女性とキャリア

<『FB』将来へ向けて④――FIT大学院 GFM コースに留学するには?>

  FIT大学院の、GFM(グローバル・ファッション・マネジメント)コースは、内容が非常に充実しているため、世界中からの応募が多いのですが、定員は20名以下、という入学審査の厳しいコースです。

  GFMコースと応募に関する詳細は、FITのホームページ、http://www.fitnyc.edu/2865.asp にアップされています。応募はオンラインでアカウントをつくることから始まりますが、それもこのサイトから入って行くことが出来ます。

  応募者の理想的な条件として FITが重視しているポイントは下記の通りです。

1.アパレルあるいは関連業界での3年以上の実務経験 ―この分野ですでにキャリアをスタートして 実務の経験があり、クラスでも貢献が出来る

2.キャリアを通して優れた成績をおさめている ―学校及び仕事での際立った成果

3.現実的で意欲的キャリア目標をもっている ―将来エグゼクティブ/リーダーに、あるいは起業を

4.チームワークを効果的に行う能力 ―多様な人材を束ねるリーダーシップあるいはチームプレイ力

5.ビジネスと同時に業界の創造的側面に興味を持っている

6.デザイン、ビジネス、経済、法律、政治、芸術及び文化におけるトレンドを、アパレル業界に繋ぐ知的好奇心と能力を持っている。

FIT大学院 GFMセッションで紹介された 小池夏子さんのビデオメッセージ

  実際にはどんな人物が、GFMコースで学んでいるのでしょうか? ニューヨーク生の出身企業をみると、世界的なブランドや小売業が多いとの事です。 たとえば、CoachLi & FungBrooks BrothersLoro  PianaMichael KorsFerragamo U.S.ATiffanyMacy’sSaks Fifth AvenueKohl’sBergdorf GoodmanWGSNG-III, など。 起業を考えている受講生も多く、主な分野は、アパレル、靴、Eコマース、コンサルティング、などだそうです。

  GFMコースは世界的なネットワーク、すなわち 3大陸(米国、ヨーロッパ、中国)にまたがる業界プロフェッショナルとのコネクション、があります。その関係で学生の出身国も、ニューヨーク生の場合、非常に多様なミックスで、メキシコ、南アメリカ、オーストラリア、アジア、中近東、ヨーロッパ(イタリア、ギリシャ、トルコ)などに広がっています。 このような受講生の構成だけからでも、このコースが、グローバルなエグゼクティブを育てるのにふさわしい環境にあることが分かります。

  日本人は、昨年まで皆無だったのですが、ユニクロ奨学金(日米カウンシルが提供するTOMODACHI-UNIQLO フェローシップ)により、この秋からその第1号として、小池夏子さんが留学しています。小池さんは、日本では大手の広告代理店で仕事をしながら、ファッション分野でキャリアを築きたいと考えていた人です。今回開催した「FIT大学院 GFM コース紹介セミナー」には、ニューヨークからビデオ・メッセージを送ってくれました。それによると、「当初は GFM のクラスについていけるかが、心配だった。しかし、先生もクラスメートもとても親切なこと、ディスカッションも自分の経験を話すことで貢献が出来る事、などで、刺激的な毎日を送っている」と生き生きと語っている姿が印象的でした。

  来年度も、GFMコースで学ぶ日本からの留学生が継続的に増えることを願って、日本FIT会(FIT卒業の日本人同窓会)は活動を続けています。

   このFIT/ GFM セッションについては、日本FIT会のホームページにも報告が上がっています。http://www.fitkai.jp/ から入られると、「My FIT Story」に、ニューヨークで勉強中の小池さんからのメッセージと、GFMコースに関するQ&Aも載っています。

  (次回は、GFMコースなどに奨学金を設置している TOMODACHIプロジェクトについて書きます)

 

<ソーシャル・ビジネス時代とファッション③――米国Dress for Success Worldwide>

  ファッションに関わるソーシャル・ビジネスで、私が以前から注目しているのは、米国の Dress for Success Worldwide (略称DSW)です。訳せば「成功のための衣服、世界規模」とでもなるでしょうか。 この団体は、ニューヨークに本部を持つNPOですが、ファッションの社会的役割をフルに活用し、それをビジネス的手法で運営し、社会の問題解決をしているよい事例といえるでしょう。 

  DSW の設立は1999年。その活動を端的に表現すれば 「就職面接にふさわしいスーツを持っていない人を支援するNPO」 です。経済的に困窮する女性は、仕事に就きたい。しかし就職するには面接をパスせねばならない。面接するには職業人として適切な衣服が必要ですが、それを買うお金が無い。米国人が好んで使う “Catch 22” (堂々巡りのジレンマ)の状態にある女性に、面接用スーツとコ―ディネートした靴やバッグを貸し出し、化粧や面接の指南もして、無事に仕事を獲得させるのがねらいです。さらに就職後も1週間を限度に、職場へ着てゆく衣服を貸し出してくれます。

  「職に就きたい女性」は各地の多様な NPO の紹介やクチコミで DSW を尋ねてきます。そこで、専門的な訓練を受けたボランティアのパーソナル・ショッパー(個人のために買い物を手伝う人)に 1対1で 相談に乗ってもらい、プロフェッショナルにふさわしい衣服やアクセサリーを選びます。このパーソナル・ショッパーは、就職面接の準備についても、励ましやサポートを行います。とくに注目したいのは、DSW が、支援を求めてやってくる女性たち――その多くは、失望や落胆、虐待等を経験し、自信喪失に陥っている場合が多い――に対して、品位と尊敬の念を持って対応し、オフィスを出るときには、“自信”と“自分が歓迎されている”という気持ちを持てるように努力していることです。 「私たちが気にかけていることは、彼女たちの過去ではなく、その前途に広がるジャーニー(旅)の手助けをする事なのです」というDSWの幹部の言葉には、重みがあります。

  衣服は寄付によるもので、運営資金は個人や企業、団体からの寄付と DSW 自身が行うファンド・レイジング(資金集め)によってまかなわれています。 現在では  DSW の活動は世界的に広がって居り、オフィスは、米国のほか世界14カ 国、例えばフランス、英国、オランダ、オーストラリア、カナダ、メキシコ、ポルトガル等の 75 都市にあって、活動しています。日本には残念ながら、まだありません。

  「ファッション」がもつ社会的な役割。たとえば、個性の表現や、社会活動にふさわしい TPO などのルール、さらには、適切なファッションにより、背筋を伸ばして自分の将来を考える姿勢を獲得することが出来る、といった精神的な役割を、「経済的に困窮する女性」という社会問題の解決に活かしている DSW の事例は、営利目的の企業ではありませんが、まさしく「ソーシャル・ビジネス」と言えると思います。

(次回は、日本の事例について書きたいと思います)