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<日本が世界に誇れるもの⑤ 「日経ビジネス特集Part 4から」>

日本グローバルな商品「日本が世界に誇れるもの」の第4グループを日経ビジネスは、「安全・快適・愉快を売り込め」のテーマでくくっています。

 その狙いは――「日本の産業は今、大きな転換点に居る。右肩上がりの成長は既に終わり、国内市場は縮小が始まっている。高品質・高効率で世界を席巻した耐久商品材は新興国にその座を奪われつつある。そんな中にあって、日本の次が見えてくるのがこの章の商品・サービスだ。日本人や日本社会のきめ細やかさや正確さに対する世界の信頼は厚い。独特の文化への関心も高い。こうした世界の芽をうまく商品・サービスにつなげることが、日本の将来を作る。」

 Part 4: 「安全・快適・愉快を売り込め ―日本の未来を創る商品・サービス」(20事例) に上げられた商品をみると、その中に、ファッションやデザイン関連のユニークなものが いくつも入っています。ゴスロリファッション、渋谷109系ファッション、つけまつ毛。また服飾ではないのですが、アニマルラバーバンド(動物の形に仕上げた色とりどりの輪ゴム)も、つい笑顔になるユーモラスなデザイン商品ですし、geografia(紙製の地球儀)はニューヨークの近代美術館MoMAが評価し、自分で色を塗れるように改良した結果、世界23カ国に販売されているといいます。

 ちなみに、この「安全・快適・愉快」に上げられた他の商品としては、上記のほか、「ブローニング」の猟銃(木と金属を知りつくし、工作機械以上の精度を評価されて米国ブランドの委託生産)、クラフトビール(国際大会チャンピオンの地ビール)、LEDランタン/テント、Mume(京都祇園白川沿いの小ホテル、接客サービスを外国人観光客が最高評価)、消防車、キリン フリー、Wii U、宅急便、新幹線、カンデオホテルズ(日本のビジネス・ホテルの「当たり前」を海外へ)、漫画カメラ、フリクションボール/ジェットストリーム(書いて消せる/なめらか書き心地)、ABCクッキングスタジオ(主婦ばかりでなく仕事帰りの働く女性・男性にも好評)、新華錦・長楽国際優良老人ホーム、超小型車(コムス。高齢者に優しいクルマ)などがあります。

「安全・快適・愉快」は、言い換えれば「心と身体が喜ぶ、高質のライフスタイル」に関わるもの、といえるでしょう。「豊かさ」が「お金を沢山持っていること」「高級な持ち物に囲まれていること」ではなく、快適で楽しい日常があること、また安心して使う・食べる・利用することができる、ということだと思います。

かつて日本が世界を席巻したテレビや家電製品が、リーダー・ポジションから失墜したことから「経済力で中国に負け3位になった」とか「活力を失った国」などの敗北感を強調するようなマスコミ報道が多い昨今ですが、実際には、日本の力には他国の追従を許さない、あるいは他国のライフスタイルの先を行く、多くの優れたものがあるのです。

日経ビジネスの100選。どのように感じられたでしょうか。私自身も、これらの100点のうち、世界的製品やサービスだと意識していたものは、半分ぐらいしかありませんでした。

次回は、これらの「世界に誇る日本の商品」から見える、ファッション・ビジネスのこれからの可能性について、まとめてみたいと思います。

<日本が世界に誇れるもの ① 「世界を変える50人に選ばれた柳井正氏」>

ユニクロの創業者、柳井正氏が、いま世界で注目を浴びています。

今回は 「日本が世界に誇れるもの」 の第1回として、柳井氏に関する、日本人にとって嬉しいニュースを紹介します。

FIT特別セミナーで講演する柳井氏(2012年3月撮影)

 日本のファッション・流通業界でユニクロが注目されるのは、売り上げがファーストリテーリング全体で1兆円に達するという規模の成長や世界各地への急速な出店、そしてヒートテックやウルトラライトダウンといった高機能商品が中心ですが、世界はユニクロを、より総合的で未来への道を拓く 「革新的なデザイン企業」 と見ていることを、強調したいのです。つまり、日本では同社を「服の小売業」として見ている場合がほとんどなのに対して、欧米では、「デザイン(設計)での革新企業=服のデザインに限らず店舗デザインやビジネスの仕組みのデザイン」あるいは「斬新なビジネス・コンセプト=『常識を変える・世界を変える』や『Made for All(すべての人に)』」を持つ企業だと見ているのです。

まず、最近の掲載記事では、米国のブルームバーグ・マーケット誌が「世界で最も影響力のある50人」の一人に柳井氏を選んでいます。金融・証券に強い同誌らしく、「2012年8月までの5年間で株価を158%上げた」ことと、中国市場へ積極攻勢をかけて何百店舗を展開する意欲を特記しています。(9月5日号)。選ばれた50人の中には、ティム・クック(Apple社CEO)やマーク・ザッカーバーグ(Facebook 創業者)なども入っています。

日経ビジネスの「稼ぐ経営者ランキング」(10月1日号)の特集も、柳井氏を第4位に位置づけていますから、企業を成長させる経営手腕を、日本も世界も認めているということでしょう。

柳井氏の別な受賞、Fast Company誌の Co.Design 50」(優れたデザインの企業あるいはリーダー50人)受賞は、「未来をデザインする企業」としての評価であり、非常に重要な意味を持つと私は考えています。 Fast Company はアントレプレナー的あるいは先端的なビジネス動向をカバーする専門誌で、米国ではイノベーションを志向する読者が支持するビジネス誌です。

 そのサブ誌、Fast Company Co.Designが、今年の「Co.Design 50」を発表しました。(Fast Company 10月号)。 柳井氏の受賞の説明として同誌は、「ミドル市場へ向けて、これまでの常識を覆す小売戦略をとり、店舗には十分のスタッフを投入、店舗ディスプレイにも高額投資をしている。売り上げは爆発的に伸び、ユニクロは急速に拡大し、かつてのGap がそうであったように、デザイン・アンバサダー(大使)になりつつある。」と書いています。

そもそも「Co. Design」のコンセプトは「business + innovation + design」、つまりビジネスとイノベーションとデザインの合体であり、その根底には、「これからは 『Good Design Is Good Business』 の時代」、「イノベーションが不可欠」の思想があります。この考え方は約40年前に、トーマス・ワトソン二世(IBMの元CEO)がウォートン大学での講演で話したことでしたが、当時は理解されるどころか、馬鹿げたことに聞こえたそうです。それが現在、革新にはデザインが不可欠になり、スティーブ・ジョブスのアップルにおける成功をひくまでも無く、全ての業種に共通な重要事項になっている、とCo. Design の編集長はいいます。

Co.Design 50」 特集では、現代のビジネスが如何に多様な要素を持ち、それらが互いに関わり合っているかを、ユニークな地図に描いて示しています。各要素は9つの柱として地図の上に立てられ、それらを線でつないだり交錯させたりすることで、現代のイノベーションが専門領域の壁を越え、学際・業際的になっていることを示す非常にユニークな図です。9つの柱とは、「教育者&キューレイター(学芸員)」、「グラフック・デザイン」、「インタラクティブ・デザイン」、「プロダクト・デザイン」、「ファッション」、「エグゼクティブ&パトロン」、「建築」、「インテリア」、「トランスポート・デザイン」、です。ちなみに柳井氏のポジションは、「ファッション」と「エグゼクティブ&パトロン」です。同誌は、受賞者50人は、みな複数の要素を領域として踏まえながら、さらにその領域の境界線を打ち破って、新しい未来を作って行く、としています。

(興味のある方は、下記のURLをご覧ください)

http://www.fastcodesign.com/1670792/infographic-50-people-shaping-the-future-of-design#1

「『未来は今、デザインされつつある』。これは奇妙な考えかもしれないが、今回選ばれた50人のデザイナーや教育者や経営者が、まさしくそれをやりつつある。Co.Design  のエディターたちは、専門領域の境界線を、未来を約束する新しい方向へ押しだすこれらの人たちを、今年の「Co.Design 50」 として選出した。」

 その一人として、柳井正氏が選ばれた事を、ファッション流通に携わる日本人として、非常に誇りに思います。