FIT(NY州立ファッション工科大学)

<”FB” 将来へ向けて② FIT・GFMコースの教育目標とカリキュラム>

  FIT独特のコースである GFM(グローバル・ファッション・マネジメント)を見ると、これからグローバルに活躍するエグゼクティブ(ビジネス・リーダー)に必要な能力がよく分かります。学科長のパメラ・エルスワース教授のプレゼンテーションから、グローバル人材育成をめざす日本の業界人あるいは留学希望者に、参考になる事を、まとめました。

FIT GFM 海外3都市での集中講座を説明するエルスワース教授

  GFMコースの目的は、① 競争が激化するアパレル業界のプロの養成、② グローバル化かつ相互関係が深まる国と業界を展望する、③ エグゼクティブ教育の欠陥をうめる、の3点です。 「グローバル化かつ相互関係が深まる国と業界を展望する」は、国や地域の壁を超えた相互関係に加え、これまでの職種や業種の縦割りシステムをヨコ串にしてまとめて深化させる、のねらいを持っています。 「エグゼクティブ教育の欠陥」とは、ファッション・ビジネスのためのエグゼクティブ教育がなかったこと、と、ビジネススクールが注力するMBAが、ファイナンスやゼネラル・マネジメント中心で、感性やクリエイティブ領域を視野に入れていないことを指していると思われます。このコースの学位が 「MBA」でなく「MPS (プロフェッショナル・スタディース修士)であることが、まさしくそれを象徴しています。

  具体的な教育目標は、① アパレルと関連業界のミドル・マネジャーをエグゼクティブ(責任ある意思決定者)に育てることと、② キャリア路線の開発 (昇進へのスキルと自信を醸成すること。 また職種・会社・ポスト等の異動・転職の可能性をたかめること)にあります。受講資格に「3年以上のファッション関連業界での経験」を要求しているのも、キャリアとしてこの道を選び、すでに実績を上げている人に、さらなるステージアップを可能にするためです。毎年、厳しい選考プロセスを経て入学する学生は 16人から18人。グループ・プロジェクトや現場視察などを行うには、これ以上の人数では教育効果に影響するといいます。

  GFMコースは、座学以外にプロジェクトや現場視察、海外研修などを非常に立体的に組み立てているからです。

  コースのスケジュールは、3学期構成で、秋学期にスタートし、春学期、2度目の秋学期を履修して終了する、合計18か月のプログラムです。夏季は休講で、1学期に12 単位をとります。授業は週3科目(3回)の夜間講座です。したがって、ニューヨーク在住者はフルタイムでの勤務も可能であり、仕事を持ちながらキャリア・アップが可能になっています。また各学期内に、ニューヨーク、パリ、香港・上海の3地区でのそれぞれ2週間の集中セミナーが組まれています。集中セミナーは、パリでは IFM Institut Francais de la Mode と連携し、主としてラグジュアリー・ビジネスについて学びます。香港では、香港工科大学(Hong Kong Polytechnic University との連携で、アパレルの生産、サプライチェーン、中国の消費者、中国本土の工場視察(紡績から縫製まで)、 製品開発、マーケティング、等を学習します。

 カリキュラムは、理論領域(Theoretical と実践的領域(Practical の科目をバランスよくカバーしています。 

 理論領域では、「文化的価値観」に関する理解(文化が企業の意思決定に与える影響、自分の職業人としてのキャリアにおいて、他の文化吸収する能力の向上など)、および 「政治と国際貿易」に関わる問題(グローバル化がもたらす経済・政治的な問題の理解、国際機関がアパレルその他の貿易に与えるインパクトの分析、 WTOIFMの構造など)を学びます。また「マーケティングの高度な課題」として、ブランド戦略とポジショニング、ブランド拡張、新製品のイノベーション、デジタル・コマース、ソーシャル・ネットワークについての講座もあります。「ビジネス政策」としては、戦略的リーダーシップにおける戦略的マネジメントと意思決定への理解、倫理的企業の創造、なぜ成功する企業と失敗する企業があるのか、等を学びます

(次回は GFMのカリキュラムの「実践的領域」とプロジェクト研究について書きます。)

<”FB” 将来へ向けて① グローバル人材の育成:変わる大学院ーFITの実践教育>

 先回ご紹介した、FIT大学院 「グローバル・ファッション・マネジメント」 紹介セッションは、11月19日に開催されました。 予想を超える約70名の参加申し込みを頂き、プレゼンテーションも質疑も 大いに盛り上がり、熱気あふれる2時間のセミナーになりました。

 テーマは 「ファッション・ビジネスのグローバル人材を育成するFIT――Global Fashion Management (略称GFM) コースで学べる事は?――」 。

 講師はニューヨークから来日したFIT大学院長(ディーン)の Mary Davis 博士、GFMコース学科長の Pamela Ellsworth 教授です。 

FIT/GFMセッションで講演する デイビス大学院長

はじめに、尾原が 「グローバル人材開発に関する問題提起」 を行い、次いで、デイビス大学院長の 「米国における大学院教育の変化」、エルスワース学科長による 「GFMコース設置の狙いとカリキュラム」 のプレゼン。さらに 「TOMODACH I-ユニクロ奨学金の説明」 と、「奨学生第 1 号がニューヨークから送ってきたビデオ・メッセージ」、そして質疑応答、と続きました。

 

 今回は、デイビス大学院長による講演 「米国における大学院教育の変化」の内容を紹介しましょう。 デイビス氏が強調する大学院教育の変化と展望を簡潔にまとめると:

1.社会やビジネス環境の変革が、人材に求める資質や能力を変え、大学院が重要性になっている。

2.大学院教育は、キャリアとアントレプレナー(起業家) 開発のベース。知識経済におけるリーダーシップを身につける知識・技術を提供する。イノベーションと経済的繁栄の鍵でもある 

3.米国は、大学院教育では、これまで世界をリード。しかし今、欧州が大学院教育の大改革に取り組み、中国・インドも、教育システム改善に巨大投資をしている。

4.今後10年間に生まれる新しい職種の半数以上が、プロフェッショナルとサービス関連

5.求められるのは、過去の製造業のように “生産する” のではなく “考える” 働き手

6.女性の修士保持者が伸び、比率が男性を大きく超えた

7.FITの修士課程では、デザイン関連の4コースで、Master of Arts、Master of Fine Arts  の修士号を授与。ビジネス関連の 2 コースは、Master of Professional Studies (MPS=プロフェッショナル・スタディス修士号) を授与する

 「MPS」というユニークな学位は、ファッション関連業界ですでにキャリアを進めている人に、エグゼクティブへむけての教育をする狙いで設置されたものです。その一つが、GFM(グローバル・ファッション・マネジメント)なのです。 GFMについては、次回以降に詳しく紹介しますが、この学位が「MBA」ではなく、「MPS」であることも、ファッション・ビジネスの世界をリードするFITならではと思います。

 もう1つ、FIT大学院長ディーンの要職にあるデイビス博士は、何と ハーバード大学で 『音楽学』 博士を取得された異色のキャリアです。「創造性とビジネスを合体させる教育」 をめざすFITが、こういった経歴の女性を大学院のトップにスカウトしたのも、時代の大きな変化をとらえたFITのビジョンと戦略を象徴するものでしょう。

  (次回は、GFMコースの教育目標とカリキュラム、について書きたいと思います)

<『ファッション・ビジネス』を振り返って③―グローバル人材育成のFIT・GFM コース>

 日本FIT会では、来る 11 月 19 日に、FIT大学院の 「グローバル・ファッション・マネジメント」 コースを紹介するインフォーメーション・セッションを、FITから2名の教授を招いて開催します。 対象は、留学でファッション・ビジネスのマネジメントを学びたい方、あるいは企業や大学で社員や学生のキャリア指導をされている方、です。

 テーマは 「ファッション・ビジネスのグローバル人材を育成するFIT――Global Fashion Management (略称GFM) コースで学べる事は?――」 。

 紹介するコースは、 『これからのグローバル時代に求められる企業幹部』 を育成する目的で設置された、世界でも類のないユニークな修士コース。ファーストリテーリング社(ユニクロ)が、留学奨学金を出しているコースでもあります。 カリキュラムは、ファッション分野でグローバルに活躍する人材に必要なマネジメント全般 (戦略やグローバル・マーケティング、ファッション・ブランド・マネジメント、ソーシングや財務、情報技術など) を幅広くカバー。 特に注目すべき事は、ニューヨークのほか、パリ、香港の3都市で、各2週間の集中セミナーが行われ、パリではラグジュアリー・ビジネス、香港では生産やソーシングを中心に学ぶ、極めて今日的、国際的、かつ立体的なものです。与えられる学位も MBA ではなく、MPS (Management for Professional Studies) というこれまたユニークなもの。世界から多様な人材が学んでいて、国際感覚を磨く意味でも、有効なコースです。

FIT/GFMインフォーメーション・セッションのご案内

  (詳細は、日本FIT会のホームページ:  http://fitkai.jp/pdf/4th_131009n.pdf をご覧ください。)

 日本のファッション・ビジネスにおける専門的人材の養成を振り返ってみると、先回書いた、ファッション・ビジネス誕生の初期段階では、まず「デザイナー」、ついで 「パターンメーカー」や「生産管理者」の育成が中心でした。 その後、既製服の拡大に伴い、新たなデザインを魅力ある商品ラインに組み立て、流行の波に乗りながらビジネスを回すマーチャンダイザー養成へのニーズが高まりました。さらに、ビジネスの成熟化に伴い、市場の動きとターゲット顧客を捉え、ブランドの魅力をアップする、マーケッターやファッション・コ―ディネーターの必要性が浮上します。また、商品の魅力だけで勝負するビジネスから、店舗でのプレゼンテーションが重要になって、ビジュアル・マーチャンダイザー、さらに最近になってからは、ブランディングを感性面からリードするクリエイティブ・ディレクターの必要性が叫ばれるようになりました。この間、工場の生産システムやコンピュータを活用したパターンメーキング、グレイディングや、ネットビジネスやソーシャル・メディアの拡大にからむ、ICT (情報コミュニケーション技術) などの技術系のプロフェッショナルも必要になりました。

 そしていま、ビジネスがグローバル化し、さらに激化する競争の中で、企業が勝利するためには、氾濫する製品や数多のブランドの中から抜きんでたアッピールを持つブランドの開発とマネジメントが不可欠になってきました。

 FIT の GFM コースは、まさしくこういったビジネスを展開できる人材の育成をめざすものです。新しい時代が求める、独自性と優位性ある商品、ターゲットとする顧客が価値を認める 『信頼される』 ブランドづくり、グローバルな競争力、そしてこれらを達成するためのICTの効果的活用、の能力です。 めったにない機会ですから、興味のある方の積極的参加を期待しています。