ビューティ

<NRF(米国小売業)大会2014 報告⑦―“パーソナル化”で忠誠顧客を創るセフォラ>

 先回、小売ビジネスがモバイルの浸透により大きく変わりつつあること、とくに顧客に対する“パーソナル(個人的)” なコミュニケーションが重要になっている事について、書きました。

  今回のNRFでは、パーソナル化に関するセッションがいくつもありましたが、その中から、セフォラ(Sephora)に関するものを御紹介しましょう。“ The  Power Couple: Loyalty and Mobile ”( 「ロイアリティとモバイルの力強いカップル」 )と題するセッションで、モバイルのパーソナル化アプリを活用して、ロイヤル顧客の構築に成功している事例の紹介です。

  (画像はセフォラの店舗:NRF提供)

  セフォラは、1970年にフランスで生まれた化粧品の会社ですが、ユニークで美しい開架式のディスプレイから、販売員の手を借りずに自分で、また自分のペースで商品の試用や選択が出来る方式が特徴です。現在はLVMH(ルイビトン・グループ)の傘下にあることから、ラグジュアリー小売業として、Sephoraの自社ブランドのみならず、世界のトップブランドのスキンケア、カラ―、香水、ヘアケア、などを多彩にそろえています。またブランド別ではなく、カテゴリーでくくった提示もユニークです。ネット販売の Sephora.com 米国で1999年にスタートしていますが、米国とカナダを合わせた売上は、現在“北米店舗”325店の中で最大となっているといいます。

 (モバイルの画面に使いやすいアイコン)

  セフォラのモバイルを活用したパーソナル化は、2 つのプログラムで、抜きんでています。

  第 1 は、「カラーIQ 」システムです。これは、店舗で自分の肌の色をスキャンで調べてもらい、その肌色番号をもとにファンデーション一覧が提示される仕組みです。色々なブランドのファンデーションを値段や人気度等とともに比較しながら選べるのは、まさしく顧客セントリック(顧客の立場に立った仕組み)です。また口紅の色なども、以前に買ったものを購買履歴からすぐに見つけることが出来、非常に便利です。

  2 に、魅力的なロイアリティ・プログラム“ビューティ・インサイダー”があります。買上げレベルにより、3 つの段階、一般の顧客はBeauty Insider350ドル以上のお買い上げ客はVIB1000ドル以上がVIB Rouge、と分かれており、コンテンツもそれぞれ違っています。

  化粧品売り場で、ブランド販売員の強烈な売り込みに辟易している顧客が多いのは米国も同じです。販売スタッフの視線を避けながら、ではなく、自由に商品を吟味したり比較し自分流の買物や楽しみが経験出来る。そのために、モバイルと使いやすいアプリが重要なのです。またそれによって、店舗でも、モバイルでも同じ体験ができる、しかもそれがパーソナルな体験だという、まさしくオムニチャネルになるのです。

  パーソナル化とは、顧客が「私の事を考えてコミュニケーションしてくれている」と受け止めることです。誰にでも同じ案内をしている事が明白なものには、人は興味を持ちません。小さなことでも、例えば、始めての来店(来サイト)客に提示するのは「ベストセラー商品」、しかし既に顧客になっている人には「新商品」を、という対応をしていると、先回紹介したコルビー氏は言っていました。

  コルビー氏によれば、「パーソナル化」とは、「データを活用する事により、顧客のニーズ(表明されている、いないに限らず)を正確に反映する、「即 行動可能な」( Actionable , 「タイミングよい」( Timely)そして「その人に意味のある」( Relevant な体験を、すべてのタッチポイントでとどけること」だといいます。ここで特に重要な事は、そのメッセージや商品やサービスが、「レラバント(その人に意味がある、その人のニーズや考え方に合っている)」であることです。

 また「パーソナル化」は、1 回限りのものやアイディアではなく、顧客とのインタラクションと顧客体験を継続的にクリエートすることにより、顧客に“スマート”(賢くかっこいい)と感じさせることであり、そういった考え方(フィロソフィ=哲学)だとも彼は言います。

 いよいよビッグデータの活用の時代に入って、これから驚かされる事が多い時代が来るでしょう。『魔法の瞬間』、という言葉がNRF2014大会では、飛び交っていました。スカンジナビア航空の社長ヤンカールソン氏の著作のタイトル真実の瞬間』、にヒントを得た言葉だと思いますが、まさしく『顧客の心に かちっと はまる』瞬間があるのです。

  米国有数の大型小売業ターゲットが、データマイニングによって妊娠していると察知した女性顧客に対して、関連商品の案内を送った事例が話題を呼びました。本人が、「まだ誰にも話していないのに」と驚いた、というのです。彼女が買っているもの(ビタミン剤なども含め)と集めているクーポンによって、妊娠が分かったといいます。

 パーソナル化には、難しい問題がある事は言うまでもありません。個人情報を、どこまで収集する事が許されるのか、またそれを使ってどこまで働きかけが出来るのか? しかしセミナーでは、米国のある調査によれば、85%の人が「より良い経験が得られるならば、提供する」と言っていることも紹介されました。

<ファッション・ビジネス領域の広がり――ビューティとファッション>

「ファッションとビューティ―-感性価値創造に取り組む先端ビジネス」のテーマで話して欲しいとの依頼を受けました。学校法人 メイ・ウシヤマ学園が設立したハリウッド大学院大学のエクステンション・スクールでの講演です。(6月6日18:30~で参加は無料ですが、事前の申し込みが必要です。申し込みはhttp://hollywood.typepad.jp/mba/files/20120606.pdf で) 

「ビューティ」とはせまい意味では「美容」ですが、もともとの意味は、「美」であることは言うまでもありません。私は美容の専門家ではありませんし、エイボン・プロダクツ社の社外役員も務めましたが、毎朝のお化粧に5分も使わない人なのです。けれども「美しくありたい」との願いは一般の女性と同様に強いと思っています。

「ファッション・ビジネス」はアパレルやアクセサリーのビジネスと思う人が多いようですが、実は「美」を扱うビジネスとしての化粧品は、アパレルよりも歴史も古く、「高付加価値」、すなわち製品の物的価値(原料費や生産コスト)を遥かに上回る小売価格で販売されるという意味で、アパレルの大先輩といえるでしょう。トップモデルを起用し膨大な広告費をつぎ込んで、世界的なブランドに育てることにより、巨大なビジネスを確立した企業が多いからです。

「ザ・ファッショングループ・インターナショナル」という女性プロフェッショナルの国際組織がありますが、1928年にニューヨークでこの会を立ち上げた女性リーダー17人には、エレノア・ルーズベルト大統領夫人、ヴォーグの編集長に加えて、エリザベス・アーデンやヘレナ・ルビンシュタインなど美容界の大物が名を連ねていたことからも、その重要性が分かります。(アパレル関係者はまだいませんでした。)

ファッションの領域は大きく拡大

「ファッション」と 「ビューティ」 ビジネスの相違点は多いのですが、当ブログのテーマ、「時代の潮流」として見ると、重要な共通点があります。

それは、生活が豊かになり人々が個性的になった事により、「服」も「化粧品」も別個で無関係なものではなく、個人の生活や生活スタイル(ライフスタイル)あるいは人生を作る重要な道具になって来たこと。そのために、ファッションもお化粧も、自分に無いものを外から着せつけたりメイクアップする(補う)のではなく、個人が持っている良さを引き出す方向に動いている事です。 (図はアパレルを中心としたファッションが、個人の生活・生涯作りに関わる領域に広がっている事を示したものです)

また、ファッションやビューティを考える上で、「健康」や「環境」、「心・情」(精神や感情)、「知・美」(知恵や美意識)などが、重要になっていることも付け加えたいと思います。

奇しくも先週発売された「ヴォーグ」誌の7月号は、いまヴォーグが世界に向けて出来ることは何かを考えた結果、「ザ・ヘルス・イニシャティブ」プロジェクトを全世界のヴォーグが一体となって推進することを宣言しています。不健康なほどに痩せたモデルを見て、読者が無理なダイエットをしたり、また、精神的にも身体的にも未成熟な少女モデルを見て「理想のボディ」と誤解する事が無いように、「ヴォーグは今後、16歳未満のモデルや、摂食障害を抱えたモデルを起用しないことを決めた」というものです。

また、5月31日付のニューヨーク・タイムス紙は、ファッション欄で、「黒人女性は自然の縮れ毛へ移行」の記事を掲載し、「これまでストレートヘアにする為に化学物質を使ってきた人たちが、自然回帰している」と述べています。

より心地よい生活、より美しい自分を作るために、私達は次のような進化をしてきたと思います。

「身づくろい」→「身だしなみ」→「おしゃれ」→「流行」→そして今「スタイル」。ここで言うスタイルとは、「My Style」とでもいうべき「自分ならでは」、「自分の個性が生きている」ファッションです。

これからの時代の価値創造は、この、個人の個性と感性にアッピールする「感性価値の創造」、つまり「個人が自分の価値基準で感知し評価する情緒的価値」の創造と提供でなければならないと、私は考えています。