エコ・サステイナビリティ

<ソーシャル・ビジネス時代とファッション⑥ ―企業哲学としての社会性 :フェリシモ>

 「社会性」 を意識した事業を継続的に推進している企業で、私が特に感銘を受けているフェリシモという会社の事例を御紹介します。

 ㈱フェリシモは、神戸に本社があるダイレクト・マーケティングの会社です。カタログとインターネットによる販売という意味では通信販売会社ですが、非常にユニークな仕組みを持っています。顧客が商品を選択するのではなく、フェリシモが提供する様々なコレクション・シリーズの中から、顧客が自分の興味や関心によって選んだコレクションの商品が、定期的に届くという仕組みです。 消費者の多様化や個性化が言われる昨今、言ってみれば「おまかせ」のこういったシステムが成り立つのは、同社の歴史が育んだ顧客層、フェリシモ・ファンの強い支持があること、またその「支持」こそが、同社の哲学である “「事業性」、「独創性」、「社会性」のバランス”、の成果だと、私は考えています。この考え方は、今から25年も前から同社が掲げて来た企業理念です。企業活動は、「事業として成り立たねばならない」が、同時に「社会にマイナスをまき散らさないだけでなく、プラスに貢献できる」ものである事が重要、というのが矢崎和彦社長の考えです。そういった社会に役に立つ活動を、単発で終わらせないで持続可能にするためには、商品が顧客にとって魅力あるものでなければなりません。そこで「独創性」つまり簡単には真似できないデザインや作り方の創意工夫が必要になります。商品が顧客の期待を裏切らないものであるから、顧客は会社に「おまかせ」で、次に何が送られて来るかを楽しみにしているのです。

 フェリシモ社の考え方と多様な事業の詳細をここで紹介する事は出来ませんが、興味のある方は、同社の矢崎和彦社長が書かれた『ともにしあわせになるしあわせ』という題名の著書(英治出版。今年の7月に出版)を読まれる事をお勧めします。

 「事業性」、「独創性」、「社会性」の3つが重なる領域こそがフェリシモのめざすべきビジネス、という考え方は、実は25年来のものです。当時、メセナやフィランソロピーに取り組む企業が数多くありました。しかし大手企業が利益の中から多額の寄付をする、あるいは文化事業を行う、というのは、「自分達には関係のない世界だな」と感じていた、と矢崎社長は本の中で述べています。「本業で儲けて別のところで寄付をするというのでは、本業で利益が上がらなくなったら、継続できない。自己の確固たる事業基盤の上で社会に貢献することこそが、サステイナブルな取り組みだ」という考え方です。

 社会的事業の一例、「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト」(CCP) を紹介しましょう。(写真)さをり織りポーチ。スマホを入れたまま操作できる) Challengedとは、欧米で「障害を持つ人」の意味で使われる言葉です。もとは重度の障害を持つ母親が、「チャレンジドを納税者に」のコンセプトで、「障害者が自立できる社会にしたい」の想いで推進しているプロジェクトです。フェリシモはこのプロジェクトに感銘を受け賛同し、障害者がつくる製品が、「バザーなどでしか売られない」のではなく、さらに「障害者のために買ってあげる」といった姿勢ではなく、「欲しいから買う」ものにする方法を考えました。そして障害者が描く色彩豊かなデザインや、細かい手仕事で製品を忍耐強く仕上げるスキルを、同社が持っている商品企画力や生産の仕組み、マーケティング力に結び付けて、魅力ある商品に仕上げているのです。実際に某アパレルメーカーの担当者が、「これはどこのデザイナーのバッグですか?」と尋ねたほどの出来栄えです。

 海外での社会的事業も数多いのですが、2年前から取り組んでいる、「グラミン・フェリシモ」も簡単に紹介しましょう。

グラミンチェックのエコバッグ

このプロジェクトは、グラミン銀行の設立者のムハマド・ユヌス教授が貧しい人の雇用のために現地の織機で織らせていた綿のチェック生地に、フェリシモがオシャレなデザインを持ちこみ「グラミン・チェック」を創造することによって、売り上げと雇用を拡大したものです。チェックのデザインは世界コンペを行い52カ国150人のデザイナーの応募作品から最優秀の「インフィニット・ホープ(無限の希望)」のデザインを選びました。また、これによって設置されたインフィニティ基金は、ペダルをこいで水を浄化する浄水器付き自転車(日本製)を購入・提供、という形で現地を支援しています。

 これらを支える大きな力は、同社の企画力、独創性です。これにはフェリシモの非常にユニークな採用方法も、大きく貢献しています。定員の何百倍におよぶ応募者に選考過程で出される課題は、「自分カタログ」の作成です。自分のやりたい事、考え方などを自由な形で「カタログ」にさせ、編集力や表現力、特に創造性をみるのでしょう。どれも力作で、その努力の過程にその人物がよくわかるそうです。非常に有効な素晴らしい入社試験だと思います。

 障害や貧困に苦しむ人への支援は、多くの企業が色々な形で取り組んでいる社会問題ですが、「魚を与えるよりも、自力で魚が獲れるようにする事」が重要です。フェリシモのユニークな点は、こういった「自立」を支援する事に加え、“ともにしあわせになるしあわせ”という明快な企業哲学をもとに、生活者であるお客さまの賛同・参画を得ながら、つくる人も使う人も、その仕組みを作る人も、すべてが幸せな達成感を得られるビジネスを組み立てている事です。そしてそれが、意欲的で創造力のある社員によって実現されていることに、21世紀企業の進むべき新しい方向性を感じます。

<ソーシャル・ビジネス時代とファッション④――事例:エコロジー、サステイナビリティ>

 ファッション関連ソーシャル・ビジネスの日本の事例をいくつか見てみたいと思います。

   ソーシャル・ビジネスには、取り組む製品やサービスにより、多様な事例がありますが、このシリーズでは、まずエコロジー/サステイナビリティの視点での取り組み、ついで(次回に)エシカル(倫理・道徳的。人道的)な視点からの取り組み、さらに、特定の製品や素材ということではなく、ビジネスの考え方・やり方が利潤追求だけでない社会性を持っているもの、に分けて私が注目している事例をご紹介します。

  エコロジー、サステイナビリティの事例として取り上げたいのは、オーガニックコットンのアバンティ社と 「風で織るタオル」 で注目された池内タオル社です。

1. ㈱アバンティ―― 1985年に創立された、この分野の草分けとも言える会社で、無農薬有機栽培綿による、糸、生地、布製品の製造・販売に携わっています。 創業者の渡邊智惠子さんは、1990年にイギリス人のエコロジストからの依頼でオーガニックコットンの生地の輸入を手掛けた際、通常の綿栽培には多量の農薬と化学肥料が使われることから、自然環境へのダメージが極めて大きいことをはじめて知ったといいます。同時に、米国のテキサスに、手間ひま惜しまず無農薬有機栽培農法を徹底し、自然と共存しながらコットンを育てている農場主が居ることを知り、オーガニックコットンを広める目的でアバンティを設立しました。 コットンはもともと種類によって異なる色をもっていますが、それを大事にしながら、原綿から糸、生地までの一貫供給態勢を確立しました。はじめは漂白や染色をしないために鮮やかな色が出ないことから販売にも苦労したとの事ですが、だんだんにシンパが増え、オリジナルブランド 「プリスティン」 を開発したことも奏功して、国内各地の百貨店等に販売するようになった、長年の努力による成功例です。

  2008年には毎日ファッション大賞を受賞、2009年には経済産業省「ソーシャル・ビジネス55選」 にも選出されました。また同年には、日本国内の長野小諸での綿花栽培もスタートさせています。毎日ファッション大賞受賞に当たって渡辺さんは、「オーガニックコットンと出合って18年間、一筋に普及、啓発に取り組んできた。 原綿を輸入し、紡績、テキスタイル、製品までを Made in Japan にこだわり、一貫した顔の見える物作りをしてきた。 日本全国の産地で残っている技を、オーガニックコットンの素材に生かしてもらっている。 オーガニックコットンを通して、素晴らしい日本の技を世界に発信することがアバンティの仕事だと思っている」 と述べています。

2.池内タオル株式会社――  愛媛県今治で創業60年の歴史を持つ、タオルのメーカーです。今治地区は日本のタオルの最大産地であり、一時は国内生産の60% のシェアを持っていました。しかし安い中国製品に押されてビジネスが難しくなり、現社長の池内計司氏は 差別性ある高級品を販売する、それも環境に優しい作り方で製造し、世界のトップクラスのタオルメーカーになろうと決意しました。そのため2000 年に業界で初めて ISO14001を 取得し自社ブランドIKT を立ち上げ、翌年には ISO9001 も取得しました。原材料や生産工程で使用するすべての化学薬品の安全性について『 赤ちゃんが口に含んでも安全なもの 』として国際機関の認証も受けています。またオーガニックコットンを原料にし、風力発電100%で作った 『風で織るタオル』(商標登録)を開発、米国の業界トップ小売業であるABCカーペット&ホーム等でも高い評価を得ることができました。「風で織るタオル」と言っても自社発電ではありませんが、通常より2割高い「風力発電による電気」を購入することで、必要な電力をすべて風力で賄っているということです。2013年6月には、国連グローバル・コンパクトが認める環境ラベルである WindMade(ウィンドメイド)の認証を、日本企業として初めて取得しています。 WindMadeとは、風力エネルギーなどの再生可能エネルギーの普及を世界的に後押しし、 気候変動問題の解決に貢献することを目的とする認証です。

 池内氏が本格的に環境問題に取り組むきっかけとなったのは、同社が世界で最も厳しい排水規制もクリアする浄化施設を持っていると聞いて見学に来たデンマークのノボテックス社社長のことば、「これだけの設備を作り上げた技術に驚いたが、もっと驚いたのは、経営者の池内が、環境に関して無知であること」であったと、経済産業省の ソーシャルビジネス注目事例を集めた巻頭特集は語っています。 地球環境に関心が高い企業だったとはいえ、タオルの原材料である綿が、その生産工程において想像を絶する大量の農薬、消毒薬などを使用している現実があります。「使用する綿を100%オーガニックに変更するにはまだ時間を要するが、企業の活動自体が地球に与える環境負荷を最小限にすると同時に、生産するタオルは出来るだけ長期間に渡って製品品質が持続できる物つくりを基本においている」と池内氏は述べておられます。また「『地球にやさしい会社』 と簡単に言うが、オーガニックコットンを作る農家やその愛用者は「地球にやさしい」としても、それで商売をやっている人は、そのビジネスのプロセスが環境破壊をしているケースが多い。自分の会社が受け持っている範囲、わが社であれば、糸を染めて織って製品にする、その間の工程をどこまで環境に優しく出来るか。 社内的には最小限の環境破壊で、を強調している」と池内氏は同社のホームページで語っています。

   (次回は、エシカル視点でのアプローチの事例を紹介します。)

<日本が世界に誇れるもの⑥  「日経ビジネス特集」から FBは 何を学べるか?>

 日経ビジネスの「世界に誇るニッポンの商品100」特集(1015日号)は、このところ自信喪失ぎみの日本人に、日本の持っている力をあらためて気付かせ、自信を持たせてくれたと 私は感じました。   私だけでなく、そういう声を多数聞きました。

 これらの商品やサービスが世界で成功している理由は、 

  ① 日本が持つすぐれた要素技術

  ② ユーザー(使い手)の立場に立った問題解決や創意工夫の能力

  ③ まじめで真摯な商品開発の姿勢

  ④ 一過性の宣伝やマーケティングではなく地味で地道な販売努力

  ⑤ ハードとソフトを合体した総合的アプローチ

  ⑤ すべての面での高度な品質、     などにあると考えます。

 この特集が、「誇れる商品・サービス」100点を、4つの領域に分けて紹介したことも、興味深く思いました。 4つの領域とは:

  Part 1 「日本発」が難問を解決する」 ―世界を救う商品・サービス 

  Part 2 「シェアトップつかむ秘密」 ―世界で売れる商品・サービス 

  Part 3 「日常に入りこむ『ニッポン』」 ―世界の暮らしを変える商品・サービス

  Part 4 「安全・快適・愉快を売り込め」 ―日本の未来を創る商品・サービス、     です。 

 Part 1 と Part 2 は、主として “モノ” や “機能”、すなわち物的価値を前面に押し出すものであるのに対して、Part 3 と Part 4 は、主として “ソフトパワー” とも言うべき要素、すなわち “感性” や “情緒” に関わる区分でもあります。

 ファッション・ビジネスが、これらの商品やサービスが持つ優位点と、この分類から 学べることは何でしょうか?  それは、 「技術と機能」 で勝負する Part 1 2 よりは、 Part 3 や 4 の、「感性価値=感性・感動とデザイン・美」 を前面に押し出す商品やサービスの強みです。  言いかえれば、従来型の、あるいは新興国が短期間にキャッチアップ可能な  「ものづくりの技術」 や 「製品の機能」 だけでなく、「エモーション」 を重視する商品やサービスを開発する事だと思います。 「技術と機能」 で勝負する場合でも、その 「技術」 が他国の追従を許さない 圧倒的優位性を持っていること、あるいは提供される 「機能」 が、全く新しいコンセプトで生みだされたものであったり、消費者の 「感性」 にアッピールするものであることが、重要でしょう。 たとえばユニクロの “ヒートテック”や 無印良品 の “直角靴下” は、その好例だと考えられます。

 「感性価値=感性・感動とデザイン・美」 を前面に押し出す商品やサービスの例を、Part 3 の領域(日常に入りこむ「ニッポン」)でみてみると、ハローキティ、精巧な玩具のトランスフォーマー(車や動物がロボットに変形する)やガンプラ(ガンダム・プラモデル)、あるいは女の子向けの細部にまでこだわったシルバニアファミリー(人形の動物たちがミニアチュアの家で暮らすのを楽しむ)、ドラえもん、ポケットモンスター、初音ミク、白鳳堂の化粧筆(世界高級化粧筆市場の過半数のシェア)、などがあります。

 Part 4 の領域(安全・快適・愉快を売り込め)でみると、ゴスロリファッションや 渋谷109系ファッションは、ずばりファッションですが、それ以外でも、geografia(紙製地球儀)、外人が喜ぶ高感度のホテルMume、アルコール0%で世界初のキリン フリー、つけまつ毛や、滑らか書き心地のボールペンのジェット ストリーム、アニマル ラバーバンド(動物の形をしたカラフルな輪ゴム)、さらには勤め帰りの女性むけの、お楽しみと料理の勉強を兼ねた体験型ABCクッキングスタジオ、など、感性や気分、エモーションをビジネスにしているものは、ファッションの世界に繋がるものです。

 ファッションの商品開発というと 私たち業界人は、どうしてもトレンド(流行)だとか、パリの○○デザイナーの新コレクションに注目、といった形で、服のスタイルやデザインに絞って考えてしまう傾向があります。しかし、飽食の時代を経て、また、環境保全やサステイナビリティ、企業の社会的責任、などが重要になっている今、ファッションの世界でも、「流行を創る」、「それを追いかける」ことを超えた、抜本的な変革が求められています。玩具のトランスフォーマーの発想や、日本の伝統的着物の手法(何度も仕立て直し、染め直し、サイズ調節をし、使い古したら、雑巾やはたきにして、最後まで利用しきる)などの衣服の原点に立ち戻って、これまでと全く違うファッション創りを考えることが出来る筈です。

 服作りのコンセプトやデザインの変革では、三宅一生のプリーツ・プリーズが優れた例だと考えます。また、未来へ向けての先駆的なものとして、2010年8月に発表された「132 5. ISSEY MIYAKE」があります。これは、三宅一生の現在進行形のプロジェクトですが、折りたたむ事で平面と立体を結びつける斬新なデザイン・アプローチによる画期的な服です。ポリエステル再生繊維を独自の工夫と織物工場などの協力で 人が着用出来るようしなやかにしたもので、2012年の毎日ファッション大賞 「30周年記念賞」を授与されました。量産にはまだ時間がかかると思われますが、ファッションとデザインに、新たな境地を切り開くものと考えます。  (http://mds.isseymiyake.com/mds/jp/collection/ 参照)

 イギリスの経済誌エコノミストの 元編集長ビル・エモット氏が強調するように、「日本人には知恵と創造性がある。、、日本の資産は、製造業でもインフラでも技術でもなく、“人” にある」のです。(日経ビジネス誌「2013徹底予測」)

 ファッション・ビジネスの新たな価値創造と、ビジネスのグローバル化が喫緊の課題になっている今、日本人自身が、日本の製品や技術に、そして何よりも、「日本人の創造力・創意工夫力」 に自信と誇りを取り戻し、あらためて「世界に求められ、愛される商品やサービス」を開発・提供したい、またそれは可能である、と痛感します。