあげている実態を紹介しながら、「人々は、モノを買うだけのために店に来るのではない。人と交流したり、商品やサービスで期待していなかった発見や体験をし、優れた体験をしに来るのだ」といいます。 また、先史時代のラスコー洞窟で発見された壁画や、マラケシュのスーク(市場、古来からの交易市)、あるいは東京築地の魚市場などの画像を見せながら、『これらがなぜ今日まで続いているのか? それは人々が、 “人対人”の人間的なつながりやコミュニティの温かさを求めるからだ。ネットで簡便にショッピングが出来るようになった今、あらためて物質的な満足だけではなく、エモーションあるいはパーソナルな体験を渇望している。』と強調しました。
 (写真は、The Grove の風景――カルーソ氏のプレゼンより)
  デザイナーで SNS を活用しPop Up 店などにも力を入れるミンコフ氏は、「ソーシャル・メディアが登場する前は デザイナーは象牙の塔的存在だった。今はインスタグラムで商品を紹介したり、SNSで顧客と相互交流して親密な関係をつくることが出来る。また自分のポップアップ店でトランクショー(店舗で商品を見せるショー)をやって直接顧客にプレゼンも可能になった」といいます。またカップケーキ店を経営するネルソン氏は、“クレイジーな店” をモットーに、 “カップケーキATM”(クレジットカードを読み取らせると、ロボットの手がケーキを手渡してくれる)を開発したり、道路にとめている車へのデリバリーなどで、お客さんに WOW という驚きと感動を与える」ことで生まれる、顧客とのエモーションナルな関係の価値を強調しました。
 ショッピングセンターのあり方についても、カルーソ氏は、「1960年にはじまったインドア型のショッピング・モールは、未来の方向でないばかりか、現在でも苦戦しているところが多い。2006年以降の新設もない。現在進行しているのは、de-malling (モールを他の目的に改造すること)だ。モールが消費者にとって、“どうしても行きたくなる場所”でないなら、それは小売業にとっても、ぜひとも出店したい場所ではない、ということだ。」といいます。
 ノードストロム氏は、The Groveの様なセンターが従来のSCとどう違うかの質問に次のように答えました。「The Groveは、絶えず進化している。また、シティ感覚、アーバン(都会)のブティック集積といったオシャレな雰囲気があることも重要だ。顧客はものすごい選択肢を持っており、選ばれる店でなければならない。ビジネスの透明性も求められている。」 こういったメインストリート的小売業の成長はさらに期待出来るか?との問いに対しては、ノードストロム氏は、「フルラインの店舗の売り上げはここ数年伸びていないし、現在も同様だ。われわれはEコマースやラック(アウトレット店)を合わせた総合力で伸びている。」 「小売店舗が今後さらに復活傾向を強めると考えてはいけない。店舗ビジネスが繁栄を続けるためには、絶えず変革する“度胸”と資金が必要だ」、と語りました。
 『古代から焚火のまわりに人が集まるように、自分のキャンプファイアーを創れ』が、カルーソ氏のまとめのメッセージでした。