ポストコロナの世界

NRF 2023 報告: “信念” と ”ケア(気づかい)” で      ブレイクスルーを

NRF 2023 logo

恒例の、米国小売業大会、NRF2023 Big Showのリポートが、繊研新聞に掲載されました。今年は、エントリーはしていたのですが、最終的にリアル参加は断念しました。直接現地を体験しなかった分、NRF発信のニュースやビデオ、現地の有識者(米国業界リーダーを含む)、あるいは主要講師に直接ネット取材をするなどで、いつもより苦労しましたが、1987年初参加以来、37回連続で定点観測的に見てきたNRF大会だけに、見ていないものが見えた、という不思議な気持ちになりました。

大会の最大のメッセージは、「人間重視(ダイバーシティ/平等/包括性)とケア(気遣い)の重要性」。「企業文化が、戦略やビジネスモデルを超えて、真の顧客価値を生む」でした。

テクノロジーが、特にAIを中心に多様な展開を加速する中で、「人」、「生きること」、「思いやり」、「優しさ」に、明確なギアが入った大会だったと、感銘を深めています。

以下が、繊研新聞から掲載許可を頂いた、寄稿記事です。

コロナ禍3年を経て、アメリカのファッション小売業界は、大きく変容しました。DX(デジタル・トランスフォーメーション)や店舗の変革、DE&I(多様性/平等/包括性)、働き方改革、サステナビリティ、、と。そして今、人・生き物・心・地球が焦点になっています。

それに対して日本は、身を縮めてコロナの嵐が通り過ぎるのを待っていた感じがしてなりません。世界の潮流に、これ以上後れを取らないように、日本の、日本企業の、日本人の、大奮起に期待しています。

<ポストコロナ世界:成功への新ルール ――潮流としてビジネス変容をとらえる>

 今年も残すところわずか。感染症の恐怖と不安、落ち着いて平和に見えていた日常が突然消滅、倒産や失職者の増加。仕事・通勤・通学も変容し、息抜きの会食・飲み会や旅行も自粛、、、。今年の年頭に 誰がこんな一年を予測していたでしょうか?

 歴史に残るコロナ・パンデミックの襲来と闘ってきた2020年が終わって、新たな年を前に、この1年、あるいは我が人生を振り返り、改めて家族や人間を愛おしく思いながら、2021年への期待を新たにしているのは私だけではないでしょう。

 ポストコロナの世界について、ビジネス潮流の劇的な変わり目として探求しながら、深く考えさせられたものがあります。〝起業家のバイブル誌 とされるビジネス隔月誌  「FastCompany」 が提示した、これから25年への6つの「新ルール」です。四半世紀先を見とおすことは何人にも不可能ですが、Covid-19の強烈な体験を踏まえ、これからの VUCA(不安定で不確実、複雑で曖昧)な時代への基本姿勢として、非常に示唆に富むものと思うので、ご紹介します。

FastCompany誌の 成功への新ルール

 「FastCompany」 25年前、IT革命がスタートした頃に創刊されました。その想いは、〝何かが起こっている、、″、、〝グローバル革命がビジネスを変えつつある。ビジネスが世界を変えつつある。未来を再構築する人たちのショーケースとなろう

 でした。 1995年の創刊号の表紙には、創業者で共同編集長のアラン・ウィーバー と ビル・テイラー(ともにハーバード・ビジネスレビュー出身)が 4つのマニフェスト(教義)を掲げています。    (画像① FastCompany誌1995年創刊号表紙 参照)

「仕事はパーソナル」、「コンピュティングはソーシャル」、「知識はパワー」、「ルールを破れ」

 「Work Is Personal」は、仕事が単なる〝職業″ではなく、人々の生涯やキャリアにかかわる個人的なもの。 「Computing Is Social」は、 コンピュータが単なる電脳計算機ではなく、人をつなぐ共感/コミュニケーションの社会的存在になる。 「Knowledge Is Power」 は、金や物理的な力ではなく知識(ナレッジ)がパワー/エネルギーだ、というメッセージ。そしてこれらを踏まえ、「Break the Rules」すなわち、ルールを破れ、と。 これらのマニフェストを、四半世紀前の、ITバブルの初期時点に打ち出した先見性には、脱帽するしかありません。ツイッターやフェイスブックが登場するほぼ10年前に、「コンピュータはソーシャル」と、言い放ったのですから。

 その先見性を誇らしく反芻しながら、同誌は、この歴史に残るコロナ・パンデミック襲来の2020年に、次なる25年を見通そうとしました。先端的考え方をもつ起業家やNPO幹部、企業幹部やイノベータを招いて Fast Company Impact Council を設置し、「新しい時代の 新ルールは何か」を聞いてまとめたのが、次の6項目です。 (ちなみに招かれた200人を超えるメンバーには、リベラル系ニュースサイト『ハフィントン・ポスト』創設者アリアナ・ハッフィントンをはじめ、マッキンゼーや シスコシステムズ、ペプシやバンク・オブ・アメリカ、MITメディアラボ、SAP、Facebookやファイザーなど主要企業/大学の幹部など錚々たる面々。Tory BurchWarby ParkerM.M.LaFleurなどの起業家、Gucciやサックスフィフィスアベニュなどのファッション関連も含まれています。もちろん同誌創業者のビル・テイラーも。

(画像②The New Rules of Business 2020年10~11月号表紙 Define Your Purpose 「あなたのパーパスを明確に定義せよ」)

次なる25年の 新 「ビジネス新ルール」 

1.  働く場に民主主義を      BRING DEMOCRACY TO WORK 

2.  コミュニティに投資せよ           INVEST IN COMMUNITY 

3.  パーパスを明確に定義せよ     DEFINE YOUR PURPOSE 

4.  真実・本物であれ        BE AUTHENTIC 

5.  好奇心が「通貨」         CURIOSITY IS CURRENCY 

6.  変化が「常態」=常に変わる     CHANGE IS CONSTANT 

 これらの「新・新ルール」の背景を理解する上で参考になるのは、スコット・ギャラウェイ氏(ニューヨーク大学教授で『GAFA』の著者)の、コロナが加速する、「分散・拡散(Dispersion)」論です。いろいろな場面で〝距離の消滅が起こっている。Eコマースは小売店をパソコンやモバイルや音声に分散させ、顧客との直接的関係つくりを促進。ビデオ・サブスクリプションはDVDをパソコンや家庭のスクリーンへと分散。SNSは、コネクション、コンペティション(競争)、データベースを、物理的距離や紙媒体から拡散させている。〝小売り以上にディスラプション(創造的破壊)が進んでいる大産業は、WFH (ワーク・フロム・ホーム)、遠隔医療、リモート・ラーニングで、米国経済の25%をディスラプトする。特に重要なのは、医院、病院、大学の変容。これらはグローバル化、デジタル化、と同様に新たな価値創造のチャンスをもたらすと同時に、大きな危険をはらんでいる“、と氏は言います。〝分散は「segregation分離・隔離・人種差別)」を生み出す。富の偏在を加速し、社会の分断やコミュニティ内での「分離・差別」を生み出すからだ。 2018年には、米国の富の32%を人口の1%がにぎった。結束の強いコミュニティでは住民は異民族に寛容的であるが、分離が存在するコミュニティでは、異民族の数が増加するにつれ、冷たい感情を持ち始める″、と警鐘を鳴らしています。

次なる25年の 「ビジネス新・新ルール」 をかみ砕いてみましょう。

ルール1 働く場に民主主義を」 職場や働き方や評価を、人種や性別や育った背景に関係なく、フラットな目線で公平にマネージすべし。リモートワークが、ヒエラルキー的リーダーシップの価値を爆破し、仕事のスピード化と高給管理職削除に貢献しただけでなく、公平でインクルーシブな仕事場と企業文化を創造している。リーダーは、給与やダイバーシティ制度のデータを自発的に共有し、社員には不正が行われたら声を上げることを奨励し、すべての社員にベネフィットとチャンスを提供すべし。職場の民主主義は、ビジネスの新ルールであるだけでなく、ビジネスモデルでもある。

ルール2 コミュニティに投資せよ」 ―企業は、自社の事業にかかわるコミュニティに投資すべし。他の選択肢はない。フィランソロピーが超地域密着になる事に加え、ビジネスに埋め込まれるようになってきている。例えばパタゴニアは売り上げの1%を環境問題に投じる(業績にかかわらず)。企業、公益法人、政府、草の根団体は、コミュニティと公共の場をケアする新しく完璧な方策を推進すべきだ。また企業は、商品やサービスが多様化・過剰化し情報があふれる中、自社が関わるコミュニティを自社のシンパとして重視し、より深く優れた関係を築くことが重要。不特定多数への振り売りから、ブランドで独自のコミュニティを形成し共に発展していく。

ルール3 パーパスを明確に定義せよ」 ―パーパス(企業の存在目的)というと、資本主義からの巨大な逸脱だと考える向きが多い。また「パーパス志向」を打ち出しても、理念とパーパスを混同している企業が多い。〝パーパスは、サステイナビリティとガバナンスの実践を、ビジネス戦略として議論する中で出現する″。新しいタイプの企業は、パーパスを自社のビジネスプランに埋め込んでいる。〝世界のより良き案内人/支配人として、その場所をよりよくすることが、企業の持続可能な競争優位だ″と考えるのだ。プロフィットとパーパスは共存できる。

ルール4 「真実・本物であれ」 ―オーセンティックな偽りのない、信頼できる商品や行動を。「オーセンティック」は、企業用語に取り込むには、リスクが大きい言葉だが、今日の危機は、仲間の間、顧客との間での、より正直で生の対話を求める動きを加速している。リーダーは、自ら胸を開いて気持ちをシェアし、ブランドは透明性をもって顧客に接することが求められる。エンパシー(相手への思いやり)が、リーダーに要求される重要スキルであることに、議論の余地はない。正直なメッセージを伝えるには、思慮深い考察が必要。自分が信じているものがなければ、何かを訴えることは出来ない。

ルール5 「好奇心が〝通貨”」 ―旺盛な好奇心、なぜ? どうして? が 問題発見と解決の扉を開く。日々新しい技術や情報、プラットフォームが生まれ、人々の生活が変化する今、好奇心はビジネスの種や展開に不可欠な、“通貨”だ。ビジネスや社会潮流の先端を行こうとする企業は、絶えず仮定を疑うことも不可欠。個人の仕事にとって「好奇心」は、「創造性」や「人間性」と共に、デジタル化・自動化できない、つまりAIに代替されることがないものだ。また教師や学校や子を持つ親は、〝教える”から〝自ら学ぶ”へのシフトを。さらに〝生涯学び続ける”ことを推進すべし。

ルール6 「変化が『常態』=常に変わる」 ―企業は、変化する事を重視している、というが、多くの場合、外的な力に単に反応しているだけだ。環境や状況の変化とともに、速やかに必要な変化を自から起こせる企業。ディスラプションで破壊されるのではなく、ディスラプションで収穫を得る企業。それを目指すなら、変化は、「What 何を?」 ではなく Who 誰が?」だ。優れた企業の創造は、人材に尽きる。変化を起こせる人、これまでやってきたことを止める力を持つのは誰か? つまり、誰が旧態を変える力を持つかだ。

最後に同誌は言います。〝これらのルールが、FastCompany誌創業の1995年に掲げたもの同様に予言的なものになるだろうか? 我々はそう願っている。しかし近々これを修正する必要が起こったとしても、創業者の2人は 「ルールを破れ」 と警告するだろう。この猛スピードで変化する、そして不確実性の高い時代において、全ての企業が準備できることは、「変化する」事だ。″ 

*    * *

今日はクリスマスイブ。もう年末年始の休暇体制に入られた方もおられるかも知れません。これらのメッセージが、新年にのぞむ何かのヒントになれば嬉しいです。2021年が、落ち着いた、平和を取り戻す年になることを祈りつつ、、、。

良い新年をお迎えください。

 

新型コロナと小売りビジネス③ ――ポストコロナ 求められる7つのアクション

 新型コロナの感染が全国的に広がっています。経済活動の復活が感染第2波を増幅し、再度の緊急事態宣言にならないことを祈るばかりですが、世界の感染拡大を見ても、これからは 「ウィズコロナ」 社会をどのように生きるか。さらなる知恵と工夫が必要であり、感染症に強い社会のあり方について考える必要があります。また個人にも企業にも、生き残るための覚悟と努力が求められていることを痛感します。ワクチンが開発されても、しばらくは安心出来そうにない生活。そして、自然破壊が加速する異常事態の発生を抑える努力をしながらの新しい生活、です。 

変化が起こり始めた日本

 しかし、この4か月ほどの間に、日本が大きく変化しはじめたことは、不幸中の幸いです。とくに長年課題と言われながら岩盤的に強固で崩せなかった規制や社会・ビジネス慣習に、ディスラプション(創造的破壊)が起こり始めたことを喜んでいます。コロナがカタリスト(触媒)役を果たしてくれ、リモートワークやリモート講義をはじめ、公共機関へのデジタル申請、ハンコ無し承認など、日本の旧態維持志向を打ち崩しているのです。

 そして何よりも、これらにより、日本のデジタル化の遅れ、さらに縦割り行政と暫定的でパッチワーク的な施策でがんじがらめになっている行政や企業活動の閉塞状況が明らかになったこと。(“目詰まりを起こしている”とは言いえて妙ですが、それが一国の首相の言であることが悲しいです。) しかしながらそれによって、人々のマインドに、「個」と「合理性」を重視した新たな社会制度の構築への期待と意欲を生んでいることには、勇気づけられます。私も初めて知ったことですが、例えば薬局では「処方箋40枚につき1人の薬剤師配置が義務付けられている」とか、「タクシーによる日用品配達は違法」、などの規制には、今どきの社会やテクノロジー環境から考えると唖然とします。住民登録や税・社会保障などを管理するシステムの仕様が自治体ごとに異なっていて、国や自治体のデータ連携に手間取る、などの現状は、だれが見ても即改善が必要です。

 リモート会議やリモートセミナーは、やってみると意外にメリットも大きく、リモート観劇やリモート飲み会も、“ウィズコロナ”環境ではOKと思うようになった人が多いと思います。ヤフー社が戦略立案を担う人材として、副業者100人(フルタイム勤務中)の募集を始め、人材派遣会社のパソナが副業人材の紹介サービスを開始するのも、象徴的な変革です。形骸化した長年のルールから、たとえばコンビニ最大手のセブンイレブンが、効率化の極みとされた“全国統一店舗”から各店オーナーの自主性と現場裁量重視の運営に転換する、というのも、コロナ危機が加速した変容でしょう。       

 ルルレモン社のハイテク・ミラーによる自宅エクササイズ (Mirror社ホームページより)
  海外では、多様な革新が急ピッチで進んでいます。例えば北米のヨガ・エクササイズ企業として著名なルルレモン・アスレティカ社の、Mirror社買収がそのいい例です。ルルレモンの顧客は、ミラー社のデジタル装備の大型鏡を自宅に設置することで、インストラクターの身体の動きを見ながら指導やデータ提供を受け、多様なエクササイズを、自宅でマイペースでやれるようになりました。(画像参照) ウォルマートは食品の冷蔵庫デリバリーを始めました。従業員が、特殊な機器を使う「スマートエントリー」技術で鍵を解除。利用者の留守宅に入り、商品を冷蔵庫の中まで届ける仕組みで、顧客はスマートフォンで配達の様子のチェックもできます。他にも、消費者セントリック視点に立った、簡便で低コスト、楽しみながら実利を得られるといった、新たな価値創造のビジネスが台頭しています。

 「ポストコロナ:必要な7つのアクション」

 今回は、前回紹介したマッキンゼー社の Next Normal:思考から実現へーー何をやめ、何を始め、何を加速するか」 と題した論説、「ポストコロナ:7つのアクション」 を深堀りすることにします。この論説は、全産業をグローバル視点で論じたものですが、これにファッション流通の観点からとらえた私の考えを加えて書きました。“売り上げをどう取り戻す?”、あるいは“顧客/社員に安全な感染対策”など目前の問題の先にある、本質的な課題を見据えて、広く長期的視点からウィズコロナ時代を考えるべし、とのメッセージです。

ネキスト・ノーマルへの7つのアクション:何をやめ、何を始め、何を加速するか

 ビジネスがネキスト・ノーマルに移行する中で、非常対応でうまく機能したことの評価と、新たに注力すべきものとして、次の 7つの行動」 が挙げられています。

 1.  オフィスが寝場所 から→ 効果的リモートワーク へ

2.  ライン/サイロ(縦割り組織) から→ ネットワーク/チームワーク へ

3.  ジャストインタイム から→ JIT&JIC(ジャストインケース) へ

4.  短期のマネジメント から→ 長期視点のキャピタリズム へ

5.  トレードオフ から→ サステイナビリティを包含 へ

6.  オンライン・コマース から→ コンタクトフリー経済 へ

7.  単純な復帰 から→ 復帰 そして 再考/再構想 へ

1.「オフィスが寝場所」 から→ 「効果的リモートワーク」へ        From ‘sleeping at the office’ to effective remote working>

 リモートワークは、自宅用パソコンさえ与えれば、すぐに実現するものと考えてはいけない。働き方、特に、“オフィス(仕事場)が睡眠・食事・リラックスの場を兼ねる” という新たな生き方を、どう組み立てるか。仕事時間と私的生活時間の境界線を明確にせねば、リモートワークの効果は限られ、長続きしない。オフィスを出たら「その日の仕事は終了」というオフィス勤務時代の区切りは重要であった。境界線を明確にする仕組みをつくる。たとえば、「Eメールは、所定時間外は返事しなくてOK」 ルールなど。廊下での立ち話や、電話一本で仕事が片付いた、といった相互アクションは貴重だった。これがないリモートワークでは、例えばコーヒーブレイクの時間を共有する、なども有効。
 協働(コラボレーション)、柔軟性、インクルージョン(多様な人の巻き込み)、アカウンタビリティ、など、長年実行が進まなかった課題が、コロナによって大変革するだろう。通勤不要により、体の不自由な人も含め、すべての人が参画できるメリットは大きい。シングル・ペアレントなど、人材を広範囲からの確保が可能になる。
<筆者加筆> 日本でも驚くべき速さでリモートワークが拡大しました。今後についても、「7割以上の企業が今後も継続する」、「週2日はリモートで」、「元へはもどらない(もどさない)」などの調査結果が出ています。

 日本の場合は、これまでの時間管理に基づく仕事の仕方から、“ジョブ”型、と言われる働き方への移行が必要になるでしょう。“ジョブ”型とは、職務を明確に規定し(ジョブ・ディスクリプション=職務規定書に基づく)、成果を評価しやすくする制度で、従来型の時間ベースの管理が難しい在宅勤務に適しています。これにより、スタッフが主体性をもって働くという自主管理の仕組みも広がり、管理職の仕事も大きく変化します。必要な管理職、組織の多層構造に大きな変化が起こると思われ、この変化を有効に活用するチャンスが到来しました。

 リモートワークとは一言でいえば、「リモートから仕事」、というよりは、「最も人間的で、ストレスが少なく、生産性が上がる働き方」 をどう創るか、という変革です。

 

2.「ライン/サイロ(縦割り組織)」 から→ 「ネットワーク/チームワーク」へ         From lines and silos to networks and teamwork

  いろいろな部署の会議。2時間かけていたものがキャンセルされたが、各段困ったことは起こらなかった。ミッションと緊急性を明確にし、その問題に関係ある人だけが、縄張り争いでない議論を、役職でなく専門能力をもとに議論する。「総力を挙げて(全力投球)」は長続きしない。うまく作動することを制度化せよ。「より早く、より速く行動し、より確信をもってやるのがベスト」。
 アジリティが重要。アジリティとは、「価値創造・価値保全のチャンスに向けて、戦略、構造、プロセス、人、テクノロジーを、速やかに再構成できる能力。アジリティは、データに基づくものでなければ、意味がない。問題解決のベースとなる分析能力の創造と加速が不可欠なのだ。アジャイルな企業の意思決定は、トップダウンのコマンド&コントロールではなく、分散的である。日常的意思決定は、アジャイルなチームに任せて、シニアマネジャーは会社の存続にかかわる意思決定に取り組む。新たな組織のパラダイムは、エンパワメントとスピードだ。特に情報がつぎはぎの時には。
 エコシステムとして考えることも重要。別々の単位としてではなく、相互に関係する“生態系”的に考える。供給業者、パートナー、ベンダー、親身な顧客が、協業する方策を探る。特に危機の時は、トランザクションだけでなくトラスト(信頼)に基づく関係性が大事。

<筆者加筆>  日本で一般的な縦割り組織は、大組織とくに官僚機構に目立ちます。今回のコロナ対応で、並立する縦組織間の対立や、対応のちぐはぐさが浮き彫りになりました。<縦割り組織から →ネットワーク/チームワークへ>は、ポストコロナの日本にとって最大の課題といえます。

 Zoom会議で私が期せずして体験したことは、画面に映る参加者の顔の画像は皆同じサイズ。声も(大きい人でも)機械が標準化。つまり、平等・並列の仕組みが自ずと出来ているのです。これは絶好のチャンス。「これまで会議では、上司や権力者に配慮して率直な意見が言いにくかったが、リモート会議では臆せず発言できた」という若手の声に、変革と活力を感じました。

 

3.サプライチェーンは ジャストインタイム から→ JIT & JIC(ジャストインケイス)へ

From just-in-time to just-in-time and just-in-case supply chains> 

 サプライチェーンを、個々の部品のコストを基に最適化することはやめよ。主要な原材料の仕入れ元を一社にするのも止めよ。個々のトランザクション・コストより全体の価値最適化end-to-end value optimizationに努力せよ(失敗で学んだ)。弾力性と復元力、とスピード重視のサプライチェーンの再構築が不可欠。 

 ファッション業界は、中国集中から他のアジアや中米、東ヨーロッパなどに移行することを考えている。クリティカル部品の製造は、サプライチェーンのローカル化、より協働的な関係を築くことを考えよ。国内生産か海外生産(オフショア)か、を自問するより、「より大きな価値を創造するサプライチェーンを構築できるか?」 を、出発点にする方がよい。答えは多くの場合、マルチ・ショアであることが多い。1つに絞るリスクから回避もできる

 ネキスト・ショアリングと先端テクノロジーの活用を加速せよ。企業はよりフレキシブルな、そして、ジャストインケース(万一の場合)の対応ができるサプライチェーンの構築に注力すべし。ネキストノーマル時代のネキスト・ショアリングは、①その商品のローカル需要に対応出来るよう生産が顧客に近いところで行われるのがよいのか、②革新的なサプライ拠点の近隣でテクノロジーの変化に遅れないためになすべきことは何か、を明確にすることである。ネキスト・ショアリングとは、生産がどのように変化しているか(特にデジタル化と自動化)を理解することだ。フレキシブルなロボット活用、3Dプリンター、その他のテクノロジー活用が重要だ。労賃は、多くの場合、小さな要素だ。

<筆者加筆>  日本のファッション業界で変容が不可欠と筆者が考える最大の問題は、サプライチェーンが長いこと、その中に中間業者が多層に介在することです。卸機能が介在する形態は、コスト増の問題以上に、企画・生産・在庫・販売を一元管理できない、スピード対応が出来ない、エンドユーザーに直接つながらない、といった問題があります。米国で近年注目されてきたDTCDirect to Consumer=メーカー/創り手から消費者へ直結)はまさしくポストコロナ時代のビジネスモデルと言えましょう。

 デジタル化も日本の喫緊の課題です。たとえばデザイナーがペン入力でデザインを描くペンタブレットは、世界ではごく当たり前に使われています。またそれを取り込むPLMProduct Lifecycle Management=製品ライフサイクル管理)の活用も拡大しています。製品の設計図や部品表などのデータを、企画段階から廃棄、リサイクルに至る全行程にわたって関係企業で共有することによって、製品開発力の強化や設計作業の効率化、在庫削減やスピードアップを目指す取り組みです。これが、コロナ禍のもと、日本でも加速することを期待します。このシステムが、従来の“順送り”から、フラットで水平的な“同時進行”のシステムであることも、ポストコロナの時代の典型的な仕事の進め方だと考えます。

 

4.「短期の経営」 から→ 「長期視点のキャピタリズム」へ                 From managing for the short term to capitalism for the long term> 

  四半期ごとの収益予測はやめよコロナ感染拡大という予測困難な状況の中で、収益予測を出さない企業も増えたが、これは良いことだ。本質的投資家は、企業を四半期よりはるかに長いスパンで見ており、目先の施策よりはもっと深く収益を見ている。

 株主価値を唯一の目標とすることも止めよ。企業には利益を上げるという基本的責任があり、投資リスクを取る株主に報いることは重要である。しかし、価値創造と、従業員・サプライヤー・顧客・債務者・社会・環境の利益になるよう努めることの間には、本質的な対立はない。

 リーダー、次期CEO、への照準を開始し、パートナーと共によりよい未来を創る仕事に取りかかれ。CEO継投の平均年数は、10年(1995年)から5年に短縮している。世界のトップ企業のCEOは15年(ハーバードBS調査)で、ボード(取締役会)と密接な関係で危機を乗り越えている。

 資源の再配分を加速せよ。経営者は、「柔軟性」 「アジャイル」 「革新的」、という言葉を好んで使うが、実際の予算を見ると、「慣性・惰性」の方が目を引く。先の経済変容での「インフラ」とは、道路やパイプラインだった。民主的社会では、政府が計画を立て安全やその他の規制を確立し、企業が実際の構築をする。今これが2つの分野で必要だ。一つはデジタル・テクノロジーの抵抗不可能な台頭、もう一つは労働市場だ。 McKinseyは2017年に、「2030年には職業の3分の1が自動化される」 とした。よって、ミッド・キャリア人材の職業訓練とより効果的なOJTが必要だ。特に働く人に求められるのは、アジリティ。現在のシステムはそれに向いていないからだ。

<筆者加筆> 日本はこれまで、米国よりも長期的な企業の存続を重視し、そのための人事・労務制度を取ってきました。しかしそれは、保守・安定志向で、大胆な変革を避ける結果になっています。今回のコロナ禍は、日本企業に経営と人材活用の抜本的な変革を迫るものです。さらに、ファッション・流通産業では、目先のトレンドや表層的な価値を追う短期的な収益志向で推移してきた企業が大半と言っても過言ではないでしょう。企業の持続的発展、とくに顧客・消費者に信頼され愛される会社/ブランドになる。そのためには、What(何をやる)、より前に、Why(何のために)、が重要です。パーパス(企業存在の目的、社会における存在意義)と言い換えてもいいでしょう。Why をぶれない理念として持ちながら、時代の変化に柔軟・果敢に対応し、長期に存続する企業が成功する時代になっています。

 

5.(環境問題は) 「トレードオフ」 から→ 「サステイナビリティ包含」へ

From making trade-offs to embedding sustainability> 

 環境問題は、二律背反(片方を取れば、他を捨てなければならない)から、本業ビジネスに包含するものにせねばならない。また環境の問題を、コンプライアンス(規則・法・社会の要求などに従うこと)の問題だと思ってもいけない。なぜなら環境問題は、マネジメントと財務上の中核となるイッシュー(問題)だからだ。英国の保険会社は、「ハリケーンのサンディが、米国の海面を引き上げたことで保険に30%のダメージを与え、2035年までには英国の洪水リスクは倍になる」としている。これを無視すれば、2016年のカナダの山火事後のように、保険料金は大幅にアップするだろう。

 世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEO、ラリー・フィンクは、最近の企業CEOへのメッセージのなかで、気候リスクは投資リスクだ。投資家は気候リスクをどうポートフォリオに入れ込むか、答えを探しており、リスクと資産価値を再評価している」 と述べている。環境戦略を、復元力優位と競争力優位の源泉だと考えよ。

 新型コロナ・パンデミックは、世界のサプライチェーンを凍結した。米国の食肉生産は停止され、ブラジルは二毛作が困難になった。サプライチェーンの柔軟性を再構築する中で、環境要因への考慮は不可欠だ。気候リスクは地理的に偏っている。地域によっては、物理的あるいは生物学的にティッピング・ポイント(ある一定値を超えると物事が一気に広まっていくポイント) に近くなっている場所もある。コロナは突然のショックであり世界を同時に襲った。気候変動危機は、時間軸も危険が蓄積する点でも違いはあるが、いずれも、レジリアンス(弾力性/回復力)とコラボレーションが不可欠な点では、同じだ。コロナ禍と気候変動による危機とは、似たものだと考えるべきだ。温暖化はまた、感染症の発生にもつながる。

 

<筆者加筆> 日本のファッション・ビジネスでは、サステイナビリティの問題を、主に資源の再利用や廃棄物削減の問題として対応してきました。しかしファッションを扱うビジネスは、基本的に流行により商品の陳腐化を促進して新たな購買を促すビジネスとして発展してきた特性をもち、その底流にある量産・大量流通・大量廃棄の仕組みも合わせて、ビジネスの考え方自体を変えなければならなくなりました。ポストコロナ時代は、自社のパーパス(目的)を明確にして、まったく新たなビジネスを再構築する必要があります。以前のこのブログで触れた国連のSDGs(持続可能な開発目標)にのっとった企業経営やサプライチェーンの構築が、新たな時代のチャレンジです。環境問題や労働倫理(エシカル)の問題、人が人間らしい生活を送れること、などの解決策が、本業のビジネスに取り込まれている(寄付行為や広報活動ではなく)、そんな社会的企業が求められるでしょう。

 

6.「オンライン・コマース」 から→ 「コンタクトフリー経済」へ

From online commerce to a contact-free economy

 コンタクトレス経済を、いずれおこるもの、と考えてはいけない。

コンタクトレス運営への転換のスピードは早い。ヘルスケア(健康・医療)がよい例だ。2019年英国で、初診をビデオで行ったケースは1%以下だったが、ロックダウンにより100%がリモートになった。小売業のカーブサイドピックアップも急速に普及したし、オンライン・バンキングはコロナ禍で10%から90%まで拡大。しかも、トランザクションの質の低下なしでだ。B2Bでも、例えば建設現場で、無人重機を何マイルも離れたところから操縦が可能になった。

 非常事態での変革を、いかにキープし拡大するかを計画すべし。医者と患者の関係が従前に戻るとは考えられない。同じように、世界の最高エリート大学がリモート学習に転換する中、従来低く見られれていたリモート教育を下に見る考え方は大きく減少するだろう。今後とも集合教育や個別指導は継続するとしても、いま、時代に合ったものを評価する大きなチャンスが広がっているのだ。製造業でも、作業者が離れた状態で仕事を進めることが可能だ。

 デジタル化と自動化を加速せよ。デジタル化は、コロナ以前から言われていたが、それがはやり言葉でなく現実に、多くの場合、不可欠になった。

<筆者加筆>  オンライン・コマース、すなわちEコマースの発展の方向を、“コンタクトフリー経済”ととらえる考え方には、目からウロコが落ちました。オンラインかオフラインか、の問題ではなく、さらにスマホ片手の生活者がオムニチャネルを操る段階を超えて、スマホさえ不要なコンタクトレスの世界へ入ってゆく。そこには大きなビジネスチャンスが広がっているのです。先に紹介した、ウォルマートの冷蔵庫デリバリーや、ルルレモン社の自宅に居ながらハイテク鏡でのエクササイズを可能にした、などその好例でしょう。ファッション・ビジネスにどんな可能性があるのか、考えるとワクワクします。

 

7.「単純な復帰」 から→ 「復帰 そして 再考/再構想」へ 

From simply returning to returning and reimagining: 

 パンデミック後の復帰は緩慢なものになるだろう。政府が達成目標と達成日を決めるものではない。復帰のステージは産業部門によって異なるが、企業がスイッチを切り替えて再開できるものでない。フォーカスすべき4つの分野がある。収益の回復オペレーションの再構築組織の再検討、そしてデジタル・ソリューション導入の加速である。いずれの場合もスピードが重要。そこに到達するには、慎重なプロセスを一歩一歩創造することだ。

 ネキストノーマルでのビジネスを、あるべき形としてイメージ(想像)すべし。小売やエンタメ分野では、ディスタンティング(距離をとる)が生活の一部になり、スペースやビジネスモデルの再設計を必要とするだろう。オフィスは、リモート・ワーキングのポジティブ要素を取り込むものになる。製造業では、生産ラインとプロセスの再編だ。サービス業の多くでは、オンラインでのインタラクションに不慣れな人やそれにアクセスのない人にどうリーチするか、が問題だ。輸送では、A地点からBに移動する人が、病気にならないこと。どの場合でも、かつて当たり前だった、人対人のダイナミック(力学)が変化する。

 デジタル化の加速—-インダストリー4.0と呼ぼうが第4次産業革命と呼ぼうが、そこには新しく速いスピードで進化するツール、すなわち、オペレーションコストを削減し柔軟性をもたらすデジタルと分析的ツールが存在する。 McKinseyとWEF(世界経済フォーラム)は2017年に、先進的な製造分野での44のデジタル・リーダー、いわば 「灯台」を特定した。これらの会社は彼らが持つデジタル能力を中心に全く新しいオペレーティング・システムを創造した。彼らはそれらのテクノロジーの、新しいUse case(ざっくりとわかる事例)を開発し、ビジネスプロセスやマネジメント・システムに横断的に適用し、同時に社員に対しては、バーチャル・リアリティやデジタル・ラーニングやゲームで再教育している。「灯台」企業は、サプライヤーや消費者や関連産業の企業とのパートナーシップを創造する傾向が強い。彼らが力を入れているのは、ラーニング、コネクティビティ、そして問題解決――これらは常に求められるものであり、広範に効果を及ぼすものである。

 すべての会社が、灯台になれるわけではない。しかし、どの会社でも、計画を創ることは出来る。その計画は、到達すべきゴールのために、何をなすべきか(誰が)を明らかにし、それに必要な資源を保証し、従業員をデジタル・ツールとサイバー・セキュリティについて教育し、それを担当するリーダーを配置する、ということだ。 世界のビジネスは、パンデミックにスピード感をもって対応している。かつての常態に戻ることを望む人には、ストップ(やめろ!)と言いたい。現実を受け入れ、どうやればうまくゆくのかを考えてほしい。

 希望と楽観主義は、厳しいときには痛い目に合う。回復への道を加速するには、リーダーはパーパス(目的)と楽観主義の精神を持ち、不確実な未来でも、努力によって、より良いものにできると主張する必要がある。 

<筆者加筆>  ウイズコロナ、ポストコロナのビジネスは、「パーパス」をもって自社の進むべき方向をイメージ(想像)することで、創造・構築できると考えます。経済価値は急速にモノからサービスへ、人々の価値観も“有形”から“無形”へシフトしています。ファッション・ビジネスの変容の方向は、人々の考え方の変化による 「モノで自己顕示するビジネスの衰退」 と、人々が優先するようになった 「心が喜ぶ消費」、を目指すものだと私は考えています。 そこで不可欠なのは、デジタル・テクノロジーの効果的導入と環境問題解決/抑制への取り組みでしょう。

  ダボス会議の2021年のテーマが、「グレート・リセット」Great Reset)と発表されました。「リセット」 とは、「すべてを元に戻すこと」 です。ダボス会議を主催するWEF(世界経済フォーラム)は主張します。「“グレイト・リセット”は、経済・社会システムをよりフェア(公正)でサステイナブルで復元力ある未来にするための土台を、共同で緊急に構築するコミットメントである。それは、人間の尊厳、社会正義、そして社会正義が経済発展に後れを取らないことを中心に置く、新たな社会契約を必要とする。」

 コロナパンデミックにより、時の進むスピードが速くなっています。間に合わなくならないうちに、新たなアクションを、是非!