「ソーシャル・ビジネスの時代」が いよいよ幕を開けた事を痛感します。

  CSR Corporate Social Responsibility) すなわち企業の社会的責任は日本社会にもかなり浸透してきています。多くの企業がこれに取り組み、アニュアル・レポート(年次報告書)とあわせて CSR レポートを発表する会社も増えて来ました。かつて1990年に、ピーター・ドラッカーの著書、“Managing the Nonprofit Organization: Practices and Principle”(日本語版は『非営利組織の経営――原理と実践』1991年)を読んで、「 21世紀は NPO(非営利団体)の時代」とのメッセージに大きな衝撃を受けたことをいまでも鮮明に記憶しています。 その後 時代はさらに進んで、その NPOも 「ビジネスの手法で運営される時代」 になり、(ドラッカー氏は、もちろんそれを見通しておられたのでしょうが)、また利益追求の企業でも、その事業の中に社会的問題解決を組み込むケースが増えてきました。

  また、ビジネスリーダーの必読書とされる「競争の戦略」などを著したマイケル・ポーターは、2006年に 「共通価値の創造」 (Creating Shared Value 通称 CSV) の考え方を提唱しています。この CSV のコンセプトは、ビジネスと社会の関係を新しい視点から見て、 「企業の成長」 と 「社会福祉 (社会の幸福)」 とは対立する関係にあるのではなく、すなわちゼロサムゲームではなく、互いに相互依存しているものであることを強調しました。

 ファッション・ビジネスは、この「ソーシャル・ビジネス」という大きな潮流に、どのように対峙すればよいのでしょうか? ファッションは、おしゃれをする事で個人の誇りや活力が高まる、あるいは社会での存在を表す、という優れた社会的役割を持っています。しかし同時に 20 世紀を通じて大きく発展したファッション・ビジネスは、陳腐化(現在あるものをもう古い、と規定すること)の促進と、大量生産・大量消費・大量廃棄、といった、ある意味で反社会的活動を拡大してきたことも事実です。

 こういった視点から、「ソーシャル・ビジネス」 について、何回かに分けて考えてみたいと思います。

 

 ソーシャル・ビジネスは、一般に「社会の様々な課題をビジネスの手法で解決し、社会にイノベーション(革新)を起こす事」 と定義されています。 また経済産業省では、次の3点をカバーするものと定義しています。 (上の図を参照)

① 社会性:現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること。

② 事業性:①のミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業を進めていくこと。

③ 革新性:新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、新しい社会的価値を創出するもの。

<日経ソーシャル・イニシャティブ大賞> の第一回表彰がありました。 この賞は、日本経済新聞社が主催する ソーシャル・ビジネスの健全な発展と一層の理解促進のため、当分野の優れた取り組みを表彰する」もので、5月23日に開催された授賞式と記念シンポジウムに私も出席しました。

<授賞した人たち> 一次審査を通過したファイナリスト35団体の中から、大賞、国内部門賞、国際部門賞、東北復興支援部門賞の4団体が栄冠を手にしました。<大賞>を受賞したのは「病児保育」のフローレンス、<国内部門賞>は「ワンコイン健診」のケアプロ、<国際部門賞>は「先進国の肥満と途上国の子供の飢餓を同時解決」する、テーブル・フォー・ツー・インターナショナル、<東北復興支援部門賞>は「ネット販売サイト『石巻元気商店』で地場の農産物や海産物、伝統工芸品を販売する」オンザロード、<特別賞>はACジャパン、および藤原紀香氏、でした。

  いずれも非常に優れたコンセプトですが、特に私が感銘したのは、授賞団体の共通項である下記の3点でした。

① 社会問題に関する意識の高さ、と、リーダーが若手であること

② すでに何年もの地道な活動がある。目的が達成されるまでギブアップしなかったことで成功した

③ 「自走の精神」、つまり、これまで一般的であった寄付とか会員制度などのボランティアに頼るものではなく、「ビジネスとして成り立つ」から「サステイナブル(持続可能)」であること

  ファッション・ビジネスは、こういった事例から何を学べるか。 次回は授賞事例の詳細を見てみたいと思います。