3月21日に開催された「FIT特別セミナー」をまとめて振り返ると、大きく変容する今後のFB(ファッション・ビジネス)の潮流が見えてきます。
3人の世界をリードする講師陣陣が、経営者の立場(柳井正氏)、教育者の立場(FITブラウン学長)、ファッションの立場(FITファッション美術館ディレクター)で熱っぽく語った講演から、私は時代の潮流として次の3つを感じ取りました。
1.これからの成功する企業とは、
「物売り発想」を脱皮し、「志」(ミッション=使命)をもって革新を続ける会社
2.これからの成功する人材とは、
「幅広い教養」を持ち「変化」に臆せず、異文化等の「多様性」に柔軟かつ自律的に対処できる人
3.これからの成功するファッションとは、
「社会の変化」に根差し、「文化の蓄積」を「消費」ではなく「消化」した上で「新たに創造する」もの
一言でいえば、これまでの、「ファッションのトレンドを表面的に追う、視野も能力範囲も狭い専門職と金儲け志向の経営者が、短期勝負を繰り広げる」 ファッション・ビジネスから、「社会の要請に応え、 高い資質と幅広い能力とグローバル感覚をもつ人材が、感性と文化に根差した価値創造の革新を続ける」ファッション・ビジネスへの転換、と言えるでしょう。
柳井正氏(ファーストリテーリングCEO)のメッセージ「3・11は日本の岐路。日本がメルトダウンしないためには、日本は変わらねばならない」の通り、日本はいま、大きな転換期にあり、ファッション産業も大きな変革を迫られています。しかし、これらのFBの潮流は、決して日本に限るものではありません。
FITのブラウン学長は、「テクノロジーとグローバル化がファッション業界を大きく変えている。これから先、優れた成果を上げる人材育成の中核は、一般教養、学生がみずから成長する環境作り、創造性と革新性重視、グローバルで多様な能力の醸成、にある」と強調しました。
「FITでは、一般教養を通じてこそ学生が批判的に考える(適切な質問をし、問題を分析・解決する)力が身につく、と考えている。学生は専門分野に加えて、一般教養を学ぶことで、キャリアの中核をなす世界の文化に触れることが出来、また彼らが直面せざるを得ない法的・倫理的なビジネスの問題にも、触れることが出来る」。 「米国業界のプロがここ数年、我々に強く求めているのは、文化的に洗練された人材、世界に開かれた目と批判的に考える力を持ち、コミュニケーションが出来る人材だ。ある広告代理店のエグゼクティブは、面接の最後に必ず『どんな本を読んでいるか』そして『なぜ?』と尋ねるという。」 大学はこれに応えられる人材を排出せねばならない、というのです。
FIT紹介パンフレット(Look Book 2011-2012)
“挑戦をしよう、旅に出よう、チャンスに賭けよう、時間をとって、飛び込もう”
柳井正氏は、ますます同質化・平準化が進むグローバル競争に勝つためには、「志」(ミッション)をもち、それを推進する勇気、革新を続ける企業文化を持つ会社でなければならない。どんな不利な状況でも志を持って最後まで頑張れば、それは達成できる、とし、
「良い企業とは、ブランディングすると同じこと。お客様が商品を買うのは、単純に商品のスペック性能機能を買うのではない。感情と共感で買う。だれが、どういった会社が、どういう思いでこの商品を作り販売しているのか?が重要。」 「企業は、自分たちは何者なのか? どこに向かおうとするのか?を伝えなければならない。」と強調。
ユニクロは原宿店オープン時に「革新的な服を開発して世界中の人々の生活を豊かにする。それを、経営者だけでなく、社員の顧客にも徹底すること」をミッションに掲げました。
「あらゆる人が良いカジュアルを着られるようにする新しい日本の企業です」と。そしてその後のファーストリテーリング設立時には、さらに「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」に進化させて、社内は勿論、顧客や取引先、株主等の関係者と共有しています。
これからのグローバルでフラットな時代、とくに物質的価値から精神的・感性的価値を求めるようになった先進国で成功するファッションとは、「社会の変化」と「人々の意識の変化」をふまえ、日本の文化的・ 民族的DNAをフルに活性化させて、感性豊かな、「ほんもの」、「世のためになるもの」、「美しいもの」 (真・善・美)を実現するものであると考えます。