ブランディング

<NRF(全米小売協会)大会報告④   「ソーシャル」 “ソーシアルノミクス” 

   キーワードの一つ、「ソーシャル」 は「ソーシャル・メディア」(日本でいうSNS)活用のことですが、これも、消費者に「仲間やコミュニティ」 といった水平に広がるネットワークを提供し、コミュニケーション手法を劇的に変えたという点で、『革命』の中核をなすものといえるでしょう。 

   「ソーシャル・メディア」 は、コミュニケーションを 「一人から一人への伝達」 から、一挙に多数に、また瞬時に、世界へ向けてでも伝達されるものにしたのです。 いわゆる 「口コミ」  を英語ではWord of Mouth といいますが、「ソーシャル」は、World of Mouth、いわば 「世界コミ」  だ、と、『ソーシアルノミクス』 の著者、エリック・クアルマン氏はいいます。 Socialnomics とはSocial Economicsの合体語で 「ソーシャル経済」といった意味です。 世の中は革命的に変わっている。 新しい経済社会がうまれている、というのです。  「メルアドはもう古い(SNSの方が向いている)と考える若者が増え、米国では大学入学時に、これまで恒例であった各学生にEメールアドレス支給することを止める大学も出てきた。 Fortune  500と言われる米国の大企業も、その 40% 10 年後には消滅 (あるいは名前が消えている)。 ソーシャル・メディアは企業のとっても不可欠になってきている。」 ソーシャル・メディアの ROI (投下資本利益率) は、「5年後にあなたの会社が生き残っているかどうかだ」 と彼は言います。

  ソーシャル・メディアの急速な浸透を後押しするのが、モバイル(スマホやタブレット)です。 モバイルを寝る時も離さない米国人は44%に達しているとのデータがあります。「モバイル」が、いわば 「消費者の情報と行動力装備」 の手段となっているのです。

  モバイルは、人々に、自律的、自働的に動くためのパワーを与えました。「消費者は王様」などと言われてきましたが、今や彼らは単なる顧客ではなく CEC Chief Executive Customer=最高責任者である顧客)になった、と IBM 社 は膨大な消費者調査を基に、説明します。彼らは知的で洗練されており、企業に透明性を求め、企業はこれに対応できなければ、見はなされるのです。

  ソーシャル・メディアで売上アップを図ろうとする企業は多いのですが、販売よりは「リスニング(聴く)」手段と考えるほうが有効だとクアルマン氏は強調します。人々の「つぶやき」情報の量は、ツイッターだけで1日に12テラバイトに上るそうです。これらを分析し自社に関する「つぶやき」を経営者が把握する事が不可欠。しかしフォーチュン500 社でも、90%の企業が出来ていないといいます。

  “ショールーミング”(店舗を展示場や情報集めの場として使うこと)が問題視されていますが、これは現代の消費行動であり、変えることは出来ない。IBM は、ショールーマーの半分以上が 良いコメントを発信してくれたり、アドボケイター(推奨者)あるいはインフルエンサーである場合が多いから、大事にすべきだとしています。

  ソーシャル・メディアの効果の大きさを見る事例として紹介されたものの中でも、ユナイテッド航空の事例は、古典的とも言えるものです。 それは、演奏旅行に出向くミュージシャンが、飛行機の窓から自分のギターが投げ渡しで積み込まれている光景を見て憤慨し、到着地のカウンター壊れたギターについてクレームをしたのですが埒が明かず、その後の同社の対応にも誠意が見られなかったため、彼はUnited Breaks My Guitarという弾き語りビデオを制作してユーチューブにアップ。 それが人々の共感を呼び、ビデオ視聴は140万回を超え、同社のイメージは大きく損なわれる結果になりました。他方、その弾き語りの歌で「テイラー製」と名前を出してもらったギターの製造会社は、即、ミュージシャンに同社のギターを贈り、その話がまた話題を増幅したのです。

 ソーシャル・メディアは、ブランディングや顧客の信頼作りのすぐれた手段でありますが、非常に手ごわい手段でもあります。これからの企業はその活用法を身につけねばなりません。 来る3月21日には、FITセミナー「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス--ブランディングと顧客エンゲイジを成功させるソーシャル・メディア活用法を開催します。  (次回は、オムニチャネルについて書きます。)

< 「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」   FITセミナーのご案内 >

 FITセミナー第3弾を、321日(木)に開催することになりましたので、ご案内します。

テーマは: 「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」

―ブランディングと顧客エンゲイジを成功させる ソーシャル・メディア活用法―

 ファッション・ビジネスの流通では、いま、「革命」とも言うべき変化が起きています。特に消費者が、スマホやタブレットにより、何でも、いつでも、どこからでも、欲しい商品や情報にアクセスし、比較や購入をし、さらに評価や意見を仲間と共有する事が日常化するなかで、企業は、多様なチャネル(オムニチャネル)を、企業中心ではなく、顧客を中心に組み立てねばならなくなりました。

さらに、フェイスブックやツイッターなど、低コストのソーシャル・メディアの拡大は、従来とは異なるあらたなマーケティングやブランディングのツールとして、重要性を増しています。先月ニューヨークで開催された米国小売業大会(NRF)では、「ファッション企業がブランドの信頼を築くのに、今ほどやり易い時は無い」との発言さえ、聞かれました。

 このセミナーでは、米国FITのテッド・チャクター教授を迎え、米国における最先端の動向と事例を学ぶことにあります。

 セミナーの対象は、経営トップ、マーケティングやCSR担当者、ICTシステム関係者、新事業の立ち上げや起業を考えておられる方、などです。

 セミナーの詳細は日本FIT会のホームページ(下記)でご覧ください。 http://fitkai.jp/pdf/seminar_201303_001.pdf

このFITセミナーは、ご好評を頂いた第1回「グローバル時代の人づくり」(講師:ファーストリテーリング社CEO柳井正氏、FITジョイス・ブラウン学長ほか)、第二回「ファッション・ビジネスにおける留学」に引き続き、米国のFITと日本FIT会が開催するものです。また、第1回と同様、JFWイベントの一環として、一般社団法人 日本ファッション・ウィーク推進機構のご後援を頂きます。

ご興味のある方は、是非ご参加ください。

<ファッション・ビジネスの潮流が見えた! 「FIT特別セミナー」から―その6>

3月21日に開催された「FIT特別セミナー」をまとめて振り返ると、大きく変容する今後のFB(ファッション・ビジネス)の潮流が見えてきます。 

3人の世界をリードする講師陣陣が、経営者の立場(柳井正氏)、教育者の立場(FITブラウン学長)、ファッションの立場(FITファッション美術館ディレクター)で熱っぽく語った講演から、私は時代の潮流として次の3つを感じ取りました。 

1.これからの成功する企業とは、

  「物売り発想」を脱皮し、「志」(ミッション=使命)をもって革新を続ける会社

2.これからの成功する人材とは、

  「幅広い教養」を持ち「変化」に臆せず、異文化等の「多様性」に柔軟かつ自律的に対処できる人 

3.これからの成功するファッションとは、

  「社会の変化」に根差し、「文化の蓄積」を「消費」ではなく「消化」した上で「新たに創造する」もの

 一言でいえば、これまでの、「ファッションのトレンドを表面的に追う、視野も能力範囲も狭い専門職と金儲け志向の経営者が、短期勝負を繰り広げる」 ファッション・ビジネスから、「社会の要請に応え、 高い資質と幅広い能力とグローバル感覚をもつ人材が、感性と文化に根差した価値創造の革新を続ける」ファッション・ビジネスへの転換、と言えるでしょう。 

柳井正氏(ファーストリテーリングCEO)のメッセージ「3・11は日本の岐路。日本がメルトダウンしないためには、日本は変わらねばならない」の通り、日本はいま、大きな転換期にあり、ファッション産業も大きな変革を迫られています。しかし、これらのFBの潮流は、決して日本に限るものではありません。

FITのブラウン学長は、「テクノロジーとグローバル化がファッション業界を大きく変えている。これから先、優れた成果を上げる人材育成の中核は、一般教養、学生がみずから成長する環境作り、創造性と革新性重視、グローバルで多様な能力の醸成、にある」と強調しました。

FITでは、一般教養を通じてこそ学生が批判的に考える(適切な質問をし、問題を分析・解決する)力が身につく、と考えている。学生は専門分野に加えて、一般教養を学ぶことで、キャリアの中核をなす世界の文化に触れることが出来、また彼らが直面せざるを得ない法的・倫理的なビジネスの問題にも、触れることが出来る」。 「米国業界のプロがここ数年、我々に強く求めているのは、文化的に洗練された人材、世界に開かれた目と批判的に考える力を持ち、コミュニケーションが出来る人材だ。ある広告代理店のエグゼクティブは、面接の最後に必ず『どんな本を読んでいるか』そして『なぜ?』と尋ねるという。」 大学はこれに応えられる人材を排出せねばならない、というのです。

 FIT紹介パンフレット(Look Book 2011-2012)

“挑戦をしよう、旅に出よう、チャンスに賭けよう、時間をとって、飛び込もう”

柳井正氏は、ますます同質化・平準化が進むグローバル競争に勝つためには、「志」(ミッション)をもち、それを推進する勇気、革新を続ける企業文化を持つ会社でなければならない。どんな不利な状況でも志を持って最後まで頑張れば、それは達成できる、とし、

「良い企業とは、ブランディングすると同じこと。お客様が商品を買うのは、単純に商品のスペック性能機能を買うのではない。感情と共感で買う。だれが、どういった会社が、どういう思いでこの商品を作り販売しているのか?が重要。」 「企業は、自分たちは何者なのか? どこに向かおうとするのか?を伝えなければならない。」と強調。

ユニクロは原宿店オープン時に「革新的な服を開発して世界中の人々の生活を豊かにする。それを、経営者だけでなく、社員の顧客にも徹底すること」をミッションに掲げました。

「あらゆる人が良いカジュアルを着られるようにする新しい日本の企業です」と。そしてその後のファーストリテーリング設立時には、さらに「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」に進化させて、社内は勿論、顧客や取引先、株主等の関係者と共有しています。 

これからのグローバルでフラットな時代、とくに物質的価値から精神的・感性的価値を求めるようになった先進国で成功するファッションとは、「社会の変化」と「人々の意識の変化」をふまえ、日本の文化的・ 民族的DNAをフルに活性化させて、感性豊かな、「ほんもの」、「世のためになるもの」、「美しいもの」 (真・善・美)を実現するものであると考えます。