エコ・サステイナビリティ

<日本が世界に誇れるもの③ 「日経ビジネス特集Part 2」とNHK「サキどり:貧村支援>

 今朝(122日)のNHK番組「サキどり」で 「貧村変える製品づくり」を見て感動しました。日本の若者が世界の極貧地域へ出向いて、日本人の知恵と技術でその生活を少しでも便利かつ健康的なものにするプロジェクトの話です。これも「日本の強み」を活かすものですが、これについては後で述べます。

 <日本が世界に誇れるもの>シリーズ、今日は、先回の日経ビジネス特集「“日本発”が難問を解決する―世界を救う商品・サービス」のPart 1に続いて、Part 2 「シェアトップつかむ秘密―世界で売れる商品・サービス」について書きたいと思います。 

 日経ビジネスが、「シェアトップつかむ秘密」で取り上げているのは、22事例。

なかには、デジタル一眼レフカメラやのキャノンやニコン、カップヌードル(日清食品が世界80カ国以上で年間1000億食!)など、一般によく知られているものも多いのですが、「意外!」、しかし「納得!」と思うものもあります。

たとえば特定地域の生活に密着した製品。寒暖から身体を守る保温や冷却手段の「使い捨てカイロ」(ホットハンズ・暖宝宝)や、おでこに貼る「冷却シート」(クールフィーバー)などです。いずれも中国や東南アジアでは「すごく便利」でありながら、現地では考えられたことも無い製品であり、そのために、それらの地域で大きなシェアを獲得しているとのこと。日本では「より快適な生活」への欲求が生んだ製品ですが、世界の一部の地域ではそれらが必需品に近い価値を持つ、ニッチ商品になることを示すものです。

逆に世界の全市場へ向けて、日本の高度な工業技術と継続的・革新的な製品開発で世界を席巻している例もあります。ファッション関連の領域では2社が上がっています。圧倒的なシェアをもつYKKのファスナー(金額ベース世界シェア4割超え)と、工業用ミシンのJUKI(世界シェア約3割)です。いずれも高度な技術力・商品開発力と積極的な地域ユーザーのニーズへの照準が成功の主要因です。YKKは1959年という早い時点でニュージーランドに拠点を設立。故吉田忠雄氏の独創的な経営哲学により、入社間もない社員を「土地っ子になれ」と海外に送り出してきたとの事。現在は世界71カ国・地域に拠点を持ち、とくに高付加価値の商品で優位性を持っています。JUKIは、年間60万台のミシンを世界中の縫製工場に供給しているそうですが、特殊機能の高額ミシンから、ブラジルやインドでの超低価格国内市場向けを担う製品まで、圧倒的なラインアップでNo.1となっています。

特集「100選」のPart 2 で紹介されている製品は、これらのほか、タイヤ(ブリヂストン)、高級ヘルメット(SHOEIが世界シェア過半)、バドミントン用品(ヨネックスを世界トップ選手が愛用)、ピアノ(ヤマハ)、Seki Edge(爪切り)、空調(ダイキン工業)、ビデオカメラ(ソニー)、オフィス用複合機(リコー)、船外機(船用エンジン)、マミーポコ(ユニ・チャーム)、ポッキー(江崎グリコ)、マルちゃん、緑茶飲料、ポカリスエット、スーパーカブ、など、多様です。いずれも、日本の技術と、日本人ならではのきめ細かい開発力が実現したものと言えます。

今朝のNHK番組「貧村変える製品づくり」はNPOの活動「See-Dコンテスト」で、東ティモールの電気もなく水も遠くから女性が運ばねばならない村のための製品開発に取り組む、日本企業のエンジニアと大学生を取り上げました。彼らは、現地入りして人々の生活に密着し、腕に巻きつけて移動出来るLED電燈や、重い水を背負える「しょいこ」を現地に豊富な竹素材で組み立てられるソケットの開発など、画期的な活動をしていました。(See-Dについてのリンクは: http://see-d.jp/aboutus.html

特に印象的だったのは、1日2ドルで生活する現地の人たちにふさわしい「シンプルで、超安価な道具」を作る様々な努力でした。番組に出演したNPOコペルニク代表(http://kopernik.info/ja/)の中村俊裕氏は、このプロジェクトの成功の鍵として、下記の4点を強調しました。

① 現地のニーズにフィットするもの

② 極端に安いこと

③ 使い方がシンプルであること(説明が不要)

④ 壊れにくいこと

日本はこれまで、「ゆとりのある顧客」に対して「高付加価値」の商品開発に注力してきました。しかしその過程で磨いた技術、そして日本人のDNAとも言うべき創意工夫の能力には、素晴らしいものがあります。それがあるからこそ、それらをベースとした「日経ビジネス100選」があるのです。

この技術と創意工夫、そして恵まれない人々を含む、世界各地へ向けての商品開発への真摯な取り組みが、これからの日本の新たな道を拓くものだと固く信じています。

<水野典子さんの『布絵』展  心温まる、布と針の手仕事>

 「NUNOEの世界」という展覧会に行って感動しました。  NUNOEとは「布絵」の事で、キルトでもパッチワークでもない、布を使ったアートですが、その創造的なデザインの発想と細かい手仕事には、心温まるインパクトとパワーがありました。

作者の水野典子さんは、女子美術大学産業デザイン科工芸(織物)を専攻された主婦ですが、子育てをしながら、日常生活や周りの自然をタピストリーや手芸の布絵にしてこられ、 クロワッサンの『黄金の針』賞など、多数の賞を受賞している方です。 展覧会は、「THEMIS」誌創刊20周年記念の後援で、銀座の文芸春秋画廊において開催されています。(11月17日(土)まで)。

水野さんのそもそもの布絵創作は、古着を使った子供服や袋物へのリメイクでした。それが30年前に、タピストリーのコンクールがあると知り、テーマが「音楽」だったので、クラシック好きの御主人のために創作した「わたしのオーケストラ」でエントリーし、クロワッサンの『黄金の針』賞に入選したのが布絵の道のスタートだったといいます。  ちなみに水野さんの御主人は、旭化成の役員を務めて居られる方で、典子さんは “企業戦士の家庭を守る主婦”として、当初は「サラリーマン」をテーマとした作品が多かったそうです。

その後、テーマは周りの自然や、日本の懐かしい田舎の情景、海外旅行で訪れた各地の情緒あふれる風景、などなど、多様に広がり、展覧会場には約100の作品が展示されています。 ご関心の向きは、是非展覧会をご覧ください。

(右画像は「わたしのオーケストラ」 縦横1.5メートル。カタログ「水野典子の布絵の世界」から)

 

 作品を見て私が感動したのは、つきのような理由からだと思います。

1.日常の生活、家族、自然に対する、作者の温かい目線

2.多種多様な布地(再利用が多い)を優れた創造力と手芸の技でアート作品にしていること

3.女性が、主婦・子育ての環境下で何が出来るかを考え、自分の道を開拓されたこと

 ファッションの世界では、いま、「服が売れない」 ことが問題になっています。しかし、このような創作活動にふれて感動する人は多いと思います。そして 「こんな物に囲まれた生活がしたい」 とか 「私も自分の手で、身の回りのものを創ってみたい」 と思う人が増えていることを感じます。

 アート、手仕事、クラフトの重要性は、先進諸国で広がっています。たとえば米国の Etsy という名のウェブサイト。これは主にハンドメイドの雑貨などを扱うネット販売のサービスです。小額の掲載料を支払うことで作品を出品することが出来、掲載商品の購入希望者はネットのシステムを通じて決済もできる。商品の送付や質問などは売り手・買い手が直接やり取りする。といった仕組みです。2005年にスタートし、現在1500万人の登録会員を持って居り、その利用者は世界150以上の国々に広がっている、といいます。

震災を経験したから、というだけでなく、デジタル時代、機械化された、せわしない日常の中で、人々が「人のぬくもり」、「手仕事の柔らかさ」、「創造的デザイン」を求めていることを、私たちは真剣に考えてみる意味があると考えます。

(「日本が世界に誇れるもの」の続きは次回に)

<FBのNew Normal (新しい常態)⑤> 「スロー・ファッションに宿る作り手の想い」

先回「スロー・ファッションのすすめ」で、「皆さんの周りにスロー・ファッションを実践している人やブランドがあれば教えて下さい。」とお願いしましたら、何人かの方から貴重なお声を頂きました。その中で痛感したことは「スロー・ファッションは作り手の想い」であることです。コメントの一部を御紹介しながら、「スロー・ファッション」とは何かについて、さらに考えてみました。

 東北地方でファッション・ショップを営んで居られる   M  さんからは、「People Tree」(ピープルツリー) が「わたしがリスペクト出来るスロー・ファッションの企業」とご連絡頂きました。ピープルツリーは、創業者のサフィア・ミニーさんとともに、私も以前から注目しているフェアトレードの会社です。イギリス人のサフィアさんは、1995年に「環境保護と途上国支援を目的とした、ビジネスの実践と普及」を目指してこの会社を設立。事業内容は、人と地球にやさしい衣料品、服飾雑貨、日用雑貨、食品等の商品開発や輸入・販売です。7月のJFW-IFFにも出展していたので、ご覧になった方も多いと思います。http://www.peopletree.co.jp/ (画像は People Tree  2012秋冬カタログ)

  M  さんは、主として東京コレクションに出ているブランドを扱っておられる個人経営のお店だそうですが、震災後お客様が減り経営が厳しくなるなかで、自分自身も含め人々の価値観の変化から新しい展開として行き着いたのがピープルツリーだったそうです。

「扱ってみると、ピープルツリーは今までの取引先とはまるで違い、生産者や生産者の背景も動画やカタログに示してくれてることが大変新鮮でしたし、私ども取引先に対しては、具体的にかつ積極的に売り方のアドバイスもくれます。」 その一方で 今も一部取引があるコレクションブランドでは、営業担当者の姿勢が 「○百万円以上買わないとウチのブランドは扱わせませんよ」 といった感じで、「ビジネスモデルとして古く感じる」といいます。

「コムデギャルソンやヨージヤマモトのような一流ブランドのように扱って欲しいのでしょうが、商品原価等もどんどん下がっているようで憤りを感じ、なんともいえない気分になります。消費者との感覚とも少しかけ離れているとしか感じなくなりました」という  M  さんの御意見は、まさにこのテーマの「New Normal 新しい常識」といえるでしょう。「会社の存続にはさまざまなご苦労もあるようですが、私自身 厳しい時代の中、苦楽を共有したいと思うのはこういう人間味があり、地に足の着いた企業です。」の言葉には、華やかなショーのランウェイでなく、現実の世界でファッションを扱っている人の、重みを感じました。

 自分の信条(ピープルツリーの場合には、環境保護と途上国支援)に基づいて、納得のゆく製品を作り、それをフェアな取引で顧客(小売店および生活者)に届ける。ファッションから見ても、1シーズンで流行遅れになるファスト・ファッションではなく、人それぞれが自分のスタイルとして長期間着用できるデザインの服。服への愛着を感じると同時に、作り手の「想い=心」や「手のぬくもり」を感じることが出来るのが、スロー・ファッションだと考えます。それはまた、作り手、扱い手(小売店)、使い手、が皆ハッピーになれる、Win-Win-Win のビジネスでもあるのです。

 滝口佐藤園代さんからのお便りも素晴らしいものでした。「80歳になるわが母と、その母のお洋服を40年近く作り続けてくださっている方は、まさにスローファションを実践していると思います。母は近頃体型が変化し自分が着られなくなった質の良いお洋服たちを、お直しに出し、私たち娘にリフォームした新しい服を提供してくれています。大切に着てきたお洋服がまだまだ活躍しております。」 そこで滝口さんに私から質問しました。「時を越えられる服のエッセンスは、何でしょうか? 素材の良さはもちろんですが、それ以外には?」 そのお答えは、「着る方の希望を十分に聞き、そしてデザインを起こし、型紙を作り、念入りな仮縫いと縫製と、最後はやはり、お洋服に対する愛情ではないでしょうか。私自身も何着か作って頂いてますが、多少体型が変わっても、未だに着回しが出来るものばかりです。」

 限られた資源を使い、着る人をイメージしながら丁寧に愛情をこめて服を作ること。そして、そのようにして作られた服を、丁寧に扱い、丁寧に感謝の気持ちをもって着ること、これがNew Normal 時代の、新しい、また重要なファッションであると考えます。