オムニチャネル

<FITセミナー報告 ⑦  「オムニチャネル」をモニターするための 重要業績指標>

  オムニチャネルに取り組む際には、有効なソーシャル・メディアを選ぶことが重要です。選択は、自社のオムニチャネル戦略目標との兼ね合いで行わねばなりません。それぞれのソーシャル・メディアの特徴については、先回述べました。

(FITセミナー風景と講演するチャクター教授)

  今回は、オムニチャネルの実施に当たって重要となる、消費者行動とモニタリングについて書きます。消費者行動の理解については、どのソーシャル・メディアが利用されているか、どのデバイス(パソコンか、スマートフォーンか、タブレットか、など)、ショールーミングによる購入の度合い(製品のタイプにより異なる)、ホームページへの来訪者がどこから来ているか、などを、把握することが重要です。 ソーシャル・メディアをモニターするためのツールは、「御社のホームページへの来訪者をモニター、確認、分類をする」ことと、「ソーシャル・ネットワークで御社を話題にしている潜在的顧客の抽出を可能にする」事に貢献する、とチャクター教授は言います。ここで活用されるのは「ソーシャル・ダッシュボード」です。「ダッシュボード」とは、複数の情報源からデータを集め、概要をまとめて一覧表示する機能や画面、ソフトウェアのことですが、膨大なデータを、目的に応じて、分かりやすく見やすく提示することは、顧客のモニタリングに非常に有効だからです。

  また、重要な業績指標として チャクター教授は、下記の 5 点を挙げています。重要業績指標とは、いわゆる KPI Key Performance Indicator )と呼ばれるもので、下記のために有効です。

  • 企業のゴール(目標)へ向けた進捗状況を明らかにし、数量化できる手法。
  • 経営者が現在の状況を迅速に把握し、速やかに行動をおこせるように、 複雑な要素を一つの指標であらわす。
  • 対策として行動をとれる(ものでなければならない)。

  重要業績指標として重要な 5 点は、次の通りです。

 ① コンバージョン率―― 来訪者に対しての購買客の割合。単純に来訪者に対するコンバージョン率を追跡するのではなく、どのプロモーションが効果的だったかを知るためにキャンペーンごとに追跡する必要がある。

 ② 平均受注額―― 受注に対する収入の割合。平均受注額は利益率に影響する。よって、顧客により高価な商品を買ってもらうよう、また、1アイテム以上買ってもらえるように誘い込む必要がある。

 ③ ビジット・バリュー ―― すべてのビジット(サイト訪問)に対する利益の割合。これは、御社のホームページに適切なトラフィックをどれだけ導いているかを計る意味で、非常に重要なベンチマークである。

 ④ 顧客のロイアリティ―― 新規顧客の既存顧客に対する割合。顧客が御社のホームページを一度きりの購入目的としてとらえているのか、忠実な顧客なのか、を認識する事は重要である。

 ⑤ 検索エンジンからの照会――業界の平均に対する、検索エンジン(グーグル、ビング)からの照会の割合。有料の検索キャンペーンのコンバージョン率の追求にも使用されるべき。

  以上の重要業績指標を、常時、把握することです。

(次回は、チャクター氏が結論としてまとめた「違いを生み出すマーケッターの行動」について書きます。)

<FITセミナー報告 ⑥  「オムニチャネル」 は 企業の目的を明確にして始める>

  先回は、オムニチャネルに取り組む米国の企業事例として、メイシー百貨店とメガネのワービー・パーカー社を紹介しました。   それでは、オムニチャネルに取り組むに当たって、どのようなことが重要になるのでしょうか?  まずは企業の目的を明確にすること。そして、御社に有効なソーシャル・メディアを選ぶことだと チャクター氏は強調しました。

  オムニチャネルへの移行の目的は、言うまでもなく「顧客の買い物体験を より快適で楽しめるものにする」ことにあり、その結果、企業も「売上と利益。とくに顧客エンゲイジメント」を確かなものにする事にあります。

  しかし、オムニチャネルが、「あらゆるチャネル」、「顧客から見て360度の視野」を意味するからと言って、あらゆるチャネルに取り組まねばならないということはありません。企業のオムニチャネル化の目標にもとづき、どのようなツール(チャネルの選択と、顧客とのエンゲイジメントを深めるための関連施策)を使うか、は、各企業が決めねばならないことです。もちろん、資源(資金や人材)の制約もあります。特にソーシャル・メディアに関しては、それぞれのメディアの特徴を把握し、自社にとって、あるいは自社がやろうとしている事、すなわち戦略にとって、より適切なものを選択する必要があります。図は、米国のマーケッターが選択したソーシャル・メディアを、多い順に表したものです。  最も多く利用されている順にあげると、 Facebook ( 82.4 %)、②Youtube ( 41.9% )、③Twitter ( 36.5% ) 、となっています。  (2012年 出所:emarketer.com )

   主なソーシャル・メディアの特徴について、チャクター教授の講義からご紹介しましょう。

  Facebook =ブランドの露出という点では、ブランド・ページの効果は大。顧客とのコミュニケーションの面では、ファンの引き込み、懸賞やコンテストなど、繋がるために最適。集客面では、シェアボタンでのページへの誘導は可能だが 多数のクリックは期待できない

  LinkedIn =露出という面では、個人としてのブランディング、および会社の長所の提示には 効果的。知名度強化のために、社員にプロフィール作成を推奨すべし。顧客とのコミュニケーションは、第一義的目的ではない( BtoB が中心のソーシャル・メディアのため) が、業界関連質問への解答を通して顧客とつながることは可能。ホームページへの集客は、不可能ではないが、あまり期待できない

   Twitter =露出面では、ホームページとの統合やクチコミ的に顧客と繋がる独特なチャンスを提供。 ブランドを目立たせる効果は大。 顧客とのコミュニケーション面では、会話も可能だが、ソーシャル・メディア・ダッシュボードを利用し、キーワード検索で、人が喋っていることを確認するのが効果的

  YouTube= 露出面では、面白い内容のビデオでプロモート出来れば、ウェブ上で最もパワフルなブランディングのツールとなる。顧客とのコミュニケーションの面では、楽しませ、情報を与える、あるいはブランドの提示が目的であれば、ビデオは早急に顧客をひきこむチャネルである。 集客面では、トラフィックはビデオへ繋がる。トラフィックをホームページへ戻したければ、リンクが必要。通常はビデオを見た人の数の方がホームページへの来訪者よりかなり多い。

  (次回は「オムニチャネル」をモニターするための KPI (重要経営指標)について書きます。)

 

<FITセミナー報告 ⑤ 「オムニチャネル・リテーリング」 ワービー・パーカー社の事例>

  ワービー・パーカー ( Warby Parker)  は 眼鏡のネット販売の会社で、オムニチャネルの好事例の一つとして FITセミナーで紹介された 4社 のひとつでした。 今年年始めにニューヨークで開催された NRF 大会(全米小売業協会)でも、ユニークな起業事例として、創業者の一人、ニール・ブルメンサル氏が講演し、私も非常に感銘を受けた企業です。

  この事例が非常に注目される理由は、① ネット販売で、度入りの高品質メガネを、安く提供する事、② ソーシャル・メディアをフル活用している事、③ 顧客のニーズと利便性を基本に考えた、顧客セントリックのビジネスである事、すなわち、まさしくオムニチャネル(それを特に強調することも無く)を実行している事、そして、④ 社会への貢献(貧しくてメガネが買えない人にメガネを贈る)、をやっていること、です。

  起業したのは、4人 の大学生(ペンシルバニア大学ウォートン校)。きっかけは、メガネが高すぎる、との問題意識でした。友人が 700ドルで買ったメガネを紛失し、新しいメガネを買うお金が無いのを見て、「なぜメガネはこんなに高いのか? メガネが iPhone より高いなんて信じられない!」 と義憤に駆られ、眼鏡の製造プロセスや中間業者の存在や、あるいはデザイナーブランド等へのライセンス料を勉強しました。そして、生産やマーケティング手法を抜本的に改革し、中間業者も排除して、95ドルで  Prescription Glasses (処方箋通りのレンズを入れる、いわゆる度入りのメガネ )を販売するビジネスを立ち上げたのです。もちろん店舗を持つ経費も人手もないので、当初は、自分たちのアパートを使ってのネット販売でした。

  「ネットで」、しかも「度入りのメガネを売る」という前例のないビジネスを、どうしたらうまくやれるか? 色々考えた彼らは、ホームページとソーシャル・メディアのフル活用、ユニークなマーケティング手法をとりました。最初のコマーシャル・ビデオも、YouTube  の非常にユーモラスで楽しいものを、ホームページにあげました。また、フレームのお試しキット(5種類、5日間、無料)というアイディアを実行し、大きな支持を得たのです。米国でもトップのビジネススクールの学生ですから、優れた知恵を駆使するのは当然かもしれませんが、ビジネスのコンセプトも、「ブティック感覚と品質の、伝統的工芸品的なメガネを革命的価格で売る」というものです。 ソーシャル・メディア(フェイスブック、ツイッターなど)はブランディングと顧客エンゲイジのツールとして活用しています。たとえば、メガネかけた自分の写真をフェースブック・ページにアップし、どのメガネが一番似合うかのフィードバックを貰えるようにしました。メガネを選ぶのはとても個人的な買い物で、だれでも他人の意見を聞きたいものだからです。  (画像は FITセミナーでチャクター講師が紹介したもの)

  フェースブックのウォールには誰でもポストでき、会社はポストをした顧客全員とコンタクトをし、すべての質問に対して解答を提供する、という丁寧な取り組みをしました。 また会社がどのような考えで、何を、なぜしているのか、も詳細にわたってシェアしました。 その中には、同社の社会貢献活動である、Buy a Pair, Give a Pair( ひとつ買って頂ければ、ひとつを寄付します) は、「メガネが必要なのにもかかわらず、貧しくて買えない人が、世界に10億人いる。この人たちにメガネを上げよう」も入っています。

  その結果、創業 2年で急成長をとげました。まだビジネスの規模は大きいとは言えませんが、大きな期待が寄せられている会社です。売上の 50% 以上は口コミによるものだそうですが、店舗もこれまでの、ポップアップ(期間限定の臨時ショップ)ではなく、先月、ソーホーに常設のショップを開店しました。今後、店舗を広げたいとの意向です。ネットオンリーで開業した同社が、店舗展開に踏み切るのを見ても、オムニチャネルの重要性と、それを顧客が支持している事が、読み取れます。オムニチャネルを使って、こんなビジネスが始められる、というのも、これからの時代ですね。

<次回のFITセミナー報告は、「オムニチャネルは 企業の目的を明確にして始める」です。>