生活者・顧客

<FITセミナー報告 ③ 「オムニチャネル」 は SNS と コミュニティで 増幅>

  米国での「オムニチャネル」がここにきて急速な展開を見せているのは、先回述べたEコマースの拡大をベースに、「モバイル」の普及と「ソーシャル・メディアの利用者の広がりです。(SNSは 日本国内で使われる用語なので 私は 「ソーシャル・メディア」 を使っています)。そしてソーシャル・メディアはその性格上、ネットワークが作る「コミュニティ」を含むものと考える必要があります。今回はこの、「ソーシャル・メディア」について、FITセミナーから重要事項を御紹介します。

  ソーシャル・メディアには多くの種類があり、それぞれ特徴があります。図は、セミナーで 講師の FIT 教授チャクター氏が使われたスライドで、各種のソーシャル・メディアのアイコンをイメージ的に並べたものです。

ソーシャル・メディア各社のアイコン(FITセミナー チャクター教授資料より)

  世界の各国では ソーシャル・メディアの活用がかなり進んでおり、日本の利用者の対人口比率は 58% と大きく後れをとっています。2011年のデータではありますが、主要国では中国(ソーシャル・メディアを政府が規制している) の 53% とともに、最下位に近い状態です。 これは ComScore Media Metix 社が 2011年10月に報告している43カ国の調査結果ですが、主な国をみてみると、米国 98 %、ブラジル 97 %、英国9 8 %、フランス 91 %、ドイツ90 %、イタリア 93 %、スペイン 98 %、ロシア 88 %、トルコ 96 %、南ア88 %、オーストラリア96 %、香港93 %、インド95 %、インドネシア 94 %、シンガポール94 %、韓国87 %、ベトナム85 %、となっています。 日本での普及が他の国と比べて遅いのは、「自分の名前を出して意見を言う」ことに慣れていないことによるものかと思いますが、若者への普及が加速していることから、拡大は時間の問題と思われます。また企業側がソーシャル・メディアを積極的に活用することにより、その意義を消費者が理解する、という、卵と鶏の関係にあることも事実です。

  日本のソーシャル・メディア活用者の人口動態的データも紹介されました。興味深い事に、日本では下記の数字に見るように、若者では男性が高いが、35歳以上では女性の方が高い、という結果が出ています。

                 <15‐24歳> <25-34>   < 35-44 > <45-54>    <50+>   

    男性      71.5%     61.4%        57.4%      51.7%       44.4%

    女性     68.8%       61.2%        59.3%      58.8%       52.7%

  米国で最も使われているソーシャル・メディアは、Facebook、Youtube、Twitter、Pinterest ですが、日本では、アクセスの多さ順位に、①Twitter、②Facebook、③Mixi  が利用されています。

  ソーシャル・メディアを利用する利点は、米国のマーケティング関係者への調査では、次のようになっています。 (% はそれが重要と答えた人の比率。出所:Social Media Examiner, 2011

会社への注目度向上( 85 )、 集客・来訪者増加( 69% )、③ 的確な手掛りの取得( 58% )、 ④ 検索エンジン順位上昇( 55% )、 ⑤ 新規取引先獲得( 51% )、 ⑥マーケティング経費削減( 46% )、   ⑦売上増加( 40%

  日本では、ソーシャル・メディアを、 「即、売り上げに貢献すべきもの」 と考えて居られる経営者も多いようですが、米国では、上記のように、7番目に位置しています。ソーシャル・メディアは、消費者が主体的に情報をあつめ、友人の意見や評価を聞き、“自分の判断でそのブランドへの知識や愛着を深めるための手段”であり、“企業側がプッシュ、あるいは誘導して購買を獲得する” 手段ではないことを、十分理解することが重要です。

(次回は、<「オムニチャネル」 は 企業の目的を明確にして始める>がテーマです。)

<FITセミナー報告① 「オムニチャネル」は 顧客中心の 全チャネル融合―店舗が鍵>

  FITセミナー第3回 「オムニチャネル時代のファッション・ビジネス」は、321日 に開催されました。受講者が 170名、補助席を入れても満杯という盛況で、このテーマへの関心の高さを、改めて痛感しました。 業界の主要企業の経営者をはじめ、参加下さった皆さんに、大いなる感謝と敬意を表します。 その内容を、何回かに分けてご報告しましょう。

  第1回目は、「オムニチャネル時代とは」 を担当いただいた 大島 誠 講師のお話を紹介しましょう。 セミナーはまず、主催者である筆者からの 「セミナー企画の狙い」 の説明で始まりました。 その狙いとは、現在、モバイル (スマホやタブレット) の急速な普及と、先行企業の革新的な取り組みによって、「オムニチャネル」 が米国小売業を劇的に変えつつあること。 これに対し、日本は、大きく後れをとっており、このままでは、IT 装備の消費者の期待にこたえられないばかりでなく、アマゾンをはじめとする海外企業との競争 (日本市場での)にも、敗北しかねない、という危機感です。

  大島講師は、日本でのオムニチャネル推進の第一人者で、長年にわたって外資系 IT 企業で日本の小売・流通業のためのソリューション・スペシャリストとして活躍され、 現在、日本オラクルにて、小売業・流通業の IT 革新支援に注力して居られる方です。  講演はまず 「オムニチャネル」とは何か、その本質は? といった基本的、かつ奥深い意味合いを、 <オムニチャネルの構図> を使って説明されました。 小売業と顧客の関係が、時代とともに 「シングルチャネル(単一接点)」 から 「マルチチャネル (複数接点)」 へ。 さらに 「クロスチャネル (ネットで買って店舗で受取、などのチャネルの交差が可能)」 になり、そして 「オムニチャネル」 へと発展してきた経緯です。 「オムニチャネル」 が他と全く異なるのは、それが “シームレス(チャネル間の境目が無い” こと。 また、 “チャネル横断型の商品・顧客・販促管理”、すなわち、商品在庫の一元管理と、顧客情報(購買履歴を含む)の一元管理、また販促管理との連動、が出来るようになることです。

  大島氏が 強調した 「オムニチャネル時代の忘れてはならないキーワード」を御紹介しましょう。

    1.シームレス (業種・業態の垣根なし)

    2.神出鬼没なお客様(いつ、どこに現れるか分からない、つかめない)

    3.スマートフォーン、タブレット端末 (革新的役割)

    4.生活に密着 (Walgreen事例:“角の店”がやってくる)

    5.4Rから5Cへ = マーケティングは真の消費者・生活者視点へ

              従来のアプローチ= 4R Right Product, Price, Place, Time から                                   オムニチャネル時代= 5C (Customer, Content, Community, Commerce, Context へ

    6.リアル店舗の重要性

    7.人材 

    8.「楽しく」「わくわく」「おもてなし」 

  オムニチャネルの本質を 大島講師は、「単なる O 2 O といった、ネットとリアルの融合戦略だけではない。 『オムニチャネル』 を推進すればするほど 『リアル』 が実は重要になる。 リアル店舗は、その特性を活かす事が重要。 リアルならではの 『おもてなし』、 すなわち、いかにして来店して頂くか。 いかに楽しくショッピングをしてもらい 買って頂くか。 ということは、接客とそれに当たる人材が非常に重要」、 と強調されました。      (次回は、テッド・チャクターFIT教授の講演内容を紹介します)

<FBのNew Normal (新しい常態)⑥> 「ファッション・モデルは理想体型が条件?」

 ファッション・モデルは、「細身」で「9等身」の「プロ」でなければいけないか?

 これを疑問に思っていた人は多いと思います。ましてや私のように小柄で、さらに、ある有名デザイナーが「ショーに使った服は、一般の人にはサイズが合わなくて売ることは出来ないわ。まあ、モデルに上げちゃうか、安い値段で譲ってあげるか、ですね。」というのを聞いた時には、「何という無駄!」と思ったものでした。 そもそも一般人の体型とかけ離れた背丈のモデルに合わせた服をショーで素敵に見せておきながら、実際に販売するのは、小さく作り直したサイズ、というのは、詐欺に等しい行為だと思います。 (ついでに言えば、何故ほとんどのランウェイ・モデルや有名店の広告やカタログが、いまだに西洋人モデルなのか。顧客が日本人なのだから日本人モデルを、というだけでなく、これは西洋崇拝や日本人の自信の無さの表れだと、残念に思っています)

 これに関して最近嬉しいニュースがありました。

 先週パリのギャラリー・ラファイエットが開催した世界最大のファッション・ショーのモデルが、一般公募による人たちだったというニュースです。ギネスブック公認の世界最大ファッションショー第3回は、9月18日17時に、同百貨店とオペラ座の間のオスマン大通りをランウェイに開催され、一般公募による400人のモデルが150メートルのランウェイを自前のファッションで歩いた、ということです。繊研新聞によれば、ビューティはカリスマ的ヘアメークアーティスト達が担当、モデルクラブからコーチも招き、DJ をつとめた個性派女優ロッシ・デ・パルマは、「トップモデルの専制にさよなら。このショーは個性派ぞろいよ」 と声援を送り、会場を沸かせたそうです。

 第二は、Vogue 誌の「ファッション・モデル宣言」です。

ファッション雑誌のリーダー、VOGUE (ヴォーグ)の出版元であるコンデナスト・パブリケーションズ社が今年の5月3日、モデルの痩せすぎと年齢問題への対策(声明)を発表しました。声明は、世界19の国・地域で展開するVOGUE誌の編集長・19人の連名で出され、摂食障害があるとみられるモデルは使用しない。またモデルの事務所にも、モデルの健康状態とボディマス指数(体脂肪指数)のチェックを呼びかける、というものです。また、16歳未満のモデルとは契約しない方針も発表し、これにより、編集ページで起用するモデルは“16歳以上の健全なモデル”に限定されることになります。
 もっとも摂食障害は、スペインでは1997年ごろから問題になって居り、スペイン政府は、すでに5―6年前だったと思いますが、モデルに若年者を使わない年齢制限と、一定体重をクリアせねばならないことを決めています。

 第三は、米国のファッション専門店 J. Crew  が、今年の秋のキャンペーンにはプロのモデルやセレブを起用せず、様々な分野のキャリアで成功しているファッション感度の高い人達を、広告やウェブやカタログに登場させていることです。モデルになる人たちは、雑誌のエディターやファッション・ディレクター、MOMA(近代美術館)の開発ディレクター補佐、メディアミックス・ブログサービス企業 Tumbr の創業者&CEO、米国癌学会の広報ディレクターなどなどで、「顧客と文化一般にインパクトのある人達に登場してもらった。彼らはクオリティとディテールを重視する。顧客はそれに共感する人たちです。わが社はセレブ志向ではありません」 と同社のマーケティング最高責任者は語っています。

 嬉しいのは、ファッション小売業の厳しい競争の中でリードを続ける J. Crew  が、このように、リアルで実質的なアッピールを重視していることです。

そもそも、リアル・モデルは、日本ではヤング・ファッションの世界で TGC が先鞭をつけたものでした。しかしそこでも、高級ファッションショーのモデルほどではなくても、矢張りやせ形、スリムなボディが重視されているようです。

 日本人高校生に関する最も新しい調査によれば、高校2,3年の女子で、平均体重から「痩せすぎ」と見なされる人の数が 5年前の約 1.5 倍になった、と文部科学省が 2011 年度の学校保健統計調査の結果を発表しています。(2011,12.9付け朝日新聞) 減り幅が最も大きかったのは16歳(高2)で、前年度比0.3キロ減の52.4キロであったといいます。痩せすぎとは、標準体重の80%を下回る「痩身傾向」をいい、文科省は「過度のダイエット志向が原因かもしれない」と述べています。そうだとすれば、日本の将来にとって本当にゆゆしき問題ですね。

 ファッションにリアル性と 「ほんものであること」  が求められ、またプロとアマチュアの差がどんどん狭まっている現在、ファッション業界も、この問題をしっかり考えねばならない時に来ていると思います。