起業

<NRF 2019報告④ デジタリー・ネイティブ・ブランド (DNB) の台頭に注目を!>

 “デジタリー・ネイティブ・ブランド (呼称DNB)” の登場が、今年のNRFでは目立ちました。今回は、急速な台頭が注目されているDNBの意義と、典型的な事例についてご紹介します。

 NRF大会では毎年必ず最終日に、若い起業家が3~4人が登場するセッションがありました。彼らが新しいビジネスコンセプトや起業の想いを語ることが、未来へ向けての革新を示唆するようにセミナーを企画していたものと思われます。しかし今年のNRFでは、初日からDNB創業者の登壇や、起業事例の紹介が数多くありました。その背景には、デジタル・テクノロジーが拡大し、豊富な投資マネーにより起業も容易になったいま、多様な“デジタリー・ネイティブ・ブランド” の立ち上げが、ビジネスを活気づけている事があります。

デジタリー・ネイティブとは?

  デジタリー・ネイティブという言葉の意味は、“生まれたとき、または物心がつく頃にはインターネットやパソコンなどが普及していた環境で育った世代” です。この言葉は、2001年に米国のマーク・プレンスキー(教育者でビジネス戦略家、文筆家)が、その著 『デジタル・ネイティブ、デジタル・イミグラント』 で使ったもので、デジタル世代の考え方や生き方は過去の世代と全く異なる。これに照準を当てて学校教育を刷新すべし、と提唱したことがきっかけで知られるようになりました。それがいま、消費者とビジネスのありようが大変容するビジネス現場で、注目されているのです。

 ちなみに、“デジタル・イミグラント(デジタル移民)”とは、デジタル以前に生れた世代。デジタル世界に生まれ育ってはいないが、大人になってから、このデジタルという、まったく違う世界に何とか対応・順応しようと努力している、いわば他国からの“移民”だというわけです。

 デジタル・ネイティブは、年齢的にはアメリカでは1980年台以降に生まれた人たち、日本では90年代半ば以降に生まれた世代、と考えられます。現在世界に、3.6億人のデジタル・ネイティブがいるといわれています。

「bonobos founder」の画像検索結果  (Bonobos 創業者 アンディ・ダン氏 画像はWikipedia)

■    DNB(デジタル・ネイティブ・ブランド)に共通する4つの特徴

 DNB(デジタリー・ネイティブ・ブランド)という言葉を小売り業界で広めたのは、Bonobos(ボノボス)というメンズウェアのショールーム業態を2007年に創業したアンディ・ダン氏の2017年の著作 The Book of DNVB』 と 『The DNVB Encyclopedia(百科事典)』でした。彼がここで DNVB (Digitally Native Vertical Brand)として Verticalの言葉を入れているのは、DNBが、モノやサービスの企画・製造から顧客(消費者)にわたるまでを垂直的につないでいる、他社を介在させない、の意味を持たせたからです。  (ボノボスは 2017年にウォルマートに 3.1 億ドルで買収され、アンディ・ダンは、現在ウォルマートのシニアVPとして引き続きボノボスに関わっています)

 アンディ・ダン氏によれば、デジタリー・ネイティブ・ブランドとは、「熱狂的に顧客体験にフォーカスし、ウェブ(デジタル技術)を中心に、顧客とインタラクトし、トランスアクト(取引)し、ストーリーを語るブランドだ」 です。

DNBよるイノベーションの4つの特徴とは:

1.直接ソーシング(生産や直仕入れ)でコスト削減=複雑な伝統的流通構造の回避

2.ブランド体験の増幅=ブランドとは、製品・顧客体験・顧客サービスの総合体である

3.従来と違う流通形態やチャネル=消費者直販(DTC)を、デジタルと実店舗で行う

4.SNSへの高度な取組み=1 to 1 マーケティングによるコミュニティづくり

■   代表事例としての allbirds (オールバーズ)

 オールバーズ(allbirds)はニュージーランドの元フットボール選手ティム・ブラウンが、米国シリコンバレーの友人と組んで起業した、スニーカーブランドです。選手として長年、履きやすく靴下なしで履いても快適、洗濯機で丸洗いが可能な靴をさがしていました。そして自らエコロジー志向で素材にこだわった運動靴を開発したのが、ニュージーランドの高級メリノウール使いの運動靴でした。「アルマーニのジャケットに使う」グレードの羊毛を使っている、といいます。

開発製品第1号 メリノウール使いスニーカー。洗濯機丸洗いも可能

10色を超えるカラフルな靴紐を組み合わせる

 最初はデザインも1型、カラフルな多色展開で、多色の靴紐(シューレイス)を好みで組み合わせ購入するというもの。(画像参照) 何回も洗濯機で丸洗いしても、表面に少し形状変化が起きるだけで履き心地も見かけも変わらない。そこまで持ってゆくために、顧客の声を聴きながら、発売後も 27 回も改良を重ねたそうです。

 価格は、大人物(男性・女性用とも)95ドル、子供物は 55ドル、というシンプルな値付け。次いでスリップオン・タイプも開発。紐靴に加えて2 型になりましたが、当初はネットのみの販売で、靴を入れる箱(宅配用)にも工夫をこらし、簡単な折り曲げ操作でテープを巻けば、そのまま出荷できるといったアイディアももりこんでいます。(画像参照)

左右に靴を入れ、内側に折りたたむと出荷用の箱が完成

 ニューヨークのソーホーに2017年秋に開店した第1号店は、回し車に顧客が入ってランニング試着を楽しむショップ。カラフルな商品をセレクトする体験も併せて、まさしく顧客の感動体験を生むものでした。   

                 

                    回し車に入って試着・試走をする顧客

人気が急上昇するとすぐにコピーも出回りました。「あんなに早くコピーがでるとは!それもヨーロッパの大手靴メーカーまでが、と本当に驚いた。コピーするなら品質まで完全にやってほしいよ。」とブラウン氏。テクノロジー・ニュースのサイトRecodeの編集長によるNRFのインタビューでの、「靴にはロゴマークをつけていない。かかとの後ろのソール部分に allbirds と控えめにレイズ表示されているだけ。なぜか?」 との問いに答えて、ブラウン氏は 「われわれはブランドロゴで製品を売ることはしたくない。靴の良さを本当に理解してくれる人に買ってほしい」と答えています。まさに、誠実で正統派(オーセンティック)なモノづくり、の姿勢といえましょう。

 その後、売り上げ急上昇でウール素材の入手が困難になり、ユーカリやサトウキビを原料に使う靴づくりに移行。現在の店舗はそれらの写真やサステナビリティへの想いを強くアッピールするものになっています。「われわれは、サステイナブル素材のブランドだから」と胸を張るブラウン氏に大きな拍手を送りたくなりました。

サステイナブル素材のメーカーとしてユーカリやサトウキビを原料に使用

 2015年創業のこのallbirds は、まさしく先に挙げた、DNBの4つの特徴を備えています。直接ソーシングでコストを削減し、アスリートが熱望する、快適でサステイナブルなシューズを安価で提供する。また、すぐれたブランド体験を提供しファンを作る。既存の流通チャネルに頼らず、消費者直販(DTC)を自ら開発したデジタルおよび実店舗(現在2店舗)で実現する。そしてソーシャル・メディア(SNS)フル活用のマーケッティングで売り上げと顧客と支援者を作りました。“物語を語る”という点でも、抜群のストーリー・テリングのブランドになりました。

 そして何よりも、「NRF 2019の 6つのインパクト」 の第一に挙げられた “パーパスフル”、すなわち、目的意識が明確な、エコロジー志向(社会善)の使命感に満ちた事業であることに元気づけられます。

 このようなデジタル・ネイティブは、アメリカで多くの新事業を起こしています。今後はさらに多様なビジネスや NPO を展開してくれるでしょう。日本でも、こういった動きが進むことを切望しています。

米国 NRF 2018 「小売の大変容 ーディスラプションは 今や New Normal に 」

NRF 2018 大会 会場風景

 世界の流通を展望する NRF(米国小売業協会)恒例の大会が、114日から日間ニューヨークで開催されました。今年は過去最大の36500人が参加、日本からも321名という、過去最多の参加がありました。機器やソリューション展示は 700 社を超え、同時進行する130以上のセミナーとの間を駆け回る3日間。筆者にとっては、32回目(32年目)の参加です。

 テーマは「小売のトランスフォーメーション(変容)」。今年は、昨2017年までに登場した多様なデジタル技術が、IoTやプラットフォームの形でコネクトされ、消費者にとって便利で簡単なソリューションやビジネスモデルとして、多彩な展開が進む年になると強く感じました。   (恒例の「尾原蓉子の全米小売業大会2018レポート」は、繊研新聞220日付に掲載――電子版有料購読者はhttps://senken.co.jp/ へ

 米国小売業の現状は、楽観的な景況感はあるものの、過剰売り場スペース削減による店舗縮小やSCの閉鎖縮小などから来る危機感、アマゾンの成長拡大が加速する競争とイノベーション/ディスラプションの進展に、大手も中小企業も、ネットとリアルの融合をはかりながら、顧客体験を優れたものにし、自社の存在理由と優位性の確立に、必死に戦っている感があります。

 今年の印象に残った潮流は、次の5点です。

1.   アマゾンの急拡大に対抗する大手企業の動き=自社の存在理由の再定義(ウォルマート、リーバイス、ノードストロム)

2.   デジタル技術の現場への浸透 →多様な要素技術をコネクト(特に、AIAR、画像認識、AIスピーカー、ロボットなどの技術)

3.   多様な起業家(ディスラプター)の台頭 →ディスラプションは今や、 “新しい常態”(New Normal)  

4.   ビジネスの民主化・透明化 →合理的で最適な商品開発やサプライチェーン

5.   女性CEOの新しいリーダーシップ →より人間的社会へ向けての挑戦

 これらをシリーズでご紹介したいと思います。

 ちなみにNRF (National Retail Federation=米国小売業協会)は、「2018年の小売りトレンド」 として、次の8点を強調しています。

              ① 企業M&Aのさらなる拡大=デジタルとフィジカルの融合が勝負のポイント

              ② ショールーム戦略の展開加速=小売業ビジネスのミニマリズム・アプローチ

              ③ AR(拡張現実)=2020AR経由購買は1億ドルに。顧客エンゲイジに有効

              ④ AI(人工知能)が優れた顧客体験を創造=真のパーソナル体験模索

              ⑤ 音声パワーの拡大=モバイル(スマホなど)に代わる未来のコマース手段

              ⑥ 宅配の効果的手法の開発=サプライチェーンと収益性の圧迫の解決策

              ⑦ 顧客を陶酔させるビジネスを=ユニークな体験、透明性、買物の苦痛削除

              ⑧ 予想外の相手とのコラボ

 次回は 「アマゾンの急拡大に対抗する大手企業の動き」 です。

<ファッション・ビジネスでの起業 成功に必要なものは? WEFがシンポ開催>

  ファッション・ビジネスが大きく変容を遂げつつある。その中で成功し続けるためには、ディスラプト(既存の秩序を破壊)するような破壊的変革が必要だと考え、『 Fashion Business  創造する未来』の本を出版したと、先回 書きました。

 変革の芽は、新たなビジネスの起業から生まれます。ファッション・ビジネスは変化のビジネスであり、次々に新たな会社が生まれるのが健全な状態なのですが、このところそれが停滞しています。そこで「ファッション・ビジネスでの起業」をテーマに、WEF 8回シンポジウムを開催します。

 講師は、DoCLASSE 社長の林恵子氏と、メーカーズシャツ鎌倉の創業者で現会長の貞末良雄氏。117日(月)  18:30 から、場所は、青山のウィメンズプラザです。(ご案内は、WEFホームページ: http://www.wef-japan.org/event/888.html を) WEF第8回シンポジウム_ご案内

 お二人とも、良い商品を、手ごろな価格で、顧客のニーズにマッチする形で提供するために、従来のファッション流通、すなわち、多くの中間企業が介在する重層構造を抜本改革する形の起業をされた方です。

 林恵子さんは米国のランズエンド日本社の社長時代に、日本女性の好み、特にサイズやフィットをしっかりと抑えたおしゃれな服をネットで提供する会社を作る、という夢を持ち、10年前に DoCLASSE を立ち上げられました。40代、50代女性顧客の圧倒的支持をえて、現在では、外反母趾で悩む女性をふくむ履きやすい靴をあつかう fitfit も展開しておられます。店舗を持たず、消費者に直接販売する「ネット通販」が流通コストをミニマイズする、というコンセプトでスタートしたのですが、店舗を出してみたら、これがまた消費者からの情報が直接得られると同時に、顧客満足を一層高められる、と、自然な流れで現在話題の「オムニチャネル」に発展しました。ネットをフル活用しながら、実際の商品やコールセンターの顧客への対応は、非常にアナログ。企画や営業とコールセンターのオペレーターが大部屋に同居し、顧客の質問に答える際には、必要に応じて実際に顧客と同サイズの社員がその商品を着用してみる、などということもやっています。

 メーカーズシャツ鎌倉の貞末良雄会長は、ヴァンジャケット時代に創業者石津謙介氏の薫陶を受け メンズウェアの基本を徹底的に学ばれた方です。そして、日本のビジネスマンが世界で胸を張れるシャツを作り、高品質でもいわゆる高級シャツの 3分の 1 以下の価格で提供する夢を実現されました。そのためには、工場、それも高級なシャツ地を作る織屋さんや日本でも数少ない高レベルの縫製工場と直接、また緊密な関係を持つこと。工場への発注も、繁閑が少なくなるよう、売り場での展開をからませたマーチャンダイジングと連動させて行うなど、工場側の条件やニーズに合わせることに注力しておられます。顧客と工場、そして小売業である同社が、Win-Win-Win (三方よし)になること、がビジネスの基本哲学だといいます。2012年に、ニューヨークのマディソン街、世界的なメンズウェアの有名店がひしめく地域に出店。以来、優れた品質とサービスで、固定客を増やして、昨年末には、ニューヨークの金融街にちかい高級ショッピング・センター、Brookfield Place  に第2店舗を開店しました。

 DoCLASSE とメーカーズシャツ鎌倉の成功は、それぞれの創業者が、「これではよくない」、「真に消費者のためになるビジネスを始めたい」との強い思いをもって、取り組まれたことにあります。

 日本は一般に起業が難しい国だといわれます。リスクを取りたがらないカルチャーや、資金調達の仕組みの未開発、また一度失敗したら再度ビジネスを行うことが難しくなる、という、失敗を許さない社会環境、などが、起業を阻んでいるからです。

 しかし今、新たなビジネスを立ち上げる環境条件は、かつてないほど揃っています。ファッション・ビジネスの現状に不満な消費者、ネットビジネスの急成長、活用できる先端テクノロジーの拡大と低コスト化、などがあるからです。

 想いの熱い起業家が、新しい時代を切り開くビジネスの立ち上げの、ヒントを得て頂けるシンポジウムだと思っています。ご関心のある方は、ぜひご参加ください。