ファッション・ビジネスの未来

< NRF(米国小売業協会)大会 リポート② 2020 年小売りの 10 トレンド>

 2020 NRF 大会リポートの2回目です。 先週、繊研新聞に掲載された「尾原蓉子の全米小売業大会リポート」を読みたいと言って下さった方、有難うございます。下記でpdfがご覧になれます。→尾原蓉子の20年NRFレポート (繊研新聞 2020年2月21日掲載)

2020 NRF大会テーマ 「2020 Vision」のロゴ

 今回のNRFリポート第2弾は、「2020年小売りの10トレンド」 のご紹介です。 NRF(全米小売業協会)は、Stores という専門誌を出しています。この雑誌が 月の NRF大会に先立ってまとめたもので、業界有識者や調査機関に加え、ニューヨーク大学の著名教授、スコット・ギャロウェイ氏 ( 『GAFA―四騎士が創り変えた世界』 の著者)などが、気候変動や経済の不透明性、シェアリング経済などの議論の中から小売りのトレンドを集約したものだといいます。先回ご紹介した、

  「Wi-Fi と電池残量が、ついに“マズローの基本ニーズ改訂版”になった」 

   との強烈なメッセージは、この「10大トレンド」 紹介の冒頭を飾った言葉でした。

 

2020年小売りの10トレンド> (◆は、尾原の追加コメント)

1.   消費者はユーズド/リコマースに貪欲 →2022年には410億ドル市場になる(18年は240億) ――かつての倹約・価値志向ミレニアル世代の動きが全世代に拡大。   ◆自社の中古品を扱うブランドも増加。ラグジュアリーECでは、トップ3社売上の40%が中古品。サステイナブル意識も。

2.  サプライチェーン・アジリティ(柔軟/スピード)への投資が勝敗を分ける →実店舗のネットワークが一つの統合物流センターに ――AIによる効果的運営/コスト削減  サステイナブル/トランスペアレント対応も重要

3.  2020の成功は、信じられないレベルの体験の提供で →ストーリーを語りエモーショナルにコネクトーー「経験」を絶えずリフレッシュすること。インスタ疲れが起きている  ◆鍵は、「また来たい」と思うストア体験

4.  愛される” DTC(メーカー直販)ブランドを兜の頂点に掲げよ →際立つ差別性が不可欠――オンライン戦略をオフラインでも展開 ◆参入と利益への窓は狭くなっている

5.  トリガーとなるキーワードは、ウェルネス、健康、CBD(カンビナス=大麻 →2019年市場50億ドル) →ウェルネス/健康はウォルマートでも既に大ビジネスーー ◆カンビナスの3桁の上昇に注目。規制は?

6.  箱から飛び出せ:“ぼやけた境界線”が行動のキャッチフレーズ →チャネル/業界を越える ――小売りはホスピタリティ、ヘルス、レンタルなどに拡大 ◆意表を突く協業も

7.  パーソナル化は継続的課題 →懐疑論者が横目でにらむ成功企業も登場(RTR、Stitch Fixなど)――発注時だけでなく発注後(使用)のデータ(フィットや着用感)も獲得 ◆AIの活用が、次なる提案の精度をあげる。パーソナル化指標ではセフォラがNo.1

8.   ビデオ/AR(拡張現実)などがカギ →見ることが買上を誘導する ――ビデオ・ストリーミング(ShopShopsのインフルエンサー・ストリームは米国から海外へ)も浮上 ◆テレビ番組から食材ショッピングと調理法解説も

9.  消費者は 性自認(ジェンダー・アイデンティティ)/ダイバーシティ/インクルージョンを重視するブランドを支持 →人称代名詞(They, She, He, Xe, We)をどう使う?―― ◆「ジェンダー・ニュートラル」のトイレや人形の拡大

10.   3Dが導入事例の拡大で最前線に →3Dバーチャル・プレゼンや3D 印刷 ――◆アパレルのサンプル作りのコストや時間削減、売り場レイアウトのバーチャル企画による最適化など

 日本では、まだまだ、というものもありますが、先行指標として大いに参考になると考えます。

                                                                                         リポート② End

2020年 初春のお慶びを申し上げます

明けましておめでとうございます

 

 

新しい年、そして新しいディケード2020年代の幕が開きました。

本年の皆様のご健康とご多幸をお祈りいたします。

世界を取り巻く環境は、政治・経済・社会のどれを見ても、変化がますます激しく速く複雑に、そして予測しがたいものになっています。第 4 次産業革命といわれる大きな変革のなか、様々なディスラプション(創造的破壊)が引き続き登場する年になるでしょう。

また今年は、オリンピックが64年ぶりに東京で開催される年。世界のアスリートが繰り広げる熾烈な闘いと、限界への挑戦が生む新記録、そして観客と一体になったイベントとしてのオリンピック、パラリンピックが生み出す感動を思うと、今からワクワクします。

ファッション・ビジネスは、過去20年余にわたって厳しい変化にさらされてきました。にもかかわらず大半の日本企業は、それまでの成功体験と旧態依然のビジネスモデルから抜け出せないまま、デジタル化や個客主導のサプライチェーンやプラットフォーム構築などの革新に遅れて、今日に至っていると言えます。

しかし2020年代、私は日本のファッション・ビジネスが、新たな展望で前進する年であると考えます。それは、日本のリーダー企業が、ようやく、AI による深層学習などのデジタル・テクノロジーや、国連の提唱(SDG’s=持続可能な開発目標)に代表されるサステイナビリティ(地球環境保全)、あるいは働き方改革や人間性の回復、などの世界潮流に、本格的に取り組み始めたと感じるからです。

今年こそ、3年前に 拙著 『Fashion Business 創造する未来』(繊研新聞社) で提示した未来への方向に、スピードをもって前進する年になってほしい、と切に願っています。

この 3 年の間にも、米国を中心とする世界の革新企業は、驚くような挑戦をしています。たとえばこの本の冒頭、第 1 章で、“ディスラプションの典型事例”として取り上げた、Rent the Runway(ファッションのレンタル/シェアリング・ビジネス)は、その後も急成長を続け、商品領域拡大(ビジネスウェアや日常着、インテリアへ)ばかりでなく、ビューティの大手企業とのパートナーシップ、シェアオフィスへの店舗展開、そしてホテル(それもファッション志向のW ホテル)とのタイアップで、出張先でホテルにチェックインすると事前に選んだ服が待っている、といったレンタルを可能にしています。まさしく、“服を所有しなくてもおしゃれが出来る”時代を実現しているのです。

恒例の米国小売業大会(NRF Big Show 1月12-14日開催)に、今年もニューヨークまで出かけます。胸がときめくような革新事例や新しいテクノロジーを見聞きできるものと、期待しているところです。

2020年が皆様にとって、革新と輝きに満ちた1年になることを、祈っています。

“壁破り戦記” 『Break Down the Wall―環境、組織、年齢の壁を破る』 を出版しました

 『Break Down the Wall―環境、組織、年齢の壁を破る』 と題する本を日本経済新聞出版社から、出版しました。9月中旬から本屋さんに並んでいます。

 “壁破り戦記”とは、この本の編集者である日経出版社の雨宮百子さんが付けてくれたタグラインです。

(株)ファーストリテイリングの柳井正CEO推薦 「尾原蓉子 生涯一教師」 「尾原先生との出会いが私の人生を変えました.この本は、女性は勿論、男性にも読んでもらいたい。」

米国FITへの留学がきっかけで、“ファッション・ビジネス”という言葉や仕組みを日本に始めて紹介した1968年から、IFIビジネススクールの創設、WEF(女性活躍支援NPO)立ち上げに至る私の仕事人生を振り返って、立ちはだかる制度や社会通念の壁に、どう立ち向かい、乗り越えたり打ち砕いたりしてきたか、を書いた本です。

 その想いは、これからのキャリアを創ってゆく方々に、誰もが出会う様々な壁、中でも自分自身の意識の壁を、打ち破って欲しいとの切なる願いにあります。

 尾原蓉子という一人の女性が、この世の中で、物事はこうあって欲しいと願う、その思いが自分を動かし、人に助けられ、多くの方々の共感や熱意そして支援を頂いて、少しずつ形になり、社会を動かしてゆく。そんな人生経験と感動を、これからの若い世代の皆さんと共有してゆきたい。そんな願いをこの本に込めました。

 その意味で本書は、2016年に出版した私の著書 『Fashion Business 創造する未来』 (繊研新聞社出版)の “未来を創る”ための、心構えや姿勢を書いた、いわば二部作の一部でもあります。 

                        

 嬉しいことに読者からは、大いに共感した、元気やパワー、エネルギーをもらった、といったコメントをたくさん頂きました。

  アマゾンの書評では、「著者自身のこれまでの半生を縦糸に、多くの事例をふまえて、ビジネスウーマンへの励まし、ビジネスマンへの警鐘、ビジネスパーソンへの教訓を横糸に、人生の基本が大変説得力を持ってわかりやすくかかれている。」というコメントもありました。

 私が敬愛する中野香織さんは、 服飾史家として著書も多く、グローバルな文化研究で長年大学教授も務められている方ですが、そのオフィシャルブログに書いてくださっていることを、抜粋して引用させて頂きます。

  「著者がどのように、国籍の壁、ジェンダーの壁、環境の壁、組織の壁、年齢の壁を乗り越え、周囲を巻き込みながらキャリアを積んできたのか。具体的経験が記され、経験から抽象的な法則が導き出されながら、その時々の日米のファッション・ビジネスの状況もうかがい知ることが出来ます。異文化とのギャップが、具体的にどのような場面に出てくるのかということも、実体験を通して語られてなるほどと思わされます。また、カルロス・ゴーン、ヒラリー・クリントン、ルチアーノ・ベネトンなど著名人との交流が紹介される部分も楽しい。

  (中略) 仕事をしていく上で、それぞれのステージにおいて壁にぶつかっている方 (男女を問わず)に、キャリアと照らし合わせながら様々なことを考えるヒントを与えてくれる、誠実な激励にあふれる本です。」 http://www.kaori-nakano.com/2018/09/30/22585/ )

  日経新聞のウェブサイト 「出世ナビ」の「若手リーダーに贈る教科書」での紹介はhttps://style.nikkei.com/article/DGXMZO35593750Q8A920C1000000?channel=DF100520160089 をご覧下さい。(「若手リーダーに贈る教科書」は、毎日数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何かを、書籍づくり第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、自社刊行本の「イチオシ」を紹介するページだそうです。)

   「ファッションが売れない!」

ファッション・ビジネスが大きな壁にぶつかっています。これまでの成功体験が役立たなくなり、新しい突破口を開くことが不可欠になってきました。それを実現する、つまり 「未来を創る」 のは、あなたです。

 人生100年時代を迎え、その半分以上の時間を費やす仕事/キャリアにどうとり組むか。とくに働き方が大きく変わるこれからの時代にふさわしい生き方とは何か?

 人は皆、個性を持っています。それを生かしながら、主体性をもって生きることで達成できるものは大きい。様々な障害が立ちはだかっても、時代の変化を利用・活用することで、それを打ち砕きながら自分のキャリアや人生を創る事が出来る。そしてそれこそが企業にとって大きな力になる、と私は信じています。