リーダーシップ

< 女性には ”管理職” よりも ”優れたリーダー” になってほしい >シリーズ ①

 「女性とリーダーシップ」について、シリーズで私の想いを書きたいと思います。

 女性の活躍が目立つようになりました。世界を見れば、ドイツのメルケル首相や、IMF(国際通貨基金)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事、日本では東京都知事の小池百合子氏など、政治の世界でリーダーシップを発揮する女性が増えています。  ビジネス界でも、米国の「フォーチュン500」(大手企業トップ 500社)で女性CEO27名になりました。中でも、自動車業界最大手ゼネラルモーターズ社のメアリー・バーラCEO、IBM 社のバージニア・ロメッティ CEO、世界最大航空防衛機器メーカーのロッキードマーティン社マリリン・ヒューソン CEO など、伝統的製造業やIT業界の大企業で女性トップが誕生している事には、まさしく隔世の感があります。

女性活躍度国際比較 日本は144国中 111位 (世界経済フォーラム GGI 値-   0 が完全不平等、1 が完全平等 )

  日本でも、女性がビジネスの多くの場面で成果を上げ始めたのは、本当に喜ばしいことです。「2020年には女性管理職比率を30%にする」という、政府の “2020-30”スローガンは、昨年4月には、「女性活躍推進法」の施行に進展しました。

 しかし残念なことに、日本の女性活躍へのスピードは、諸外国に比べて非常に遅いのです。 世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」の国際比較(左表)では、日本は 144カ国中 111 位であり、その順位は前年より下がっている。というのは、日本も改善しているのですが、他国の改善スピードに追い越されたためです。

 

<管理職よりは、優れたリーダーになってほしい>  

日本が遅れているのは、社会に浸透している伝統的な男女意識や男性中心の企業風土と、女性が子育てをしながら働ける環境が十分でないこと、が最大の要因でしょう。しかし同時に、私が重視しているのは、〝女性が管理職になりたがらない″ことです。その理由としては、女性自身が「私にはまだその実力がない」とか、「管理職って責任が大きくて大変そう」とか、周りの管理職を見て「仕事に情熱的に取り組むというよりは、何時も疲れていて気の毒」とか、「プライベートライフとの両立が難しい」、などが上がります。  これは、日本的ヒエラルキー組織での管理職が、欧米のように能力と成果で採用・評価されるというよりは、年功序列や会社への滅私奉公的態度で評価される、あるいはそう思い込んでいる、ということによるものです。

 しかし女性の活躍は、女性自身が意識と考え方を変えることで、突破口が開かれる、と私は考えています。つまり女性をエンパワー(パワーアップ)し、女性が主体性をもって自分のキャリアに取り組む喜びと自信を持つようになることです。(一般社団法人 ウィメンズ・エンパワメント・イン・ファッション http://www.wef-japan.org/ を設立したのも、このためです)

 「管理職になる」というのは、組織を前提とした昇進です。しかしこれからの時代には、その人物が、組織を超えて(組織の外へ出ても)評価される力を持つ必要があることを、企業も個人も十分認識せねばなりません。

 

<リーダーシップと管理(マネジメント)の違い>

 企業などの組織や業務を管理(マネジメント)する仕事は、非常に重要です。しかし社会がフラット化し、あらゆるビジネスが巨大な転換期にある今、これまでの上から下への〝管理″ではなく、新たな方向に向けて変革をリードすることが非常に重要になっています。

 リーダーシップとマネジメントについて、アメリカの名経営者とされるGE(ゼネラル・エレクトリック社)のジャック・ウェルチCEO は言いました。 現在の企業は、マネジメント過剰でリーダーシップ不足だ。、、、管理職は必要ない。必要なのはリーダーだ」。

リーダーシップとマネジメントの違いは、次のように説明できます。

   リーダーシップの本質は、「改革」 「イノベーション」 「後進育成」。すなわち〝どこへ行きたいか″(ビジョン)を示しチームをリードすること。〝管理″の本質は 「与えられた目標の達成」。

    リーダーが引っ張るのは、「自立自責型人材」。つまり強い個人″と チームワーク。管理職がマネージするのは、既定の目標・予算・業務の実行。リーダーは “管理”よりコーチングで成長する。

    リーダーは、管理組織を超えた〝事業やプロジェクト″の主人公になる。チームと一体となってビジョンにむけて全員が貢献するようリードする。管理者は、所轄範囲の中でのマネジメントを行う。

 

 私が日本の女性、とくにファッション・ビジネスに関わる方々に、〝管理職よりは、優れたリーダーになってほしい″と願うのは、ファッション・ビジネスが今、従来の発想や思考方法の枠組みを超えた、抜本的でディスラプティブ(従来の秩序を破壊する)な〝破壊的創造″を求めているからです。女性ならではの感性や生活実感を持ち、変化を好み新しいライフスタイルへの興味が旺盛、などにより、変革を身体で感じ実行できる女性たちが、それをビジネスに生かさないのは勿体ない、と考えるからです。

 それによって、女性自身も自分に自信を持ち、リーダーシップを取って新たな価値を生み出す喜びと達成感を得ることが出来るはずです。その達成感や喜びが、商品であれサービスであれ、あるいは職場の活性化に関するものであれ、その体験と自信によって、さらに責任あるポストについて、より大きな仕事をしたい、と望むようになると思うのです。そしてリーダーとして優れた実績を上げれば、影響力の大きいポジションが自ずとついてくるのです。

 次回は、「優れたリーダーの条件」と、WEF(一般社団法人 ウィメンズ・エンパワメント・イン・ファッション)が開催した、2017年第1回キャリア・フォーラムのワークショップについて、書きたいと思います。

 

 

< WEF 1周年記念シンポジウム報告④  伊勢丹の石塚由紀氏が語るイノベーション>

 石塚由紀さんは、今年41日付で、執行役員立川店長に就任した、㈱三越伊勢丹初の女性店長です。その前には、初の女性営業部長として婦人第二営業部長、その後三越日本橋本店婦人営業部長それぞれ2年務めて、入社30年で執行役員になられました。日本トップ百貨店の伊勢丹とはいえ、歴史と伝統ある“男性主導社会”ですから、この営業部門で頭角を現わすのは、どのような人なのか、私も非常に関心を持ちました。

 シンポジウムでのプレゼンは、まず、30年にわたる、日本社会と自社の変化を振り返り、入社後の「シンデレラシティ」配属以来、シンガポール伊勢丹出向の5年間も含めた多様なキャリア履歴の紹介に始まりました。

 テーマの「新たな視点で、ビジネスを立ち上げる――イノベーションをリードする現場力」については、一筋縄では行かない課題への取り組みもふくめ、経験談を「サバイバル編」 「マネジメント編」 「リーダーシップ編」の構成にまとめて、ごく自然体で話されました。たとえば「サバイバル編」での、【部長に‘ばかやろう!’と怒鳴られた件】では、「このおじさん、なにを言っているのかしら、、、」 と 「我が事としてとらえない」対応をしたエピソードを、ユーモラスに紹介されました。 当事者の部長はきっと、「何だこいつは! 生意気だ!」と思われたことと想像しますが、大組織では、個人感情に流されることなく、しなやかに、クールに対応するのが共存の知恵なのだ、と私も共感しました。

 「マネジメント編」では、入社後ずっとファッション分野で経験を積んで来たのに、部長昇進で未経験のリビング担当になった事。「ファッションと違って商材も知らない、マネジメント経験もない。出来ることは‘人’の力を最大限に引き出して、成果をあげること。マネジメントが仕事と心得る」と開き直られたそうです。ストレスが多い職場環境、個人的なマイナスのライフイベントなどで、メンタル不調者が増え始めた時には、「産業カウンセラーの勉強をし、資格を取り、傾聴を体得し、マネジメントに活かす」ことに注力したという話には、多くの参加者から感動の声が漏れました。

 「イノベーション編」では、「自分はイノベーターか? そうではない。視点を広げ、こうだったらいいな、を語る。イノベーションのヒントは、小売業の場合、お客さまの生活の中にある。顧客接点から拾いあげるのが基本。なので、現場が重要」との明確な考えを持ち、リーダーとして、「プロセスの設計と、部下の背中を押すこと、成功事例を拾いあげて共有し エンパワメントする」ことの重要性も強調されました。

 「志を持つな。与えられた仕事をしっかりとやる。それを見ていてくれる人が必ずいる」

と強調された石塚さんですが、これには反論したい方もあるかもしれません。しかし大きな組織には色々な人がいて、「仕事が出来る人」は誰かが必ず見ている、あるいは認めてくれる人がいる、というのは事実でしょう。

これが、石塚さんのキャリア・アップの秘訣だったようです。

 “イノベーションの現場力”については、男性とは「肌実感」がちがう女性、また多様な人材によるダイバーシティ・インクルージョンが重要。「1500人いれば、その数だけの顧客との接点がある」。とのまとめは、ダイバーシティの本質を的確に表現した、素晴らしいまとめだと思いました。