リテーリング

【ファッション・ビジネス回顧録―日本FBの誕生・発展 と 旭化成FITセミナー】    <第4回>  旭化成FITセミナー第I期(1970~79年)―業界に残した足跡

旭化成FITセミナーの初めの10年、すなわち第I期は、 ファッション・ビジネスの専門分野の基本を、F.I.T.の教科にくわえ、米国の実践事例によって学んだ時期でした。 

<第Ⅰ期に開催されたコース>

この第I期(1970年~79年)で取り上げた専門分野は、「デザイン」、「アパレル生産」、「マーチャンダイジング」の基本3分野に加え、「アパレル・マーチャンダイジング」、「テキスタイル・マーチャンダイジング」、「ファッション・コ―ディネーション」、「テキスタイル・スタイリング」、「セールスマンシップ」。さらに、トップ教育をしてほしい、との受講者の要請にこたえて、「トップセミナー」も開催しました(1973年から)。これらのコースは、そのままの形でF.I.T.が実施していたものではなく、カリキュラム開発から講師の発掘まで、F.I.T.の協力を得ながら、新規に企画することになりました。講師も、F.I.T.で正式コースになっていたいた基本講座はF.I.T.教授陣で継続しながら、あらたに業界のエグゼクティブを講師に招くコースを1972年から並行して開催しました。

これらの中から、今振り返って、業界へのインパクトが特に大きかった3コースを紹介しましょう。 

<反響が大きかったコース 3事例の紹介> 

A) 小売りのマーチャンダイジング=Tea Pot理論


 ジョセフ・シーゲル氏(Lane Bryant社 副社長 当時)を講師に迎えた1972年の 「ファッション・マーチャンダイジングとマーケティング」コース(会期3週間)では、マーチャンダイジングのコンセプトを図に描いた、“リテール・マーチャンダイジングのティーポット理論”が大きな感動を巻き起こしました。

「小売りの売り場は、つねに新鮮でエキサイティングにキープせよ。絶えずおいしいお茶を淹れているティーポットであるべし」

とするシーゲル氏の “ティーポット理論”は、次のようなものでした。

(「下の図はシーゲル氏の当時の手元資料。講義ではこれを黒板に書いて説明。日本語訳は、このブログのため尾原が挿入」

“ティーポット”には、まず「商品の仕入れ」として水が入る。それを下から火力(「販売と販促=資金投入」)で沸かす。結果として出る蒸気が「売り上げ」となる。ここで重要になるのは、「最適在庫水準」。「在庫の不足」は売り場の活気をそぐし、欠品にも要注意。だからと言って過剰の在庫は売り場を雑然とさせるし、必要な火力も大きくなり、売れ残り商品(売り場の「ゴミ」=古い茶葉)も早く処分しないと、売り場が汚くなってしまう。、、、といった具合に、マーチャンダイジングの進め方を、各プロセスに分けて、詳細に解説するものでした。(売れ残りについては実際に、ガラスのコップに水を入れて受講者に飲んでもらい、その後、黒板のチョークの粉(ゴミ)を入れて、「こちらも飲んでみて。毒ではないよ。」と云っても、誰も手を出そうとしない、という演技までありました。)

  • ティーポット理論を象徴するアイコンのお土産

 このコンセプト図は、マーチャンダイジングの素晴らしいアナロジーだと私自身も納得しました。しかしそれ以上に感心したのは、講師が、そのコンセプトのアイコンとして、「根付け風」に仕立てた小さな金属製のティーポット・ストラップを、講義最終日に参加者全員に配ったことでした。

講義の核となるコンセプトを象徴するアイコンを、自ら用意して、お土産として配る! 何という憎い演出でしょう。 私はここでも、アメリカ式の 「顧客(ここでは受講者)重視」のマーケティングの神髄を見る思いがしました。(根付風ストラップは、なんと、東京観光でご案内した浅草仲見世でみつけた、と。閉講式に間に合うよう、早めに発注をされていたことを後日知りました。)

 ちなみにこのコースは、高島屋の石原一子氏、海渡の海渡五郎氏などが受講されましたが、ティーポット理論は、受講者以外にも広く浸透しました。

 

B) アパレル・マーチャンダイジング=キャリア・ウーマンの台頭とコンテンポラリー・ファッションの先がけ

(画像の〇で囲んだポートレートは、左から、シーゲル講師、ゲルファンド講師、ニューマン講師。旭化成FITセミナー20周年記念冊子表紙より)

 1974年に開催した「衣服メーカーの」マーチャンダイジング」(会期12日間)では、当時の米国で話題を呼んだ、アパレル企業の女性社長 グロリア・ゲルファンド氏 (Picato社長 当時)が講師でした。大手食品グループのGeneral Millsが、急成長するアパレル分野に参入するため設立したPicato社の社長にとスカウトしたゲルファンド女史。大学で化学を専攻したチャーミングで人懐っこい人物で、キャリアのスタートはファッション・モデルでした。こんな女性が社長に抜擢されるアメリカは、まさしく新時代を切り開いている、と、大いに感動したものです。

講義の主な内容は、ファッション・マーチャンダイジングとは何か、にはじまり、“2次製品メーカー”(アパレルの言葉は当時まだ普及していなかった)のマーチャンダイジング組織や専門職の役割(スタイリスト、デザイナー、ファッション・コーディネーター)、年間カレンダー、マーケティングの重要性など、当時の日本にとっては、目新しいことばかりでした。

当時の米国では、ファッション・サイクルの短縮化と企業規模拡大による変化が起きており、それらのマーチャンダイジングへの影響、消費者ターゲットを明確にする必要性、ベーシック・スタイル対ファッション商品、価格ポイントなどについても詳細な講義がありました。

女性の社会進出も目立っていました。Picato社はその新しい客層に、おしゃれな“Sportswear”(単品コ―ディネートによる活動的ウェア。日本ではタウンカジュアルなどと呼ばれた領域)を提供し注目を浴びていたのです。この流れはその後の、“コンテンポラリー・ファッションの先駆けとして、受講者に強く印象づけられました。

  • 女性エグゼクティブの先駆者としての言動

 ゲルファンド氏に関して、最も強く私を揺さぶったのは、取締役会デビューのエピソードです。初めて新社長として紹介される日、ゲルファンド氏は、本部から出張してきた会長の訪問を受けていました。会長がリラックスして雑談にまでおよぶ間、ゲルファンド社長は気が気ではなかった。なぜなら彼女は役員会に間に合うよう、同じビル内の美容院に予約を入れていたからです。刻々とせまる役員会の開始時刻。ついに彼女は意を決して宣言しました。「Mr. Chairman. You’ve got a WOMAN President!!」(「会長さん、あなたの新社長は女性なのです!」) そして席を辞し美容院に駆け込んだそうです。 時代を切り開いてゆく、女性エグゼクティブの決死の行動に、大いに共感しました。

ゲルファンド氏の言葉: 「ダイナミックな米国のファッション産業と経営者にとって、正しい道は一つしかないか?」 まとめのメッセージ、「あなた自身を信じなさい」も、意気盛んな受講者には、大きなインパクトを与えました。

 

C) テキスタイル・スタイリング=感性をシステムに乗せるクリエイティブ活動

「テキスタイル・スタイリング」 コースは、Dan River社 クリエイティブ・ディレクターのエドウィン・ニューマン氏を講師に招きました。1976年開催した1回目の講義中心の講座(会期3日間)を、翌年には7日間の実習コースに拡大。その後も人気コースとして継続して、多くのすぐれた人材を輩出したと自負するコースです。

  • “スタイリング”という、未開拓の領域

テキスタイル・スタイリングとは、テキスタイル・デザイン(プリントや編織の柄が中心)とは異なり、生産手法(編・織、染色・加工手法、など)、ビジネス条件(コスト、生産ロットなど)を纏めて、ファッション(流行)の観点から、生地作りを総合的にマネージする専門業務です。ファッションという複合的視点でマネージする仕事ですから、基礎能力の上に実践的で高度なノウハウを必要とします。教育プログラムにくみ上げるにも、適切な教材や優れた指導者が不可欠でした。このコースは、当時のF.I.T.にもありませんでしたが、テキスタイルの歴史と優れた技術を持つ日本の将来には、非常に重要で有効なプログラムだと、私は考えたのです。

  • クリエイティブな発想のエグゼクティブとの出会い

 講師を探すうちに、幸運にも、ダン・リバーのニューマン氏に出合いました。ダン・リバー社は垂直型テキスタイル・メーカーで、コットン素材を中心に、アパレルとホーム関連(シーツ等)の生地を、先染めやプリント中心に企画・販売しているトップ企業の一つ。氏はそのデザイン室長として、シーズン・カラーの設定から最終生地の完成までをディレクトしていました。

 「この人は、すごい!」と感服したのは、デザインの現場での氏のスタッフを啓発する指導力でした。また100人近いテキスタイル・デザイナーの仕事をコ―ディネートする手法として彼が実践している手法にも感動しました。例えば、異なるファブリックの色をコ―ディネートする仕事では、デザイナーたちが個々に気に入った色彩群を選択するのではなく、あらかじめ使用できる色を絞り込んでおく、というシステム化です。彼は毎シーズン、ダン・リバーとしての“トレンド・カラー”(100色余)を設定し、デザイナー達が使えるのは、それらの色に合わせて調合された “絵具”、または、そのトレンド色に染めた“試織用糸”だけ、というルールを実施していました。これは当時日本でも困っていた問題、すなわち個々のデザイナーが自分の好みの色でプリント柄やチェック柄をデザインする、それをデザインが出来上がった後でカラー・コ―ディネートする、のが難しいという、難題を解消していたのです。

  • テキスタイル・スタイリングの7ステップ

 スタイリングの実習コースは、カリキュラムの開発からはじまりました。1年目のレクチャー講義をもとに、それにどのような実習を加えれば、スタイリングの最前線が学べるか? これには筆者だけでなく、ニューマン氏も大いにエキサイトされ、ニューヨークでの打ち合わせはトントン拍子に進みました。企画の主なポイントは:

 ■テキスタイル・スタイリングのプロセスを 7 ステップに分ける:具体的には、

Step 1 情報の収集(市場、消費者、社会経済環境など

Step 2 ファッション傾向のまとめと提示

Step 3 カラーの選択(カラー・ストーリーの作成)

Step 4 商品ラインとコンセプトの準備(テーマも)

Step 5 コンセプトの展開=試作・検討(製品化への)

Step 6 商品ラインの絞り込み、編集

Step 7 最終ラインのプレゼン(全受講者に対して

 ■ 実習に必要なカラーチップの準備 (色生地、色糸のサンプル帳、パントン・カラー等)

 ■ 各自が企画を立てる材料としての多種多様な生地 (生地問屋やメーカーに協力いただいた生地サンプルを段ボール30箱以上用意)

(テキスタイル・スタイリングの実習でのプレゼンテーション。右端がニューマン氏)

  • 「自分で考えさせる」手法の徹底

 受講者は多種多様でした。ベテランのテキスタイル・デザイナーや生地問屋の企画者は勿論ですが、合繊メーカー(旭化成以外)の営業課長も、産地の生地メーカーの経営者も参加されていました。つまりファッションやデザインの知見も体験も千差万別。それでもニューマン氏の指導は、「まず、やってみなさい」でした。そして各人の作業状況を見ながら、初心者には「なかなかいいね」と激励を、ベテランには、よくできている仕事でも、「もうひとつだね。もっといいものが出来るのでは?」と突き放しながら、考えるヒントを与える、といった具合でした。

 この教え方を、「もう少し親切に、やり方を教えてくれるといいのに」と見ていた私でしたが、「500円づつ与えて、カラー・ストーリー事例を街で探す、午後半日のリサ―チ」プロジェクトの結果に、仰天しました。カラー・ストーリーは “エモーション”、どんな感情を引き出すか、だとするニューマン氏は、エモーションの源泉を見つけに受講者を教室から街に出したのです。驚いたことに、カラーについては全くの素人と思われた受講者までもが、例えば、ピンクや白やミント(薄緑)のパステルカラーのハッカのキャンディーが詰まった袋を購入して、“ベビーを見つけた”、といった素晴らしい報告をしました。皆、非常に苦労したようでしたが、「あれ以来、見るものすべてが“カラー・ストーリー”に見えます」と言った受講生に、感服。「まず、やらせてみる」、に納得でした。

  • 「テキスタイル・スタイリング」は、I.T.の正式講座に

 実はこのコースについては、F.I.T.からチェックが入りました。コースが非常に好評だったと聞いたF.I.T.のマービン・フェルドマン学長からで、「ヨーコ、あなたはF.I.T.にないコースを 『FITセミナー』 と称してやっているそうじゃないか」と。ユーモアたっぷりのクレームでしたが、私は弁明に努めました。ところが何と翌年から、F.I.T.本校で、このコースが正式に講座になったのです。それも、ニューマン氏が担当教師で。

 FITセミナー第I期で、「テキスタイル・スタイリング実習コースほど感銘を受けたコースはなかった」と、私自身が繊研新聞のコラム、「FBへの提案」で書いた達成感を、いまあらためて思い出しています。                                      

(第5回に続く)

石倉洋子さんの 「デジタル監」就任に拍手! と NRF2021 第2ステージ大会報告

今日、正式に発足したデジタル庁の「デジタル監」に、一橋大学名誉教授の石倉洋子氏が就任されました。石倉さんは、私が非常に尊敬する世界的人材で、広い視野と高い視座、柔軟な発想、そしてスピード感と行動力をもつ人です。今、変革を迫られている日本、なかでも世界に大きく後れを取っている“デジタル化”という、旧態的考え方ややり方では不可能な事業のリーダーに、石倉さんが就かれたことに、最大限の拍手を送るとともに、応援したいと思っています。

実は石倉洋子さんは、筆者の仕事やキャリアにおける長年の友人、というより仕事における同士的存在でもあります。1970年に、日本の繊維ファッション産業の変革を目指して旭化成が始めた「FITセミナー」の通訳として8年間お世話になったのを契機に、以来、プロフェッショナル人材開発、ビジネスのグローバル化、変革をリードする経営者育成、人材の多様性や女性活躍支援など、私が力を入れてきた活動に、いつも惜しみなく協力と支援をして下さってきました。

日本女性初の、ハーバード・ビジネススクール博士号取得、ダボス会議での色々なセッションの司会者、など、日本人としては希少/貴重な経験もされている石倉さん。デジタル庁の喫緊の課題は、コロナ禍で明白になった行政サービスの不備をデジタル化で克服することにあり、「マイナンバー」の普及を中核に、国と地方自治体間のデータ共有や、官僚機構の縦割り打破、さらには教育や医療分野にも取り組まれることになると思われますが、多様な能力をもつ民間人200名を配下に、存分の力を発揮して下さることを祈念しています。

行政のデジタル化というこの動きは、当然ながら民間のビジネスにも波及し、わがファッション流通のデジタル化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展を促進すると期待しています。

「NRF第2ステージ リポート:

ニューノーマルとは 変化が常態になる世界」

コロナ禍をテコに、新たな未来に向けて、大きな変容を遂げつつある米国。デジタル・トランスフォーメーションが企業の勝敗を大きく左右しています。恒例の全米小売業大会の2021年度は2回に分けたバーチャル開催になりました。その第2弾のリポートを、昨日の繊研新聞でご覧ください。 (繊研新聞 2021年8月31日付け 9面 繊研新聞社より掲載許諾)

END

新型コロナウィルスと小売りビジネス② ― 「コロナ・パンデミックは何を変えるか?」 

 新型コロナに関する緊急事態宣言が全国的に解除され、約 1 か月半の巣ごもりから解放されました。まだ 感染第 2 波の心配もあり、東京は今日 “アラート”信号も出ましたが、外出禁止がとけたことで、精神的にはホッとしています。心配されていた感染爆発を免れ、死者数も世界各国と比較しても極めて低い数字に抑えこんだ日本。その主たる要因を検証することは、今後のために不可欠ですが、とりあえずは、日本人の衛生観念、自粛要請への協力・努力、そして医療環境の整備と医療関係者の献身的な努力、などの成果と、改めて感謝と誇りを感じます。 と同時に、感染されたり身内が亡くなられた方、経済的困窮に陥られた方には、心からのシンパシーと励ましの気持ちをお送りしたいと思います。

 COVID-19パンデミックは、前例のない “健康危機”と世界的な “経済ショック”の同時発生です。感染拡大は、現在も世界各地で続いています。これまでも、リーマンショックや東日本大震災などの危機はありましたが、今回は、世界的な、そして感染がもたらす「命への脅威」であり、人々の日常的生き方、家族、コミュニティ、社会などの在り方を大きく変えつつあります。

 今回は、都市封鎖が徐々に解除されつつある欧米の動きを見ながら、“ポストコロナ” あるいは “ウィズコロナ” の世界がどのように変わるか、について考えました。人々の価値観、生活の仕方、働き方がどう変容しつつあるか? そしてそれに対応して、ビジネスがどう変わらねばならないか? です。 

 

◆   人々は、幸せに生きることの価値を、考え直している

 マッキンゼー社が興味深い調査をしています。このパンデミックが世界の人々に、どのような価値観や生き方の変容をもたらしているか? (Reflection in Crisis2010527日公開 『ロックダウンが我々に、何が重要なのかの再発見を助けてくれた』)     この調査結果で判明したことは:

①    人との個人的関係の深化―― 「家族や最愛の人が最優先、と常に考えてはいたが、実行していなかった。その実行は“楽しく心地よかった”」

②   幸福のために何が不可欠かの再評価―― 「幸せであるために必要な、収入と職業上の成果を再評価中。働く時間を減らしても、その収入でやれるなら、家族との時間を重視したい。キャリア目標は以前より重要でなくなった」

③   「健康第一」マインド―― 健康は、国、年齢、社会経済レベルを問わず最重要に。「私に起こった長期的でポジティブな変化は、健康、健康、そして健康。どんなに多忙でも、仕事が山積していても、肉体的そして精神的な健康のために時間を取ることが、いかに重要かが分かった」 

ビジネス・リーダーが注目すべきこととしては:

④    新しいトレードオフ―― 働く人の個人的キャリア目標が変化すれば、給与と、働き方の柔軟性、短距離通勤、ゆったりした仕事のペース、 等のトレード(取引)が進む。営利企業より非営利組織で働く人が増える可能性も。ワークライフ・バランスを、企業のお題目から、企業のリアリティにすべし。

⑤    新しいボスは=消費者―― ウォルマート創業者サム・ウォルトンが言ったとおり、 「ボスは一人しかいない。それは消費者。買う店を他店に変えるだけで、企業の会長から担当者まで解雇できる」。企業はいま、多くの“新しいボス”を迎え入れようとしている。これまで消費者行動として理解されていたものは、永遠に捨て去られた。代わりとなる“新しいもの”=評価・判断の基準=が、スピード感をもって登場する。

 

 こういった変化をとらえた素晴らしいメッセージ・ムービーを見つけました。

ビームスの 『会いたい。』 です。「会えない今だからこそ、大切なものに気が付く」。 (画像参照)

        「Dear friends. 〜 わたしの世界篇」

STAY HOME 週間に生まれた企画だとのことですが、「私には友達がいる。、、」 の語りで始まるベランダの友人たちの写真。この「Dear friends. ~ わたしの世界篇」 のビデオは、まさしく外出自粛がなければ気づかなかった、人のぬくもり、友人の大切さです。 

→ Dear friends. 〜 わたしの世界篇

 

◆ 経済へのダメージ

 今回のパンデミックでは、過去に類を見ない大きさのダメージが、非常に広範囲に及んでいます。V字回復は望むべくもありません。わがアパレル/流通業界では、「回復には少なくとも 年は必要」、などと言う人がいますが、「回復」とは、どのようなことを指しているのか、あらためて真剣に考える必要があります。現在抱える過剰在庫や当面の資金の手当てがつき、「3密」回避を実現する安心・安全な小売り営業の手法が開発されたとしても、コロナ以前の旺盛な消費マインドとビジネス成果が「復活」することは、ありえないと思われます。

  企業倒産も増加。財務的な問題を抱えていた企業がコロナの引き金で破産、民事再生法申請に至った事例は、5月に入って老舗アパレルのレナウン、米国では大手高級百貨店のニーマン・マーカス、大手GMS J C ペニー、また著名 SPAチェーンの J. クルーなど、目立っています。ユニークさで人気があったPier 1 Importは、廃業に追い込まれました。倒産・破産は今後も続くと思われ、店舗数の大幅縮小は、時の流れとなっています。ノードストロムでさえ、フルライン店 116のうち 16店を永久閉鎖、傘下の著名セレクトショップ、ジェフリーズ4店も閉鎖し、ジェフリー・カリンスキーも同社を去りました。M&Aも進むと思われ、J C ペニー(242店の永久閉店はすでに発表済)の一部あるいは全店舗をアマゾンが買収する、という噂も現実味があります。
  米国の、4月の小売全体の売上は、16.4%の減少。とりわけファッション関係は、78.8%減と、史上最大の落ち込みです。ネット販売も4月には世界で 209%増などと報道されていますが、売り上げは上昇しても、コロナ対応関連コストや宅配競争、人手確保等の経費上昇で、黒字になっている大手企業はウォルマート等を除けば、わずかです。

 ロックダウンが段階を踏んで解除されてゆく中、企業はいろいろな工夫で、社員と顧客の安全を確保しながら、ビジネスの回復に懸命です。例えば、BOPIS(ネット購入・店舗ピックアップ)は 2.5倍に伸び、一般化したカーブサイドピックアップや宅配、置き配、などに加え、マスク着用や消毒液準備、ソーシャル・ディスタンシング、入店制限、コンタクトレス決済、などが進んでいます。それでも、消費者は来店に躊躇。ファッション関係では若者の一部が安売り店などに出向く以外は、おしゃれ目的のショッピング(ブラウジング)をする動きは少ない。顧客が試着した商品は、日間売り場から取り除く(ノードストロム)、あるいは試着後クリーニングや熱アイロンで殺菌処理をした服が、“新品には見えなくなってしまう”(ミラノのブティック)、などの苦労も報道されています。店が再開しても、試着室には入りたくないという人は、女性で 65%、男性で 54%に達します。 

 大胆な戦略も注目されます。ウォルマートは中古衣料の大手 ThredUpとパートナーを組み、リーバイスやチャンピオン製品などを含むリユース製品販売に参入。“隣同士が助け合い(Neighbors Helping Neighbors)”プログラムを SNS  Nextdoor の起用で開始、など、同社のアグレッシブな戦略には、1 か月で 15万人の新規雇用や従業員へのコロナ手当 10億ドルも含め、目覚ましいものがあります。そのほか、REIWest Elmの 35アイテムの提携なども話題になっています。

  ファッション・デザイナーの世界でも変革が始まりました。コロナ以前から、疑問視され改革が求められていた様々な業界慣習が、今回一気に表出しました。巨大な経費をかけ年に5~6回開催されるコレクション・ショーのバーチャル化や回数削減、7月にウールコートを売るなどの、生活から乖離した業界慣習の“シーズン”(いわゆるファッション・カレンダー)などの改革です。コレクションを年5回から2回にすると発表したグッチのアーティスティック・ディレクター、アレキサンドロ・ミケーレが、「シーズンごとに繰り広げられる派手な回転木馬に “Basta! もういい” と叫んだ」 とBoF は報道しています(5月26日)。ミケーレに 「来るところまで来てしまった」 と言わしめたファッション・ビジネスの華麗・華美志向のエスカレート。これもパンデミックで、エッセンシャル(本質)を取り戻すことになるでしょう。 

◆   デジタル化の急速な進行 ―今こそ トランスフォーメーション(変容)のチャンス

 こういった中、見えてくるのは、本質(真に意味のあるもの)を効果的に=スピーディで安価で簡便に、中間業者抜きで=獲得するための、デジタル化への動きです。

 ファッション関連では、ネットやSNSショッピングは勿論のこと、ビデオ・ストリーミングやバーチャル・フィッティング、チャットや リモート・パーティ(ヴォーグ社はアメリカ高校生の大イベントProm=ダンスパーティをZoomで開催)、そのためのスタイリング・サービス、あるいは、コンタクト・フリー(無接触)の対話や支払い、などが急ピッチで進んでいます。 「デジタル化は周回遅れ」と言われる日本でも、今回のコロナ禍で人々は、テレワークや リモート授業、Zoom等での会議や飲み会、オンライン診療やウェブ面接、ハンコ無しの承認、バーチャル音楽会などを、部分的とはいえ経験し、その価値を認識しました。ネットショッピングも違和感なく行えるようになった人も増えました。当局もやっと日本のデジタル化の遅れに危機感を持ったようです。

 働き方も大きく変わるでしょう。在宅勤務を経験した女性の7割以上が、今後も続けたいと言い、主要企業100社のトップの9割超が、テレワークを今後も継続すると答えています(いずれも日経新聞)。

 経団連会長企業の日立は、在宅勤務に後押しされて、世界標準の「ジョブ型」雇用に移行すると発表。日本的経営を支えてきた 「メンバー型」雇用 (ゼネラリスト養成に適した、職務を特定しない人事・採用)からの脱皮、という大変革に取り組むと言います。伝統的な終身雇用を基盤とする日本型の仕組み、それ故に、専門職や女性の活躍を阻んできた仕組みからの、転換の拡大が期待されます。

◆   ファッション・ビジネスの未来:ポストコロナは?

ファッション産業の未来は、従来の延長性で考えれば、かなり悲観的なものになるでしょう。ファッションが自由裁量支出(不要不急)であること、ディスカウント志向・価値志向、ソーシャル・ディスタンティングなどの新たな生活スタイル、などの潮流が定着すると考えるからです。しかし人々が、自分や家族を大事にし、ユニークで快適でサステイナブルな衣服や小物を着用したいという気持ち、すなわち“心が喜ぶ消費”は、逆に拡大すると思われます。アップサイクリング、中古販売、DIY(生活者が自ら創る)、3D活用のモノづくりなどを含め、サービスと合体したファッションの新ビジネスを、革新的企業、あるいは、SNSなどの新たなツールが実現することを、私は期待しています。

 ここで重要なことは、ポストコロナへ向けての変革、あるいはトランスフォーメーションは、これまでのしがらみから離れて、ゼロベースで考える必要があることです。「今、New Normal (新たな常態)を前提に、“新たに” “このビジネス”を、“利用可能なテクノロジーを活用して” ゼロから立ち上げるとしたら?」、「誰をターゲットにどんな独自性をもって始めるのか?」、と改めて自問し、根本からスタートしなければ、従来のビジネスのパッチワークになってしまうでしょう。

  ファッションに限らず、あらゆる産業の企業が実践すべき、ポストコロナの行動について、マッキンゼー社が、 「Next Normalの考察から実現へ:何をやめ、何を始め、何を加速するか」 と題した論説を発表しています。(“From thinking about the next normal to making it work: What to stop, start, and accelerate. 2020. 5.15)。 そのための 7つのアクション」 が非常に示唆に富むものなのでご紹介しましょう。 注:同社は、New Normal(新たな常態)ではなくNext Normal (次なる常態) の表現を使っています。>  

<ネキスト・ノーマルへの つのアクション:何をやめ →何を始め、何を加速するか

1.オフィスでゆったり仕事 → 効果的リモートワーク

2.ライン/サイロ(縦割り組織) →ネットワーク/チームワーク

3.ジャストインタイム→ジャストインタイム&ジャストインケースJIC=万一のために)

4.短期のマネジメント → 長期視点のキャピタリズム

5.トレードオフ(二律背反=両立は成り立たない) → サステイナビリティも包含

6.オンライン・コマース → コンタクトフリー(接触なし)経済

 7.単純な復帰 → 復帰 & 再考/再構想

 

 これらのアクションについては、次回に詳しく述べたいと思っています。 

                                                             End