サイズ/体型

<NRF(米国小売業)大会2014 報告⑤― “リアル” の感動を “デジタル” が支える>

  過去4回でご紹介したように、今年のNRFのメッセージは、「人びとは、テクノロジーが進めば進むほど、また簡便なネット購買が浸透するほど、『人対人』、の交流、楽しい会話や感動的な体験を求めている」というものでした。
  「“リアル”の感動を“デジタル”が支える」 は、2月26日に繊研新聞に掲載された私のNRFリポートの大見出しです。 (記事は右記で覧ください。)NRF2014リポート尾原寄稿 繊研新聞2014.2.26掲載
  小売業、特に私たちのようにファッションに関わる人たちは、インターネットで商品を購入する、という事には当初は懐疑的でした。「ファッションは、触って素材を確かめ、色も実際の色を見、フィットは試着しなければ、分からない。ネットなどでは買えないものだ」という思いが、ついこの間まで一般的でした。しかしここ5年ほどの間に、米国ではファッション商品(アパレルや雑貨)のネット比率が急速に高まりました。(日本でもその傾向が強まっています。)それでも多くの米国の店持ち小売業は、『テクノロジー』 に対して、四つに取り組むところまでは行かない距離感を持っていたのです。
  ところが、興味深い記事が、2月4日号のアドバタイジング・エイジ誌(Advertising Age)に掲載されました。それによれば、
  「小売業は、学びの結果、テクノロジーを恐れることをやめ、活用・愛用するようになった。Showrooming も、モバイルで試着をするアプリ開発も、身体に合う靴やシャツを見つけるためのボディスキャンも、お買い得ディールやデジタル財布での支払い、等にも対応中である。今や小売業が目指しているのは 『オンラインの利便性に匹敵する店内での体験』 である。」
  つまりこれからの小売企業は、自社に適切な全てのテクノロジーを積極的に活用し、『顧客の体験』 を優れたものにしなければ、競争には生き残れない、ということなのです。
  『アマゾンはハグ出来ない』 という言葉も、あるセッションで強調された言葉ですが、NRF参加者に強烈なインパクトを与えました。
  『リアルのビジネスや生活を効率化するのがテクノロジー』 とジャック・ドーシーは言いました。彼の「消費者が関わるテクノロジーは、『懸命に取り組む』 ようなものではなく、電気のように『インビシブル=目に見えないもの』 であるべし。停電して初めて電気への依存度が分かるように、気付かれないうちに人々の生活やビジネスを支援すべきものだ」との発言は、まさしくこれからの、「 “リアル” の感動を “デジタル” が支える」時代を象徴するものと感じました。

<FBのNew Normal (新しい常態)⑦>  「太めでもチャーミング」

 先回、ファッション・モデルが、現代女性の願望体型である「細身」「9等身」でなければいけないか? の問題提起をしました。「ファッションは、スリムで背の高い人でないと美しく着こなせない」というのは、長年にわたってファッション業界が消費者に刷り込んだ「願望イメージ」であり、実態はそれとは程遠い体型の人がほとんどなのに、その人たちも何とか理想形に近付くために無理なダイエットなどをする事の問題についてです。

 女性の美しさとは何でしょうか? 歴史をさかのぼれば、かの有名なサンドロ・ボッティチェリが 15世紀の終わりごろに描いた「ヴィーナスの誕生」や「春」に登場する3人の女神が、ふくよかな美しさに輝やいているのも見るまでも無く、「女性の美しさ」は時代とともに変化しています。(写真は、ボッティチェリ作「春」の一部で、春の自然の中で戯れる3美神)

 しかし、幸いなことに最近は、リアル・クローズが求められ、健康的美が時代の潮流になることにより、長年「大きなサイズはカッコよく見えないため」扱わない、の方針を通してきた有名ファッション店でも、欧米では大きなサイズの売り場を拡大するようになりました。売り場の名前もアメリカなら「プラス・サイズ」とか「フルサイズ」等のオシャレな名前を付けています。(間違っても、「イレギュラーサイズ」などとは言いません。)

例えばニューヨークのブルーミングデールズ百貨店もその好例ですが、商品の範囲は外衣ばかりでなくインティメート(インナーウェア)にまで広がり、写真にあるように、フォーカル・ポイント(売り場の中心となる)ディスプレイに、豊満なマネキンを置いています。このブランド Agent Provocateur (エージェント・プロヴォケイター)は、英国のデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドの息子が立ち上げたランジェリー・ブランドですが、ブランドの名前も映画「007」の美人スパイを想起させる「挑発的スパイ」というユーモラスなもの。デザインも大胆で斬新、繊細なレースや刺繍は、太めの人でも遠慮せず、堂々と美しさを競って欲しい、といったメッセージを発しているように思います。(このブランドは、太めのサイズだけを扱っているのではありませんが。)

デザイナーのダナ・キャレンは、決してスリムな体型の持ち主とは言えませんが、肩の大きく開いたドレスやドレープの美しい服を身につけ、チャーミングかつ堂々と活躍しています。彼女は、米国の、キャリア服の草分けであるアン・クラインのチーフ・デザイナーとして高い評価を得た後、独立して、アン・クラインのラインとは一味違う柔らかな、ジャージーなどを多用したラインで一時代を画しました。1980年代中ごろに大ヒットとなった彼女のストレッチのボディスーツが、仕事もファミリーも両立させようとする活動的で多忙な女性に、圧倒的支持を受けたことを懐かしく思い出します。ダナ・キャレンがオシャレと機能性を併せ持つボディスーツを開発出来たのは、まさしく、やや太めの自分の体にフィットさせたいニーズがあったからかも知れません。

 カール・ラガーフェルドは今年の3月、8年ぶりに来日して、「日本人女性は大きく変わった。太っていて美しい」という意味深長な発言をしました。「私は日本人女性たちがより太り、より魅力的になったことに気付いた。それはおそらく以前よりも多くのケーキやお菓子を食べているからだろう。」と記者団に対して語ったといいます。いつも辛辣なコメントを発して話題になるラガーフェルド氏ですから、これも辛辣な皮肉なのかと思いましたが、WWD紙によれば、彼は ”It’s changed a lot but it’s changed for the better I think. ,,,,, There’s a real change in the look of the Japanese people. Normally, before, they were all tiny. It’s the kind of beauty you get from junk food.” と述べたとの事。つまり「大きな変化だが、いい方へ向けてだ。、、、日本人のルックスは本当に変化している。以前は皆とても小さかった。身体によくない食べ物を食べた結果の美しさだ」。 彼特有のひねったユーモアだとしても、小柄で子供っぽかった日本女性が、大きく美しくなった、と解釈したいと思います。

 「太めでも美しく」、「高齢でも美しく」。 それをサポートするのがこれからのファッション・ビジネスだと考えます。

<FBのNew Normal (新しい常態)⑥> 「ファッション・モデルは理想体型が条件?」

 ファッション・モデルは、「細身」で「9等身」の「プロ」でなければいけないか?

 これを疑問に思っていた人は多いと思います。ましてや私のように小柄で、さらに、ある有名デザイナーが「ショーに使った服は、一般の人にはサイズが合わなくて売ることは出来ないわ。まあ、モデルに上げちゃうか、安い値段で譲ってあげるか、ですね。」というのを聞いた時には、「何という無駄!」と思ったものでした。 そもそも一般人の体型とかけ離れた背丈のモデルに合わせた服をショーで素敵に見せておきながら、実際に販売するのは、小さく作り直したサイズ、というのは、詐欺に等しい行為だと思います。 (ついでに言えば、何故ほとんどのランウェイ・モデルや有名店の広告やカタログが、いまだに西洋人モデルなのか。顧客が日本人なのだから日本人モデルを、というだけでなく、これは西洋崇拝や日本人の自信の無さの表れだと、残念に思っています)

 これに関して最近嬉しいニュースがありました。

 先週パリのギャラリー・ラファイエットが開催した世界最大のファッション・ショーのモデルが、一般公募による人たちだったというニュースです。ギネスブック公認の世界最大ファッションショー第3回は、9月18日17時に、同百貨店とオペラ座の間のオスマン大通りをランウェイに開催され、一般公募による400人のモデルが150メートルのランウェイを自前のファッションで歩いた、ということです。繊研新聞によれば、ビューティはカリスマ的ヘアメークアーティスト達が担当、モデルクラブからコーチも招き、DJ をつとめた個性派女優ロッシ・デ・パルマは、「トップモデルの専制にさよなら。このショーは個性派ぞろいよ」 と声援を送り、会場を沸かせたそうです。

 第二は、Vogue 誌の「ファッション・モデル宣言」です。

ファッション雑誌のリーダー、VOGUE (ヴォーグ)の出版元であるコンデナスト・パブリケーションズ社が今年の5月3日、モデルの痩せすぎと年齢問題への対策(声明)を発表しました。声明は、世界19の国・地域で展開するVOGUE誌の編集長・19人の連名で出され、摂食障害があるとみられるモデルは使用しない。またモデルの事務所にも、モデルの健康状態とボディマス指数(体脂肪指数)のチェックを呼びかける、というものです。また、16歳未満のモデルとは契約しない方針も発表し、これにより、編集ページで起用するモデルは“16歳以上の健全なモデル”に限定されることになります。
 もっとも摂食障害は、スペインでは1997年ごろから問題になって居り、スペイン政府は、すでに5―6年前だったと思いますが、モデルに若年者を使わない年齢制限と、一定体重をクリアせねばならないことを決めています。

 第三は、米国のファッション専門店 J. Crew  が、今年の秋のキャンペーンにはプロのモデルやセレブを起用せず、様々な分野のキャリアで成功しているファッション感度の高い人達を、広告やウェブやカタログに登場させていることです。モデルになる人たちは、雑誌のエディターやファッション・ディレクター、MOMA(近代美術館)の開発ディレクター補佐、メディアミックス・ブログサービス企業 Tumbr の創業者&CEO、米国癌学会の広報ディレクターなどなどで、「顧客と文化一般にインパクトのある人達に登場してもらった。彼らはクオリティとディテールを重視する。顧客はそれに共感する人たちです。わが社はセレブ志向ではありません」 と同社のマーケティング最高責任者は語っています。

 嬉しいのは、ファッション小売業の厳しい競争の中でリードを続ける J. Crew  が、このように、リアルで実質的なアッピールを重視していることです。

そもそも、リアル・モデルは、日本ではヤング・ファッションの世界で TGC が先鞭をつけたものでした。しかしそこでも、高級ファッションショーのモデルほどではなくても、矢張りやせ形、スリムなボディが重視されているようです。

 日本人高校生に関する最も新しい調査によれば、高校2,3年の女子で、平均体重から「痩せすぎ」と見なされる人の数が 5年前の約 1.5 倍になった、と文部科学省が 2011 年度の学校保健統計調査の結果を発表しています。(2011,12.9付け朝日新聞) 減り幅が最も大きかったのは16歳(高2)で、前年度比0.3キロ減の52.4キロであったといいます。痩せすぎとは、標準体重の80%を下回る「痩身傾向」をいい、文科省は「過度のダイエット志向が原因かもしれない」と述べています。そうだとすれば、日本の将来にとって本当にゆゆしき問題ですね。

 ファッションにリアル性と 「ほんものであること」  が求められ、またプロとアマチュアの差がどんどん狭まっている現在、ファッション業界も、この問題をしっかり考えねばならない時に来ていると思います。