FB産業構造

 < NRF(米国小売業協会)大会、愛称 Big Show から 最新情報のご報告 >

 恒例のNRF(全米小売業大会)、Big Show に今年も参加してきました。今年で 35 回目の参加、その間、1 年も休むことなくです。自分でもよく続いたな、と感心すると同時に、それだけ時代の変化が激しく、参加するたびに新たな刺激と方向性が得られるからだと痛感します。

 本日の繊研新聞に、「尾原蓉子の2020年全米小売業大会リポート」として全体感が掲載されました(7ページ)。「Wi-Fi と電池残量が、ついに“マズローの基本ニーズ改訂版”になった」(NRF Stores誌)のメッセージが強烈で、新たなエコシステム構築へ向けての大きなうねりを感じる大会でした。デジタルとフィジカルの融合と小売業のサービス化がビジネスをどう変えるか?を中心に書いています。ご覧いただけると嬉しいです。

 今年は例年以上にエキサイティングで、新たなビジネスモデルの台頭や、イノベーション事例、驚くような戦略、テクノロジーの開発・拡大など、大いに啓発されました。女性CEOの登壇が目立ったのも、嬉しい変化でした。

NRF Big Show 会場風景

 このブログでは、NRF 2020の色々なテーマを少し掘り下げて、シリーズで紹介します。今回は、今年の大会の概要と総括。次回以降、小売りの2020年 10 トレンド、注目した講師のメッセージ、フィーチャー企業としてノードストロム、RTR、など、となる予定です。

 第109回NRFNational Retail Federation大会は、2020年 1月 12~14日の 3 日間、 ニューヨークのジャービッツ・コンベンションセンターで開催されました。12万㎡貸切りの会場に参加したのは、4 万人超で過去最大。海外からも約 100カ国、10,500人が参加。日本は過去最大の 525人(昨391人)―ブラジル 1881人、フランス 940人、英国576人に次ぐ第 4 位で、例年よりも存在感がありました。展示会場への出品企業は 800社(昨年700社)。

 今年のテーマは、Vision 2020」。巨大な変化と激化する競争の中、企業の成功、というより生存条件が、ビジョンをもち、その実現に果敢にチャレンジすること。ビジョンといっても、単なる業績(売り上げや利益)だけではなく、現代の世界が直面する社会問題にどう取り組むか。例えば、サステナビリティ、人間/人権重視、企業の倫理性やトランスペアレント(透明性)などに、自社はどう取り組むか、といった意思表明です。ヨーロッパを席巻している、とでもいうべき地球環境や気候変動の問題に、米国も遅ればせながら取り組む機運が出てきました。

 セミナー総数約190の中から、尾原が注目した講師とテーマを上げましょう。  

 ■ 開会基調講演――小売りの未来(マイクロソフトCEO Satya Nadella) →小売りが生み出す毎時 40 テラバイトのデータをどう活用するか!

 ■ ビジョナリー賞受賞のコールズ社ミシェル・ガス社長との対話 (CEO Kohl’s、CNBC)

 ■ サービスとしての小売業(RaaS)―-DTCやスタートアップに場を提供(Neighborhood Goods CEO、PSFK)

 ■ 経験経済で勝利する――高まる顧客期待値に目標値もあげる(CEO Rent the Runway、Crate & Barrel、Enjoy)

 ■ 今日の小売りビジネスで人間性を高めることとは――(Starbucks社長&CEO、NRF社長)

 ■ 好奇心・独自性・妥協なし――スタイリング・サービスStitch Fix社COOとの対話(Recode、Stitch Fix)

 ■ 顧客の条件に合わせたサービスを――ノードストロム社エリック・ノードストロム氏(Nordstrom Co-CEO、NBC)

 ■ リ・コマース革命――小売りの未来をアップサイクルする(Urban Outfitters CDO、ThreadUp社長、ReBag CEO)

 ■ ショッピングの未来が招く――Immersive(没入)、Reimagined、Revolutionary(Showfields CEO、AREA15 CEO)

 ■長い試合に勝つ――低成長の世界でサステイナブルな収益性を追求(Under Armor 創業者CEO K. Plank)

 ■ 中国的スピード ――アリババ米国トップと中国展開を加速するallbirds

 ■ ビジョナリーなブランド構築――Goopブランドの裏物語:女優Gwyneth Petrowとインフルエンサー

 ■ ピンタレスト CEO共同創業者 Ben SilbermannとRecode共同創業者 Kara Swisherの対話

 ■ 小売りの仕事(ジョブ)は何故いい仕事なのか?――ウォルマートUS CEOとMIT教授

 ■ より強い未来を――革新に投資:Master Card CEO

 などがありました。                      NRF 報告 ① End

< WEF5周年 記念シンポジウムを開催。 メッセージは「女性を大志を抱け!」 >

 ファッション業界の女性活躍を支援する WEF(一般社団法人 ウィメンズ・エンパワメント・イン・ファッション)が 5 周年を迎え、記念イベントを 7月5日、帝国ホテルで開催しました。有り難いことに、会場に入りきらない数の申し込みを頂き、なんとか  260 名の方に参加頂きました。

 記念シンポジウムにご登壇頂いた、ファーストリテイリングの柳井正会長・CEOのメッセージは  「Girls be Ambitious ! 女性よ 大志を抱け!」 でした。

対談する ファーストリテイリング 柳井正会長・社長と WEF 尾原蓉子名誉会長

情熱があり過ぎて、照り焼きにされることもあるかもしれないが、、」等と語る柳井会長と尾原名誉会長

  シンポジウムは、「ファッション・ビジネスはWomen’s Business」の大テーマでの「柳井会長と尾原の対談」、という企画でしたが、そもそも筆者が柳井会長に初めてお会いしたのは、1984年、私が企画/運営を担当していた旭化成 FITセミナーを柳井会長が初めて受講された年でした。奇しくもその年は、柳井さん(当時は小郡商事専務)が ユニクロの第 1 号店を、朝 6 時開店という奇抜なアイディアで広島にオープンされた年に当たります。

 それ以来、柳井さんが、FITセミナーが招いたベネトン創業者やリズクレイボーン会長あるいは ムジャーニ・インターナショナル社長などのセミナー、次いで旭化成経営戦略セミナーに毎年のように参加されたこともあって、私は、ユニクロの成長(たまには失敗)を興味と感銘をもってフォローしてきました。 とくに東京進出、フリースの爆発的成功に始まり、海外進出や著名デザイナーの起用、“ライフウェア”のコンセプト展開、そして直近の「情報製造小売業」グローバル本部  Uniqlo City (有明) 立ち上げ、などにより、年に2兆円以上を売り上げる、日本を代表するグローバル企業の一つになられたことに、大いに敬意を表している次第です。

 そんなわけで、私は 4つの観点から、柳井さんの経営哲学、人間性、女性や人材に関する姿勢、などを引き出せたら、と考え、お相手を務めました。

 4つの観点とは: 

①   これからのファッション産業の行方は? ― 世界的なアマゾンとウォルマートのパワーゲーム、その間にZARAやユニクロの拡大、ノードストロム(EC比率30%超、ショールーム業態展開)等の革新的ファッション大型店、次々台頭するユニークなスタートアップ企業のせめぎ合い、、。10年後はどうなる?

②   企業の発展/存続に不可欠なイノベーションと起業 ー 日本はこの点では周回遅れ?

③   イノベーションを担う人材の調達/育成/登用 ― ファストリではどのように?

④   女性の活用・活躍 ― ファストリは 2020 年女性管理職比率30%の目標を3年前倒しで達成。主要戦略は? 何が奏功?

  以下の2つの記事が、柳井会長の発言をうまくまとめて頂いたものと思います。

* WWDジャパン: 「ユニクロ柳井社長、働く女性に“野望のススメ”」

            https://www.wwdjapan.com/653191

*アパレル・ウェブ: 「ガールズ・ビー・アンビシャス!」

             https://apparel-web.com/news/apparelweb/58746 

 対談を通じて、柳井会長の大きな野望とみなぎる情熱、現場と細部重視の経営、そして真面目で厳しいけれども人間味あふれるリーダーシップに 改めて拍手を送ったことでした。

 WEFの設立の狙いと、準備期間を含めた足かけ7年の活動と成果については、次回にお伝えしたいと思っています。

< 転換期の ファッション・ビジネス - 消費者行動の変化に理解を >

  『ファッション・ビジネス 創造する未来』 を繊研新聞社から出版してから、ほぼ 1 年が経ちました。

  ―グローバリゼーションとデジタル革命から読み解くー という副題を付けたこの本は、多くの方に共感を頂き、日本のファッション・ビジネスに今求められている 「ディスラプション(創造的破壊)」 の動きのきっかけを作ったように感じています。ファッション・ビジネスの巨大な転換点に立って、“この本を書かねば、私のキャリアは全うされない” との想いで、年の年月をかけて執筆した甲斐があったと、いま痛感しているところです。

 嬉しいことに、日経新聞の923日付け 「今を読み解く」 欄、『変革期のファッション・ビジネス』でも、冒頭で紹介されました。執筆者は、現在、日本マーケティング学会会長を務めておられる中央大学の田中 洋教授です。

日経記事「今を読み解く」 尾原著書の紹介 2017.9.23 掲載

 冒頭の文章は:

「ファッション・ビジネス」という用語を1968年に日本に最初に導入したのは後にIFIビジネススクールを興した尾原蓉子だった。ファッション・ビジネス(FB)が有望な市場と考えられたのは 90  年前後である。当時の日本ファッション協会の設立趣意書にみられるように、FBとは、アパレルに止まらない生活全般にかかわる概念としてとらえられ、大いなる可能性が信じられていた。

現在、尾原はファッション業界に「破壊的革新」を起こさなければ未来はないと著書で断じ、例えばシェアリングやレンタルのような「フロー」型ビジネスへの転換が必要だと断じている。(『ファッション・ビジネス創造する未来』、繊研新聞社2016年)

 このコラムでは、他にも、業界の現状をつぶさに紹介する 『誰がアパレルを殺すのか』 (杉原淳一・染原睦美著 日経BP社2017年)、『ザ・ファッション・ビジネス』 (明治大学商学部編 同文館出版 2015年)などの著作も挙げられています。いずれも、「インタビュー記事」や「講演録」として筆者も想いを語っている本です。

  他に紹介されている本としては、『ファッション・ビジネスの進化』 (大村邦年著 晃洋書房2017年)、『カブフェレ教授のラグジュアリー論』 (同文館2017年)もあります。

 田中教授はまとめとして、「ファッション・ビジネスの破壊的革新を導くためには、I T の仕組みを徹底的に活用しながら、消費者の新しい行動様式を理解する必要がある」   と述べています。

 未来へ向けてのファッション・ビジネスは、成熟社会であっても、A Iやロボットが日常生活に浸透する時代にも、人々にワクワク感をもたらし、心を豊かにし、個人のライフスタイルや個性の表現する手段として、重要な役割を持つものだと、私は信じています。その根底にあるのは、消費者の新しい行動様式を理解することです。個人としての顧客(個客)、あるいは、これまでと全く異なる価値観を持つ、ミレニアル世代やZ世代の理解です。

 この観点から、旧態を脱し、テクノロジーを駆使して、「新しい時代のファッション・ビジネスを創造する」 ことに取り組みたいと、改めて感じます。