オムニチャネル

<FITセミナー報告⑩―尾原まとめ「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」>

  FITセミナー「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」 報告を 10 回に分けて書きました。最後に、私のまとめを 記したいと思います。

   「オムニチャネル」について、シリーズのはじめに次のように書きました。 「オムニチャネル」 は、マルチチャネルの進化概念であり、「クロスチャネル」(ネットで注文したものを店舗でピックアップする、などのチャネルの交差が可能)なステージを経て、消費者が 店舗やネット、スマホなどのチャネルの違いを意識することなく  “シームレス(つなぎ目なし) ”に、しかも、いつでも、どこからでも、アクセスが出来る、コミュニケーションの形であると。 ここでは、必要な情報検索はもとより、商品や価格の比較、フェイスブック等での他人の評価などの入手、買うかどうかの判断、購買のアクションをとる、その体験をツイートする、といったことが可能になり、顧客は自分の気に入り、快適な体験が出来るブランドと、深い信頼関係を築くのです。

  したがってオムニチャネルは、「顧客セントリック」 の考え方を、「企業の経営戦略」 として、出来るだけ効果的に構築し、実行することにほかなりません。 そして、オムニチャネル・ビジネスの実行には 「Eコマースのインフラが不可欠」 であり、「ソーシャル・メディアのフル活用が有効」 ですが、同時に、「実店舗」 すなわち 「リアルの世界」 を併せ持つ事が、非常に重要である事を、先回のワービー・パーカーが か月前にオープンした旗艦店の紹介で述べました。

  オムニチャネルのもう一つの事例として、第4回で紹介したメイシー百貨店について、ごく最近、米国から入ったニュースがあります。 同社のテリー・ラングレン CEOが ある講演で自社の事を次のように述べたというのです。 

NRF大会で講演するメイシー百貨店CEOテリーラングレン氏

 

 「我々はもはや『百貨店』 ではない。 『 24/7 Macy’s 』だ。」 

We are not a “department store” any more, and “24/7 Macy’s” with their specific consumer in the middle of all of their strategies, plans, merchandising, Channels,  and messaging.」  この意味するところは、「Macy’s 各店は、24 時間週 7 日営業の 『いつでもどこでも Macy’s 』 として、その特定の消費者を 『真ん中』 に置き、すべての戦略、計画、マーチャンダイジング、チャネル、そしてメッセージ発信、を行っている」 ということでしょう。 

  この言葉は、まさしく「オムニチャネル小売業」 を体現するものだと、わたしは感銘を受けました。――いつでも、どこでも、どこからでも、アクセスできて、顧客が主体性を持って行動し、すぐれた買い物体験を得られる、新しい小売業なのです。

  メイシー百貨店は数年前から「オムニチャネル戦略」を掲げていますが、実際に、ウェブサイトの充実は勿論、「顧客セントリック」の考え方でローカル地域や「個客」への対応(Eメールも50万バージョン配信)を行い、ソーシャル・メディアの活用に力を入れ、店内でも “ Back stage Pass  プログラム(主力デザイナーのエクスクルーシブ・ブランドなどの「舞台裏」からのメッセージやファッション・ストーリーを提供)等、多様な手法を駆使しており、他の百貨店が苦戦する中、4四半期連続で増収を達成しています。ちなみに “ Back stage Pass” は、店内のPOP やタグに付いたメイシーの星印アイコンをスマホなどでスキャンし、星の中央のデザイン化されたQRコードを読み取ることで、30秒のビデオを流れるというものです。(画像参照)  まさしく「顧客が情報をプルする」システムです。 ICT テクノロジーへの投資も巨大で、2009年に国内部門をニューヨークに統合した際も IT 技術者300人はシリコンバレーに置き、その後さらに400名を増員して大掛かりなデータ分析等を行っているとききます。

メイシー百貨店の店内におかれた Backstage Pass のサイン (筆者撮影)

  「オムニチャネル」 について書いてきましたが、「チャネル」という考え方はもう古い、という人もいるくらい、個客を取り巻く情報・コミュニケーション・流通の仕組みは総合的・立体的になっています。「個客に360度の視界を提供する」という表現には、ファッション・ビジネスの未来を示す示唆が多く含まれています。

  日本の小売企業が、一日も早く、オムニチャネルによる「真の顧客セントリック」 のビジネスを実現して下さることを願っています。  (「オムニチャネル」シリーズ 完)

  FITセミナー報告は、主催者である日FIT会のホームページ: http://www.fitkai.jp にもアップされています。トップページから「2013年3月21日に開催された『FITセミナーシリーズ第3弾報告」の「詳細はこちら」をご覧ください。』

 <FITセミナー報告 ⑨ 尾原まとめ 「オムニチャネルはリアル店舗が重要」>

  「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」をテーマに開催したFITセミナーのまとめとして、あらためて リアル店舗の重要性を強調したいと思います。

  この春、第5回 ( 2013年4月28日 で紹介した、ワービー・パーカー社は、ニューヨークのソーホーに、旗艦店を開店しました。ウェブとソーシャル・メディアを駆使して、短期間の間に多くのファンを獲得した “ピュア・プレイヤー” であったWarby Parker 社が、その多様な経験に基づき、リアル店舗、それもまさしくオムニチャネル時代にふさわしい旗艦店を作ったことに、感銘を受けました。

(ニューヨークのSOHOに開店したワービー・パーカー旗艦店 2013年5月2日筆者撮影 )

  そもそも、「95ドルで、顧客指定の度の入った高品質メガネを提供する」 というネット販売だけでスタートした会社でしたが、マーケティングのためにスクールバスを使って各地を巡回販売したり、顧客の要請で期間限定の店を作ったり、さらに本社の事務所にショールーム兼ショップを開設して、顧客が同社のオフィスや社員の働く様子も目の当たりに出来る、開放的なショップと顧客との親しい接触などを経験して来ました。その結果、ネット企業が店舗を持つ意味と価値をしっかり把握したのだと思われます。 「リアル店舗が必要な理由」をハーバード・ビジネスレビュー誌に問われて、創業者の一人であるニール・ブルメンサル氏は、 ① 顧客がそれを望んでいる、  ② 顧客との個人的な関係が構築できる、  ③ 顧客の行動を見ることで顧客に適切で便利な売り方を知ることが出来る、 ④ スタッフの訓練に最高、の4点を上げています。

  そのような考え方に基づき、いよいよ開店した旗艦店は、「オムニチャネル」企業のモデルになり得る多くの要素を備えています。まず、売り場のスペースは、メガネ店としてはかなりの広さとゆとりをもち、壁面には各種のメガネと、眼鏡とは切り離せない「書物」を美しくディスプレイしています。本は、ディスプレイ用以外に、近隣の著者やユニークな書物もあり、顧客が手に取って見たりしています。アポイントで検眼も出来、奥に設置された  “Eye Exam”(検眼)コーナーには、空港の発着案内の様なスケジュール表が上がっています。その後ろは植木とソファを置いたラウンジ風のコーナーになっています。中央に2列に並んだショーケースには、Warby Parker の創設から今日までの発展の経緯を、ウイットに富んだコピーとイラストなどで紹介していて、企業の理念やコンセプトもしっかり発信しています。情報テクノロジーを駆使した、すぐれた顧客体験を提供する、本当に素敵なお店なのです。

  「メガネが iPhone より高いなんて許せない」との義憤に燃えて創業した4人の大学院生が、アイビーリーグの有名校(Wharton )のMBA 専攻とはいえ、3年もたたないうちに、商品開発も、ICTテクノロジーの活用も、効果的なマーケティング手法も、魅力的な店舗づくりも 達成している、ということに、今の時代の大きな可能性と、若者の自由でクリエイティブな発想、そして行動力を痛感した次第です。

(次回は、「オムニチャネル」セミナーの最終まとめをしたいと思います)

 

<FITセミナー報告⑧ チャクター氏の結論-「違いを生み出すマーケッターの行動」>

  FITセミナー「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」の報告のまとめとして、チャクター教授が最後に強調した「違いを生み出すマーケッターの行動」を紹介しましょう。

  「オムニチャネル時代の到来」を説くまでもなく、小売ビジネスの環境は激変しています。モバイル(携帯端末)の普及と日常生活への浸透は、Eコマースに巨大な影響をもたらすでしょう。モバイルは、「リアル店舗での買い物体験の 絶対的なゲーム・チェンジャー(変革を起こす力)となる」とチャクター氏は強調します。なぜなら、顧客は、店頭でモバイルの技術力を利用することで、従来では考えられなかった主体的な情報収集、判断、行動を起こし、自らの買い物体験を創造するからです。

  このような変化の中で、マーケッターが「他社との違いを生み出す」ために必要なことは何でしょうか? チャクター教授が下記を上げました。

 1.Rethink―― もう一度、“つながる消費者” の意味を考えよう。――“つながる”の最大の意味は、消費者同士が繋がり互いにインタラクトしながら大きなパワーになること、だと私は考えますが、それが脅威にも、チャンスにもなり得る、ということを肝に銘じることが重要です。また企業あるいはブランドは、顧客(消費者)との繋がり(単なる関係だけではなく、エンゲイジメント)を醸成せねばなりません。

 2.採用は“アティテュード(態度・姿勢)”をもとに行い、スキル(技術)はトレーニングで習得させる――スタッフの採用は、スキル優先ではなく、顧客に快適な買い物をしてもらうために出来ることをすべてする、といった姿勢の持ち主を雇え、の意味です。

 3.フェースブックの “いいね”は 許可=会話を始めることの許可と考えよ。――“いいね(Like)”を数多く獲得することだけでは、大きなことは起こせません。それを起点に顧客との会話を深めてゆく事が大切です。

 4.誰にサービスを提供しているかを忘れないこと。顧客を知ること。質問をし、リサーチをし、新たなプロモーションを試す。――ターゲットを明確に、あるいは再確認するために、双方向のコミュニケーションが有効です。

 5.従来の路線から踏み出すことを恐れるな。ただし、モニターをし、反応の分析を忘れないこと。――ソーシャル・メディア、オムニチャネルは、これまでの顧客マーケティングの概念を大幅に逸脱するものであり、まだ緒についたばかりです。新たな試みに挑戦することなしに成功する、とくに一般論でなく自社にフィットする方策をみつけることは、難しいでしょう。

 6.革新的な考えを受け入れよ。ただし、Eメール、検索、ターゲット・マーケティングなどの基本を忘れてはならない――

  以上、8回にわたって、FITセミナー第3弾「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス――ブランディングと顧客エンゲイジを成功させるソーシャル・メディア活用法」から、私の印象に残ったポイントを御紹介してきました。

 次回は、私自身の「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」についての考えを述べ、まとめにしたいと思います。