オムニチャネル

<NRF(全米小売業大会) 2016 リポート ③ オムニチャネルの本質とは>

 (オムニチャネルについてのNRFレポートを書き始めてから、インフルエンザにかかったりで、時間が随分空いてしまいました。)

 日本の業界では、今年が「オムニチャネル元年」だと言われており、いよいよ本格的にオムニチャネル戦略に取り組む企業がでてきました。

 米国では2012年以来、いわゆる「バズワード」としてオムニチャネルの言葉が業界を駆け巡るようになっています。バズワードを、Wikipedia は、「定義が曖昧でありながら、権威付けする専門用語や人目を引くキャッチフレーズとして、特定の時代や分野の人々の間で通用する言葉のことである」としています。まさしくその通りで、「オムニチャネル」は、定義も明確でないまま、ビジネスの新しい方向として注目されているのです。

 ちなみにコトバンク(知恵蔵2015)には、次のような説明が出ています。オムニチャネルとは:

 「実際に存在する店舗での商品販売と、インターネット上のバーチャル店舗での販売を連携させた、新しい購買スタイルやそれらの取り組みを指す。「オムニ(omni)」には「あらゆる」という意味がある。顧客にとっては、どのチャネル(実店舗やネット通販など)で買ったかを意識せずに、あらゆるチャネルから購入できる仕組みである。また、販売側にとっては、実店舗とネット通販などで売る商品を分けて「どこで何を売るか」を考えるスタイルから、販売経路を顧客に合わせて「どのように購入してもらうか」と顧客中心に考えるスタイルへ変えていく必要がある仕組みとなる。 

 私は、オムニチャネルの本質は、下記の5つにあると考えています。

  ① Eコマースと店舗ビジネス双方の利点を最大化・最適化し「高い収益性」を達成すること:

           ―店舗での優れた感動体験を活かしながら、ECのコスト効率(売り場スペースや在庫・販売員の削減)          を実現する

  ② 「顧客」と企業の関係の革新 : これまでの“企業の論理”から“顧客の論理”の重視へ

           ―「顧客主体・顧客主導」=「顧客セントリック」を実現、顧客がイラつかない買物体験を提供

  ③ 施策の全ては、顧客の利便性・満足・幸せのため: パーソナルな「個客」対応が重要

       ―パーソナル化でファンを創り、顧客の「生涯価値(LTV)」を高め、企業の長期繁栄につなぐ

  ④ コラボレーションが不可欠:サプライチェーンも含めた、統合的な仕組みづくり:

           ― 一社単独では実現できない。顧客を共有する企業(小売り・アパレル・SCディベロッパーなど)が、情報を共有し協働・協業する

           たとえば米国のWestfieldモールでは、駐車場に入ってくる顧客の車のナンバープレイトを読み取り、その顧客の買い物頻度が高いショップに近い駐車スポットへ誘導するのですが、これもコラボレーションです。また日本の百貨店の一部で始まっている“タブレット接客”(売り場で接客するアパレル企業の販売員が、タブレットの在庫情報などを参考に顧客に最適な製品をお勧めする)もこれに当たるでしょう。

  ⑤ オムニチャネルどんな形をとるかは、企業の戦略による:

           ―顧客がイラつくことなく、必要な情報や商品を見つけ出し、発注し、商品を受け取り、満足を得る、という仕組みを、どこに重点を置いて実現するか? これこそ個々の企業が他との優位性を確保する方策です。

 キーワードは:デジタル、Eコマース、スマホ、顧客セントリック、パーソナル化、優れた体験、なのです。

<NRF(米国小売業)大会2014 報告⑩――最終回:まとめと特記事項>

 強力な風邪を引きこんでいたこと、風邪と悪戦苦闘しながら次回ご紹介する「女性活躍支援のプロジェクト」立ち上げに追われて、ブログをしばらくお休みしました。

 米NRF(全米小売業協会)の2014年大会から、注目すべき内容を、先回までの 9 回にわたって書きました。今回は、そのまとめとして、1 月の大会からのメッセージと、この 5 カ月の間にすでにスタートあるいは進行している事柄について、書きたいと思います。  

 過去 9 回をレビューすると、私が重視したテーマは:

① NRF2014テーマ「展望を引き上げよ」――目線を上げて、未来を、そして世界を見よ

② 21世紀の店舗小売業はいかに繁栄すべきか――リアルの感動が鍵

③ テクノロジーで小売は激変する。技術と小売の交差点――ビッグデータ、認知コンピューティング

④ ジャック・ドーシーが考えるリアルと技術の世界―テクノロジーはインビジブル(不可視)であるべし

 “リアル”の感動を “デジタル” が支える――『アマゾンはハグ出来ない』

⑥ “パーソナル化” で 顧客の感動と信頼を得る

⑦ “パーソナル化” 忠誠顧客を創る――セフォラの事例

⑧ Life is Good! 楽観主義がブランドを育てる

⑨ 新時代を開くルールブレイカ― ホインター 

 NRF 大会から5 カ月が経った今、この間のファッションあるいは消費財をあつかう小売での変化がまさしくNRF 大会が示唆した方向に動いている事、そしてそれがもたらすビジネスの変革が如何に急速か、を痛感します。

 たとえば、オムニチャネルは、顧客のパーソナルなニーズに対応し、顧客が望む商品を、顧客に便利な手段により、最速でとどける、事にあります。なかでも、即日宅配については各社が多様な努力をしています。たとえばニューヨークの最高級品店バーグドルフ・グッドマンは、「靴・バッグをマンハッタン内なら3時間で配達」により、極上の顧客サービスを狙っています。ドローン(小型飛行体―Drone とは、元は雄蜂の意味)による宅配は、アマゾンが来年から始めると発表し世間を驚かせたものですが、実はすでに西海岸で、薬の配達でスタートしました。サンフランシスコの QuiQui 社は、店頭販売薬および処方薬を 1 ドルで 15 分以内に配達するといいます。受注は 24 時間OK。ドローンが配達ポイントに到着すると、顧客は同社のアプリcompanion app でパッケージをリリースしピックアップします。

 ウォルマートではグロサリー買物客の利便性をはかるために――もちろんアマゾンに対抗するため――ネットで注文した商品をドライブスルーで顧客に提供するテストに成功し、1500㎡ のスペースをそれに充てる決定をしました。車を降りることなくネット注文したグロサリー・ピックアップが出来るのです。

 オムニチャネルは言うまでも無く、店舗・ネット・モバイルの統合ですが、これが小売業の成功のために不可欠であることは、広く認識されるようになりました。ある調査では、小売業の 3 分の 1 以上がオムニチャネルに積極投資を予定しているといいます。 好調を続けるノードストロムは、オンライン売上強化戦略で、今後 5 年で 39 億ドルを投資すると発表。うち 1.2 億ドルはテクノロジー関連投資です。同社のオンライン売上は今年度の第1四半期で 33 %アップしました。 

 テクノロジーの革新は、日に日に起こっています。ウェアラブルはメガネから腕時計まで多様な展開を見せ始めましたが、すでに利用する企業が出始めました。コンテイナー・ストアでは、昨年、店舗の販売員がウェアラブルメガネを着装し、在庫情報などで顧客サービスをするテストを行いましたが、それをもとに、今後全店へ展開予定だと報道されています。

 3D プリンティングは、アマゾンが活用のテストをしていますが、ウォルマートもこれに取り組み始めました。3D 印刷で、より簡単に製品のメイキングが出来るなら、商品によっては、仕入計画・調達・在庫管理等の煩雑なオペレーションを行うことなく、顧客が望むものを即、製造してしまう、ということが可能になります。

 ビッグデータやクラウドも、ますます多様な広がりを見せてきました。個人情報の扱いが問題になってきますが、消費者の認識に関する調査も進んでいます。1万人を調査した某調査会社のデータでは、「消費者の 84% は自分のネット・サーチ結果を小売が把握している事を知っている。その 71% は自分のネットでの行動を見られている事を心配するが、65% は『それが自分のためになるなら構わない』の態度をとっている」としています。 

 イノベーター、あるいは新たなビジネスモデルの起業では、「サブスクリプション」すなわち会員制の定期購買や、「ダイナミック・プライシング」すなわち顧客と企業の間で売値(買値)の交渉を行い、合意価格で販売(購入)が確定する、等、興味深いものも増えてきました。 世界は確実に、変容をとげているのです。 

 2014 NRF(米国小売業大会)報告の最終回を、次の言葉で締めくくりたいと思います。

「未来は既にここにある。ただ全ての人に均等に配分されていないだけだ」。       The Future is already here. It’s just not evenly distributed. SF作家ウィリアム・ギブスン。ジャック・ドーシーの座右の銘)   

NRF(米国小売業)大会 2014  レポート ① ― 「展望を引き上げよ」 概要

 新年を迎えて、毎年1月にニューヨークで開催される恒例の NFR(National Retail Federation=米国小売業協会)大会に参加して来ました。この大会は4日にわたる大規模なセミナーと約550社の展示を通じて、ファッションをはじめ消費財の販売に関わる小売や製造業界に、新たな年の展望をひらき、ビジネス環境や先端的技術の知識を深め、成功するためのヒントを得る場を提供するものです。私は世界の先端的動きを知るために、過去28年、欠かさず出席しています。

NRF大会2014 展示会場入口


 今年は第103回目で、参加者は過去最大の3万人。海外勢がその21%を占め、86カ国が参加(昨年より4カ国増加)。最多はブラジルの1640人、次いでカナダ1128人、フランス656人、英国570人。アフリカからの参加もあり、国際色がますます豊かになっています。日本は残念ながら120人。それでも昨年の88人より増えました。
今年のテーマは “Perspective Elevated”。 「展望を引き上げよ」とでも訳しましょうか。大会を通じてのメッセージは、昨年盛り上がった「オムニチャネル」「ソーシャル・メディア」「モバイル」に対して、今年はこれらの実行に取り組む年、だと感じました。「オムニチャネル」はこれからの小売業が進むべき方向として確認されたものの、その実行は、簡単ではない、いう事が明確になった。多くの知恵や革新的取り組みが不可欠であり、いわゆるビッグデータをどう活用するかについての多様なソリューションの提案も見受けられました。
 また、オンラインでの購買が拡大すればするほど、生活者は、「人対人」の人間的なつながりやコミュニティの温かさを求める傾向を強めている、というのも今大会のメッセージでした。端的に言えば、ネット販売は引き続き成長しているが、同時に、というよりはそのベースとしての店舗とそこでの優れた体験が、重要になってきた、という事です。
 これからNRF大会のレポートをシリーズで書きたいと思っています。この第1回は、セミナーの中でも「キーノート(基調講演)」と呼ばれる8つの大型セッションのテーマを御紹介し、次回から、私の印象に残った内容について書くことにします。
 <キーノート・セッションのテーマ>
1. メインストリートの新イメージ ――21世紀の店舗小売業はいかに繁栄すべきか。
2. 顧客主導時代という現実に 小売企業のCEOはどう挑戦する? ――新たな“ リセット”の時!
3. 前大統領 ジョージ・ブッシュの展望
4. 「価値」の新たな時代―― IBM 社 ジニー・ロメッティ CEO との対話
5. 「楽観主義」、「思いやり」、そして「喜び」――適切なマインドセットが貴方のブランドを成長させる
6. 国境を越えて ――グローバルな拡大のための小売のレッスン 
7. レシート―― 一つのコミュニケーション・チャネル
8. 小売のルールブレイカー ――現状に満足できないイノベーター達を祝福する