ファッション・ビジネスの未来
< NRF 大会 リポート③ 急拡大する “リセール(中古品)” ビジネス>
リセール/ユーズド品ビジネスの拡大が、今回のNRFで大きく取り上げられました。先回紹介した 「NRF小売り10大トレンド」でも、トップに上がったのが、「消費者はユーズド/リコマースに貪欲」でした。今後ますます増加するであろう “セカンドハンド・ビジネス”の動きと、ファッション・ビジネスの未来を大きく変える可能性があるこの問題を考えてみたいと思います。
リセールの最大手マーケットプレイスのスレッドアップ社(thredUP)とGlobal Data社の合同調査によれば、2018年に240億ドルであった中古アパレルの市場規模が、5年後の2023年には2倍以上の510億ドルに達すると予測し、その伸びは急拡大するリセール(中古品の再販)によるところが大きい、としています。(図 1 参照)
(図 1:チャリティへの寄付やリサイクルショップ売上などを濃いブルーで表示。ライトブルー表示が リセール thredUP社 ホームページより)
この調査では、2000人の回答者の64%が、リセールを「利用している」 または「今後利用する」と答えています。特に若手では、「すでに利用」がミレニアル世代の29%、Z世代では37%に達しているとのこと。
またこの伸びが、かつてのECの成長カーブと同じ軌跡をたどっている、というのも、注目すべき点です。(図2参照)
(図 2:「Eコマースの成長カーブと同じ軌跡をたどるリコマース」画像はTerracydleプレゼンより。NRF提供)
この動きの背景には、無駄な消費行動を抑えよう、というサステイナビリティへの強い流れがあります。かねてから言われてきた、3R (Reduce=使用資源や廃棄物の削減、Reuse=繰り返しの利用、Recycle=廃棄物等を原材料やエネルギー源として有効再利用)が、社会経済環境の激変とテクノロジーの進展により、ビジネスとして急浮上しつつあるといえるでしょう。直接的な背景としては、①価格と価値を考える「賢い」消費者の増加、また、②若者がリードする価値観(社会善への意識や、新品ブランドをひけらかすのでなく高品質のものを使い込む価値観へのシフト)、③ミレニアル世代やZ世代の日常となったSNSによるコミュニケーションや中古品への抵抗感を低減、などが、市場を広げているからです。
リセール・ビジネスは様々な形で行われています。リーマンショック以降に誕生した、ブランドものの再販サイトThe RealRealやMaterial World、さらにフリマアプリのPoshmark。あるいは最近の追従組、百貨店のMacy’sやJ.C. Penney、あるいは Gap(Banana Republic, Athleta含む)やMadewellは、いずれも後述する リセール・プラットフォームthredUP との連携によるものです。他にも、NordstromやAmerican Eagle、Urban Outfitter などがユーズド品の販売を開始。百花繚乱の感じになってきました。
これらの動きの中で、特に注目したい3つのビジネス事例があります。thredUP、TerraCycle、Yerdle、です。これらが、単なるリセール、リユースの枠を超えて、今後のファッション・ビジネスを変えて行くであろう方向を、注視したいからです。
<thredUP=スレッドアップ>
スレッドアップ社は、サンフランシスコを本拠とする、世界最大のファッション・リセール・マーケットプレイスです。中古品のオンライン買取、販売、小売りへの委託販売を行う、“Resale-as-a-Service”(同社CEO言)。創業は、ボストン近郊。
起業のきっかけは、現CEOのジェームス・ラインハルト氏が、ハーバード大学院生(公共政策とビジネススクールのダブル専攻)であった2009年に、現金が必要になり、クローゼットの着ないシャツを リサイクルショップに持ち込んだところ、①うちが扱っているブランドでない、②メンズは扱わない、の理由でダメ。そこで自ら友人をリサ―チをし、「皆、クローゼットに沢山服があっても、3分の1しか着ていない」 ことを把握。“何百万ドルがタンスに眠っている!”と、起業を決意。
しかしこのビジネスは、モノの引き取り・点検・在庫・値付けなどを、他人任せでなく、自らやらねばならないと気づき、Upcycle Centerを設置。現在では、世界最大のハンガー・ガーメント倉庫を2つ所有。最先端テクノロジーと高度なロジスティクスを駆使して、常時200万点のアイテムを在庫、毎日新規4.5万点をアップ。35,000 以上のブランド(GapからGucciまで)を最大90%引きで提供するモデルになっています。
製品の引き取りは簡単。手持ち衣料を売りたい人は、Clean Out Kit (大きな水玉柄の袋セット)を取り寄せ、それに不要な服を入れ、返送(無料)。FedExへの持ち込みも OK。代わりにキャッシュか、買い物用クレジットをもらう。あるいは、指定のチャリティ団体に寄付(5ドル)することも可能。“セカンドハンドの服をファーストハンドの楽しさで!” がキャッチフレーズす。
あるサミット会議で、「毎年320億点のアパレル製品が提供され、その64%が廃棄される実態」を知り、「世界的問題であるCO2削減に取り組むこと」の重要性に気付いたラインハルトCEOは、以来、2019年だけでも、1.75億ドルのファンドを獲得。メイシーとJCペニーに 「Resale as a Service」プログラムのパートナーシップを確立。リセール・ビジネスの最前線を走っています。
「そのこと自身が “良いこと” であるビジネスを確立できれば、成功の確率は高い」とラインハルト氏は言います。
<TerraCycle=テラサイクル>
テラサイクル社は、2001年創業の、廃棄物処理/リサイクルの会社です(本社はニュージャージー州)。ファッション製品に直接取り組んでいる事例ではありませんが、サーキュラー経済を志向するLoopと呼ばれるプロジェクトを立ち上げ、2019年の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)でこのサーキュラー・ショッピング・プラットフォームを発表、話題を呼びました。世界的な大手消費財メーカー、例えばユニリーバやタイド、ハーゲンダッツなどに、洗剤やアイスクリームの使い捨て(Disposable)容器をやめ、永続性ある(Durable)容器を使用するよう提案し、実現している会社です。消費者は容器料金を払いますが、後で払い戻される仕組みになっています。「21世紀の牛乳配達マン」とCEOが言う、フルサイクルの再利用、を目指しているのです。
創業者のトム・ザッキー氏(現CEO)は、4歳の時チェルノブイリ原発事故で、ハンガリーから両親(医者)とカナダに移住。カナダのコンサーベイション(自然保全)意識に大きな刺激を受けました。その後、プリンストン大学で経済と社会学を専攻。大学1年生の時、2万ドルでフロリダの連続コンポスティング(堆肥化)・システム会社を買収し、プリンストン大学の食堂から出る有機性廃棄物を細菌により肥料に転換するビジネスをスタート。 2006年にTerraCycleの活動により ビジネス誌 Inc. で、” 30歳以下のCEO No.1″ に選ばれている人です。
「この壮大なプロジェクトは、失敗するわけにゆかない。失敗すれば2度と再トライが出来ないから」 とビジネスとして成立させる努力をするザッキー氏ですが、2019年ですでに、米国の売り上げ1120万ドル、純利益180万ドルを達成しています。2019年の売り上げの昨対19%アップに貢献したのは、ウイリアム&ソノマや、リーボックの参画が大きいとのこと。ウォルマートも自動車のカーシートのリサイクル・イベントをローンチし、予想を超える反響で期間を繰り上げ閉会した、と聞きます。
CNNビジネスニュースはザッキー氏を、「廃棄物なしの世界を、心底から夢見ているビジョナリーだ」と評しています。日本では、プラスティック袋や容器の廃棄削減への動きがようやく出てきたところですが、世界の意識と行動は、かなり先を行っていることに焦りを感じます。
<Yerdle=ヤ―ドル>
ヤ―ドル社は、2012年に、カリフォルニア・Benefit Corporation として創立されました。Bコーポレーションとは、公益会社、つまりビジネスの力を使い、利益の追求と同時に社会と環境に対する優れたパフォーマンスを追求する組織。 設立の目的は、ファストファッションがもたらす様々な課題を解決する、“サーキュラー(循環型)” のビジネスモデルを目指すことです。
創業者のアンディ・ルーベン氏(現CEO)は、大学で構造工学とMBAを専攻、製造業やグーグル勤務のキャリアをもつ人ですが、ウォルマートのサステナビリティ統括責任者だった時、人々が自宅に不用品が山積していても気にせず、新しい物を買うのに疑問を抱き、サンフランシスコの革新的実業家たちとともにYerdleを立ち上げました。事業の目標は「最終的に私たちが買う必要のある物を25%削減させること」。
その先見性は、2018年1月のダボス会議で 「サーキュラー経済の未来で注目すべき6社」 に選ばれていることからも分かります。選考理由は、「ファッションのブランド企業が自社の製品を買い戻し、再販することを可能にするプラットフォーム・ロジスティクス・売買用インフラ、を提供する」です。
Yerdleは、はじめは雑貨のリセールを扱うサイトとしてスタートしましたが、ブランドものでなければ売りにくいことを体験し、2016年からは消費者の信頼を得ているブランドに絞った再販の背後業務(在庫のフローや検品などのマネージ)にシフト。
ビジネスモデルは、収益をブランド側とシェアする形式で、割合は請け負う背後機能の範囲で異なります。ブランド自身が多くを受け持つケースもあれば、アイリーン・フィッシャーのようにブランド側はブランドのポジショニングだけを行い他の背後業務はヤ―ドルに任せるケースもあります。
ヤ―ドルは、他のオンライン業者と違って “小売り”ではないことから、ブランドにとっては顧客情報を取られることもなく、またヤ―ドル側も製品の信ぴょう性を確認する必要もない。なぜならブランド自身が直接かかわっているからです。
ヤ―ドル社の取り組み先には、アイリーン・フィッシャーのほか、パタゴニアやREIがあります。NRFのセッションでは、パタゴニアのコーポレイト開発責任者フィル・グレイブス氏が、同社の“Worn Wear” (着用された服)プロジェクトを紹介。同社は1970年代からリペア、リセリング、アップサイクリング、リサイクリングに取り組んでおり、すでに世界70箇所のリペア・センターで、毎年10万アイテムを修復しているとのこと。「2017年には本格的にリコマース取り組み、Worn Wear再販事業部を立ち上げた。顧客はパタゴニア製品を店舗に持ち込んだり郵送したりして、それに見合うギフトカードを受け取る仕組み」で、集められた製品は、ヤ―ドルに送られ、そこでクリーニング、撮影、在庫登録、ネットにアップ、となります。「2017年以来13万点のユーズド品が2度目の命を与えられた」。「我々ブランド側が、顧客のブランド体験全体をコントロールでき、それが最高のものであると保証できるこの仕組みが気に入っている」 とグレイブス氏は強調します。
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今回のNRFで特に注目したことは、リユース・ビジネスの拡大が、これまでのように趣味的古着や蚤の市、あるいは節約のための中古品購入といった単純な消費活動の拡大ではないこと。サステイナビリティへの総体的取り組みが、原材料や生産工程の資源・エネルギー削減だけでなく、ファッション製品の循環型利用を含む、新たなエコシステムの構築へと動いていることです。リコマースの新たなプラットフォーム誕生や、製品のオーセンティフィケーション(認証)、ロジスティクス(リバース物流も含む)、などが組み上がりつつあるのです。まさしく ファッションの“サーキュラー・エコノミー” すなわち「循環型経済」、あるいはクローズド・サプライチェーンの形が見えだした、と言ってよいと思います。
事例として取り上げた3つの会社の、創業者の想いあるいは起業のきっかけには、サステイナビリティを身をもって実践しようとする、情熱がほとばしり出ていることを感じます。“陳腐化促進”が価値創造の重要な部分であったこれまでのファッション・ビジネスが、もう先延ばしできない地球環境保全の問題をどう解決するのか。この産業の取り組むわれわれ全員に突き付けられている課題です。
さらに、ファッション・ビジネスにおけるブランドの重要性。自分のブランドの価値の恩恵(利益)を、不用意に他者(例えば他の再販業者)に提供してしまう、といったこれまであまり気に留められなかったビジネスの仕組みも、改めて考え直す必要があります。自分のブランドは、自分でストーリーを創り、自分で価値を創造・増幅し、大事な顧客づくり・ファンづくりをすることで、自分でコントロールする。そんな時代が近づいています。 リポート③ End
< NRF(米国小売業協会)大会 リポート② 2020 年小売りの 10 トレンド>
2020 NRF 大会リポートの2回目です。 先週、繊研新聞に掲載された「尾原蓉子の全米小売業大会リポート」を読みたいと言って下さった方、有難うございます。下記でpdfがご覧になれます。→尾原蓉子の20年NRFレポート (繊研新聞 2020年2月21日掲載)
今回のNRFリポート第2弾は、「2020年小売りの10トレンド」 のご紹介です。 NRF(全米小売業協会)は、Stores という専門誌を出しています。この雑誌が 1 月の NRF大会に先立ってまとめたもので、業界有識者や調査機関に加え、ニューヨーク大学の著名教授、スコット・ギャロウェイ氏 ( 『GAFA―四騎士が創り変えた世界』 の著者)などが、気候変動や経済の不透明性、シェアリング経済などの議論の中から小売りのトレンドを集約したものだといいます。先回ご紹介した、
「Wi-Fi と電池残量が、ついに“マズローの基本ニーズ改訂版”になった」
との強烈なメッセージは、この「10大トレンド」 紹介の冒頭を飾った言葉でした。