人材育成

<「TOMODACHI イニシャティブ」―ケネディ米国大使のレセプションに招かれました>

 「TOMODACHI Initiative」という日米をつなぐ官民共同のプロジェクトがあります。そのレセプションが、新任のキャロライン・ケネディ米国大使主催で開催され、日本FIT会会長として、尾原蓉子が招待されました。ユニクロ(ファーストリテーリング社)が、FITを含む米国の3大学院向けの奨学金を設置しているのも、このプロジェクトです。

    ケネディ大使とアイリーン・イノウエ氏           (大使公邸でのレセプションにて)

 「トモダチ・イニシャティブ」は、東日本大震災後の日本の復興支援のために、米国政府と米日カウンシルの主導でスタート、日本政府および日米の企業、団体、個人から支援を受けて活動しています。 その使命は、教育、文化交流、そして指導者育成といったプログラムを通しての、日米の次世代のリーダーに投資する官民パートナーシップにあり、日米の若いリーダー「TOMODACHI世代」の育成を目指すものです。会長は、アイリーン・ヒラノ・イノウエ女史(米国の著名な ダニエ ル・イノウエ故上院議員の夫人)です。

  キャロライン・ケネディ大使は、日本人が非常に親しみを感じている父親のジョン・F・ケネディ元大統領の暗殺から50年という節目の年、しかも11月に着任されました。 その後早々と、東北の被災地や長崎を訪問されるなど、日本人の心のひだにふれる行動で、多くの日本人の共感を得て居られる事は、ご存じの通りです。 レセプションでの大使のスピーチでも、日米の絆の強さとその重要性を強調され、また同席した「トモダチ・イニシャティブ」で米国に留学をした十数名の高校生に対しても、その愛情あふれる目が、彼らを心からサポートされている様子が良く伝わりました。 レセプションでは、今年新たに「TOMODACHI Initiative」の戦略的パートナーとなった日本企業6社の紹介や、留学した高校生代表の英語でのスピーチもありました。

  キャロライン・ケネディ大使は、初めての米国女性大使ですが、その気取らない、それでいて凛とした、自信に満ちたエレガントさに、私は多いに感銘を受けました。 大使として素晴らしい活躍をされることと、大いに胸がときめきました。私からは、日本からの若者の留学推進、に加え、日本のビジネス界における女性の活躍、そしてCool Japan /日本のファッション に、理解とご支援を頂きたい、とのお願いをしました。

  FITGFMコースを含む、3大学院(FIT、スタンフォード、パーソンズ)などに奨学金を設置している 「TOMODACHIUNIQLO フェローシップ」については、下記をご覧くださると、来年度の奨学生募集関連の情報と今年の受賞者の紹介もアップされています。興味のある方は、ぜひ応募下さい。

http://usjapantomodachi.org/ja/programs-activities/tomodachi-uniqlo-fellowship/

<”FB”将来へ向けて③――GFMの「実践的」教育とプロジェクト研究>

  先回に引き続き、GFMのカリキュラムについて、今回は「実践的領域」とプロジェクト研究について書きます。理論と実践をバランスよく統合する、FITGFMコースならではのカリキュラムです。

  「実践的領域」がカバーするのは、下記の内容です

1)グローバル市場のファッションへの理解――製品開発のプロセスの理解、ブランドのDNA、ライセンシング、世界市場における小売のポジショニング

2)生産管理とサプライチェーン――関税明細表の理解、マーチャンダイジング・カレンダー、アパレル企業の組織構造、 衣服のコスト構造、生地の裁断・製造、二国間協定、展示会、倫理

3)小売のグローバル・マネジメント――小売業の戦略、地理的及び物流ベースの小売モデル、効果的チームの重要性、確立されたモデル、小売環境における米国・ヨーロッパ・日本・途上国市場事例

エルスワース教授のプレゼン資料より

  GFMでは、これらの専門領域が、縦割り的に教えられるのではなく、座学とプロジェクトの効果的組み合わせて進められます。クラス・ディスカッションもそれらの連動と理解を深めるのに重要な教育手法となっています。

  プロジェクト・ワークの中でも 「キャップストーン・プロジェクト」と呼ばれる、卒論に似たプロジェクトがあります。「キャップストーン」とは、ピラミッドの頂点に置く石の事ですが、GFMでの学びの仕上げという趣旨でしょう。

「キャップストーン・プロジェクト」の目的は ①業界の課題へのソリューションの開発、 ②第一次・第二次リサチの精密な適用、 ③法科大学とのコラボによる、法律の現実的ビジネスへの実践、 です。 これには、数人がグループを作って、テーマを決め、時間をかけてリサ―チ、問題の抽出、ソリューションの提言、などをまとめ、最後にプレゼンてーションの形で行います。業界審査員に選ばれた3から4のすぐれたプロジェクトは、学生や教授陣、家族や業界からの招待客、等に向けてプレゼンを行う、という名誉に浴する仕組みも、学生のモチベーション向上に貢献していると思われます。

  2013年春に卒業したクラスの例を見ると、「キャップストーン・プロジェクト」のテーマは次のようなものです。

衣服生産基地の再構築 → 国内生産への取り組み

環境に優しい靴をコスト効果高く生産するには → エコのコストをミニマイズする

消費財の安全性 → 安全を求める消費者の欲求にどうこたえるか?

Eコマースのモバイル化 → ネット・ショッピングが急速にモバイル化する

ラグジュアリー製品の卸販売 → フラッシュ・セールやネット販売拡大の中で生き残るには?

リテールからオールテイルへ → オムニチャネル時代の到来

  どれを取り上げても、いま業界や企業が取り組んでいる先端的テーマです。このような大学院コースが日本にも早く作られる事を、期待します。

(次回は、FITのGFMコースの応募資格等を紹介します。留学したい方は是非!)

<”FB” 将来へ向けて② FIT・GFMコースの教育目標とカリキュラム>

  FIT独特のコースである GFM(グローバル・ファッション・マネジメント)を見ると、これからグローバルに活躍するエグゼクティブ(ビジネス・リーダー)に必要な能力がよく分かります。学科長のパメラ・エルスワース教授のプレゼンテーションから、グローバル人材育成をめざす日本の業界人あるいは留学希望者に、参考になる事を、まとめました。

FIT GFM 海外3都市での集中講座を説明するエルスワース教授

  GFMコースの目的は、① 競争が激化するアパレル業界のプロの養成、② グローバル化かつ相互関係が深まる国と業界を展望する、③ エグゼクティブ教育の欠陥をうめる、の3点です。 「グローバル化かつ相互関係が深まる国と業界を展望する」は、国や地域の壁を超えた相互関係に加え、これまでの職種や業種の縦割りシステムをヨコ串にしてまとめて深化させる、のねらいを持っています。 「エグゼクティブ教育の欠陥」とは、ファッション・ビジネスのためのエグゼクティブ教育がなかったこと、と、ビジネススクールが注力するMBAが、ファイナンスやゼネラル・マネジメント中心で、感性やクリエイティブ領域を視野に入れていないことを指していると思われます。このコースの学位が 「MBA」でなく「MPS (プロフェッショナル・スタディース修士)であることが、まさしくそれを象徴しています。

  具体的な教育目標は、① アパレルと関連業界のミドル・マネジャーをエグゼクティブ(責任ある意思決定者)に育てることと、② キャリア路線の開発 (昇進へのスキルと自信を醸成すること。 また職種・会社・ポスト等の異動・転職の可能性をたかめること)にあります。受講資格に「3年以上のファッション関連業界での経験」を要求しているのも、キャリアとしてこの道を選び、すでに実績を上げている人に、さらなるステージアップを可能にするためです。毎年、厳しい選考プロセスを経て入学する学生は 16人から18人。グループ・プロジェクトや現場視察などを行うには、これ以上の人数では教育効果に影響するといいます。

  GFMコースは、座学以外にプロジェクトや現場視察、海外研修などを非常に立体的に組み立てているからです。

  コースのスケジュールは、3学期構成で、秋学期にスタートし、春学期、2度目の秋学期を履修して終了する、合計18か月のプログラムです。夏季は休講で、1学期に12 単位をとります。授業は週3科目(3回)の夜間講座です。したがって、ニューヨーク在住者はフルタイムでの勤務も可能であり、仕事を持ちながらキャリア・アップが可能になっています。また各学期内に、ニューヨーク、パリ、香港・上海の3地区でのそれぞれ2週間の集中セミナーが組まれています。集中セミナーは、パリでは IFM Institut Francais de la Mode と連携し、主としてラグジュアリー・ビジネスについて学びます。香港では、香港工科大学(Hong Kong Polytechnic University との連携で、アパレルの生産、サプライチェーン、中国の消費者、中国本土の工場視察(紡績から縫製まで)、 製品開発、マーケティング、等を学習します。

 カリキュラムは、理論領域(Theoretical と実践的領域(Practical の科目をバランスよくカバーしています。 

 理論領域では、「文化的価値観」に関する理解(文化が企業の意思決定に与える影響、自分の職業人としてのキャリアにおいて、他の文化吸収する能力の向上など)、および 「政治と国際貿易」に関わる問題(グローバル化がもたらす経済・政治的な問題の理解、国際機関がアパレルその他の貿易に与えるインパクトの分析、 WTOIFMの構造など)を学びます。また「マーケティングの高度な課題」として、ブランド戦略とポジショニング、ブランド拡張、新製品のイノベーション、デジタル・コマース、ソーシャル・ネットワークについての講座もあります。「ビジネス政策」としては、戦略的リーダーシップにおける戦略的マネジメントと意思決定への理解、倫理的企業の創造、なぜ成功する企業と失敗する企業があるのか、等を学びます

(次回は GFMのカリキュラムの「実践的領域」とプロジェクト研究について書きます。)