イノベーション

< 転換期の ファッション・ビジネス - 消費者行動の変化に理解を >

  『ファッション・ビジネス 創造する未来』 を繊研新聞社から出版してから、ほぼ 1 年が経ちました。

  ―グローバリゼーションとデジタル革命から読み解くー という副題を付けたこの本は、多くの方に共感を頂き、日本のファッション・ビジネスに今求められている 「ディスラプション(創造的破壊)」 の動きのきっかけを作ったように感じています。ファッション・ビジネスの巨大な転換点に立って、“この本を書かねば、私のキャリアは全うされない” との想いで、年の年月をかけて執筆した甲斐があったと、いま痛感しているところです。

 嬉しいことに、日経新聞の923日付け 「今を読み解く」 欄、『変革期のファッション・ビジネス』でも、冒頭で紹介されました。執筆者は、現在、日本マーケティング学会会長を務めておられる中央大学の田中 洋教授です。

日経記事「今を読み解く」 尾原著書の紹介 2017.9.23 掲載

 冒頭の文章は:

「ファッション・ビジネス」という用語を1968年に日本に最初に導入したのは後にIFIビジネススクールを興した尾原蓉子だった。ファッション・ビジネス(FB)が有望な市場と考えられたのは 90  年前後である。当時の日本ファッション協会の設立趣意書にみられるように、FBとは、アパレルに止まらない生活全般にかかわる概念としてとらえられ、大いなる可能性が信じられていた。

現在、尾原はファッション業界に「破壊的革新」を起こさなければ未来はないと著書で断じ、例えばシェアリングやレンタルのような「フロー」型ビジネスへの転換が必要だと断じている。(『ファッション・ビジネス創造する未来』、繊研新聞社2016年)

 このコラムでは、他にも、業界の現状をつぶさに紹介する 『誰がアパレルを殺すのか』 (杉原淳一・染原睦美著 日経BP社2017年)、『ザ・ファッション・ビジネス』 (明治大学商学部編 同文館出版 2015年)などの著作も挙げられています。いずれも、「インタビュー記事」や「講演録」として筆者も想いを語っている本です。

  他に紹介されている本としては、『ファッション・ビジネスの進化』 (大村邦年著 晃洋書房2017年)、『カブフェレ教授のラグジュアリー論』 (同文館2017年)もあります。

 田中教授はまとめとして、「ファッション・ビジネスの破壊的革新を導くためには、I T の仕組みを徹底的に活用しながら、消費者の新しい行動様式を理解する必要がある」   と述べています。

 未来へ向けてのファッション・ビジネスは、成熟社会であっても、A Iやロボットが日常生活に浸透する時代にも、人々にワクワク感をもたらし、心を豊かにし、個人のライフスタイルや個性の表現する手段として、重要な役割を持つものだと、私は信じています。その根底にあるのは、消費者の新しい行動様式を理解することです。個人としての顧客(個客)、あるいは、これまでと全く異なる価値観を持つ、ミレニアル世代やZ世代の理解です。

 この観点から、旧態を脱し、テクノロジーを駆使して、「新しい時代のファッション・ビジネスを創造する」 ことに取り組みたいと、改めて感じます。

 

 

WEFシンポ:C Channel 森川亮社長 と ジュピター・ショップチャンネル 西塚瑞穂MD副本部長で

  WEF第10回公開シンポジウムを、7月21日(金)18:30~20:40に開催します。

 テーマは、  「顧客フォーカスで、共感と感動を呼ぶFBイノベーション 

           ――テレビショッピングと 女性向け動画のファッション雑誌から学ぶ――  

 講師は C Channel の森川亮社長 と ジュピター・ショッップチャンネルの西塚瑞穂マーチャンダイジング副本部長

 詳細は →http://www.wef-japan.org/event/982.html WEF第10回公開シンポジウムご案内 <20170721開催> をご覧ください。

 ファッションの店舗での販売が落ち込む中、店舗の外で 深く静かに進む潮流の代表的事例、つまり、若い女性を魅了するSNS動画メディアのC Channel と、中高年女性がはまる テレビショッピングを取り上げました。顧客がそれぞれのライフスタイルと価値観で、メディアやショッピング手法を選ぶ時代になり、それぞれへの照準(フォーカス)が重要になっているからです。

  森川氏は、いまやグローバルに拡大している LINE を立ち上げた方でもあり、現在はデジタル・メディアの最前線である動画メディアに取り組んでおられます。西塚氏は、「テレビショッピングは最高のエンターテインメント」をかかげる日本最大のテレビショッピング会社で、24時間ノンストップ放映のマーチャンダイジングに取り組んでおられる方です。 パネルディスカッションでは、ショップチャネルにデザイナーとして出演している横森美奈子さんにも登壇いただき、生駒芳子さん(いずれもWEFの設立メンバー) のコ―ディネートで、活発な議論が進むと期待しています。

 

 WEFのシンポは昨年から、ディスラプション時代の、ファッション・ビジネスのイノベーションをテーマにしています。今回も、FBの変容を実感して頂けると嬉しいです。

(完)

< 女性には ”管理職” よりも ”優れたリーダー” になってほしい >シリーズ ①

 「女性とリーダーシップ」について、シリーズで私の想いを書きたいと思います。

 女性の活躍が目立つようになりました。世界を見れば、ドイツのメルケル首相や、IMF(国際通貨基金)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事、日本では東京都知事の小池百合子氏など、政治の世界でリーダーシップを発揮する女性が増えています。  ビジネス界でも、米国の「フォーチュン500」(大手企業トップ 500社)で女性CEO27名になりました。中でも、自動車業界最大手ゼネラルモーターズ社のメアリー・バーラCEO、IBM 社のバージニア・ロメッティ CEO、世界最大航空防衛機器メーカーのロッキードマーティン社マリリン・ヒューソン CEO など、伝統的製造業やIT業界の大企業で女性トップが誕生している事には、まさしく隔世の感があります。

女性活躍度国際比較 日本は144国中 111位 (世界経済フォーラム GGI 値-   0 が完全不平等、1 が完全平等 )

  日本でも、女性がビジネスの多くの場面で成果を上げ始めたのは、本当に喜ばしいことです。「2020年には女性管理職比率を30%にする」という、政府の “2020-30”スローガンは、昨年4月には、「女性活躍推進法」の施行に進展しました。

 しかし残念なことに、日本の女性活躍へのスピードは、諸外国に比べて非常に遅いのです。 世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」の国際比較(左表)では、日本は 144カ国中 111 位であり、その順位は前年より下がっている。というのは、日本も改善しているのですが、他国の改善スピードに追い越されたためです。

 

<管理職よりは、優れたリーダーになってほしい>  

日本が遅れているのは、社会に浸透している伝統的な男女意識や男性中心の企業風土と、女性が子育てをしながら働ける環境が十分でないこと、が最大の要因でしょう。しかし同時に、私が重視しているのは、〝女性が管理職になりたがらない″ことです。その理由としては、女性自身が「私にはまだその実力がない」とか、「管理職って責任が大きくて大変そう」とか、周りの管理職を見て「仕事に情熱的に取り組むというよりは、何時も疲れていて気の毒」とか、「プライベートライフとの両立が難しい」、などが上がります。  これは、日本的ヒエラルキー組織での管理職が、欧米のように能力と成果で採用・評価されるというよりは、年功序列や会社への滅私奉公的態度で評価される、あるいはそう思い込んでいる、ということによるものです。

 しかし女性の活躍は、女性自身が意識と考え方を変えることで、突破口が開かれる、と私は考えています。つまり女性をエンパワー(パワーアップ)し、女性が主体性をもって自分のキャリアに取り組む喜びと自信を持つようになることです。(一般社団法人 ウィメンズ・エンパワメント・イン・ファッション http://www.wef-japan.org/ を設立したのも、このためです)

 「管理職になる」というのは、組織を前提とした昇進です。しかしこれからの時代には、その人物が、組織を超えて(組織の外へ出ても)評価される力を持つ必要があることを、企業も個人も十分認識せねばなりません。

 

<リーダーシップと管理(マネジメント)の違い>

 企業などの組織や業務を管理(マネジメント)する仕事は、非常に重要です。しかし社会がフラット化し、あらゆるビジネスが巨大な転換期にある今、これまでの上から下への〝管理″ではなく、新たな方向に向けて変革をリードすることが非常に重要になっています。

 リーダーシップとマネジメントについて、アメリカの名経営者とされるGE(ゼネラル・エレクトリック社)のジャック・ウェルチCEO は言いました。 現在の企業は、マネジメント過剰でリーダーシップ不足だ。、、、管理職は必要ない。必要なのはリーダーだ」。

リーダーシップとマネジメントの違いは、次のように説明できます。

   リーダーシップの本質は、「改革」 「イノベーション」 「後進育成」。すなわち〝どこへ行きたいか″(ビジョン)を示しチームをリードすること。〝管理″の本質は 「与えられた目標の達成」。

    リーダーが引っ張るのは、「自立自責型人材」。つまり強い個人″と チームワーク。管理職がマネージするのは、既定の目標・予算・業務の実行。リーダーは “管理”よりコーチングで成長する。

    リーダーは、管理組織を超えた〝事業やプロジェクト″の主人公になる。チームと一体となってビジョンにむけて全員が貢献するようリードする。管理者は、所轄範囲の中でのマネジメントを行う。

 

 私が日本の女性、とくにファッション・ビジネスに関わる方々に、〝管理職よりは、優れたリーダーになってほしい″と願うのは、ファッション・ビジネスが今、従来の発想や思考方法の枠組みを超えた、抜本的でディスラプティブ(従来の秩序を破壊する)な〝破壊的創造″を求めているからです。女性ならではの感性や生活実感を持ち、変化を好み新しいライフスタイルへの興味が旺盛、などにより、変革を身体で感じ実行できる女性たちが、それをビジネスに生かさないのは勿体ない、と考えるからです。

 それによって、女性自身も自分に自信を持ち、リーダーシップを取って新たな価値を生み出す喜びと達成感を得ることが出来るはずです。その達成感や喜びが、商品であれサービスであれ、あるいは職場の活性化に関するものであれ、その体験と自信によって、さらに責任あるポストについて、より大きな仕事をしたい、と望むようになると思うのです。そしてリーダーとして優れた実績を上げれば、影響力の大きいポジションが自ずとついてくるのです。

 次回は、「優れたリーダーの条件」と、WEF(一般社団法人 ウィメンズ・エンパワメント・イン・ファッション)が開催した、2017年第1回キャリア・フォーラムのワークショップについて、書きたいと思います。