オムニチャネル元年といわれる今年。いよいよ日本でも、オムニチャネルへの取り組みが始まったとみえて、「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」 のテーマで講演してほしいとの依頼が来ました。ファッション・ビジネス学会の公開シンポジウム特別講演です。 (5月14日(土) 14:00~16:00 詳細は→ http://www.fbsociety.com/event/new.html ご関心の向きはご参加下さい。入場無料)
ファッション・ビジネスでオムニチャネルが最重要の課題になってきた要因は、主として次の5点です。
① ファッション商品のネット販売(Eコマース)が、店舗ビジネス苦戦の中、大きな売上げ増をもたらすことが明解になった
② ネット販売(EC)に深く取り組むほど、リアルな商品や売り場との接点が重要になる。店舗とネットを別事業にせず融合することで、在庫や物流の共有(一元化)、売り場スペースの削減、という効率化が期待できる
③ 他方、生活者は、スマホとSNSの普及により、主体的をもって行動するようになり、みずから検索したり、商品の情報や評価を他者とシェアしている
④ また生活者は、「おしゃれな服があったら買いたい」と思っている。しかし、市場に商品があふれていても、「自分に合うものを探す方法がない」と感じている
⑤ ICTの急激な発展・革新(クラウドやモバイル)が、多様なアプリの開発を加速し、顧客にとって便利で、かつパーソナルなニーズを満たす情報提供や商品提案を可能にした
ファッション・ビジネスにおいては、上記のうち特に、④ と ⑤ が重要です。
(ノードストロムの TextStyle:個客にテキスト・メッセージで商品を案内 ――Stores 誌より)
オムニチャネルの発展を米国にみると、次のような段階をたどっています。
第1段階: ネット販売(EC)成長期(2000年~ ) ――背後にインターネット普及とデジタル化の進行
第2段階: SNS の登場と一般への浸透(2006年~ ) ――背後にスマホの普及
第3段階: オムニチャネル台頭(2009~ )――背後に多様なビジネスモデルの登場
第4段階: リアルとECの融合(2013~ )――背後にクラウドと多様なアプリの普及
これと比較してみると、日本はいま、第2ステージにあり、第3ステージに入りつつある段階と考えられます。
ファッション商品のオムニチャネルについては、アメリカでもまだ完成形と思われるものは登場していません。というよりは、「オムニチャネルは動く標的」 です。企業が、それぞれの戦略に基づき、また市場の競合状況を見極めながら、創意工夫を凝らして、常時進化していくものだからです。米国のブランドが現在力を入れているのは、アマゾンに対抗する 「即日配達・短時間配達」。そして、個客の細かいニーズや感性に合わせた提示商品や提案、すなわち「パーソナル化」です。
「パーソナル化」、は、先にあげた、④ と ⑤ にかかわるものです。具体的には、例えば顧客が欲しいものを自分で検索して見つけやすくする。特にサイズやフィットが、店頭に出向かなくてもある程度絞り込めるようにしたり、それに販売スタッフのサポートを付けることなどが有効です。ノードストロムでは、ネットのほか電話でパーソナル・スタイリストが対応してくれますし、最近ではTextStyle というサービスを開始しました。これは、なじみの販売スタッフやスタイリストが、携帯のテキスト・メッセージで、お勧めの商品を個客に送信するしくみです。
個客のデータを、買上商品の金額や日時や価格だけでなく、どんなテイストの服で、サイズは○○、色は△△、フィットは□□といった情報を蓄積し分析して、提案の精度を高めることが非常に重要になっています。そのために、会員制などの形をとって、その個客に好まれそうな商品グループをキューレーションして、定期的にお届けし、不要なものは返品し、気に入った物だけキープして支払いをしてもらう、といったプロセスを通じて、より精度の高い提案が出来るようにする、等のモデルも増えています。
これらを実行するためには、商品情報のデジタル化、が欠かせません。
日本がこれから、米国に2周遅れの感じでオムニチャネルにとりくむために、重要な基本的課題をあげましょう。
1) ECへの取り組みを強化する
2) 業務のデジタル化(商品企画から調達・物流、売り場陳列から顧客とのコミュニケーション) の推進と在庫の一元管理
3) 「個客」のニーズへの対応。個客との深い絆づくり
(次回は米国での、「Xmasギフト商戦で、オムニチャネルは実働したか?」の体験リポートを紹介します。)