テクノロジー

NRF2021リポート②    <リーダーは前線から、ビジョンと信念をもって>

 NRF2021大会リポート第2弾は、コロナ・パンデミック禍におけるリーダーシップについてです。人の安全確保とビジネス維持という困難を、強い信念とビジョンをもって闘ったリーダーの代表例として、基調講演 「ビジョンの力で 小売りと顧客体験を再構築する」 の講師、ロウズCEOを中心に、紹介しましょう。

  感染拡大の脅威と先行き不透明の中、「緊急事態宣言」や「外出禁止」のもとで、リーダーはどのように直面する課題を見極め、主要な課題にフォーカスし、優先順位を付けてチームを率いたのでしょうか? 様々な講師が、「先が全く見えなくても、朝令暮改も厭わず、前線に立ってリードした」、「命の脅威にかかわること、緊急なことなど、優先順位を明確にして臨んだ」、「大きな方向転換を迫られたとき、社として重視する原則(プリンシプル)に立ち戻り、決断した」、「ブランドとしてのパーパスが軸になった」 などと述べています。自らも感染の恐怖に脅かされながら、社員と顧客の安全を確保しつつ、スタッフの不安をいかにやわらげ前向きに必要な業務を遂行してもらうか。現場責任者から 経営トップに至るまで、リーダーがチームと一体になって必死に戦ったことが、ひしひしと伝わってきました。 

基調講演者の マービン・エリソン氏(ロウズCEO-右)と NRF社長マシュー・シェイ氏(左) 

テーマ:「ビジョンをもって、前線からリードする」 ――講師:ロウズCEOとウェイフェアCEO

 米国 第2位のホーム・インプルーブメント(住宅リフォーム・生活家電)小売りチェーンを展開するロウズ(Lowe’s)。年間売上721億ドル(7.6兆円―2019年)、1946年創業で現在30万人の従業員をひきいるCEOのマービン・エリソン氏に NRFのマシュー・シェイ社長がインタビューする形でセッションはスタートしました。後半には、ウェイフェアWayfair=急成長するホーム関連オンライン小売り)CEO・共同創業者のニラージ・シャー氏とブルーンバーグのマシュー・タウンゼント氏の対談もありました。

 ロウズCEO M・エリソン氏は、小売り経験豊かな経営者

 しかしエリソン氏は、就任2年で今回のコロナパンデミックに直面。就任時に、「基本に立ち戻り、優れたオペレーションに焦点をあてた」 事で評価されている氏は、ビジョンについて問われると、「それは家を建てるようなものだった。健全で強固な基盤が必要だったが、実態は旧態依然の状態。デジタル化が遅れており、顧客にEレシートすら出せない、店頭のシフトを顧客ニーズと販売スタッフの生活スタイルに合わせて調整することも出来なかった。Eコマースは、10年遅れのインフラを使っていた。」 

 「どの会社にも共通なことだが、トランスフォーメーションに際しては、優先順位を決めることが非常に難しい。わが社は優れたブランドを持ち財務諸表も優良な大企業であったが、私が集中投資をしたのはビジネスの基盤作り。しっかりした土台に、上部構造を速く構築し、安定させることだった。それを2年続けた。その2年のおかげで、コロナが襲来しても、“ステイホーム”という前例のない需要に、エッセンシャル・ビジネスとしてフルに対応出来た。 この時、Eコマースとオムニチャネルに大胆な舵を切っていなければ、コロナで大量の店舗休業を迫られた2020年は、どうなっていたか、想像もつかない。 この努力のおかげで、ロウズは 2020年第 3 四半期に昨対売上 30%アップを達成した。」

 コロナ対応では、エリソン氏は、スタッフとコミュニティ、そして小規模企業の支援に注力しました。「私はテネシーの片田舎の貧しい労働者階級の家庭で7人兄弟の真ん中で育った。その経験から、1日でも働けない(収入がない)日があれば必要な支払いにも困窮することをよく知っている。我々に何が出来るのか?と自問し、自社の支援者(Constituency=関係者)たち、すなわちアソシエイツ(社員)や取引先の小規模ビジネスに対して、2020年を通じて11億ドルを投じ、直接的な財務支援を行った」 といいます。

家具・ホーム関連のネット小売り、ウェイフェアは、テクノロジーでスタート。テクノロジーの重要性を強調

 ウェイフェアは、ロウズとはまったく異なる軌跡をたどりました。家具などホーム関連分野のネット販売に大きな可能性を見た創業者のニラージ・シャー氏は、周囲が疑問視する中、信念を持って2002年に創業。企業価値は3年前の70億ドルから240億ドルになり、2020年12月の売り上げ140億ドルを見込まれる成長を遂げている企業です。

 彼はテクノロジーの重要性を強調します。会社が軌道に乗ったら、それをよりよく維持するには? の質問に対して、シャー氏 は、「テクノロジーが、継続的な改善・改良の重要な要素だ。早期の段階でテクノロジーをフルに取り込み自社のビジネスに組み込んでおけば、やがてテクノロジーなしでは達成出来ないことが可能になる。その上で、顧客が欲するものを考える賢さを持っていれば、あなたは顧客が価値あると考える仕事が出来る。これは好循環が直線的につながるプロセスだ。 うまく取り込まれたテクノロジーと従業員は、よりよい顧客体験に繋がり、それが顧客をハッピーにし、それが企業を成長させる」。 ウェイフェア社では、同社従業員1.7万人のうち1万人が顧客サービスか物流業務についています。その人たちがテクノロジーを駆使出来れば、確かに顧客満足に直接貢献できると思われます。しかし同時に氏は、「これは容易なことではない。Eコマースは厳しいビジネスだ。企業は全てにおいてうまくやらねばならない。マーチャンダイジングが上手くてもロジスティクスはもう一つ、というのでは駄目だ。うまくやれていない部分が、成長を制約する。上手くやれていることで、それを補うことは出来ない」、とシャー氏は言います。

鍵は顧客が何を望んでいるかを理解し、それを、テクノロジー支援で提供すること。

 二人の講師は、口をそろえて、このことを強調します。エリソン氏は、「未来に目を向けると、自問すべき唯一の問いは、自社の顧客にとって何が最も良いことなのか? だ。 これがテクノロジーの真の役割だ」

最も効果的なテクノロジーは、誰にも見えないこと

 テクノロジーの最も効果的な役割は、誰にも見えないこと。「顧客が気づくことは、簡単でイージー(易しい)ということだけ 。スタッフが気づくことは、システムがうまく動いてくていることだけだ。 それが、優れたイノベーションなのだ」、とのエリソン氏の言葉は、コロナ禍を超えて未来へと前進する、まさしく “ビジョナリー” のものでした。        End

< NRF 2019 報告 ⑤ 多様なテクノロジーは 統合・融合的活用へ >

 NRFでのテクノロジーの存在感は、ここ10年、年々増大しています。新規技術の紹介はもちろんですが、テクノロジー活用の考え方や手法に関する展示や基調講演、大型セッションやケーススタディが増えました。今年も “鐘と太鼓”的に騒がれた新規大型技術こそ無かったものの、膨大なソフト/ハードの実践的な技術やソリューションが続々と登場しました。今年の最大の特徴は、AI、IoT、AR/VR、ロボット、などのテクノロジーが、それぞれ単独の技術としてではなく、目的に合わせて統合的・融合的に連動し、ビジネスを支援するようになって来たことです。

 その傾向は、Innovation Lab ( iLab ) の展示の仕方にもよく表れていました。イノベーション・ラボとは、毎回 新しい起業家による革新技術やデモを紹介するコーナーですが、今年は、昨年と異なり、消費者の目線で、大きく 「顧客の体験」 と 「顧客の便宜」 に分けて展示されていました。画像の、iLab入口の案内図 2 枚を比較して見て頂くと分かるように、昨年はテクノロジーを、「買い物プロセス」 で区分けしており、顧客が進んでゆく、 「認知」 「検討」 「購入」 「エンゲイジ」 「購入後」などの段階に分けて、個々のソリューションを紹介していたのです。(画像 上)

<2018のiLab 案内図:「認知」 「検討」 「購入」 「エンゲイジ」 「購入後」に分けて陳列>

<2019のiLab 案内図:「顧客体験」 と 「顧客の利便性」 に集約して陳列>

今年の考え方は、新規テクノロジー/ソリューションの役割が、一つの機能に特定しにくくなっていること。そのため、顧客体験」 と 「顧客の利便性」 という、顧客価値の創造の観点からグループ化したものと考えられます。(画像 下)

 展示場の他の事例でも、たとえば画像認識やサイネージの技術がMDと連動して、売り場を動く遠くの顧客の年齢や性別や着ている服の色をとらえて、適切な情報をモニターに映したり、その顧客が近づいて特定の商品に視線を集中させれば、それに対応して購買につながる具体的情報を提示する、といったことが可能になってきたのです。

 インテリジェント・オートメーション(IA =AIによる自動化、AI により動く新たなテクノロジーの組合わせ)の進展も 特筆すべきことです。 店舗とネットの融合の中で、 マーチャンダイジングも、AIが導くアルゴリズムで動くようになりつつあります。

IBMの調査によれば、現在、小売りおよび消費財を扱う企業の40%が IA を活用しており、2021には80%になる。オペレーションのスピード/柔軟性と顧客体験の向上で競争力を高めるためです。IBMの講師は、「 IA により、膨大なデータの中から特定商品あるいは各顧客への提案を創造し、体験をパーソナル化できる。あるいは、データを使って適切な商品を適切なサイズで適切な店舗に送る。データ分析で新たなトレンドの浮上をとらえる、等も、人間が行うのは困難なことだからだ。」 と強調します。

ロボット活用も拡大し、セルフ決済やレジレス店舗システム、AI  無人キオスクの提案も目立ちました。ボイスコマース、ヴィジュアルサーチ、パーソナルマーケティングなど、AI  は小売業に不可欠の標準機能になってきた、ということでしょう。

  スタートアップの起業家がどんなことを考え、展示しているかを、 イノベーション・ラボ(iLab展示)から 2件 紹介しましょう。

一つは、 Caper社(iLab展示)のスマート・カート(画像)。セルフレジ機能付きのショッピング・カートです。 

商品アイテムは、カートに入れる際にモニター裏のコンピュータ・カメラで認識します。重量センサー(量り売りのアイテムでも瞬時に金額計算)、位置情報センサー(店内の位置)なども搭載し買い物リストの売り場を順序よく誘導します。カート内の商品で作れるレシピ紹介もでき、そのために追加購入が必要な商品や売り場の案内も可能。買い物終了後は、モニター右手のカードリーダー(画像下)で精算、レジを通らず会計終了になります。 

  

           (Kaper  モニターの裏側にあるコンピュータ・カメラが商品を認識)

 Amazon Go に刺激されて、多くのテクノロジー企業や小売業が、レジなし店舗に取り組んでいますが、このカートなら、アマゾン・ゴーのように膨大な経費をかけて天井にカメラを張りめぐらせることもしないで済みます。レジ無し店舗にはこのほか、アプリ搭載のスマホによる読み込みなど、色々な手法が提示されていました。(画像上はKaper 社提供、下は尾原撮影)

 事例の二つめは、VR、ARを駆使したスマート・マネキンのAllure Systems(アルア・システムズ)。高度なコンピュータ・ビジョンとバーチャル化技術で、Eコマース小売業向けにネット販売用のファッション商品カタログを、低コスト、省力、省時間で作成するソリューションです。創業は、2015年。米国サンフランシスコ、フランスと中国にも拠点を持ち従業員50人が働いています。

(アルア社のバーチャル手法での商品カタログ作成、筆者撮影)

ファッション・ビジネスには魅力的なモデルが着用した服のイメージが、購買に決定的な役割を果たします。しかしそれらコンテンツの制作にかかる人手や時間、経費は膨大です。このアルア・システムズは、リアルモデルを色々なポーズや表情で撮影しておき、それをバーチャル・モデルとしてキープします。小売り企業は、着せて撮影したい服を、同社が提供する簡易スタジオでコンピュータ・ビジョン(コンビューター・カメラ)技術により撮影し、それを多様なポーズや撮影角度からの画像に展開する、というもの。 

アルア社の簡易スタジオの模型(筆者撮影)

具体的に言えば、① コンピュータ・ビジョン技術でリアルのモデルからバーチャル・モデルを作成。② それでリアルのマネキンを制作。小売り企業は、提供された簡易スタジオとマネキンを使ってマネキンに着せた服を様々な角度から撮影(機材に固定したカメラの操作で撮影するためプロのカメラマン不要)。③ そのデータを元にアルア社で①②を合体。ポーズや表情を多様に展開したカタログ用画像が送付される、という画期的なシステムです。

ファッション写真の撮影には、モデルや写真家、フォト・スタイリストなどが同時に同じ場所に集まり、撮影をする必要があります。しかしこのシステムでは、リアルで必要なのは、実際の服と着せ付けを行うスタイリストのみになり、それを撮影する簡便なスタジオ(ハード)は提供されます。(画像:スタジオ模型 参照)それを使って、ネットでポーズの変更や撮影角度、ディテールの拡大などを決め、同社に送ると、ビジネスに必要な情報などをつけたカタログが、小売業の情報システムにおくられる、という仕組みです。この技術は、将来的には業界標準のAR(各超現実)に準じて、今日蓄積する自社のバーチャル・データ資産を活用できるように開発中といいます。

 これは、いわゆるSaaS (Software as a Service) のソリューション事例で、トヨタが開発中のMaaS (Mobility as a Service) も、モノ(リアル)にサービスを加えて、新しい価値を創造する考え方といえるでしょう。

 テクノロジーの有機的活用が、今後ますます重要になると思われます。まとめとして、 NRF が発表した「2019年の小売りトレンド」をご紹介します。9件のうち、6件が、テクノロジーがらみであることに注目いただきたいと思います。

① 全ての小売業がAI参入=AIや機械学習はもはや新規テクノロジーではない

②   音声認識は会話を加速するが、収益性は未だ未開発領域

③   店舗のサービス化は定着=体験の共有が小売りビジネスに組み込まれる

④   ヘルスとウェルネス=2019小売企業の最重点目標

⑤   小売企業2019成功の鍵=サプライチェーンの効率性とAI活用による専門力

⑥   サステナビリティが主流に=顧客は購入ブランドの倫理観、透明性を重視

⑦   ブロックチェーンの初期実験に注目=導入にはまだ時間がかかる

⑧   小売におけるロボット=成長とディスラプションにつながる

⑨   アマゾンの支配は継続=顧客データと機械学習によるパーソナル体験を提供

日本でも、デジタル・テクノロジー活用の戦略立案と実行、人材確保が、喫緊の課題です。

                                     以上

<NRF 2019報告④ デジタリー・ネイティブ・ブランド (DNB) の台頭に注目を!>

 “デジタリー・ネイティブ・ブランド (呼称DNB)” の登場が、今年のNRFでは目立ちました。今回は、急速な台頭が注目されているDNBの意義と、典型的な事例についてご紹介します。

 NRF大会では毎年必ず最終日に、若い起業家が3~4人が登場するセッションがありました。彼らが新しいビジネスコンセプトや起業の想いを語ることが、未来へ向けての革新を示唆するようにセミナーを企画していたものと思われます。しかし今年のNRFでは、初日からDNB創業者の登壇や、起業事例の紹介が数多くありました。その背景には、デジタル・テクノロジーが拡大し、豊富な投資マネーにより起業も容易になったいま、多様な“デジタリー・ネイティブ・ブランド” の立ち上げが、ビジネスを活気づけている事があります。

デジタリー・ネイティブとは?

  デジタリー・ネイティブという言葉の意味は、“生まれたとき、または物心がつく頃にはインターネットやパソコンなどが普及していた環境で育った世代” です。この言葉は、2001年に米国のマーク・プレンスキー(教育者でビジネス戦略家、文筆家)が、その著 『デジタル・ネイティブ、デジタル・イミグラント』 で使ったもので、デジタル世代の考え方や生き方は過去の世代と全く異なる。これに照準を当てて学校教育を刷新すべし、と提唱したことがきっかけで知られるようになりました。それがいま、消費者とビジネスのありようが大変容するビジネス現場で、注目されているのです。

 ちなみに、“デジタル・イミグラント(デジタル移民)”とは、デジタル以前に生れた世代。デジタル世界に生まれ育ってはいないが、大人になってから、このデジタルという、まったく違う世界に何とか対応・順応しようと努力している、いわば他国からの“移民”だというわけです。

 デジタル・ネイティブは、年齢的にはアメリカでは1980年台以降に生まれた人たち、日本では90年代半ば以降に生まれた世代、と考えられます。現在世界に、3.6億人のデジタル・ネイティブがいるといわれています。

「bonobos founder」の画像検索結果  (Bonobos 創業者 アンディ・ダン氏 画像はWikipedia)

■    DNB(デジタル・ネイティブ・ブランド)に共通する4つの特徴

 DNB(デジタリー・ネイティブ・ブランド)という言葉を小売り業界で広めたのは、Bonobos(ボノボス)というメンズウェアのショールーム業態を2007年に創業したアンディ・ダン氏の2017年の著作 The Book of DNVB』 と 『The DNVB Encyclopedia(百科事典)』でした。彼がここで DNVB (Digitally Native Vertical Brand)として Verticalの言葉を入れているのは、DNBが、モノやサービスの企画・製造から顧客(消費者)にわたるまでを垂直的につないでいる、他社を介在させない、の意味を持たせたからです。  (ボノボスは 2017年にウォルマートに 3.1 億ドルで買収され、アンディ・ダンは、現在ウォルマートのシニアVPとして引き続きボノボスに関わっています)

 アンディ・ダン氏によれば、デジタリー・ネイティブ・ブランドとは、「熱狂的に顧客体験にフォーカスし、ウェブ(デジタル技術)を中心に、顧客とインタラクトし、トランスアクト(取引)し、ストーリーを語るブランドだ」 です。

DNBよるイノベーションの4つの特徴とは:

1.直接ソーシング(生産や直仕入れ)でコスト削減=複雑な伝統的流通構造の回避

2.ブランド体験の増幅=ブランドとは、製品・顧客体験・顧客サービスの総合体である

3.従来と違う流通形態やチャネル=消費者直販(DTC)を、デジタルと実店舗で行う

4.SNSへの高度な取組み=1 to 1 マーケティングによるコミュニティづくり

■   代表事例としての allbirds (オールバーズ)

 オールバーズ(allbirds)はニュージーランドの元フットボール選手ティム・ブラウンが、米国シリコンバレーの友人と組んで起業した、スニーカーブランドです。選手として長年、履きやすく靴下なしで履いても快適、洗濯機で丸洗いが可能な靴をさがしていました。そして自らエコロジー志向で素材にこだわった運動靴を開発したのが、ニュージーランドの高級メリノウール使いの運動靴でした。「アルマーニのジャケットに使う」グレードの羊毛を使っている、といいます。

開発製品第1号 メリノウール使いスニーカー。洗濯機丸洗いも可能

10色を超えるカラフルな靴紐を組み合わせる

 最初はデザインも1型、カラフルな多色展開で、多色の靴紐(シューレイス)を好みで組み合わせ購入するというもの。(画像参照) 何回も洗濯機で丸洗いしても、表面に少し形状変化が起きるだけで履き心地も見かけも変わらない。そこまで持ってゆくために、顧客の声を聴きながら、発売後も 27 回も改良を重ねたそうです。

 価格は、大人物(男性・女性用とも)95ドル、子供物は 55ドル、というシンプルな値付け。次いでスリップオン・タイプも開発。紐靴に加えて2 型になりましたが、当初はネットのみの販売で、靴を入れる箱(宅配用)にも工夫をこらし、簡単な折り曲げ操作でテープを巻けば、そのまま出荷できるといったアイディアももりこんでいます。(画像参照)

左右に靴を入れ、内側に折りたたむと出荷用の箱が完成

 ニューヨークのソーホーに2017年秋に開店した第1号店は、回し車に顧客が入ってランニング試着を楽しむショップ。カラフルな商品をセレクトする体験も併せて、まさしく顧客の感動体験を生むものでした。   

                 

                    回し車に入って試着・試走をする顧客

人気が急上昇するとすぐにコピーも出回りました。「あんなに早くコピーがでるとは!それもヨーロッパの大手靴メーカーまでが、と本当に驚いた。コピーするなら品質まで完全にやってほしいよ。」とブラウン氏。テクノロジー・ニュースのサイトRecodeの編集長によるNRFのインタビューでの、「靴にはロゴマークをつけていない。かかとの後ろのソール部分に allbirds と控えめにレイズ表示されているだけ。なぜか?」 との問いに答えて、ブラウン氏は 「われわれはブランドロゴで製品を売ることはしたくない。靴の良さを本当に理解してくれる人に買ってほしい」と答えています。まさに、誠実で正統派(オーセンティック)なモノづくり、の姿勢といえましょう。

 その後、売り上げ急上昇でウール素材の入手が困難になり、ユーカリやサトウキビを原料に使う靴づくりに移行。現在の店舗はそれらの写真やサステナビリティへの想いを強くアッピールするものになっています。「われわれは、サステイナブル素材のブランドだから」と胸を張るブラウン氏に大きな拍手を送りたくなりました。

サステイナブル素材のメーカーとしてユーカリやサトウキビを原料に使用

 2015年創業のこのallbirds は、まさしく先に挙げた、DNBの4つの特徴を備えています。直接ソーシングでコストを削減し、アスリートが熱望する、快適でサステイナブルなシューズを安価で提供する。また、すぐれたブランド体験を提供しファンを作る。既存の流通チャネルに頼らず、消費者直販(DTC)を自ら開発したデジタルおよび実店舗(現在2店舗)で実現する。そしてソーシャル・メディア(SNS)フル活用のマーケッティングで売り上げと顧客と支援者を作りました。“物語を語る”という点でも、抜群のストーリー・テリングのブランドになりました。

 そして何よりも、「NRF 2019の 6つのインパクト」 の第一に挙げられた “パーパスフル”、すなわち、目的意識が明確な、エコロジー志向(社会善)の使命感に満ちた事業であることに元気づけられます。

 このようなデジタル・ネイティブは、アメリカで多くの新事業を起こしています。今後はさらに多様なビジネスや NPO を展開してくれるでしょう。日本でも、こういった動きが進むことを切望しています。