リテーリング

<NRF(米国小売業)大会2014 報告⑨―新時代を開くルールブレイカ― ホインター>

 米国小売業協会(NRF)の年次大会では、イノベーションのセッションとして、若手起業家が興した新事業を紹介しています。2012年からスタートした「ルールブレイカ―達」と呼ばれるセッションですが、ユニークなコンセプトで起業したアントレプレナー4人を招き、それぞれ20分づつプレゼンテーションをするものです。昨年は眼鏡のネット販売を起業し、2年でオムニチャネルの専門店ストア事例としても注目されるようになった、ワービー・パーカー” と、雑誌的コンセプトで次々に期間限定ショップを作る、Story  が紹介されました。

 2014年は、次の 4 人のスタートアップ企業が登場し、「現状に満足できないイノベーター達を祝福しよう」のテーマで、意欲にあふれるプレゼンをしました。 

           ① 「マス・カスタマイゼーション・ビジネス」のHatch. Co.

           ② 同じく、「紳士服マス・カスタマイゼーション」の Indochino(紳士服)

           ③ 「SNSでベスト・アドバイスを提供」の Yabbly

           ④ 「サンプル在庫でのリアルビジネス」の Hointer

 このうち、“ネットとリアルの利点合体”、というべき ホインター社を紹介しましょう。 ホインターとは 『ハンター』 の意味だと創業者ナディア・シュラボラは説明します。プリンストン大学数学博士号を持つ女性です。彼女は、以前にアマゾンの配送センターでフルフィルメント・テクノロジー長をつとめ、さらに実店舗にも勤めた経験をもとに、ネットと店舗ビジネスそれぞれの利点を生かした小売ビジネスを立ち上げたい、と考えました。

 シュラボラ氏が強調するそれぞれの利点と欠点は

  ① ネット販売の利点=顧客にとっては、商品・在庫情報が豊富、SNSの幅広い活用、買物が簡単で速い。企業側にとっては、顧客データや買物履歴などが蓄積でき、それにもとづくお勧めが可能。

       欠点=デジタルで見た商品や色が、実際と異なる事がある。サイズやフィットの  確認が出来ない。即、持ち帰りが出来ない。

  ② 伝統的店舗の利点=現物を見て、色や素材を確認、触って、その場で試着も可能。気に入ればその場で持ち帰りが可能。販売員との会話やアドバイスがネットのお勧めより臨場感がある。五感で感じる体験がある。

       欠点=商品情報や在庫情報が限られる場合が多い。商品が多く欲しいものを見つけるのに手間取る。

 そこで、テクノロジーと伝統的店舗の利点を結合させ、2012 9月にシアトルに 185㎡ のパイロット(テスト)店をオープン。23 ブランドのジーンズ(デザイナーを含む)を約 150 スタイル揃えた店です。ただ店舗は型見本を1点づつ見やすく売り場に提示し、サイズ等の在庫は店の”倉庫”にキープ。顧客はタグ(Etag)のQRコードをモバイルでスキャンし、商品の詳細やSNSでの評価などを見て、気に入れば試着の指示をする。モバイルで指定された試着室に入ると、選んだサンプル製品の自分のサイズがハンガー掛けや畳んだ状態でパイプやシュートから自動的に送られている(オムニカート)。さらに試着を重ねたければ、試着室の壁にはタブレットが設置され、それによって追加の服を試着室に送り込んでもらう。最終的に購入を決めた商品は、購入を入力すれば、出口のシュートに出てくる、という仕組みです。 

  このビジネスモデルのポイントは、3 つのソリューションにあります。

       Eタグ + オムニカート + マイクロ・ウェアハウス

 同社はこれらを自社で実行するだけでなく、他の小売業に、ライセンスするビジネスを進めています。「顧客体験に革命を! あなたのお店でも、一歩づづ」がホームページでのメッセージです。まずはEタグを、次いでオムニカートを導入する、という具合にです。

 Eタグは、顧客と小売店舗のためのデジタル・コネクション機能。顧客はタグについている QRコードをスキャンする事で、商品情報やお勧め、着こなしのアイディア、他の顧客の評価等の情報を得る事が出来る。店舗側にとっては、顧客の行動が把握でき、人気のスタイルに関する情報を得てベンダーに提供する事も出来る。Eタグは、従来型の小売店でも利用できる形になっているので、まずはEタグからスタートしてメリットの一部を享受すればよい、と同社は言います。

 次のオムニカートは、Eタグが指定した商品を試着室に自動的に送り込むソリューションです。そのためにはシュートなどの物理的システムも必要なので、その準備が出来てから導入すればよい。オムニカートは、その店舗に無い在庫を他店から宅配する指図も出来るものです。

 マイクロウェアハウスとは、店舗に配送センターの機能も持たせることです。大型物流センターを設置する代わりに、各地にある店舗にその役割を担わせる、という考え方です。 

 Hointer のこのシステムでは、販売員の数が大幅に削減できることを実証しており、週日で45名、週末で5~6名を要するものが、曜日を問わず 3 名で済むようになる、といいます。売り場スペースも削減でき、低コストでより高い顧客体験を提供出来る “理想的” なビジネスモデルだと同社は強調しています。

 このビジネスモデルは、アパレルに限らず、靴、ジュエリー、家電製品など、幅広く活用出来るといいますが、Hointer のコンセプトが大成功し、小売に革命を起こすものかどうかは、今後の展開結果に待つしかないと、私は考えています。しかし、リアル店舗重視時代に、テクノロジーのフル活用でネット的なシンプルかつ効率的オペレーションを得られるヒントが溢れているビジネスモデルであることは確かです。

 

<NRF(米国小売業)大会2014報告⑧―Life is Good!楽観主義がブランドを育てる> 

 今年のNRF大会で大きな反響があったのが、「Life is Good(人生はいいものだ)」の大型セッションでした。Life is Good社の創業者、バート・ジェイコブス氏が講師で、テーマは楽観主義」、「思いやり」、「喜び」――適切なマインドを売ることが、いかにブランドを成長させるか”です。 Life is Goodは、まさしく未来を示唆する「ソーシャル・ビジネス」を実践する事例と言えます。ビジネスが、「金儲け」だけではなく、「社会のためになる、人のためになる、人がそれにより成長し幸せになる」 ものでなければならない、という同社の考え方は、すでに2012年のNRF大会以来、“Conscious Capitalism=意識ある資本主義” 等のテーマで、ホールフーズ (オーガニック食材を扱うグロサリー小売業) やスターバックスの創業者が、熱っぽく語った新しい企業理念、 “ソーシャル(社会的役割)”重視です。

 Life is Good Company は、バートとジョンという2人のジェイコブス兄弟がスタートした 「アパレルやアクセサリーの販売で、前向き思考を推進する」 会社です。売上は1億ドルを越え、利益の10% を恵まれない人達のために寄付をしています。

(画像は同社のアイコンであるJakeのスマイル」 Original Jake drawing

 このビジネス・コンセプトが生まれたきっかけには、非常に興味深いものがあります。バート・ジェイコブス氏は、Villanova University 1987年に卒業。その2年後に、Tシャツをトラックで巡回販売する会社をスタートしましたが、なかなかうまく行かない。 そして疲れ果てながら、弟のジョンと、「なぜ、メディアは、うまくいってない事だけを取り上げ、うまくいっている事は取り上げないのか? そのネガティブ(否定的)エネルギーの影響はどのようなものなのか?」  さらに「ポジティブ(肯定的・前向き)なエネルギーだけを伝播するブランドをクリエ-ト出来ないものか?」 と考えました。その時、部屋の壁に貼ってあった 「Jakeのスマイル」のイラストに心を打たれ、ひらめきを得たといいます。その結果、ビジネスの経験もないまま、たった78ドルの資金で、Life is Good3語を、絵心のある弟が描いたTシャツを売り始めといいます。 

 「Jakeのスマイル」―人にいい気分を伝播するスマイルのイラスト-が、Life is Goodのアイコンです。そして、ユニークなイベントで各地を巡回しながら、それぞれの土地で趣旨に賛同するボランティアを巻き込み、多くの人を動員し、メッセージの伝播と、ファンド・レイジング(寄付金集め)を成功させているのです。

 ファンド・レイジングのイベントで最も話題になったものに、2006年ボストン・コモンでの「かぼちゃ彫刻」があります。一か所に集められたかぼちゃの数で、ギネスの世界記録を更新し、10万ドルを集めたとのことです。

 Tシャツに書かれたメッセージの例をあげましょう。「子供は偉大なる楽観論者」 「楽観的でなければ、革新的な事は出来ない」 「良い価値観は伝染する」 「一人では出来ないStick Together!(みんなくっつけ)」 「簡素化せよ!」 「祝福せよ。Celebrate!」 「仕事と遊びの境界線を消せ!」。メッセージはすべて、前向きで楽天的、楽しくなる、元気が出る、といった人の生き方の示唆に富むものです。

中でも私が特に気に入っているものは、「テイクする者は、“食” には困らないかも。しかし、“ギブ”する者は、よく寝られる。」、、、素晴らしいメッセージですよね。(画像参照)

 Life is Good の社会貢献は、彼らの信条、すなわち「子供が、究極のインスピレーション源」 にもとづき、子供を対象に行われています。全国のフェスティバル・イベントで生みだした資金の100%、また Life is Good の商品の販売で得た利益の100%をハンディキャップのある子供の基金に提供されているのす。 最近では、この考え方に賛同する企業との連携も拡大し、コーヒーチェーン(Sumacker’s)やHallmark(カード・文房具)もグループに入りました。

 バート・ジェイコブスCEOは、自らを、CEO=Chief Executive Optimist(楽観主義最高責任者)と呼び、“Optimism can take you anywhere.”(楽観主義が、あなたを望む場所に導く) をスローガンに、全てクチコミ、広告なしで4500の小売業、30カ国への販売を推進しています。

 NRF大会で彼は強調しました。

  「子供は楽天的。“悲観的な人”が、革新的になったり、殻を打ち破る事は出来ない!」

そして、1000人を超える聴衆に対して、講演の間、強調したいメッセージがあるたびに、“○○はスーパーパワー! 高く飛ばせ!” と大声で唱え、フリスビーを客席の最後部へ向けて投げるのです。 それを聴衆が飛び上がってわれがちに捕まようとする光景は、感動的でした。 たとえば、

   Fun is SUPER POWER!  Let it fly! (楽しい事は、スーパーパワー! 高く飛ばせ!)

   Love is SUPER POWER!  Let it fly! (愛は、スーパーパワー! 高く飛ばせ!)

   Courage is SUPER POWER!  Let it fly! (勇気は、スーパーパワー! 高く飛ばせ!)

  「“物を売る” のが小売業であった時代は終わった――小売は、エンタテイメントであり、教育であり、社会的役割をもっている。」 のジェイコブ氏のメッセージは、まさしく小売ビジネスの新しい時代の到来を、告げるもの、と感銘を深くしました。

<NRF(米国小売業)大会2014 報告③―テクノロジーと小売の交差に巨大な可能性>

  「テクノロジーが小売業を全く変える。いまはその入口にある」、というのが今回のテーマです。先回は、リアル店舗と、その楽しい集積が重要だと書きましたが、2014年のNRF大会では、テクノロジーにも力が入っていました。ちなみに8つの「キーノート(基調)セッション」のうち3つがテクノロジーに関するもの。「実店舗」の重要性が強調されると同時に、新しいテクノロジーを使いこなすことが、競争優位のために不可欠だとのメッセージです。   (カットは NRF 2014 大会のプログラム案内書)


  IBM の女性CEO、ジジ・ロメッティ氏の講演と、それに続くメイシー百貨店のCEO、テリー・ラングレン氏との対談は、巨大な新テクノロジーのうねりが、現実のものになってきたことを聴衆に分かりやすく伝えた、素晴らしいセッションでした。
  巨大な3つのテクノロジーとは、① ビッグデータ、② クラウド・コンピューティング、③ 認知(Cognitive)コンピューティング・システム(みずから“学習する”システム)、だとロメッティ氏は説明します。

  ① ビッグデータ――21世紀の天然資源(誰でもが活用出来る資源 )は「インフォーメーション」。「情報」が全ての競争のベースとなる。 世界人口の4分の1がソーシャル・ネットワークで繋がり、毎日 2.5 億ギガバイトの情報がつくられている。現存するデータの 80% は、過去2年間に作られたもの。データには、「構造化データ(Structured Data)」(コンピュータのデータベースに格納することができるタイプのデータ)と、「非構造化データ(Unstructured Data)」がある。非構造化データとは、例えば電子メールや画像、動画、ツイートやブログといったデータで、現状は企業が抱えるデータの約 80%を占める。 これを活用する事で、たとえば顧客とのエンゲイジの仕方から、スタッフの雇い方、あるいはサプライチェーンをどう管理するか、までが変わるだろう。ロメッティ氏は例として、「店でクーポンを提示されれば、買いたくなるに違いない。たとえばコールズの様な小売業は、あなたが靴売り場でショッピング中に、以前に見ていた靴のクーポンを送る」等を行っている。「私たちは今や、店舗が優れた情報源である時代にはいった。オンラインのインテリジェンス(知識・情報)と、店舗内での触感的なフィーリングを合体させた賢さを、実践する事が出来るようになった」といいます。

  ② クラウド・コンピューティング―― これは、自社のシステム外にある様々なサービスをネットワーク経由で利用するもの。(必要なときに必要な分だけ対価を支払って利用出来る。導入が容易、運用も楽)。クラウドにより、ビジネスのアジリティ(スピードと柔軟性)を高められることから、新たなビジネスモデルの選択が可能かつ容易になる。

  ③ 認知(Cognitive)コンピューティング・システム―― この「みずから“学習する”システム」は、小売業界を劇的に変革する。コンピュータは当初は「計算」、そして「プログラミング」に進化し、いま「学習する」ものになってきた。プログラムされているのでもなく、サーチエンジンでもない。 人とインタラクト(双方向のコミュニケーション)をしながら学習するのだ。そして、どんどん賢くなる。現在IBM が FLUID 社と開発中の North Face の“Expert Persona Shopper”の事例では、たとえばあなたが14日のバックパック旅行に出かけるとしよう。するとコンピュータはあなたにたずねる。「どんなお手伝いが必要ですか?」 そして、あなたの旅行に必要なモノのリストをくれる。さらに普通の言葉で、あるいはキーボードへの入力で質問を重ねて行くと、それに対応する答えが画像も伴って返ってくる、といった具合だ。

  これらのテクノロジーの進展は、非常にエキサイティングです。しかし、「セキュリティ」と「自由」、「プライバシー」と「利便性」のバランスはしっかり取らなければなりません。そのために不可欠なものとして、3つの原則をロメッティ氏は上げました。
① 透明性=誠実であること。企業としてどんな情報を集めているのかを明快にすること。
② コントロール=個人が自分のデータを管理出来ること。 
③ 信頼=いわゆるコンプライアンス以上のもの。企業と顧客の間の深い信頼関係を育むこと。信頼は、行動から生まれる。
最近の、個人情報流出などの事件で、人々は特に安全性に神経をとがらせています。

  メイシー百貨店のラングレンCEOのリードと、会場から質問を受けながら、対話が弾みました。
  Q:「まず、はじめにやるべき事は?」→ 「One to One マーケティングだ。一方的に語りかけるだけでなく、双方向で。名前で呼びあうような近しい関係を。メイシー百貨店がやっている顧客とパーソナルな関係を築く努力は、高く評価出来る」
  Q:「ビッグデータは大企業のものか?」→ 「No.『天然資源』と表現した通り、誰もが活用出来るものだ。これをリファインする(洗練させる)人すべてに適応する。小規模の方がやりやすい。」
  Q:「過去のパラダイムで行動している上層部にこれらの変化を理解させるにはどうしたらよいか?」 「Just go and do it! ともかくやってみること。プロトタイプを作ってやると、結果が出る。見れば誰でも分かる。」

 質疑はさらに続きましたが、私がこのセッションで受けた最大のメッセージは、「ミレニアル世代」と呼ばれる、インターネットとモバイル/ソーシャルの世界で育った世代、これまでとは全く違う価値観や考え方で行動し、これからの時代をリードする若者たちを捉えるにも、これらの3つのテクノロジーのフル活用が不可欠だという事でした。