イノベーション

  三宅一生さんを悼み、氏が遺した ファッションへの  未来的取り組みを 日本のFBに継承したい

三宅一生さんが、8月5日、84歳の生涯を閉じられました。類まれなる才能と独自の哲学をもって、既成概念を覆す大胆な服作りで世界的に大きな衝撃と影響を与え続けた、日本が世界に誇れるデザイナーでした。

テレビの追悼番組、「陶器のボタンの贈り物」(NHK月曜美術館 再放送)を見ながら、陶芸家ルーシー・リィー氏を語る一生さんの穏やかながら想いがこもった熱い言葉に、この声を二度と聞くことが出来ないと思うと、胸が締め付けられ涙が止まりませんでした。日本にとって本当に巨大な損失。心からご冥福をいのります。

<あらゆる面でのイノベーターだった三宅一生>

一生さんは、単なる服飾デザイナーではなく、挑戦者であり革新者でした。とくに、“もの(プロダクト)づくり” の視点から、クリエーションとインダストリーの連携を提示し、未来へのビジョンを指し示したクリエーターだったと、畏敬の念すら感じます。

創造的デザイナーとしての一生さんを讃えてその死を悼むメッセージや評論はすでに多数紹介されていますが、私は、産業としてのファッションの観点から、氏の5つの功績を強調したいと思います。  

1.プロダクト発想(クリエ-ションの工業化)=プリーツ・プリーズ――かっこいい量販品

2.コレクション(創作活動)と工業的生産・販売の有機的連動 

3.テクノロジーをデザイン設計に活用―― A-POCなど

4.サステイナビリティの実践=132 5 ISSEY MIYAKE―リサイクル素材、ムダ削減の加工手法

5.工業と工芸の融合――1枚の布、を原点とする職人芸(創作への愛着・手仕事のぬくもり)

123 5 ISSEY MIYAKE   ㈱三宅デザイン事務所 Reality Lab.提供。尾原蓉子著『Fashion Business 創造する未来』より)

<一生さんとの出会い>

初めてお会いしたのは、1974年春。結果的にIssey Miyakeの2年目のパリ・コレクションで使われることとなった新素材の紹介でした。当時世界でも珍しかったアクリルの長繊維(フィラメント糸=蚕が生み出す絹のよう細く連続した長い繊維)の開発にかかわっていた旭化成時代の私が、アポをもらっておずおずと訪問。すでにデザイナーとして著名であった一生さんが、非常に優しく自然体でプレゼンを受けて下さり、15分の約束が1時間を超えるほどの熱量で接して下さったことに感激した出会いでした。

コレクションでは、この素材(ピューロン)が、コマ(独楽)と名付けたカラフルな横ストライプのフルスカートに編み上げられ、多彩なコマが回るようにモデルが舞う華やかなフィナーレになりました。場所はモンパルナスの著名ビストロ、ラ・クーポール、音楽はビートルズの、オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ。晴れやかな笑顔で踊るモデルたちの収録ビデオが、今も目に焼き付いています。合繊がまだ、天然繊維の代替品と思われていた時代に、これは素晴らしい”と評価して下さったデザイナーとしても、強く印象に残っています。

以来今日に至るまで、様々な場面でご指導をいただきました。

<ファッション産業の未来ビジョンを示した三宅一生>

多々あるIssey Miyakeのイノベーションの中でも、とくに日本のファッション産業の未来への方向性を示唆する、と筆者が考える5点とその理由は:


1.プロダクト発想(クリエ-ションの工業化)=プリーツ・プリーズ――スタイリッシュな量販品の確立

プリーツ・プリーズは、それまでの生産プロセスを逆転した革命的製品です。つまりプリーツ加工した生地を裁断して服にする方式ではなく、仕上がった服を想定して大きめの寸法に裁断・縫製したものを、デザインを実現する様々な折り方で畳んで、プリーツ機に送り込み、永久プリーツの熱加工をする手法です。製品在庫を、最終的なデザイン仕上げ前の状態で持てるという、売れ行きリスク削減面でも画期的でした。

三宅氏は、パリコレに毎回参加しながら、少数エリートのための高級ファッションと並行して、年齢や職業とも関係なく現代的な美しさを持つと同時に、機能的で、トレンドとも異なる、イージーなスタイルの服があっていいと、考えていました。プリーツ・プリーズは、「ジーンズやTシャツのように多くの人が自由に着られる服」 を一貫して追求した氏のデザイン思想をまさしく具現化したもの。ポリエステル素材の安価で熱可塑性(高温で形状が固定できる)特質を生かした、インダストリー発想のプロダクト創成を象徴するものといえます。89年春夏コレクションを準備中の三宅氏が、「パン焼き機から出てくるみたいに、ポコンとブラウスが生まれている」、と表現したことはよく知られています。

2.創作活動(コレクション)と工業的生産・販売の有機的連動――クリエイティブな会社が、マス市場向けビジネスを併存させる、という仕組み。

一生氏は、クリエイターとして年2回のコレクションを発表しながら、大衆路線の量産品も生産するという、二つの異る仕事を同時並行で進めました。氏の言葉です。「私にとって、この二つのデザインは両方とも必要なのです。しかしデザインのコンセプトは違っています。コレクションの方は、スタッフたちのリサ―チと訓練の場です。皆感情を熱くして仕事をします。もう一つの量産品の方は、少人数で、冷静に、色々な組み合わせをしたり、いかに継続させてゆくのかを考えます。そしてマンネリ化しないように、常に新しいショックと話題性を提供していくことを考えます。そのため “ゲスト・アーティスト・シリーズ”を96年から始めました。どうやってアーティストを服の中に引き込むかも、こちらも首をかしげて見たいわけです。」(『Issey Miyake Making Things』 佐藤和子解説文 「時を超えた服―三宅一生の三十年」より)

プリーツ・プリーズは、量産といっても、画一的製品を大量に作るのではなく、細かい仕組みで多様な表現を可能にする量産です。これを軌道に乗せたことで、創作デザイナーが、膨大なエネルギーや経費をかけてシーズン・コレクションを発表するための、盤石な財政基盤が確立されました。同時に、これにより、氏がいう 「スタッフたちのリサ―チと訓練の場」が、多彩な能力を持つ人材を引き付け、優れた創造力を発揮させるのです。三宅デザイン事務所がそれらの世界級のクリエイター・チームのパワーをまとめます。

3.テクノロジーをデザイン設計に活用=A-POC――編立設計と一体化した創作活動

三宅一生とそのクリエイティブ・スタッフは、高度な技術に大胆に取り組む集団でもありました。それは工学的技術だけでなく コンピュータ技術も含むテクノロジーであり、その真骨頂というべきものが、98年に開発されたA-POCです。氏のアイコンとも言うべきコンセプト、一枚の布”(A Piece Of Cloth、A-POCはそのイニシャル表示)、と名付けられたこの手法は、服のデザインを編み込んだチューブ状の連続した生地を、利用者がハサミで裁断することでデザインを切り出す手法です。具体的には、経編のラッセル機に改造と工夫を加え、服の設計図をコンピュータに読み込ませて、服の前後に必要な空間がある、部分的に繋がった二重織に編みあげるもの。着用者は、設計された線を選びながら裁断して、自分の好みの襟や袖などのカタチを切りだします。生地はラッセル編地ですが、糸の絡ませ方で、裁断してもほどけない様に設計されています。縫い代のない服作りが可能なので、捨てる部分が少なくなり、省資源にもつながるものです。

「A-POC」と呼ばれる服は、その後、一体成型の完成服だけでなく、服のパーツが織り込まれた織生地を裁断、縫製する、デニム製品などにも展開されました。

クリエイターたちの、デザインとテクノロジーへの革新的発想と実践力に脱帽します。

4.サステイナビリティの実践=132 5 ISSEY MIYAKE ――リサイクル素材活用、ムダを削減するデザイン/加工設計

2010年にブランドとしてスタートした 132 5 ISSEY MIYAKE は、一枚の布(1次元)から立体造形(3次元)が生まれ、折りたたむと平面(2次元)になり、身にまとうことで時間や次元を超えた存在(5次元)になるように、との思いが込められたラインです。(上の画像参照)

三宅氏が、同社のReality Lab.(リアリティ・ラボ)のチームと研究開発を重ねて生まれたもので、コンピュータ・サイエンティストと協働した様々な3次元造形を、折りたたみ、プレスし、切り込み線の位置を変えることでシャツやスカート、ワンピース等を生み出す新たな製法の衣服。基本素材には、改良を重ねた再生ポリエステル生地を使用。サステイナブルで、機能的、洗濯自在で、しわにならない、という、時代の要請をフルに盛り込んでいます。一生氏の、「再生・再創造」というものづくりの考え方を集約した、新たな成果物です。

三宅一生のプリーツの折りの美しさについて、「日本人だから出来たのか?」という問いに彼はこう答えています。「私は、日本の伝統文化を客観的に観察したり、そこに存在する意味や空間意識のようなことは常に考えています。、、日本の素材を現代の生活に合わすには合理化も含めてどうしたらいいか、色々リサ―チもしてきました。その中で、プリーツの折りも、長い間 『タタム』という研究を続けてきました。布は、たたみ方により、全部表情が変わるという訓練をしてきました。これは、三宅デザイン事務所の中で一つの伝統が出来たということで、日本人だからできたというより、この中の訓練がプリーツの『折』を生んできたものだと思います」 (前出:佐藤和子解説文より)

5.工業と工芸の融合=1枚の布、1本の糸を原点とする職人芸――アノニマスが成功の理想 

三宅一生は、大学時代から、日本工芸の織や染を熱心に勉強しており、日本には世界に誇れる優秀な技術や素材があるのに、それらが地方の山の中や、小さな工場で正当な評価を受けることなく眠っていることを残念がっていました。また昔から日常的に着られていた野良着や、車引き、鳶などの日本の仕事着の美しさと機能性にも着目し、研究していました。さらに冒頭で紹介した陶芸家、ルーシー・リィーのように、物事の本質を見極めシンプルな用の美を追求する工芸作家にも、非常な敬愛の気持ちを持っておられました。

衣服と身体の関係を追求し、体を包み込む「1枚の布」を基本コンセプトにしながら、工芸作家の職人芸や手仕事のぬくもりと、現代テクノロジーを合体させようとされた三宅氏は、まさしく、工業と工芸の融合を志向したデザイナーだと考えます。

ファッションが、“デザイナーの名前”という記号を必要としていることについて、氏が、「デザイナーが変に著名性を求めると、必ず堕落が始まる」 と言ったことがありました。「デザイナーはアノニマス(名前なし)になったら勝利だ」 とも。人は服を、気持ちがいいとか、便利だとか、カッコイイから着るのであって、“ブランドや有名な名前 ”だから着るのではない、ということです。その意味では、大成功を収めているプリーツ・プリーズも、BAOBAO(三角形ピースを組合わせ構成した革新的バッグ)も、製品の外観にはIssey Miyakeの名前はなく、まさしくアノニマス製品なのです。

 

三宅一生氏が追及し、遺された考え方やイノベーションを、このように振り返ってみると、あらためてIssey Miyakeの偉大さを痛感し、そこから学べることの大きさを確信します。そして、氏を支えてきた、三宅デザイン事務所の北村みどり社長をはじめとする、創造的で情熱と行動力にあふれるIssey Miyakeチームにも、大いなる敬意を表するとともに、今後ののさらなる発展を祈念します。

20年余にわたるビジネスの低迷、さらに加えて今回のコロナパンデミックの打撃により、将来が見えなくなった日本のファッション産業。私たちは、一体、どこに向かおうとしているのか?

一生さんの哲学とビジョンを、いまあらためて学び、具体的事例から多くのヒントを得て前進することで、大きな可能性を持っている日本の企業、ひいては日本の産業が、未来へ向けて勇気ある革新を進めることを、切に願っています。

<経産省「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」 報告=新時代への設計図 >>

 

 異常気象、集中豪雨による熱海などでの土石流災害や、新疆ウイグル地区の人権問題で日本企業のグローバルビジネスに支障が出始めた、など、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みの緊急性を痛感させる出来事が頻繁に起こっています。

 サステナビリティに繊維産業として取り組むために、経済産業省が今年2月に設置した、「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」の報告書が、今日(7月12日)公示されました。報告書の副題は、「〜新しい時代への設計図〜」。まさしく繊維ファッション産業のこれから目指すべき方向とそのための具体的提案書です。

 筆者もこの委員の一人として、6回の情報共有やディスカッションや施策の検討に加わり、“サステナビリティ”が繊維ファッションに関わる産業にとって、いかに重要で、かつ緊急の課題であるかを、再認識しました。またZ世代と呼ばれる若者たちが、未来へ向けて商品やサービスのサステナビリティを、主要な価値基準としていること。さらに、“サステナブル”という新しい価値の創造が、低迷を余儀なくされている日本のファッション産業に新たな展望を拓くことへの期待も膨らみました。

 委員は、東大の新宅純二郎教授を座長とする、業界各段階を代表する企業や団体のトップ、関連分野の専門家で構成され、毎回、ゲストの有識者による重要分野の実態報告や事例紹介、問題提起を踏まえ、議論が進みました。主催者、製造産業局生活製品課長の永澤剛氏率いる事務局の意欲的な取り組みにも、共感しました。

 報告書は、膨大な情報や事例をふまえた提言を、35ページにまとめたもので、非常に意義深いものになったと考えています。また「概要」として、ポイントの箇条書き的まとめ(全11ページ)や、「プレゼンテーション・ポイント集」 もあります。(リンク→ 

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/textile_industry/20210712_report.html

(6回の委員会議事録も閲覧できます。→繊維産業のサステナビリティに関する検討会

 

<報告書の内容> 

構成は、以下の通りです。

I.             繊維産業の現状

II.           サステナビリティに取り組む意義

III.          サステナビリティに係る現状と今後の取組

1.  環境配慮=限りある資源を有効活用するため、資源循環の取り組みを始める

2.  責任あるサプライチェーン管理=サプライチェーン上での労働環境や使用する素材    等に関して、責任ある管理を進める

3.  ジェンダー平等=社会的・文化的な性差によって差が生じない環境整備を進める

4.  供給構造=適量生産・適量供給に向けた取り組みを進める(過剰供給を是正)

5.  デジタル化の促進=サステナビリティに係る取り組みを進めていくため、デジタル    技術の活用を進める

 詳細は、是非本文をお読みいただきたいと思いますが、強調したい点は、この提言が、“官民一体となった未来へ向けての取り組み”であること。特に重要なのは、サステイナビリティ(持続性)の実現が、企業あるいは業界の努力だけではなく、消費者の参画・協力無しでは不可能であること。消費者=生活者は、サステナビリティにおける最も主要なステイクホールダー(利害関係者)であり、商品やサービスの購入を選択的に行うことで、サステナビリティ実現の成否を、強くコントロール出来る立場にあります。これについては、このブログの、先回、先々回で紹介した、米国アイリーン・フィッシャーの循環型モデルや、ドイツ通販大手 ザランド が顧客の商品選択ツールとして提示している、“サステナブル・フィルター”なども、参照下さると嬉しいです。

 下の、「サステナビリティに係る取り組みの全体像」は、これをよく表現した図です。(報告書「概要」より)

見出しの下にあるように、「繊維産業においてサステナビリティに係る取り組みを進めていくためには、企業及び消費者の取り組み・意識改革が必要」。そして、業界の川上・川中・川下とつながるサプライチェーンは(循環型モデルの場合はなおさら)消費者に深くつながり、その活動を投資家や社会が注視し、評価する、というのが全体像です。

 左下のカコミ、「サステナビリティに係る取り組みの例示」には、喫緊の重要課題が挙げられています。「環境配慮設計」、「店頭回収」(2次流通も含む)、「デュー・ディリジェンスの実施」、「国際認証取得」、「ジェンダー平等への理解・取り組みの実施」、「RFIDなどの活用」、「顧客を中心に置いた事業展開」、「生産工程の改革」など、いずれも日本が欧米先進国に後れを取っているものです。

 中でも繊維ファッション産業においては、女性の活躍がビジネスの発展に大きく貢献すると、報告書は書いています。下記は、「ジェンダー平等」のセッションでの尾原のプレゼン、「女性の活躍を阻む日本の問題」 のチャートです。(「ポイント集」に掲載。尾原プレゼン内容の詳細は、第4回委員会議事録でご覧いただけます)。これらは筆者が、長年、とくに2014年に設立した、一般社団法人 Women’s Empowerment in Fashion の活動を通じて痛感してきたことです。

 日本における女性活躍の遅れは、OECD発表の2021年ジェンダーギャップ指数の順位で、156か国中120位。G7でも最低です。報告書では、“本年6月のG7会議で発出された G7カービスベイ首脳コミュニケにおいても、「ジェンダー平等の達成は、意思決定のすべての側面において、女性の完全、平等かつ有意義な参画に支えられる必要がある」とされたところである”と紹介しています。最近株主総会などで、いわゆる「物いう株主」(アクティビスト)による、企業のガバナンスに関する株主提案が注目されていますが、日本企業の、女性役員や管理職の少なさは、グローバルにみれば、アクティビストが最も標的にしたいイッシューでしょう。

 報告書は、今後の取り組みとして①官民ラウンドテーブルの設置、②若い世代に対するロールモデルの提示や将来を担う若い世代にアンコンシャス・バイアスを打破するジェンダー教育の実施、キャリアイメージを描けるロールモデルの提示、などを提言しています。

 「サステナビリティ」という新しい言葉で語られていますが、モノを大切にし、資源の無駄使いをしないで人々の生活を潤すというのは日本が伝統的にもつ精神です。長い歴史と文化をもち、繊維産業の発展に貢献してきた日本。ノーベル賞受賞のケニア環境副大臣ワンガリ・マータイ氏が深く感銘を受け世界的ムーブメントにした 「モッタイナイ」の思想、あるいはDNAを持つ日本。丁寧に仕立てた着物や浴衣を、何度もリサイクルしながら最後は はたき や雑巾にし、さらに漆喰に塗り込んで土に還らせた日本がもつ、「サステナビリティ」の精神。 これを再度実現して世界をリードしたいと強く願うものです。                      

End                          

 

NRF2021リポート④<女性CEOは 生活者感覚としなやかでスピーディな動員力で>

 NRF2021では女性の講師が40%を占めたとリポートで書きました。

大企業の最高経営責任者(CEO)が多数、また政府高官の女性も登壇しました。代表的講師をあげれば、今回取り上げる、ウォルマー・インターナショナル社、WWインターナショナル社、ビタミン・ショップの3社のCEOほか、ウォルマートCCO (チーフ・カスタマー・オフィサー)やルルレモンCEO、元国務長官で国際的難局をリードしたコンドレッサ・ライス氏や、前ペプシコ CEO で現在も多方面で活躍するインドラ・ヌーイ氏など、多士済々です。ヌーイ氏は、2015年のフォーチュン誌の 「最もパワフルな女性リスト」で2位。ペプシCEO在任12年で売上8割アップを達成、健康・環境問題でも大きな成果をあげた人で、氏の講演テーマは 持続的成長とビジネス目標のバランスーー破壊的変革のかじ取り:社会経済コスト」でした。女性の大企業トップをが、このようなテーマで講演する時代の到来を、嬉しく、また誇らしく感じました。 

『変動の時代を、動員力で成功する』 “Mobilizing and succeeding in volatile times

 今回ご紹介する基調セッションのテーマです。直訳で「変動の時代を、動員力で成功する」 としましたが、内容的には 巨大変動の時代――非常時に機動力で成功する女性CEOのしなやかでスピーディな指導力 ですモビライジングという、戦時下での動員を意味する言葉を使っているのは、コロナ感染との闘いがまさしく戦争であり、制約あるリソース(資源・その企業が保持する強み)をフルに動員、つまり生かしながら、果敢にまた強力にリーダーシップを発揮したことを示すのにふさわしい言葉なのでしょう。

 

 リーダーシップとは人々のために希望を創造する こと: Walmart International CEO

 ウォルマート・インターナショナルのジュディス・マッケンナCEOは 2020を振り返り、 「厳しい対応が求められた。まず、コンタクトレスが米国で始まり、オンライン支払いやブレンデッド・ショッピング(ネットとリアルのミックス)、宅配は2週間かかっていたものを米国では 2 時間に、、、などなど国によって状況も異なった。行動は、ウォルマートのシンプルな5原則に従った。5原則とは、①何よりもアソシエイツ(従業員)をケアする、②店舗の安全確保と顧客に親切・人間的に振る舞うこと(小さな例だが、英国では配達の運転手が  “Happy to Chat.喜んでチャットしますよ” のバッジをつけ、顧客が質問しやすいよう対応した)。③サプライヤーを含むコミュニティへのケア、④毎日起こるあれこれの事柄への注力、そして同時に、⑤長期的事項へのフォーカスだった」と話しました。社員のウェルネスやメンタルヘルスを重視し、“It’s OK=大丈夫よ” プログラムも推進。リモート会議を子供が邪魔してもOK、気にしないで、だと。“We care” (気にかけている)ことを頻繁に伝えるなど、コミュニケーションに努力した。互いへの “信頼” が重要だった、といいます。

 未来について問われると、「2つの考え方がある。仕事は減る、と、もっと増える、の見方だ。楽観主義者の自分は、後者だ。そして働く人を未来へ向けて準備させる、つまり組織が個人に成長のチャンスを与えることが重要と考えている。ウォルマートの経営幹部のほとんどは時給雇いからキャリアを積み重ねてきた人たちで、これは世界的にも当てはまる」。「ウォルマートのような企業は、小売り以外のスキル開発を助けることが出来る。そうすれば将来、求人環境が変わっても、新たに登場する職業で自分のやりたい仕事に取り組む強固な基盤が出来る」、と。

 「全ての国(のウォルマート)が、今回初めてタウンホール(集会所)のようにつながり、より大きなコミュニティを創り、インスピレーションと希望を創造すること、を強調した。私はこれまで、〝人々のために希望を創造するといった仕事をやることになるとは、思ってもみなかったが、これこそがリーダーシップの本質だと、いま、考えている」、とのマッケンナCEOの言葉に、危機の中こそリーダーシップが輝くことを痛感します

                     ウォルマート・グローバル 社のマッケンナ氏(右)と 司会のAmex社マクニール氏(左)

大胆なアクション=CBD 市場に参入: The Vitamin Shoppe のシャロン・レイトCEO

 サプリメントやビタミン剤、健康食品の販売で全国に780店を展開する ザ・ビタミンショップは1977年創立の企業。 “あなたが目指すベストのあなたになるのをヘルプします” のスローガンで、店舗やサブスクリプションを通じて、人々のウェルネスに貢献する会社です。

 レイト氏は 2020は自宅フィットネス産業が急拡大した。コロナで顧客は信頼できるブランド志向を強めた。わが社は、製品の品質、ビタミン剤のエキスパート、業界をリードする革新的企業、などのブランド・イメージをもっており、これがコロナ下でも継続的支持につながった。 2020は、主要カテゴリーである、免疫力強化関連の、ビタミンC、D、亜鉛が伸び、2021へも継続しているが、加えて人々は、肉体的、精神的、感情的健康を求めていた。ストレス、睡眠、基礎的健康、スポーツ栄養、体重管理、解毒、そしてCBDだ」と述べ、大胆にCBDの提供を決めた経緯を話しました。 (CBDとは、カンナビジオールの略称で、カンナビス(大麻)から抽出される主要成分の一つ。他の主成分の通称 THC のように「ハイ」になることはなく、不安障害やうつ病や不眠などに効果があるとされる。アメリカでは2018年に医薬品に承認)。

 ウェルネス分野で最初の企業としてCBS市場参入の決断をした同社ですが、11月に自社ブランドでローンチするに先立ち、消費者調査をしました。その結果は、56%の人がコロナのストレス下で、リラックスし体調のバランスをとる方法を探しており、50 がCBD を取りたいと答えた、と述べています。顧客の要望に応えたアクションでした。マーサ・ステュアートとのパートナーも組みました。

 もう一つ氏が強調したのは、「顧客のいるところへ出向くこと。Meet Where customers are=店に来てもらえない中、顧客に近づく)ためのあらゆる手段を講じた。消費者直販を出来るだけ簡便でイージーにすることにも注力。 2020年の最も大きな収穫は、チームの、顧客が求めるものにあらゆる方法で対応する “レジリエンス(しなやかさ)” だった。これには感銘した」。 「人々は孤独になっている。 話をし、エンゲイジする機会を欲しがっている。そこで ザ・ビタミンショップがコミュニティ、言いかえれば Safe Heaven (安全な楽園)になった」 も、コロナ禍が人々に与えた精神的・心理的な変容を物語るものと、感じました。

ビタミンショップCEOのリート氏(右)と WWインターナショナルCEOのグロスマン氏(左)

コロナでの方向転換を、デジタル投資が助けてくれた: WW International ミンディ・グロスマンCEO

 「2020 が教えてくれたこと。それは何よりも、健康がこれまで以上に重要であることだった」が 開口一番のグロスマン氏の言葉でした。よりよい、より健康的な生活を送ることが、本当に重要な時代になったと。 

 業界でミンディ、と親しく呼ばれる氏は、ラルフローレン、ナイキなどで多彩なキャリアを積み、テレビショッピング大手 HSN の CEOとして同社の上場を果たしたあと、ウェルネスの世界を拡大したいと、2017年に、Weight Watchers社のトップに就任した、小売り業界のスター的なエグゼクティブです。ウェイト・ウォッチャーズ社は1963 年ニューヨークで主婦が創業した、その名の通りの「減量」を狙いとする商品やサービスを提供するフィットネスの会社でしたが、グロスマン氏はこれを、フィットネス、マインドセット、栄養、睡眠 の4つを柱とする “ウェルネス企業”へと発展させ、2018年には社名もWW International に変更しました。

 「2020年は、人気者のオープラ・ウインフリーと全米9都市ツアーを計画、強力なモメンタムでスタートしたのだが、予期せぬコロナで、計画中止。ピボット(方向転換)を余儀なくされた。これまでデジタル・トランスフォーメーションに投資をしてきたことが役立ち、ダイナミックな方向転換が出来た。チームはパーパスとパッションに導かれた形で素晴らしく動いてくれた。個人対応のウェルネス・ワークショップを、すべてバーチャルにし、全国 12か所で実施できるよう15000人のコーチを養成する体制を、6日間で作った。テクノロジーを駆使し、ウェルネスを達成する新しいエコシステムの構築が出来た。パンデミックがビジネス変容を加速してくれた、といえる。WWの4つの柱は、コミュニティの力で構築したものだ。」

 「1116日には “My WW+” を、食品がらみでないイノベーションの一つとして、AI と機械学習を利用し、完全にカスタマイズした、パーソナルでホリスティックな体験を、全メンバーに提供することにした。さらに2021は、新垂直型メンバーシップ、“Digital 360”をローンチ。 コーチング、コンテンツ、コネクティビティ、コミュニティ、のパワーを加えてより大きなパワーアップを図っている。新パーパスとして加えた “ヘルシー習慣= healthy habits for life”、 最近立ち上げた “WWファミリー” も、ジェイムス・コーデン(英国の俳優)をスポークスマンに起用して、顧客基盤の拡大に貢献。ウェルネスの民主化を願っており、経済的に困窮する人々10万人に無料会員の提供も行っている。」 そして最後に、「これらすべてを通じて、信頼できるブランドとして、人々の期待に応える」 と締めくくりました。

  これらの女性CEO登壇の司会をつとめた アメリカン・エキスプレスのグレンダ・マクニール氏は、同社が202010月に実施した全世界消費者調査で、回答者の70 がフィトネスを、 68 が肉体的健康だけでなくメンタル面での健康を重視すると答えている事実を紹介し、「よりよい、より健康的な生活を送ることが、本当に重要な時代になった」 ことを強調しました。 

 Life(命)と Livelihood(生活)が脅かされたコロナ・パンデミックの中で発揮された、人と生活に心を寄せる女性エグゼクティブのリーダーシップに拍手を送るとともに、日本の女性活躍の実態を悲しく思いました。元首相の 「文部省が女性を40%に、とうるさく言うから、、、。女性が入った会議は長くなる、、。(組織委の女性は)みんなわきまえておられる、、」 などの発言で、ジェンダーの問題が、日本社会にいかに根深くはびこっているかを、改めて痛感しました。日本の女性も奮起しなければなりません。                                                                                                                                           End