日本企業のありかた

<NRF2016 リポート ② オムニチャネルは長い道のり―コラボで挑戦>

 全米小売業大会  NRF Big Show )の尾原リポートが、繊研ウェブ版に、今日、アップされました。http://www.senken.co.jp/news/management/nrfbigshow-105th/ 

 色々コメントをいただきましたが、やはり今最大の関心事は 「オムニチャネル」。特に、オムニチャネルが、その発祥地の米国でも、一朝一夕に達成できるものでないことに、共感される方が多いと感じました。

 スマホの威力と利便性を体感してしまった米国の生活者には、もはやオムニチャネル以外の選択肢はなくなっています。というより、生活者にとって、もはや「チャネル」という意識はない。いつでもどこでも、気が向いたときに、多様なルートから情報を得て、商品やサービスの詳細を知り、友人とシェアし、意見も聞いて、買うかどうかの判断をし、買うと決めたらすぐに欲しい、そしてその体験をツイートする、という、自分を中心に世界が存在している、といった見方になっているのです。

 「マルチチャネルという言葉に興奮したのが何年か前。その後に登場したオムニチャネルのコンセプトは、優れたものであるけれども、いまやビジネスは、Distributed Commerce(分散化されたコマース)の様相を呈してきた。ここでのPOSは、生活者のスマホだ」 という、刺激的なスピーチもありました。

 閉塞感がただよう日本のアパレル・ビジネスをディスラプト(秩序の崩壊)をさせるためにも、ご興味のある方には、是非リポートを読んで頂ければ嬉しいです。

http://www.senken.co.jp/news/management/nrfbigshow-105th/

<日本が世界に誇れるもの③ 「日経ビジネス特集Part 2」とNHK「サキどり:貧村支援>

 今朝(122日)のNHK番組「サキどり」で 「貧村変える製品づくり」を見て感動しました。日本の若者が世界の極貧地域へ出向いて、日本人の知恵と技術でその生活を少しでも便利かつ健康的なものにするプロジェクトの話です。これも「日本の強み」を活かすものですが、これについては後で述べます。

 <日本が世界に誇れるもの>シリーズ、今日は、先回の日経ビジネス特集「“日本発”が難問を解決する―世界を救う商品・サービス」のPart 1に続いて、Part 2 「シェアトップつかむ秘密―世界で売れる商品・サービス」について書きたいと思います。 

 日経ビジネスが、「シェアトップつかむ秘密」で取り上げているのは、22事例。

なかには、デジタル一眼レフカメラやのキャノンやニコン、カップヌードル(日清食品が世界80カ国以上で年間1000億食!)など、一般によく知られているものも多いのですが、「意外!」、しかし「納得!」と思うものもあります。

たとえば特定地域の生活に密着した製品。寒暖から身体を守る保温や冷却手段の「使い捨てカイロ」(ホットハンズ・暖宝宝)や、おでこに貼る「冷却シート」(クールフィーバー)などです。いずれも中国や東南アジアでは「すごく便利」でありながら、現地では考えられたことも無い製品であり、そのために、それらの地域で大きなシェアを獲得しているとのこと。日本では「より快適な生活」への欲求が生んだ製品ですが、世界の一部の地域ではそれらが必需品に近い価値を持つ、ニッチ商品になることを示すものです。

逆に世界の全市場へ向けて、日本の高度な工業技術と継続的・革新的な製品開発で世界を席巻している例もあります。ファッション関連の領域では2社が上がっています。圧倒的なシェアをもつYKKのファスナー(金額ベース世界シェア4割超え)と、工業用ミシンのJUKI(世界シェア約3割)です。いずれも高度な技術力・商品開発力と積極的な地域ユーザーのニーズへの照準が成功の主要因です。YKKは1959年という早い時点でニュージーランドに拠点を設立。故吉田忠雄氏の独創的な経営哲学により、入社間もない社員を「土地っ子になれ」と海外に送り出してきたとの事。現在は世界71カ国・地域に拠点を持ち、とくに高付加価値の商品で優位性を持っています。JUKIは、年間60万台のミシンを世界中の縫製工場に供給しているそうですが、特殊機能の高額ミシンから、ブラジルやインドでの超低価格国内市場向けを担う製品まで、圧倒的なラインアップでNo.1となっています。

特集「100選」のPart 2 で紹介されている製品は、これらのほか、タイヤ(ブリヂストン)、高級ヘルメット(SHOEIが世界シェア過半)、バドミントン用品(ヨネックスを世界トップ選手が愛用)、ピアノ(ヤマハ)、Seki Edge(爪切り)、空調(ダイキン工業)、ビデオカメラ(ソニー)、オフィス用複合機(リコー)、船外機(船用エンジン)、マミーポコ(ユニ・チャーム)、ポッキー(江崎グリコ)、マルちゃん、緑茶飲料、ポカリスエット、スーパーカブ、など、多様です。いずれも、日本の技術と、日本人ならではのきめ細かい開発力が実現したものと言えます。

今朝のNHK番組「貧村変える製品づくり」はNPOの活動「See-Dコンテスト」で、東ティモールの電気もなく水も遠くから女性が運ばねばならない村のための製品開発に取り組む、日本企業のエンジニアと大学生を取り上げました。彼らは、現地入りして人々の生活に密着し、腕に巻きつけて移動出来るLED電燈や、重い水を背負える「しょいこ」を現地に豊富な竹素材で組み立てられるソケットの開発など、画期的な活動をしていました。(See-Dについてのリンクは: http://see-d.jp/aboutus.html

特に印象的だったのは、1日2ドルで生活する現地の人たちにふさわしい「シンプルで、超安価な道具」を作る様々な努力でした。番組に出演したNPOコペルニク代表(http://kopernik.info/ja/)の中村俊裕氏は、このプロジェクトの成功の鍵として、下記の4点を強調しました。

① 現地のニーズにフィットするもの

② 極端に安いこと

③ 使い方がシンプルであること(説明が不要)

④ 壊れにくいこと

日本はこれまで、「ゆとりのある顧客」に対して「高付加価値」の商品開発に注力してきました。しかしその過程で磨いた技術、そして日本人のDNAとも言うべき創意工夫の能力には、素晴らしいものがあります。それがあるからこそ、それらをベースとした「日経ビジネス100選」があるのです。

この技術と創意工夫、そして恵まれない人々を含む、世界各地へ向けての商品開発への真摯な取り組みが、これからの日本の新たな道を拓くものだと固く信じています。

<FBのNew Normal (新しい常態)⑦>  「太めでもチャーミング」

 先回、ファッション・モデルが、現代女性の願望体型である「細身」「9等身」でなければいけないか? の問題提起をしました。「ファッションは、スリムで背の高い人でないと美しく着こなせない」というのは、長年にわたってファッション業界が消費者に刷り込んだ「願望イメージ」であり、実態はそれとは程遠い体型の人がほとんどなのに、その人たちも何とか理想形に近付くために無理なダイエットなどをする事の問題についてです。

 女性の美しさとは何でしょうか? 歴史をさかのぼれば、かの有名なサンドロ・ボッティチェリが 15世紀の終わりごろに描いた「ヴィーナスの誕生」や「春」に登場する3人の女神が、ふくよかな美しさに輝やいているのも見るまでも無く、「女性の美しさ」は時代とともに変化しています。(写真は、ボッティチェリ作「春」の一部で、春の自然の中で戯れる3美神)

 しかし、幸いなことに最近は、リアル・クローズが求められ、健康的美が時代の潮流になることにより、長年「大きなサイズはカッコよく見えないため」扱わない、の方針を通してきた有名ファッション店でも、欧米では大きなサイズの売り場を拡大するようになりました。売り場の名前もアメリカなら「プラス・サイズ」とか「フルサイズ」等のオシャレな名前を付けています。(間違っても、「イレギュラーサイズ」などとは言いません。)

例えばニューヨークのブルーミングデールズ百貨店もその好例ですが、商品の範囲は外衣ばかりでなくインティメート(インナーウェア)にまで広がり、写真にあるように、フォーカル・ポイント(売り場の中心となる)ディスプレイに、豊満なマネキンを置いています。このブランド Agent Provocateur (エージェント・プロヴォケイター)は、英国のデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドの息子が立ち上げたランジェリー・ブランドですが、ブランドの名前も映画「007」の美人スパイを想起させる「挑発的スパイ」というユーモラスなもの。デザインも大胆で斬新、繊細なレースや刺繍は、太めの人でも遠慮せず、堂々と美しさを競って欲しい、といったメッセージを発しているように思います。(このブランドは、太めのサイズだけを扱っているのではありませんが。)

デザイナーのダナ・キャレンは、決してスリムな体型の持ち主とは言えませんが、肩の大きく開いたドレスやドレープの美しい服を身につけ、チャーミングかつ堂々と活躍しています。彼女は、米国の、キャリア服の草分けであるアン・クラインのチーフ・デザイナーとして高い評価を得た後、独立して、アン・クラインのラインとは一味違う柔らかな、ジャージーなどを多用したラインで一時代を画しました。1980年代中ごろに大ヒットとなった彼女のストレッチのボディスーツが、仕事もファミリーも両立させようとする活動的で多忙な女性に、圧倒的支持を受けたことを懐かしく思い出します。ダナ・キャレンがオシャレと機能性を併せ持つボディスーツを開発出来たのは、まさしく、やや太めの自分の体にフィットさせたいニーズがあったからかも知れません。

 カール・ラガーフェルドは今年の3月、8年ぶりに来日して、「日本人女性は大きく変わった。太っていて美しい」という意味深長な発言をしました。「私は日本人女性たちがより太り、より魅力的になったことに気付いた。それはおそらく以前よりも多くのケーキやお菓子を食べているからだろう。」と記者団に対して語ったといいます。いつも辛辣なコメントを発して話題になるラガーフェルド氏ですから、これも辛辣な皮肉なのかと思いましたが、WWD紙によれば、彼は ”It’s changed a lot but it’s changed for the better I think. ,,,,, There’s a real change in the look of the Japanese people. Normally, before, they were all tiny. It’s the kind of beauty you get from junk food.” と述べたとの事。つまり「大きな変化だが、いい方へ向けてだ。、、、日本人のルックスは本当に変化している。以前は皆とても小さかった。身体によくない食べ物を食べた結果の美しさだ」。 彼特有のひねったユーモアだとしても、小柄で子供っぽかった日本女性が、大きく美しくなった、と解釈したいと思います。

 「太めでも美しく」、「高齢でも美しく」。 それをサポートするのがこれからのファッション・ビジネスだと考えます。